577 名無しさん@秘密の花園 [sage] 2009/11/12(木) 00:04:07 ID:HJAn1pqn Be:
ぽりぽりと。ぽりぽりと。
部室の扉を開けると、モモと目があった。
ぽりぽりと。それでもやっぱりぽりぽりと。
なぜだか私の体は固まって、見つめ合う形になる。
動いているのはモモの小さな口だけで、
なんだか意味もなくおかしくて、私は思わずふき出した。
「なんで笑うんすかぁ!!」
モモは少しだけムッとした顔をつくる。
唇を突き出して、じとっとした視線を送る様子が可愛らしい。
ゆっくりと隣まで歩み寄ると、人差し指で唇をつつく。
ぷにぷにと瑞々しい弾力が指に柔らかくて、妙に心地よかった。
「怒らないでくれ。リスみたいで可愛らしかったから、ついだな…。」
指先を今度は頬に回すと、やはりぷにぷにと心地がよい。
けれど、モモはますますムッとしてしまったようで、少しだけ後悔する。
「ぷにぷにしていて気持ちいいな。」
つんつんと頬をつついていた指に、モモの細い指が絡んだ。
「それはあれっすか。チョコばかり食べてるからぷにぷにするんだぞってことっすか?」
どうやらモモときたら本格的にへそを曲げてしまったらしく、目も合わせてくれやしない。
怒らせてしまったかなぁ。
「誰もそんなこと言っていないじゃないか。それに私としてはもう少しふかふかでも…。」
「女の子には死活問題なんすよ!!」
「いや、私も分からないでもないさ。けれどとても暖かいから…。」
腕を腰に回すと、モモの体はブレザー越しでもふんわりと柔らかくてぽかぽかした気分になる。
ムッとした表情も可愛らしいけれど、それでも私は笑っている顔の方が好きだな。
アヒルみたいに突き出した唇を、銀色の袋から取り出した菓子でつつくと、モモがパクリと食いつく。
なんだかまるで餌付けでもしているみたいだ。
「もうっ、ごまかさないでくださいっす!!」
また怒った顔をするけれど、甘味が口に広がったのか頬が緩んでいる。
なんだかんだ言ってもモモも女の子。
甘いものが大好きなのだ。
「ん。そういえば珍しいな。」
「なにがっすか?」
「モモは普段は菓子なんてもっていないのにな、と思ってな。」
「今日は特別っすからね。」
…?なにか特別な日だったかな?
「すまない。私にはよく分からんな。」
「今日は11月11日っすよ。ポッキーとプリッツの日っす!!」
あぁ、そういえばそんな俗な記念日があったなぁ。
モモときたら企業の作戦に見事にはまって…。
「この日にポッキーゲームをするとっすね…なんと両想いになれるという伝説がっ!!」
「ほう。それは知らなかった…だがポッキーゲームをする時点でそれはもう特別な関係なんじゃないか?」
「ふふっ。嘘っすよ。そんな伝説は今考えたっす。記念日にかこつけて先輩とポッキーゲームをしようと持ってきただけっす。」
にこりとモモの笑顔が眩しくて、ぼっと頬が熱をもった。
ポッキーゲーム…。口づけだって交わしているというのに、妙に恥ずかしい。
「だから覚悟するっす!!」
気付くとモモに押し倒されている。
モモの柔らかそうな唇からのびるポッキーに目は釘付けになってしまう。
ドキドキとうるさいぐらいに心臓が音をたてる。
迫ってくるモモの顔に、私は思わずギュッと目をとじた。
さくさく。ぽりぽり。
少しずつ音が近づくのが分かる。
カウントダウンはもう終わり。
柔らかくて暖かい感触に、私の心臓はひときわ大きな音をたてるのだった。
Fin.
最終更新:2009年11月23日 17:08