320 :永遠の花 第6話:2009/12/11(金) 11:34:19 ID:MdT83cfS

  *  *  *

 思えば、あの時から惹かれていたのかもしれない。理由はよく分からないが、きっと直感というものだったのかもしれない。……恥ずかしい言い方をすれば、一目惚れとでも言うのか。
 顔も名前も知らない人間にここまで入れ込む事があるなんて、思いもしなかった。しかし、その後初めて彼女の会えた時、ゆみは自分の直感を確信に変えた。陳腐な言い方かもしれないが、運命の糸を感じていた――

「…………」
 勢い良く、1年A組の教室の扉を開けた。放課後の遅い時間という事もあり、仲には誰も居ない。しかし、ゆみはそう思わなかった。
 ゆっくりと、歩を進める。歩きながら、初めてこの教室に来た時の事を思い出す。あの時は、自分でも驚くくらいに大胆だったと思う。――でも、本当に、本当にあの時、彼女が欲しかったから、あんな事が出来た。

「――モモ」
 立ち止まり、名を呼ぶ。目の前には、何も無い。
「随分と待たせてしまった。約束も、破ってしまった」
 それでもゆみは、その場所に誰かが居るか様に言葉を紡ぐ。
「こんな私だが、君は許してくれるだろうか」
 西日が教室内に射し、無数の影を作り出す。
「もし許してくれるなら、私はもう一度、この場所から始めたい。君と過ごした、あの大切な日々を」
 虚空に手を差し出す。何も無い空間で、見えない何かに触れた様な気がした。
「君とまた、話がしたい。君とまた、触れ合いたい。君とまた、並んで歩きたい。君とずっと、一緒に居たい」
 静かに目を閉じ、深く息を吸う。
 伝えたい。あの日と同じ言葉を。ゆみ、全霊の想いを込めて――

「私は――――君が欲しい」

 柔らかい風を感じた。

 温かな感触に全身が包まれる。
 伸ばしていた手をゆっくりと戻し、しっかりと、しっかりとその温もりを抱きしめる。
「――やっと、君を見つけた」
「先、輩」
 離さぬように、腕に力を入れる。目を開けると、愛しい彼女の姿。ああ、と溜息を漏らし、もう一度囁く様に言う。
「モモ、君が欲しい」
「せんぱいっ……!」
 桃子がゆみに抱きつく。体を震わせ、大粒の涙を零す。
「やっと……やっとまた逢えたっす……! せんぱぁいっ……!」
「すまなかった、モモ。君を一人にして、寂しい思いをさせてしまった……」
「でも、先輩がまた思い出してくれたから、戻って来れたっす……!」
 涙を拭って、桃子は微笑んだ。
「……モモのお陰だよ。このマフラーが在ったから、君を思い出す事が出来た」
「それは……私の……」
「きっと、モモの想いがこのマフラーに残っていたんだな……って、はは、何を言ってるんだろうな私は」
 どんな現象、理由があったにせよ、結果として桃子と再び逢う事が出来た。それだけで、ゆみは充分だった。
「せんぱい」
「何だい、モモ」
 桃子が瞳を潤ませて囁く。
「キス、して欲しいっす」
「ああ」
 桃子の言葉に頷くと、ゆみはそっと唇を重ねる。しばらくして唇を離すと、もっと、と目でおねだりをしてくる。
「せんぱい……」
「モモ……」
 幾度と無く繰り返されるキス。――それでは足りないと言わんばかりに、桃子が身体をすり寄せてくる。その意図を読んだゆみは、桃子の耳元でそっと囁いた。
「続きは私の家で……たっぷり、な」
「……はい」
 ゆみが桃子と手を繋ぐ。
 今度こそ、二度と離さぬように。二人はどちらとも無く、しっかりと指を絡めた。



  *  *  *

 桃子の身体を、ゆっくりとベッドに横たえる。ゆみを見上げるその瞳は、これから行われる行為への期待から、うっすらと濡れていた。
「せん、ぱい……」
 ゆみの手が桃子の頬に触れる。そこから伝わる熱は高く、心を昂ぶらせる。
「モモ……んっ……」
「あっ、んふ……」
 我慢など出来よう筈も無く、待ちかねたように、二人は唇を重ねる。触れ合う唇の柔らかさに胸躍らせ、舌先をゆっくりと差し出す。
「んっ、ちゅる、んふっ……んちゅ……」
「んぁっ……ん、ちゅ、くちゅっ…・・・」
 ゆっくりと舌を絡め、互いの唾液を口内で絡め、混ぜ合う。ちゅるちゅると音を立ててその甘露を吸い、呼吸を忘れて深い口付けに没頭する。ゆっくりと離した唇は、とろりとした細い糸で繋がれていた。
「モモ……好きだよ……」
「私もっす……先輩……」
 息を整えながら想いを交わす。そうしてまた、何度も唇を求め合った。
「あふぅ……せんぱい……もっと、触って下さい……」
「……ああ、今日は沢山、してあげるから……」
 生まれたままの姿。火照りきった肌と肌で、抱き合う。しっとりとした素肌の感触、感じる鼓動、甘い香り。
 その耐え難い魅惑に誘われるまま、極上の果実を味わうように、ゆみは桃子の乳房にかぶりついた。
「んふぅっ!」
 びく、と桃子が僅かに身体を反らす。口いっぱいに広がる桃子の甘い肉体の味を堪能するように、ゆみは舌でこりこりと硬くなった乳首を舐める。
「ひうっ!」
 桃子の嬌声が漏れる。その声は心地良く響き、ゆみの劣情を煽っていく。
「モモ……私も……」
 ゆみは桃子の手を取り、自分の秘所へと導く。熱を帯びたその場所はしっとりと濡れ、桃子の指を待ちかねていたかのように受け入れた。
「んうっ……!」
 くちゅん、と桃子の指がゆみの中に沈む。瞬間、駆け上る様な快楽にゆみは声を上げた。
「あぁ……先輩のココ、すごく濡れてるっす……」
 桃子が指を動かすと、水音を立てて秘肉が指を咥えてゆく。とろとろと溢れ出した蜜が桃子の指を伝い、流れ落ちる。
「んあっ、モモぉっ……!」
 恐らくは、桃子以外殆ど聞いた事は無いであろう、ゆみの甘い声。自分だけに見せてくれる表情に、桃子は指の動きを速めた。
「ふぁぁあぁぁっ!」
 挿入する指を増やし、かき混ぜる様に動かす。ぐちゅぐちゅといやらしい音を立て、ゆみの秘肉から蜜が迸る。
「せんぱいっ……私にも、して下さいっす……!」
 桃子もゆみと同じ様に、その手を取って秘所へと宛がった。すぐさまゆみの手も、桃子を求めて動き出した。
「ああんっ! せんぱい、せんぱぁいっ……!」
 ゆみの指の動きに合わせて、桃子の腰が妖しくくねる。どろどろ、ぽたぽたと二人分の愛蜜がシーツに大きな染みを作る。
「「ん、ふぁぁあぁぁぁあぁっっ…………!!」」
 大きく身体を反らし、達する二人。ぐったりと折り重なるようにベッドに倒れ込み、荒い息を吐く。
「はぁ、はぁ……ぁ……モモぉ……」
「んはっ、ふうっ……せんぱいぃ……」
 ――足りない。汗と唾液、愛液に濡れながら、それでも二人は離れない。今までの空白の時間を埋める様な激しい交わりを、心が求めている。
「ちゅぱっ、んぐ、ちゅる……」
「くちゅ……ぁん、んくぅ……」
 息を整えるとすぐに、深い口付けを交わす。優しくも荒々しく、貪る様なディープキス。手と手を重ね、指を絡めて、胸を擦り付け合う。そして――秘部同士で、口付け。
「ああっ!」
「んくぅっ!」
 ぬちゅ、ぷちゅ、くちゅ、と重なる秘部から湧き水の様に溢れる淫液。二人は夢中で腰を動かし、嬌声を上げる。
「モモっ……モモ……モモぉっ……!」
「せんぱいっ……せんぱいぃ……せんぱぁいっ……!」
 二人で一緒に上り詰めていく。想う人――かけがえの無い、愛する人と共に。
「せん、ぱ、あ、あぁぁぁぁあぁあぁっっ…………!!」
「くふっ、うっ、んぁぁああああっっ…………!!」

 最大級の絶頂が、二人を襲う。ぷしゅ、ぷしゅ、と飛沫の様に愛液が吹く。

 どさり、とベッドに倒れ込む。心地良い疲労の中、何とも言えない幸福感に包まれて、二人は抱き合いながらまどろみの中に落ちていった――




  *  *  *

「…………ん…………ぅ…………」
 眩しさに、意識が覚醒する。ゆっくりと目を開けると、そこには彼女のあどけない寝顔があった。
「……モモ」
 柔らかい頬を突っつくと、むずがる様に反応した。ゆみは苦笑すると、眠っている間に離れてしまった桃子の身体を、もう一度抱きしめた。
「ん……ぁ……せん、ぱい?」
 それで桃子も目が覚めたのか、うっすらと目が開いてゆく。それから少しの間、自分とゆみの身体を見て、顔を赤くした後、嬉しそうに微笑んだ。
「えへへ……せんぱい、せんぱいだぁ……」
 そう言って身体をゆみにすり寄せてくる桃子の笑顔は、欲しい物を手に入れ無邪気に喜ぶ子供の様だった。
「……モモ。本当に、モモなんだな」
「当たり前っす。私は私っすよ」
 ゆみは桃子を抱く腕に力を込める。
「もう、消えたりしないよな? 私の前から居なくなったりしないよな?」
「……はい。もう、大丈夫っす。消える理由が、無くなりましたから」
 こんなにも自分の事を想ってくれる人が居るのなら、もう消える事は無い。例え消えても、必ず探し出してくれる。桃子はそう確信していた。
「……そうか、良かった」
 ゆみが安堵の息を吐く。
「それなら、安心して言えるよ――モモ」
「?」
 ゆみの目が、真剣味を帯びる。桃子の瞳を真っ直ぐ見据え、しかしその視線は柔らかく優しいものだった。
「桃子。愛してるよ」
 それは、とてもシンプルな言葉だった。
「ふぇ」
 桃子は思わず間の抜けた声を出す。ゆみの言葉が一瞬理解出来なかった。
「あの、せんぱい、今なんて」
「愛してる、と言ったんだ。モモ」
 聞き間違いでは無かった。その言葉は、桃子自身がゆみに言おうとして、結局伝えられなかった言葉――
「――私も――」
「うん」
「私も、先輩の事、愛してるっすよ?」
「ありがとう、モモ。私も、愛してるよ」
 嬉しさで、涙が止まらない。ゆみは、そんな桃子の頭を撫でながら、優しく微笑んでいた。




  *  *  *

 ――人々の喧騒の中、ホームに立つ。あと10分もすれば、住み慣れたこの町とも暫くの別れになるだろう。
「向こうでも頑張れよ、ユミちん」
 東京に発つゆみを、麻雀部の皆が見送りに来ていた。その中には、彼女が愛する人も居る。

 ――その後、桃子の存在は皆の記憶にも戻っていた。結局、一体何が原因で、どうしてこんな不思議な事件が起こったのか、それは誰にも分からなかった。
 しかし、ゆみにとってそんな事はもうどうでも良かった。桃子というかけがえの無い存在を、確かなものにする事が出来たのだから――

「先輩……」
 行かないで、と桃子の瞳が語っていた。しかしそれは、仕方の無い事だと桃子も理解はしている。
「心配するな、モモ。また夏には戻ってくるから」
 そう言って桃子の頭を撫でる。うぅ、と小さく呟いて、桃子は俯いた。

「せんぱい」
「何だ」
「お電話、待ってるっす」
「メールも忘れないさ」
「浮気、しないで下さい」
「天地神明に誓って」
「……せんぱい」
「……何だ」
「キス……して欲しいっす」
「……ここではやめろ」
「じゃあ、抱きしめて欲しいっす」
「……こっちにおいで、モモ」 「ワハハハハハハ、ユミちんユミちんそれ以上いけない」
「……すまん、蒲原。つい」
「蒲原先輩の、ケチ」

 こんな他愛の無い会話も、暫く出来なくなるかと思うと、少し寂しい。しかし、それでも不安は無い。遠く離れても、また会える。一度は存在すら消えていたのに、再び巡り逢う事が出来たのだから。だから、これくらいは何ともない。
「それじゃあ皆、またな」
 ホームに新幹線が到着する。ドアが開き、人々の流れに乗って、ゆみは新幹線に乗り込んだ。最後に一度振り返り、桃子を見る。
 その笑顔を、目に焼き付ける。ゆみも負けないくらいの笑顔で、桃子にひと時の別れを告げた。

































  *  *  *

「――で、だ。モモ」
「はい?」
「何故君が私の席の隣に座っているんだろうな」
「指定席っすからね」
「何故上手い具合に隣の席を買えたんだろうな」
「先輩が切符を買った後にこっそり買ったっすからね」
「今頃親御さんは心配してるだろうな」
「許可は取ったっす」
「……はぁ、分かったよ」
 隣の席に座ってニコニコと笑っている桃子の顔を見ると、ゆみはそれ以上追求する気にはなれなかった。
「春休みの間だけっすよ。新学期が始まったら、ちゃんと帰るっす」
「当たり前だ。そうでなければ、私でも怒るぞ」
「きゃー」
 屈託の無い笑顔で、桃子がはしゃぐ。その笑顔を見るだけで、ゆみは幸せな気分になる。
「モモ」
 名前を呼んで、頬に口付ける。そこから桃子の顔が真っ赤に染まるのを見て、ゆみは苦笑した。
「……ずるいっす、せんぱい。私もっ」
 桃子はゆみに覆い被さる様に抱きつくと、唇を重ねる。
「んっ……」
「ふぅ……」
 目を閉じて、息を止める。指を絡ませ、体を重ねる。新幹線の走行音を遠くに感じながら、二人だけの世界に入っていく。


「「愛してる」」


 どちらともなく、囁く。


 長いトンネルに新幹線が差し掛かり、外の景色が闇へと変わる。
 その寸前。
 窓から差し込んだ暖かな陽の光が、彼女の右手の薬指に光る指輪に反射して、キラリと輝いた。



  了


以上で終わりです。長い話になってしまいましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

ちなみにモモは一体何処に消えていたかというと、恐らく「えいえんのせかい」です。
7スレ目辺りに少し話題として出ていたのでそこを元にして書き上げました。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年12月20日 15:27