779 名前:ひと夏の経験5[sage] 投稿日:2010/04/17(土) 20:56:47 ID:UZJpLfD8

―♪愛する人に捧げるためー守ってきたのよー♪―
桃は指先に感じた鼓動をTシャツごとキュッと握りしめた。
(愛する人に捧げちゃうって、先輩に告白するってことすかね?いや、捧げるために
守ってきたって、こ、これは気持ち的なことじゃなくて…も、もしや、身体の…)
そこまで考えると、ツーと一筋、鼻血が流れおちた。


自転車二人乗り中
久は、自分でもよく分からない感情に振り回されていたが、ゆみが懸命に漕いでいる
自転車が起こす風に吹かれると、少しずつその感情が解消されていくようだった。
二人乗りの自転車は思いのほかスピードが出ていたから、落ちないようにしがみつく。
風が気持ちいいのか、ゆみの背中が気持ちいいのかよくわからない。
ただ、安心できる背中だと思った。
部活ではまこが支えになってくれたけど、自分が上級生だった手前、こんな風に誰かに
全てを預けることはなかったし、こんな風に気持ちが楽になることもなかったような気がする。
そんなことを考えながら、頼れる背中に頬をくっつけた。

ゆみは、さっき何が久を怒らせたのかよくわからなかった。
ゆみ自身は単に事実(桃はおっぱいさん)を口にしただけで、そこに他意はなかった。
久はまだ怒っているのかもしれないが、背中に久の体温を感じる今の状況は悪くない。
これだけしっかりしがみついて貰えるとこっちも遠慮なくスピードが出せる。
蒲原も気を遣わなくていい相手ではあるが、自分の全力に平気でついてきて、
むしろ置き去りにするような相手はいただろうか。
そんなことを考えると、なにやら抑えきれない感情が溢れて来て、ペダルを漕ぐ脚に力が入った。




「ツモ。メンホンツモ 中 ドラ1 3000・6000です」和がハネ満を上がり、
「あははー。やっぱ三麻だと高目出るわねー。一人一回はハネ満以上とかないわー。
あれ、あたし今ので和にまくられちゃったー?」久が面白がっていると、
「それで、何故我々は原村の自宅で三麻をしているのだ?」ゆみが今更ながらの疑問を口にした。
「だって、ゆみがおっぱいって言うからー。おっぱいって言ったらやっぱ和でしょ!」
そう言われても、ゆみはここに連れて来られた意味がさっぱり分からない。
「只今清澄高校麻雀部恒例、麻雀王様ゲーム!も発動中よ。一着は二着のおっぱいを揉む!
という訳で、一着のゆみは二着の和のおっぱいを揉んでね」
頼みの久は、完全にダメな方向にやる気スイッチが入ってしまっている。

「あの、久。全くついて行けないのだが…これはどこから突っ込むべきだろうか?」
久のハイテンションに置いてきぼりをくらったゆみは、
「えーとだな、原村は今の状況に何の疑問も持たないのか?」取りあえず、和に振ってみる。
「疑問、ですか…。部長と加治木さんが麻雀をしにお見えになるのは分かっていたので、特には…」
「な、なら、麻雀王様ゲームとは…」「麻雀部の合宿では恒例なので…。楽しいですよ」
「でも、さすがにおっぱ…胸はちょっと」「…それもうちの麻雀部では恒例なので…
(そうでもしないと咲さんに揉んでもらえませんから)」と頬を染めながら応える。

「では、失敬してって…いや、やはりダメ…」普段したこともない乗り突っ込みが仇になった。
ゆみが和の胸に手を添えるふりをして近づくと、すかさず久が和の耳元で携帯の咲ボイスを再生した。
「和ちゃん」自分を呼ぶ咲の声を聞いた和は目を閉じ「咲さん」とつぶやくと、
ためらうことなくそこにいたゆみを抱きしめた。
「うぐ、うぁ(こ、これは…)うお、い(すごいおっぱいさんだ…もがけば、もがくほど、)
もが、くぁ、(うもれて…)………… ぷはぁぁぁ!はぁはぁ… 葬る気かぁぁ!」
和のおっぱいで呼吸困難になったゆみを見て、笑い過ぎた久が呼吸困難になっていた。

『部長、加治木さん。父が帰る時間なので、用が済んだらとっとと帰ってください』
と和に追い出された二人は、息も絶え絶えに帰りの夜道を歩いていた。
「はぁはぁ、あ、危うく共倒れになるところだったわね…、あはぁー」
「はぁはぁ、い、一体誰のせいでこんなことになったと思って…、ぜはぁー」
どちらも自転車を漕げる状態でなかったため、ゆみが自転車を押しながら歩いた。

「あー、でもさっきのゆみ可笑しかったぁ。思い出すとまた笑っちゃう…ふふふ」
「ったく、こっちは本当に命を落としかけたというのに久ときたら…ふ、ふははは」
「悪かったわよ。でもゆみってば全然揉んでないし、特訓にならないわ…むふふふ」
「いきなりは無茶だろう。でもあれを揉んでいたら特訓になっていたな…あ、あははは」
どうにも治まらない二人の笑い声は、いつまでもこうしていようねと言い合っているようにも聞こえた。

その頃の和はというと、今夜の麻雀王様ゲームの報酬として久に貰った
「部室のベッドで眠る咲」「プールではみ尻スク水を直す咲」「超レア咲のパンチラ」
写真を「マイハ二―アルバム」に丁寧にスクラップして、うっとりと眺めていた。


―♪汚れてもいいー泣いてもいいー愛は尊いわー♪―
翌日も桃の頭の中では、百さんの歌が繰り返し流れていた。
(この部分は正直意味不っすね。せ、先輩とのその、アレで汚れるとか、泣くとか
絶対ないっすから!つか、これも何かの比ゆなんすかね…はは…)
歌詞の中に存在する30年以上前の一般的な価値観に、桃が気づくはずもなかった。


翌日の昼下がり とあるコーヒーショップ
昨夜の勢いのまま、友人を呼び出した久とゆみはもはや常軌を逸していた。
「………と、いう訳なんだけど、協力して貰えないかしら?」
と久が拝むように口の前で手のひらを合わせる。
「無理は承知の上だ。むろん、断ってもらっても構わない」
ゆみは最初から諦めているのだろう、人に物を頼む口調ではなかった。

友人二人から有り得ない依頼をされたその人は、ひどく驚いている様子だったが、
だからと言って久のように口にしたアイスロイヤルミルクティーを噴きだすことはなく、
口を押さえ、コクンと喉を鳴らして落とし込んだ。「はー」と一呼吸置いて、
「私が断るとどうなるのかしら?」久とゆみには真意の分からない質問が飛び出した。
「そーねー。しょうがないからゆみには私で我慢してもらうしか…」久が皆言う前に、
「あ、あの私でよければお手伝いを…するわ…」顔を真っ赤にした美穂子が承諾した。

久の部屋
「お、美穂子もなかなかのおっぱいさんね」「ああ、桃といい勝負だな」久とゆみが感心すると
「あ、あのそんなに見られると恥ずかしい…から…」美穂子は両腕で自分を抱くように胸を覆った。
昨日同様、キャミソール姿の久とゆみに美穂子が加わって特訓を始めようとしていたのだが、
「ま、触るのはキャミの上からだし、そんなにガードしなくても、ね」
「じゃあ、取りあえず、抱きついて貰いたいのだが」
「いやいや、そこはカットでしょ。昨日私でやったじゃない」
「しかし、あれをやらんことには雰囲気が出ないだろう」
「ダメよ、美穂子はおっぱいパートでお願いしたんだから、おっぱい以外お触り禁止!」
「何だそのローカルルールは?久はそうやって勝手なことばかり…」
いきなり久とゆみが口喧嘩を始める。

「あ、あの二人とも仲良く、ね」慌てた美穂子が両腕を伸ばし、二人の間に割って入る。
「じゃあ、あたしは右手っと」「私が左手だな」二人はそれぞれ自分に向けられた手を取り、
「え?何?」と呆気に取られる美穂子を「「こちらへどうぞ」」とベッドにエスコートした。

ベッドに座らされ、状況がいまいち把握できない美穂子が困ったような笑みを浮かべると、
「あはは、びっくりした?」右隣にはいたずらっ子みたいに笑う久が腰かけ、
「驚かせてすまんな」左隣に、柔らかくほほ笑むゆみが並んで座った。
二人の笑顔につられて、美穂子もようやく「うふふ」と小さな笑い声をたてる。
「すごく緊張してたでしょ?」「ええ、まぁ…」「当然だな」
さっきの喧嘩は、緊張した美穂子をリラックスさせるための小芝居だったらしい。

「さて、それじゃあ、始めましょうか」「ああ、今日は時間がないからな」
明日が本番のゆみは、今日は早めに帰って明日の準備をしなければならなかった。

「あ、あの、お願いがあるの…」小芝居が効いたのか美穂子が話しかける。
「うん、何でも言って。出来るだけ美穂子の嫌なことはしたくないから」今更感のあるフォロー。
「あの、ゆみさんに、その、触られている間、久さんに後から支えていて貰いたいの」
「OK。いくらでも支えちゃうわよ」早速、美穂子を左に向かせ、自分は後から肩を抱いた。
ちょうど、美穂子とゆみが向き合う形になり、二人が見つめ合う。

「今日はありがとう」そう言うと、ゆみは伸ばした右手で美穂子の頬を撫で、
左の頬にちゅっと口づける。一瞬にして美穂子の頬が真っ赤に染まった。
「ほんと、ゆみはキスが好きよね。でも唇にしちゃダメよ」久がからかうのを
「うるさいな」静かに制止して、「いきなり胸は嫌だろう」と美穂子に声をかける。
「ええ」と曖昧に肯定すると「それに意外とロマンチストよね」久がしつこく続ける。
ゆみはうるさい外野を無視して「じゃあ、触るぞ」と美穂子の胸に手を伸ばした。


頭ではこの状況を理解しているのだが、感情と身体がそれについていかない。
美穂子は複雑な思いでゆみのキスを受け止めていた。ゆみが嫌いな訳ではない。
むしろ、整った顔立ちや背筋の伸びた姿勢の良さは、ある種の様式美を思わせる。
冷静さの中にも誠意があり、好感の持てる人物であることは美穂子も分かっている。
この場合、美穂子にとっての問題はゆみではなく久にあった。
自分を抱く久がここにいる。その事実は美穂子の心を震わすには十分であった。
しかし、その久は、ゆみが美穂子にしようとしていることを容認し、見とどけようとしている。
自分は久がゆみに抱かれているところは見たくなかった。考えたくもなかった。
だから、今ここにいるのに… 本当は久にして欲しいのに…

ゆみは両手を下からそっと美穂子の胸の輪郭に沿うようにあてがうと軽く上下に揺すった。
手のひらに伝わる重みが胸の大きさを感じさせる。(桃もこんな感じだろうか)
手をゆっくり滑らせ、正面から手のひら全体で包むように揉み始めた。
何物との比べがたい柔らかい感触に浸る。(これは気持ちのいいものだな)

初めて自分以外の人間(ひと)が胸を触っている。美穂子はそれだけで気が遠くなりそうだった。
感情は久を欲しているにも関わらず、身体はゆみから与えられる刺激に反応してしまう。
ゆみが美穂子の胸を揉み始めてから少し経つと、キャミの薄布ごしにコリコリとした感触の
部分に親指がかかり、美穂子が「んんっ」鼻にかかった声をあげ、身体がピクンと震えた。
それまで、肩を抱いたまま傍観していた久が、震えに呼応するように額を肩にのせ、
両腕で包み込んでぎゅっと美穂子を抱きしめた。

「ひさ…」美穂子が小さく呼ぶ声に、我に返ったのはゆみの方だった。
夢心地で揉んでいた美穂子の胸から手を離すと、さっきとはまるで別の二人が目に映った。
久は美穂子を抱いているというより、こ刻みに震えながらしがみついているように見え、
むしろ、美穂子が自分にしがみつく久の腕をしっかりと抱いているように見えた。
その様子を見ただけで、ゆみは夕べ、羽根枕が横っ面にヒットした時以上の衝撃を受けた。

ゆみは大きく深呼吸をすると
「いかん、もう時間だ。私は帰るぞ」わざと焦ったように身支度を始めた。
「…ゆみ?」「…ゆみさん?」少し間があってから、ゆみの声に反応する二人。
「初めに言ったろう、今日は時間がないと。私は明日が本番なのだからな」着替えがすむと
「今日はほんとにありがとう、久は任せた」と美穂子の左の頬にキスをした。
「あーまたキスしたー」久が責めるように言うと、
「久はバカだな」今度は久の左の頬にちゅっ。
「やーねー。何かもうすっかりキス魔になっちゃって」クスクスと笑う。
「ああ、楽しかった。またバカをやれるといいな」ゆみも笑顔で答える。
「そうね、すごく楽しかったわ」久がゆみの右の頬にキスをして見送った。


久の部屋に二人が残った。二人とも何となくゆみが帰った理由がわかっていた。
並んでベッドに座り、うつむいたまま久がポツリと言った。
「バカだって」「はい」美穂子が答え、
「楽しかったって」「良かったですね」それを繰り返す。
「何て?」「ありがとうって」
「うん」「久は任せたって」
「うん」「…あ、あの私でいいの?」不安げな表情で美穂子が久を見る。
「うん。美穂子がいいって分かったから」綺麗なブルーの瞳に映った久は笑顔だった。


おまけ
「ねぇ、キスしていい?」久が聞くと
「ゆみさんには聞かなかったのに…」少しいじけたような返事が返ってくる。
「だって、ほら」
久は、正面に美穂子を見据えると、右手で美穂子の顎を支え、首を左に傾け顔を近づける。
美穂子はきゅっと目をつぶり久を待ち、久は自分の口づけるべき目標に軽く触れたところで
静かに目を閉じた。最初は触れるだけのキス。
徐々にお互いの唇に感覚を集中させ、久は唇を軽く動かし美穂子の唇をはんでいく。
美穂子も久の動きに合わせ、互いの唇がぴったりと重なり合う場所を探す。
久が美穂子の唇を吸い、美穂子もそれに応える。
「ん、うん」呼吸とも吐息ともつかない音が鼻から漏れ、相手が感じていることを知る。
呼吸は苦しくなってきたけれど、離れたくない。ギリギリのところまで…

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最終更新:2010年05月26日 04:21