221 :名無しさん@秘密の花園:2010/06/01(火) 23:11:48 ID:ublo/jC6
「もうみんな帰ったぞ」
「え?あぁ・・・」

全国を控えたある日の放課後、照は部室のソファに座って
じっと窓の外を見つめていた。
日は落ちかけており、部屋の中は電気が点いているものの、
赤く染まっていた。
先ほどまでの賑やかな部室とは打って変わり、そこにいるのは
照と、照を呼びに来た菫だけであった。

「先、帰って」
照の、小さな声が広い部屋に響く。
「だめだ。部屋の鍵は私が持っている」
「じゃあ貸して」
「だめだ」
「・・・・あっそ」

照は小さな声で呟いた後、座っていたソファに仰向けに寝転がった。
はぁ、とため息を零して目を瞑る。

「なんだ?お前おかしいぞ」
菫は寝転がった照を立ったまま見下ろして、そう言った。
「おかしくない」
照は冷静な声で返事をする。が、菫にはわかっていた。
「ふん、気付かないわけないだろう」
【あれ】が原因であると。
「はいはい」
照はあしらうように言うが、菫も引かない。

222 :名無しさん@秘密の花園:2010/06/01(火) 23:12:11 ID:ublo/jC6

「妹か?」
菫の声が、言葉が照に突き刺さる。
「・・・妹はいない」
照は一瞬で言い当てられたことに動揺したが
そんな素振りは見せず、以前答えたように「妹はいない」と返事をした。
「清澄高校宮永咲」
菫はさらに追い討ちをかける。
「知らない」
「お前の妹」
「私に妹はいない」
「宮永、咲」
「いない!私に妹はいない!!」

ずっと低い声でいない、と言っていた照が大きな声をあげて立ち上がった。
さすがに菫も驚いて後ずさりをした。・・・照の目は怒っている。

「妹なんかいない!」

照はさらに大きな声で言った。感情をここまで荒げたところを、菫は見た事がなかった。
それほどまでに妹、宮永咲のことを嫌っているというのだろうか。
だからといって、今更引くわけにもいかない。
菫は追求をやめなかった。

223 :名無しさん@秘密の花園:2010/06/01(火) 23:12:31 ID:ublo/jC6
「・・・・いる。宮永咲はお前の妹だ。お前はそれを認めたくない」
「違う!」
「違わない」
「・・・違う・・・違う!」
「照!」
「うるさい、うるさい・・・うるさい!」
「んっ!!!」

照は自分を否定し続ける菫の口を塞いだ。自分の口で、塞いだ。
菫の驚愕と恐怖の顔が、照の目の前に、すぐ目の前にある。

柔らかい、菫はこんな状況でそんなことを考えていた。
高校3年生夏、他の同級生よりは遅いと思われる、菫のファーストキス。
柔らかくて、照のいい匂いがした。優しい香り。
なんだろう、これは。・・・・私は何をしているんだろう。
・・・照は、なんだか・・・慣れている。初めてじゃ、ないんだ・・・。
菫は色んな感情が混ざり合った感情を抱えた。

「・・・・妹はいない」

唇を離した照はそれだけ言って、部室を出て行った。
菫は呆然としたまま、たった今されたことをすぐには思い出せないのであった。

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最終更新:2011年11月28日 17:20