18-127「キョンの学ラン」

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北高の体育祭。 1年5組は、あたし、涼宮ハルヒが体育着の上に学ランを着て、一人応援団を務めていた。 体育祭も終わって、後片付けをしていると、佐伯さんが声を掛けて来た。 「ねぇ、涼宮さん?その学ランってどうやって手に入れたの?」 なるほど、当然な疑問だわ。 あたしがこの高校に来る以前に、性別を偽って生きてきているわけでもなければ、 男物の学ランなんて持ってるわけないものね。 「これ?ああ、これはキョンの中学時代のやつよ」 これが本当の話。 『応援団やるから』の一言で、キョンに持ってこさせた学ランが、ちょうどあたしにピッタリのサイズだったのだ。 世の中なかなか都合よくできてると思ったものね。 「やっぱりそうなんだ……」 とは、声を掛けて来た佐伯さんの反応。 「やっぱりそうなのね……」 「やっぱりそうなんだ……」 よく見たら、阪中さんと成崎さんも一緒に居る。 この三人はコーラス部の仲良し組だ。 それにしても、何が「やっぱり」で、何が「そう」なのか、あたしにはさっぱりわからなかった。 やれやれ、この年頃の女の子の考えることは難しいわ(※自分もこの年頃の女の子である)。 そんなことを話していると、偶然にもキョンが通りかかった。 「あ!キョン!終わったからこれ返すわ」 返しに行く手間が省けたというもの。 あたしは、学ランの上着を脱いで、キョンに手渡そうとした。 「おいおい……借りたものは洗って返せよ……」 そうしたら、キョンのくせにそんなことを言ってくる。 なんて生意気な。 このあたしが借りてあげたのに……てなことを言おうと思ったけど。 よく考えたら、自分の手に持っている学ランがじっとりと湿っていることに気付いた。 今日は暑かったから、さすがに汗をかいてしまったらしい。 まあその、何て言うか……この学ランあたしの汗の匂いがする。 これをこのまま返すのは、相手がいかにキョンと言えども、レディとして恥ずかしいわ。 「わかったわよ……」 あたしは、渋々譲歩する素振りを見せながら、差し出した学ランを引っ込めたのだった。 それにしても、あたしの持っている学ランに注がれる阪中さんの視線が熱いような気がする。 チラリと見てみると、何となく顔も赤い。 ひょっとして学ランフェチ?そんなフェチ聞いたこと無いけど…… そんなこんなで、あたしはSOS団の部室にやってきた。 そこで、ズボンを脱ぎ、その下に穿いていたブルマも脱いで、いつもの制服に着替える。 そして、クリーニングに出すべく、キョンの学ランをその辺に放ってあった適当な袋に突っ込もうと思ったときだった。 パサリ 乾いた音とともに、キョンの学ランのポケットから1枚の紙切れが落ちてきた。 何だろう? あたしは、きっちりと四つ折にしてあるその紙切れを開いてみた。 『キョンへ この手紙をもって僕の親友としての最後の仕事とする。 何故なら、おそらく君と僕との関係は、 これから僕が述べることによって、「親友」と呼べるものではなくなってしまうからだ。 まず、僕の思いを君に直接伝えるために、体育館裏の一番大きな桜の木、 通称「伝説の樹」の下へ、放課後来るようお願いしたい。 以下に、僕らの関係についての愚見を述べる。 僕らの関係を考える際、第一選択はあくまで同じ塾に通うクラスメイトあるという考えは今も変わらない。 しかしながら、現実には僕自身の場合がそうであるように、 気付いた時には、いつの間にか自分の中ではただのクラスメイトでは無くなっている例がしばしば見受けられる。 塾の行き帰りで二人きりになることはたくさんあったけど、残念ながら未だ満足のいく成果には至っていない。 何だか、何を言いたいのかわからないね。 うまく言えないけど、僕の中で君はただのクラスメイトではなく、「男」になりつつあるんだ。 とにかく、卒業式の放課後、体育館裏に来て欲しい。 そこで、私の思いを全部話すよ。                                佐々木』 ………… …………………… ………………………………なにこれ? 何だかとてもまわりくどいんだけど、要するにラブレター?……ってこと? でも、一人称が「僕」ってことは、お……男からってこと? あれ?でも、最後のところだけ「私」ってなってるし…… 精神が女の子になりつつある男の子ということなのかしら? まったく、理解に苦しむわ…… でも、何故だろう……胸の中がなんとなくモヤモヤする。 それは、きっとこの手紙が本当に、切実に、本気なんだってことが、字体からわかるから…… あたしは、その手紙を制服のポケットに突っ込んだまま、部室を出た。 もう一度、運動場の方に行ってみると、もう人はまばらで、 隅っこの方で体育祭で使った木材が盛大に燃やされていた。 あたしは、その炎の側へ行き、ポケットからさっきの手紙を出して、そっと投げ込んだ。 紙切れはあっという間に燃えて無くなってしまった。 何だか、凄く悪いことをしている気がした。 でも、仕方が無いじゃない。 中学の卒業式の放課後って、いったいどんだけ前の話よ。 そもそも、大事なことは、こういった手紙じゃなくて、ちゃんと面と向かって本人に直接言うべきだわ。 あれ?直接言うために呼び出すための手紙だったんだっけ? 「おーい、何してんだ?朝比奈さんが探してたぞ」 不意に背中から声を掛けられ、あたしの背筋が震えた。 何故……?別に悪いことしてないじゃない。 「朝比奈さんがな『今日はもう帰っていいのか?』だってさ。帰るだろ?疲れたし」 声の主はキョンだった。 何故か、胸がチクリと痛んだ気がした。 「ね、ねえ、キョン……」 「何だ?」 「あんた、中学の卒業式の後って何してた?」 「は?……そうだな、国木田達と飲めもしない酒飲んでバカ騒ぎしたな」 「何よ?男ばっかりで?あんた、中学の頃から女友達いなかったの?」 「うるせー……あー、でも、一人だけよくつるんでた女子がいたなあ……」 「え?そうなの?意外ね……」 「おいおい……俺はどんだけ……まぁでも、そいつとは卒業式以来会ってないな  そういや、あのバカ騒ぎにもいなかったな……まぁ当時携帯とか無いし……」 「ふーん……そう……」 「でも何でそんなこと聞くんだ?」 「……この学ラン見てたら、何となく思っただけよ」 「お前はまたそんなスーパーのビニール袋に突っ込んで……そんなんでも俺の思い出の品なんだぞ」 「知ーらない」 あたしは、キョンの学ランの入った袋をぶん回しながら帰った。 おしまい

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