sword of suzumiya ~キョン語り~

ハルヒファンタジーパロ  苦手な方はすみません。
基本佐々木×キョンです。



   窮屈な荷馬車に揺られながら流れるような平地を眺めていると少しずつ羊の群れやあせくせと働く農夫が
  見えてきて、申し訳程度に張られている柵を越えるといよいよ見慣れた町並みが見えてきた。
   三年前に町を飛び出す時に振り返ったものとあまりに変わらない風景。
   あの頃にはこの変化のなさに辟易していたはずなのに今はそれが不覚にも鼻の奥がツンとしてしまう自分が
  いる。そんな俺の頭に変わった幼馴染の独特な笑い声がよぎり、苦笑してしまう。
  いまからこんなことでは、久々に会うアイツにも笑われてしまう。
 
  気持ちを切り替えて顔を再び上げる。
 
  栄転でこそないが、三年ぶりの帰郷だ。
 
 
~~~~~~
 
 
  「あっ」

   鈍い音を立ててハードカバーの書物が手から滑り落ちる。これで本日五度目だ。
  館長のおじいさんが不機嫌そうに眉根を寄せてこちらを睨んでいるの感じながら、ため息交じりにかがんで本を拾う。
  こんな小さな町では本はとんでもない貴重品だし、それが魔術関連だと大きな街だって一財産だ。なので、老人の
  視線は至極真っ当な反応だし、こんなミスを繰り返す自分も情けなくも思うが・・・それでも今日はなかなか地に足が
  ついてくれない。

   薄暗い図書館の唯一の光源である天窓に目を向ける。
 
   空は憎らしいほどの晴れ渡っていて、私の心は際限なく高鳴っていく。

   今日は彼が王都から帰って来る日なのだ。
 


~~~~~~


  「キョンくんッ!!」

  業者台に乗る老人に運賃を払っていると、後ろから突然の強襲に見舞われた。あまりの突進力にそのまま倒れそうに
 なるのなんとか踏みとどまり、相手を確認する。とはいってもこんなタックルを出会い頭にしてくるのは一人しか心あたりが
 いない。腰に頭をこすりつけているソイツを軽くこずくき、顔を上げさせる。
  三年前からするとずいぶんと大きくなった妹こととあまりの変わらなさに驚き半分あきれ半分で話しかける。

  「キョンじゃない。お兄様と呼べ。あと、そんな頭突きばっかしてるとハゲて花嫁になれんぞ?」
  「キョンくんはキョンくんなの!それにキョンくんにもらってもらうからいいもーん」

  我が妹は残念ながら三年のうちに内面までは成長が追いつかなかったようで、ここに遺憾の意を示しておこう。ついでに、
 こんな教育を施した両親にもこのまま報告ついでに顔を出して来ようかと考えているともうひとつの影が現れる。

  「まったく、あの程度のタックルもかわせずによく宮仕え出来たものであるな」

  尊大なため息とともに現れたのは絶妙な三色のコントラストの体毛に覆われ、凛々しい三角耳、緊張感あふれるひげ。
 簡単に言えば三毛猫のシャミである。普通の動物はしゃべることはないのだが長年生き続けたモノは稀にしゃべり始める
 ことがある。そのせいか、この猫はずいぶんと古風で嫌味なしゃべり方をする。
  まあ、慣れればこんな生意気な猫でもなかなか愛嬌の「思考が相変わらずに顔にだだ漏れであるのも相変わらずか・・・」

  ・・・どうやら俺も人のことを言えるほど成長は見込められないらしい。

  鼻からあきらめるように息を吹き出し、シャミは尻尾で付いてくるように合図をする。
  勝手に人の体をよじ登ろうとしている妹を背中におぶってやり、そのあとに続く。

  「で、王都での生活はどうであった?」
 
  どうもこうも、毎日練兵所でしごかれて、たまの休日にはお姫様に呼び出されて無理難題に付き合わされて、宰相にボードゲーム
 させられて、無口な賢人やメイドに癒されて・・・改めて考えてみるとやましいことをしてる訳でもないのに説明に
 困る生活だな。

  「ま、まあ、それなりに楽しくやってるさ」

  お茶を濁してはみるが猫の目は半目のまま、鼻を鳴らした。

  「高貴な女人の香をそれだけかぐわせているのだ。ずいぶんと充実した生活のようであるな」
 
  ちがうぞ、バカ猫。お前が何を嗅いだかは知らんがそれは決してそういった類の匂いではない。それどころが、
 さらにとんでもない事をつぶやきやがった。

  「それに高貴な男の香・・・?まさかとは思うが後ろのあn「んな訳あるかぁぁぁッ!!!」

  俺は迷うことなくバカ猫の腹めがけて蹴りを繰り出すが、余裕でよけられてしまう。きょとんとしている妹よどうかそのままで
 いて欲しいね。成長するにしたって方向は間違ってほしくない。

  「まったく、都会にいたならこの程度の冗談は流せんものかね。まあ、今の蹴りを見る限り遊んでばかりな訳でもなさそうで
   安心したといえばそうであるかな」

  とりあえず、この猫はあとで締めることを予定に入れつつ、歩みを再開する。さすがに田舎町とはいえ往来で猫といつまでも
 じゃれている訳にはいかない。ため息ひとつでペースを取り戻して、会話を戻す。

  「で、こっちはなんか変化はあったのか?」

  帰ってきたときには何も変わらないことに感慨を感じていたが、三年もあれば妹しかり、街にも少しずつ変化はあるようで
 出て行く前には見なかった顔も何人か見ている。軽く挨拶した知り合いには伴侶をもったモノもいたし、一児の母になって
 いた友人がいた。こういうのを見るとなんだか人生の節目に立ち会えなかったのを少し残念に思い、そんなことを呟く。

  楽しげにニヤニヤしていたシャミもそんな雰囲気を感じとったのか少し満足げな声色が変わる。

  「三年やそこいらでは大して変わらん。まあ、よくも悪くもそんな変化を感じれるようになった分くらいには漢になった
   ようであるな」
 
  また軽く鼻をならし、シャミは歩みを止め振り返る。

  「心配せんでもおぬしのお気に入りはまだ独り身である。某が妹御とともに御両親に到着を知らせて来よう。
   あの娘は図書館におるから、おぬしはさっさっと顔を見せに行くがよい」

  ・・・お気に入り?ああ、ササキのことか。というか俺とササキはそんな仲じゃ、と言い飽きたことを再度口にすると
 砂をかけられた。畜生、おもっきし顔面にかけやがった。
  佐々木の名を聞いて一緒に行くとダダをこねる妹をなんとか引き離し、先に帰っていくあいつらを見送り、鼻をかく。



  まあ、久々に親友の顔を見るのも悪くない。
  そう思い、俺はあいつがいるであろう図書館に足を向ける。
 


~~~~~~~~~


  華やかな王都の中心にたたずむ城のさらに最奥、王族の者しか入ることの許されないプライベートテラスは
 栄光の象徴である月桂樹を中心に地下水がひかれており、その中に浮島に見立てたいくつかの庭園を渡し石で
 つないでおり、見たモノに屋内だということ忘れさせるくらいに幻想的な風景が広がっている。
  そんな空間の中には似つかわしくない剣呑な空気の二人がにらみ合っている。

 「それで、一体どういうことなのか説明してもらいましょうか?」

 「どう、と言われましても、その文章そのままとしか僕には言えませんが・・・」

  方や長くしなやかな髪を伸ばし、高貴な黄色の髪結いでまとめるご令嬢。方や涼しげな笑顔を崩さない優男。
 そして、ご令嬢が突き出している手にはかしこまった文調の配属移転命令書が今にも破られそうな勢いで握られ
 ている。

 「SOS団~sword of suzumiya~の団員が主の了承もなく移転されてて、それが今更のように私のもとに
  平然と届けられていることについて”はい、そうですか”なんかで済むと思ってるの、小泉君!!
  SOS団は軍部・賢人部・政治のあらゆるものから分離した独立した王族組織よ。それがこんな事をされて
  いるのは明らかな反逆行為よ!!この文章作成に関わったもの全員の名前を洗いなさい。そのもの達に
  即刻処分を・・・」

  「作成したのは僕ですよ、ハルヒ嬢王陛下」

  朗々と続く言葉はその一言で凍りつく。一瞬、冗談かと切り捨てようとしたが彼の目からそんな雰囲気はみじんも
 感じることはできない。その顔はこの国の宰相であり、自分が彼に任じたSOS団副団長のものだ。

 「 本来、SOS団は王族の影の戦力として秘密裏に選ばれ、様々な組織にもぐりこみます。そして、そのあまり
  の多様性と意外性により政治・軍・経済・賢人は周りの人間を信用できなくなり、反乱や悪事を未然に防止・
  察知することを目的としております。
   そんな役職として彼はあまりに城内で目立ちすぎました。目に見えない不安に悩まされている方々にはあまりに
  格好の情報源です。しかも、正式な手続きを踏んでいない彼はあまりにこの職に対する正しい認識がありません。
  せいぜいが陛下の暇つぶしに付き合う娯楽集団程度でしょう。 
   ですから、彼の身の安全のためにもほとぼりが冷めるまで彼の故郷への移転命令で周りにただの噂だったと
  いうことにしようとしたのです」

  淡々とした無味無臭の説明には乾燥した理解しか浮かばず、残ったのはやり場のない激情だった。
 小泉くんの説明に一切の疑問も残らないきれいなものだった。確かに彼の配慮がなければキョンは今頃、拷問を
 受けていてもおかしくはないのだ。

 しかし、だ。

 何なのだろうかこのもやもやは?

 頭では明瞭に理解しているのに何かがそれを拒んで言い訳を作ろうとしている。

 そんなことに頭を悩ませているとパッとそれらしいものが浮かぶ。

 「そ、それでも団長の私に断りなくそんなことするのはあまりに規律を乱すわ!!」

 「説明したら素直に故郷へ帰したんですか?」

 再び、言葉につまる。
 小泉くんの目はあまりにも私を推し量っている。
 国民を導くにたる者かどうかを隙なく見極めようとしている。

 果たしてこの話を正式に通されたとしたら、自分はどう判断しただろうか?


 「当然でしょ。まあ、確かにキョンの件は私も軽率だったわ。自重する。
  ・・・なんだか、気分が悪いからあと下がっていいわ」

 
 「早急に医者を手配しましょう。では、失礼します」

 出ていく小泉くんの背中を見詰めつつ、備え付けのソファに倒れこむ。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカキョン」

 あの馬鹿面のため息が聞こえてくる気がした。


~~~~~~~~~


 後ろ手に扉が閉まることを確認すると、途端に汗と疲労がにじみ出る。
 なんとか切り抜けた状況に内心は少なからず安心しているときに突然、感情のない声が暗闇からかけられる。

 「ズルはよくない」

 「長、門さん」

 長い回廊の柱から三角帽をかぶった小柄な少女が現れ、こちらをみている。
 呼ばれた瞬間に自分が笑顔を保てたかは疑問だが、今は完璧に表情を隠せているはずだ。

 「ズル、とは何のことでしょうか?」

 「すべては言わない。これも彼にならったこと。」

 それだけを言い残し、彼女はまた闇へと溶けていく。
 
 「・・・宇宙(そら)を知る賢人にはお見通し、ということですかね?」

 彼に関わったこの国の多くの重要人物は彼女を始めとして良い傾向を見せている。

 さっきの説明だって世間知らずな彼女だから通じたようなものだ。実際、彼が襲われても
 彼の実力は相当なものだし、組織が狙うにしては彼の人脈を考えるとあまりにリスクが高い。

 実際のところ、彼をブラフにして様々な組織との交渉をし、丸く収めることに成功している。
 
 それすら捨てて得る自分の利益。

 彼を陛下直々の命令だと丸めこみ、陛下をだましてまで引き離した理由。

 彼には一度伝えてある。

 「僕はハルヒさんが好きなんですよ・・・キョンくん」



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最終更新:2011年03月28日 05:39
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