67-9xx 「構わないよ、親友」


「キョン、キミは涼宮さんのせいだと言いたいのかい?」
「違うぞ佐々木。謝っているのはあくまで「俺」だ。猫化が進行してるんじゃないのか?」
「くく、これは手厳しいニャ」
 ベッドに横になったまま、視線をこちらに見せて笑う。
 口の端を釣り上げるように笑いながら。

 今回の一件、ハルヒは無自覚に能力を行使してお前に猫化の呪いをかけた。
 けどそれはあいつが悪いんじゃない。自分の日常を守る為に、異分子の存在を警戒するなんて当たり前の発想だ。
 あいつの根っこが変人でも神様でもなくて、ただの普通の女子高生だから起こる警戒心なんだ。

 mikuruフォルダをヤスミが気にかけなかった一件とは違う。
 ああそうとも。あの春の事件で古泉が言っていたように、身内じゃない、ロクに見も知らぬ人間が「自分の身内」と仲良くしているのを見れば
 普通なら誰だって驚くし、その「身も知らぬ人間」の為に、自分に嘘を吐いたのだと知れば
 普通の人間なら捨て台詞の一つも言いたくなる。

 長門が世界を変えた一件ともまた違う。
 長門は「力を使えば世界が変えられる」と解っていた。その上で力を行使し、なおかつ異常を正せるシステムを残してくれた。
 ああいう、そう、理性的なケースとはまた違う。長門は良くも悪くも「普通」じゃない。
 あそこまで理性的な精神なら、そもそも「変人ハルヒ」たりえんだろう。

 ハルヒは一見は非常識で変人で大迷惑だ。
 だが根っこは「普通」だから、そんな荒唐無稽な願望が「本当になる」だなんてまったく信じていない。
 だから無意識に「力」が作動して、猫化の呪いなんておかしなモンをかけてしまったのだ。
 あいつは無意識だ。だからハルヒは悪くない。

「悪いのは、そんな力をハルヒに持たせ続ける事の意味を、ロクに考えなかった俺なんだ」
 もちろんお前に持たせるべきでもない。だが「力」が失われるものだと知った以上、それを気にかけるべきだった。
 このままでは朝比奈さんが死ぬかもしれないという予言と共に、俺は気にかけ考えるべきだった。
 日常の中に舞い戻り、布団にもぐりこんでいる場合なんかじゃなかったんだ。

 藤原や橘の一件を先送りにした結果、春先の事件が起きちまった事を忘れちゃいけなかったんだ。
 他人事、長門や朝比奈さん(大)や古泉がなんとかするなんて他人任せにした結果
 ハルヒが殺されかかる事態になっちまったったのに。

 ましてや「未来の事は未来の俺がやる」だなんて、体よく問題を先送りしただけじゃねえか………!
 …………………………
 ………………

「……く、ふ、キョン、そう気負うニャよ」
「けどな佐々木」
 佐々木は、また少し眠そうにしている。

 俺はハルヒが「力」を持ち続ける事を支持した。あいつはもう世界を壊したりしないだろうから。
 けど自分の周り、SOS団を守る為や、楽しむ為にあいつはいつも周囲を巻き込む。

 あの春先、新入部員候補をオモチャにした一件だってそうだ。
 最終的にハルヒは全員で持久走をやり、最後に残った奴、ヤスミを入部させた。
 しかし、あいつはヤスミが残ったことを意外がっていた。つまり入部させるつもりなんてホントは無かったはずだ。
 けどヤスミが書いたアンケートはそれこそハルヒ好みそのものだったんだぜ?
 そりゃそうだ、ヤスミはハルヒの無意識そのものだったからな。

 そんなヤスミですらハルヒは落とす気満々だった。
 裏を返せば、あいつは要求ハードルを高めに高めていたって事じゃないか。
 ヤスミすら「落とす」つもりで強引に決着しようとしたハルヒの行動は、新部員を求めていなかった事を雄弁に語っていないか?

 けど、そんな無茶振りを望んだくせに、あいつは新入部員が一人も寄り付かない事態も求めていなかった。
 あいつは誰より積極的に「新歓」というイベントを楽しんでいた。
 そんな矛盾も「普通」なら当たり前に存在するものだ。
 人間は基本的に身勝手なもんだからな。

 ハルヒが身内に優しくなったのは確かだ。
 けどな、だからと言って外部の連中ならおもちゃにして遊んでいいって訳じゃない。
 世界を分裂させた一件、力についての一件といい、俺や古泉はハルヒの「心」を高く評価しすぎていやしないか?
 俺はもっと深く考えるべきだったんだ。あいつ自身の為にもだ。

 それだけじゃない。
 俺にはもっと切実な課題があるじゃないか。

 仮に今後「力」が消えるとすれば、古泉の「機関」も力を失うだろう。
 そうなれば、今SOS団がやっているような「豪華別荘ツアー」や「生徒会との八百長」などの人為的なイベントが激減することも意味する。
 朝比奈さんや長門が居なくなってしまう可能性もある。そんな風にSOS団が空中分解してしまっても
 文字通り無力な一般人になった俺は、あいつの傍に居続けることが出来るのか?

 ああそうだ、他でもねえ、中学時代のハルヒの「不思議大好き」を知らずに後押しして今の状況を作ってしまったのも俺だ。
 勿論春先の一件でハルヒの奴が力を保持し続けることを選んだのも俺だ。
 どれも俺なんだ。

 けど俺はその責任をどこまで自覚していた?
 考えてみりゃ俺はあらゆる意味で責任を持たにゃならんのではないのか?………
 ……………………………
 …………………

 煮える。頭が煮えそうだ。
 煮えそうな頭を抱えてベッドに寄りかかっていると、音も無く佐々木が傍らに降りてきた。
 猫化が進行でもしたのだろうか、そっと音も無く降りてくると、ごく当たり前のように俺の膝の上に頭を横たえてきたので
 頭が煮えた俺は、ごく当たり前のように、シャミセンにたまにそうするようにその頭を撫でた。
 喉が鳴る音はさすがにしないが、くつくつと聞き覚えのある笑いが響く。
 佐々木の、いつもの笑い声。

「キョン、確かにキミは責任の割に怠惰だったかもしれない。だが難しく考えるニャよ」
「別に難しいことは考えてねえよ。材料から先の事を組み立ててるだけだ」
「推論と言う奴だニャ」
 そうだな。未来は現在と過去の延長だ。
 さらさらと心地良い手触りだけを感じながら話を続ける。

 未来は現在と過去の延長だ。
 だから推論を組み立てて備えることが出来るはずなんだ。
 なのに俺は「未来は未来の俺が対応する」と他人事みたいに考えちまった。
 あまりに怠惰すぎやしないか?

「だが所詮、推論は推論、未確定な情報の砂上の楼閣だニャ。まず確定した情報から当たって見るのはどうかニャ?」
「確定情報なんてあるのかよ」
「くく、キミらしくニャいね」
 俺らしいって何だ。

「もっとひねくれた振りをしてくれよ。調子が狂うって事さ……そう、確定情報は現在と過去、過ぎ去った事実だけが事実だ」
「けど未来人って奴もいるだろ」
「どうかな? 未来人にしてみれば過去、現在から見た未来は不確定だよ。それはキミこそ知っているはずだニャ」
 ウニャウニャと顔を洗いながら佐々木が笑う。
 明日は雨か。

「不確定だからこそキミを介して歴史に介入しているんだろう?」
「そりゃまあ、お説ごもっともだ」
「まず頭を冷やしたまえ」
 膝の上から、俺の顔を覗き込みながら佐々木は目を細める。
 細めて、まぶしそうに笑う。

「キミが知る確定情報、それは涼宮さんは信じるに足る心を持っているという事だろう? せめて気に病むニャ」
「そこが揺らいでるから気に病んでるんだろうが」
「くニャニャ、そうかニャ?」
 頭を続けて撫でてやると、シャミセンがたまにするような、どことなく尊大な笑顔に変わる。
 解っているんだろう? とでも言いたげな笑み。

「けど、少なくとも僕は信じているよ。そしてキミは僕を信じてくれているんだろう? ニャら彼女も信じてくれ」
「なんでそんなに信じられるんだ。お前は、あの新入生達みたいに振り回されてるんじゃないのか」
「くく、ならきっと彼らも僕と同じ気持ちなんだろうニャ」
「何がだよ」

「彼女に振り回されたのが現況なら、これもまた悪くないなってことだニャ? 親友」
 にっこりと、口の両端を柔らかく曲げて微笑んで、佐々木はそのまま嬉しそうに目を細めた。
 俺もなんとなく撫で続ける。

「……俺には、お前に親友なんて呼ばれる資格はねえよ」
「どうしたい急に?」
 違う。これもまた俺が今回言いたかった事だ。
 お前と偶然会って、お前が俺を親友と呼んでくれて、だから改めて思ったことなんだ。

「俺はそんなに内心を吐露しあった訳じゃねえ。それに一年も連絡を取らなかった。俺にはお前に親友と呼んでもらう資格はねえよ」
「僕にはと言うことは、キミから僕には親友と呼ぶ資格があるのかい?」
「返答が早いな。猫化が解けてきたか?」
「茶化すなよ親友」
 俺は無意識に撫で続けながら、意識上に言葉を並べた。

 だってそうだ。
 あの春先の一件じゃお前は俺にわざわざ内心、夢、価値観、そんな気恥ずかしいものまで吐露してくれた。
 そこまで俺の為にしてくれたお前を、親友と呼ばないんじゃ嘘だろ。

「くく、キミ基準はそれか。なら大丈夫じゃないかニャ」
「何がだよ」
 くつくつといつもの笑い。

「今回の一件、キミは悩むところを僕に素直に明かしてくれた。僕に相談してくれた。ならキミの定義で親友と呼びたいね」
「いらん重荷を聞いてくれた礼こそすれ、お前に礼をもらう資格はねえよ」
「違うね。こうして迷惑をかけてくれたのが嬉しいのニャ」
 目を細めて囁くように言う。

「内心を吐露しあうのが親友の定義だと言うなら、僕らは親友、それでいいじゃないか。……それにニャ」
 そっと佐々木を撫でる俺の手の上に手のひらを重ね、続きを言った。
「……無意識とはいえ、こんな事をしてる段階で、ね」
「うお!?」
 思わず手を離そうとしたが、佐々木の手に制された。
 う、まだ猫化してるな。柔らかいぞ。

「年頃の乙女の腹部を撫でておいて、韜晦はないだろう親友?」
「悪かった。だから離せ」
「断る。続けたまえ」
 いつの間にか佐々木の腹の辺りを撫でていた俺の手を、佐々木が抑える。

「仕方ないだろ。猫ニャんだから」
「お前は人間だ」
「今は猫だ」
 言って、くつくつと喉奥を振るわせる。

「くく、こんなシチュエーションを提供してくれるなら良い神様じゃないかニャ。なあキョン」
「俺にどう答えろって言うんだよ」
「考える、と答えたまえ」
 それが人間の能力だからってか?

「思考不足を痛感したなら考えることだ。僕やキミの友達に相談しながらね。一人より二人だよキョン」
「そうは言うが、船頭多くして船山登るとも言うだろ佐々木」
「くく、そう、その調子だよ」
 お前の仲の俺はどんな頭脳をしてるんだよ。
 俺はそんなに冷静だったか?

「冷静? どちらかというと鈍重な感性ではあったかニャ」
「またそれかよ」
 鈍感の二文字で済むだろ。
 まったく、お前は何時だって遠回りしやがるな。

「くく、他人の善意くらい素直に受け取りたまえ。差し出した善意が拒絶されるというのは寂しいものだ。
 そうだな、たとえば電車で席を譲ろうとして、そのまま断られた時の気恥ずかしさを、キミなら知っていると僕は考えているのだが」
「買いかぶるな。俺は寝た振りしてやり過ごす程度の人間なんだがね」
「くっくっく、そうかニャ?」
 解ってるともさ。目をそらしたら負けなんだってな。

「キミは思考不足を悩んでくれた。悩むと決めてくれた。それだけで十分だ。
 どこかにあるかもしれない『たった一つのさえたやり方』を『しなかった』ニャんて仮定で悩んだり謝ったりしてくれなくて良いんだ。
 正解なんてそう簡単には解らないさ。世の中、そう単純には出来ていない。そうだろう?
 大事なのは進むと決めることだけなのさ」

「結果、正解を出さなきゃ無意味だろ」
「らしくないねキョン。そんなに結果、正解を誰でも出しながら生きていけるなら世の中こんなに非効率的になっちゃいニャいさ」
 努めて手のひらの先の感触を考えないようにしながら、俺は考える。
 考え続ける。それが人間が持ってる能力だからな。

「けれど変わっていこうとする意思が在る限り、きっと良い方向に向かうさ。それほどつまらない世の中ではないはずだからね」
「お前はいつも正しいことを言うんだな。佐々木」
「正しくあろうとしているだけさ」
 言霊か。

 俺もハルヒも佐々木も、基本、普通の人間だ。
 誰もがちっぽけで、誰もが透徹した意思なんか持ってない、綺麗でも立派でもないただの人間だ。
 だから俺は怠惰であるし、佐々木は懸命に勉強するし、ハルヒは周囲を気にせず己の道を歩いていく事が出来るのだ。
 だから、俺達は変わって行く事が出来るのだ。

「……そして涼宮さんも普通の女子高生であるというのなら、やっぱり最後は、一年ずっと一緒に居てくれたキミを信じてくれるのさ」
「お前は『今の』ハルヒなんかロクに知らんだろう。……そんなに俺を信じてくれるものなのか、とかな」

「くく、証拠がここにあるじゃないか」
 言って俺を覗き込んだ佐々木の目はいつものようにきらきらしていて。
 そして、そうだ、猫ひげなんてなくなっていた。

「言ったろ。僕は心配してないとね。動揺が冷めればこの通りってことさ」
「そうとも限らんだろうに」
 負け惜しみじゃないぞ。

 確かに文化祭、映画撮影の折の異常現象は「フィクションである」とハルヒが改めて思い直すことで綺麗さっぱり消えてしまった。
 しかし最初に「願ったから現れた」という長門や朝比奈さんや古泉が今もそのまま居るように
 全てがあっさり元通りになるとは限らないんだぜ?
 ケースバイケースって奴だ。

「ご都合主義だと思うかい?」
「端的に言わせて貰えばそうなるな」
「くく、だがキョン、全てが思うようになる、そのご都合主義こそが彼女の能力ではなかったのかな?」
 確かにその一面もあるだろう。しかしお前にとって都合の良い展開でこそあれ、ハルヒにとっては都合の良い展開じゃないだろ?

「キミも相変わらずだな。実に適度に理解してくれる。僕に解説の余地を残してくれる」
「どういう事だ?」

「キミに遺恨を残す事を彼女が望むかい?」
「なら最初から事件なんか起こす必要がないだろ」
「必要はあるさ。キミが考える契機になったのなら彼女にとってもプラスだ。違うかな?」
「おいおい。なんだそりゃ」
「類例があるだろ?」

「あの春先の事件、彼女は最初から全て解っていたからこそ世界を分割するという対策を採った。それがキミ達の見解じゃないのかい?」
 朝食のメニューでもそらんじているような当然顔、持論を展開する佐々木の顔が、何故かヤスミにフラッシュバックした。
 全てがわかっているような、全て見通しているような、ヤスミの行動がフラッシュバックする。
 実に突飛で、実に都合が良く、実に……。

 例え導入がハルヒにとって不利益であろうと関係ない。
 終わりがよければそれで良いし、良い終わり方になる事をハルヒは「無意識」で理解しているというのだろうか?

 そう、あの春先の事件で佐々木が現れた件もだ。
 一時動揺したとしたとしても、あの事件は、結果的に……。

「キョン、だから僕は心配なんかしないのさ。彼女なら良き結末しか用意していないだろうからね」
 だが俺は心配になる。ここまで考え続けたことも、全てはハルヒの望みのままだと言うのなら。
 そしてその心配さえもが、ハルヒの望みのままなのだと言うなら。
 ハルヒの無意識が、全てを理解しているというのなら。

「そう気味が悪そうな顔をするなよ。それに全てが彼女の「無意識」だというのも仮定でしかない、解っているだろう?」
「仮定か。それはそうだが」
「それに、いずれ能力は失われるのだろう?」
「だがお前の物言いなら、失われるのもあいつの望みだって事なのか?」
「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」
 全ては推論でしかない。

「キミは考えるという事、想像するという事をあの春の事件で覚えたはずだよ? 今回は、ただ、その補強をしただけ。それだけの事件さ」
 能力に起因するお祭り騒ぎが絶えない日々、しかし橘と藤原の一件から様相は変わってきた。
 朝比奈さんが危険に晒され、長門が倒れ俺達は雪山に閉じ込められかけ
 ハルヒ自身に「不思議事件」を自覚させかねない事件になった。

 それでも俺は深く考え込むことも、抜本的な解決を模索することもなかった。
 その結果が春先のハルヒ殺害未遂事件だと言うなら。
 今回の事件だと言うのなら。

 俺は「SOS団の為に受動的に動く」時期を経て、今度こそ「能動的に」「自分から」動く時期に入ってきたのだろうか。
 期せずして、朝比奈さんの卒業と言う「SOS団解体イベント」の皮切りも近付きつつある。
 いよいよ俺が「自分から」動く時期なのだろうか。
 そしてそれが…………。

「なあ佐々木」
「うん?」
 俺の投げた目線をあっさり解読し、佐々木は俺の質問よりも先に答えを返してきた。
「なんだい。キミに助言できる事がこの上あったかな?」
 あるともさ。きっとある。

「……何かあったら、お前に相談しても構わんか?」
 どんな組織にも所属していない、けれど不思議事件に通じているなんて変人は残念ながらお前以外居ない。
 そしてこれからが不思議事件の最終幕だというのなら、今度こそ長門に、朝比奈さんに、古泉に頼る訳にはいかんかもしれんのだ。
 俺が決断を迫られるというのなら、あいつらもまた決断を迫られるときなのかもしれんのだから。

「構わないよ、親友」
「すまんな、親友」
 俺にとって大事なのは、そうならないよう考え続けるという事なのだ。
 考えることくらいは俺にも出来るし、出来ることすらしないのは怠惰でしかないんだからな。考えてみりゃ当たり前の話じゃないか。

「キョン」
「ん?」
「ならその代価の一部を、キミに先払いしてもらっても構わないかな?」
 なんだ、俺の手持ちなどジンバブエドル程度の価値しかないぞ。
「なんだい、岡目八目と言う奴かな」
 言って佐々木は、俺の膝に預けていた頭を上半身ごと起こすと、そのまま俺の胸に、ぽすん、と小さな頭を投げかけた。
 膝上から、俺に頭と背中を預けるような姿勢に変えて、くすくすと笑う。

「キミはたくさんのものを持っているよ。それはそれはたくさんのものをね……だからちょっとだけ貸しておくれ」
 いいけど返せよ、と言いかけて、言えた義理ではなかったと思い返す。
 が、それよりも先に佐々木は要求を訂正した。

「なら借りるのではなく、いつか頂くことにしようかな」
 言って、いかにも楽しそうに、機嫌のよいときのシャミセンもびっくりの喉遣いで佐々木は笑う。
 その心地良い振動を胸に感じながら、俺も苦笑をするのだった。
)終わり

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最終更新:2013年02月16日 23:53
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