69-125『Snow drop』

雪の空を見上げるのが好き。
深々と降り積もる雪。まるで空に吸い込まれるような気がして……。
「初雪か。寒いと思ったぜ。」
キョンの家の玄関の前。学校が違う私達は、駅まで一緒に向かう。
「佐々木。暖めておいたぜ。」
キョンは、私に缶コーヒーを渡す。じんわりとした暖かさが嬉しい。
「くつくつ。キミにしては気が利くね。」
「うるせぇ。」
ポケットに缶コーヒーを入れて、手を繋ぐ。手袋に隠れて見えない右手の薬指には、お揃いのリング。
駅に着く頃。駅前はサラリーマン逹が絶望の表情で立ち尽くしていた。
どうやら初雪は、公共交通機関に盛大なダメージを与えていたらしい。
キョンを見ると、キョンはやれやれ、と首を竦めた。
「遅刻確定か。」
「そのようだね。」
キョンは、私の横に立ったままだ。
「キョン?」
行かないの?北高なら間に合うでしょ?
「雪の日に、あの坂を登りたくねぇよ。怪我しちまう。」
さいで。甘い雰囲気は期待してないから、別にいいんだけど。
「それに、だ。お前も退屈だろうしな。話し相手は必要だろう。」
「くつくつ。」
雪の空を見上げながら、キョンと話す。

「……ねぇ、キョン。不思議だね。このまま空に吸い込まれて行きそうな気がするよ。」
「そん時は俺も連れていけ。」

小一時間位話しただろうか。電車が来る、とアナウンスがあり、サラリーマン逹が歓声を上げる。
「さて、俺も学校に行くか……」
キョンが立ち上がる前。私はキョンの前に立った。
「……佐々木?」

あなたから、私はどう見えているのかしら。願わくは、私の考えるよう空にいるよう見えて欲しい。

「これは僕からの、心ばかりのお礼だよ。」

キョンの口唇に、自分の口唇を合わせる。


「ば、バカ!お前、人前で……」
「くつくつくつくつ。」
北高生も見ていただろうね、キョン。
何か言い募ろうとするキョンをかわし、私は駅に入る。
「キョン、また帰りに。」
「……もう好きにしてくれ。」
真っ赤になり、キョンが下を向く。……横から美しいフォームのドロップキックが。
あれは涼宮さんかな?
まぁ見せつけたんだけど。

電車に乗る頃には、すっかり温くなった缶コーヒー。私の好きな、少し甘い味。

「(初雪に、感謝かしら。)」
火照った頬に、缶コーヒーを当てて、私は一人にやけた。

END

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最終更新:2013年03月03日 03:45
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