雪の空を見上げるのが好き。
深々と降り積もる雪。まるで空に吸い込まれるような気がして……。
「初雪か。寒いと思ったぜ。」
キョンの家の玄関の前。学校が違う私達は、駅まで一緒に向かう。
「佐々木。暖めておいたぜ。」
キョンは、私に缶コーヒーを渡す。じんわりとした暖かさが嬉しい。
「くつくつ。キミにしては気が利くね。」
「うるせぇ。」
ポケットに缶コーヒーを入れて、手を繋ぐ。手袋に隠れて見えない右手の薬指には、お揃いのリング。
駅に着く頃。駅前はサラリーマン逹が絶望の表情で立ち尽くしていた。
どうやら初雪は、公共交通機関に盛大なダメージを与えていたらしい。
キョンを見ると、キョンはやれやれ、と首を竦めた。
「遅刻確定か。」
「そのようだね。」
キョンは、私の横に立ったままだ。
「キョン?」
行かないの?北高なら間に合うでしょ?
「雪の日に、あの坂を登りたくねぇよ。怪我しちまう。」
さいで。甘い雰囲気は期待してないから、別にいいんだけど。
「それに、だ。お前も退屈だろうしな。話し相手は必要だろう。」
「くつくつ。」
雪の空を見上げながら、キョンと話す。
「……ねぇ、キョン。不思議だね。このまま空に吸い込まれて行きそうな気がするよ。」
「そん時は俺も連れていけ。」
小一時間位話しただろうか。電車が来る、とアナウンスがあり、サラリーマン逹が歓声を上げる。
「さて、俺も学校に行くか……」
キョンが立ち上がる前。私はキョンの前に立った。
「……佐々木?」
あなたから、私はどう見えているのかしら。願わくは、私の考えるよう空にいるよう見えて欲しい。
「これは僕からの、心ばかりのお礼だよ。」
キョンの口唇に、自分の口唇を合わせる。
「ば、バカ!お前、人前で……」
「くつくつくつくつ。」
北高生も見ていただろうね、キョン。
何か言い募ろうとするキョンをかわし、私は駅に入る。
「キョン、また帰りに。」
「……もう好きにしてくれ。」
真っ赤になり、キョンが下を向く。……横から美しいフォームのドロップキックが。
あれは涼宮さんかな?
まぁ見せつけたんだけど。
電車に乗る頃には、すっかり温くなった缶コーヒー。私の好きな、少し甘い味。
「(初雪に、感謝かしら。)」
火照った頬に、缶コーヒーを当てて、私は一人にやけた。
END
最終更新:2013年03月03日 03:45