69-431『SUGAR LOAF EXPRESS』

家庭科。今日はシュークリームを作る。
「あたし、○○くんに渡すんだ!」
「私は○○くんに…」
精神病に羅患した皆が、口々に譫言を言う。……恋愛なんて精神病に過ぎないのに。
「佐々木さんは、キョンくんでしょ?」
「いや?自分で食べるけど……。甘いの好きだし。」
無論キョンにやるのも吝かでない。しかし、いちいち色めき立たれるのは勘弁。この種の患者達は、友情すら恋愛だと言うからね。
「へー。なら、あたしキョンくんにあげようかな?」
こうしたお約束。お決まりだね、やれやれ。
「生クリームに見せ掛けた、白唐辛子でも使ってみて。人が火を吐けるのか見たいから。」

シューを焼く。そしてカスタードを作り、生クリームを泡立てる。
「佐々木さん、生クリーム泡立てて。」
手でやると意外と骨なんだよね。
しかし……先程の彼女が本当にキョンにシュークリームを渡すとしたら……
容易に鼻の下を伸ばす親友の姿が浮かぶね、全く。照れながら受け取り、精神病としか思えぬセリフを聞き、安っぽい言葉のバーゲンセールだろうか。
「佐々木さん!ちょっ……!」
……親友として見たくない光景だね。彼らしからぬ言葉のバーゲンセールは、実に佳くない。
「泡立て過ぎ!佐々木さんってば!ツノなんてレベルじゃ……」
いかんな。これじゃ私が可笑しいじゃないか。何もキョンが彼女を受け入れるとも限らない。
「度し難いね、我ながら……。」
滅茶苦茶に固くなった生クリームだが、まぁこれはこれでよかろう。カスタードも上出来。試食も上々。
さて、後はキョンに渡すだけ…………ん?いや待て。何故にキョンが?思考に大幅なノイズがあるようだ。誰かと話して気晴らしするか。

「給食の後にも食べると、肥りそうで怖いね。」
「佐々木さん、顔真っ赤よ?」
「コーヒーのカフェインのせいじゃない?カフェインって血管を拡張させるから。」

慌てて言い訳する私。……どうなっているんだ、全く。


結局、私はひとつだけ持ち帰る事にした。給食の時間になり、私はキョンと机をつける。
国木田くんに、中河といった連中も一緒だが。
「国木田、ひとつよこせよ。」
「嫌だよ。中河、自分で貰いなって。」
ルックス的に残念ながら当然なんだが、やはり国木田くんは貰えて中河、キョンは貰えなかった。
「やれやれ。」
キョンがゼスチャー付きで答える。
「余裕だな、お前……。佐々木から貰えたのか?」
「いや?佐々木から貰えるわけがなかろう。こいつはこう見えて甘いの大好きなんだぞ。」
そんなに欲しいものかね?中河も精神病に羅患してるみたいだね。
しかしキョンは相変わらず……よく私を理解していらっしゃる。
「まぁね。僕からキョンに渡すのは、まず僕が食べてからさ。」
「佐々木、それじゃ間接キスだ。」
中河が泣きそうな顔で言う。もぎって渡す発想がないの?この男は。
「くっくっ。よくジュースの回し飲みもやってるし、今更だよ。」
「だな。ただ、口つけては流石に飲めんが。」
「くっくっ。」
国木田くんが微笑み、中河が机に倒れる。……しかしまぁ。皆、よくこうした話題で飽きないな。
「ま……放課後もある。中河。まだ可能性はあるぜ。」
「下手な慰めはよせ、キョン。もうダメだ……おしまいだぁ!」
「全く……。中河、後でひとつ分けてあげるから。」
「国木田ぁ……」
美しい男の友情だね。私が幾つか持っていたら渡してあげるけど、勘違いしそうだよ。中河は。

放課後になり、キョンと共に塾に行く。
「佐々木、コンビニに行ってから塾に行かねぇか?」
「構わないよ。どうかしたのかい?」
キョンはバツが悪そうに笑った。
「……腹が減っちまってよ。」
「……全く。仕方無い奴だね、キミは。」
……これはチャンスかも知れないな。いや、何のだ。


勇気を振り絞れ。さぁ、早く。
「(人人人人人人……これくらい書けば落ち着くか?)」
私は前を見る。……キョンは既にコンビニにいた。

「待たせちまったな。」
「いや?」
コンビニから出てきたキョン。どうやらシュークリームを買ったようだ。
「国木田達が食ってるの見たら、やたら旨そうでな。」
「だから自分で調達かい?キミらしいね。」
パッケージを破るキョン。まぁ、人生こんなもんだ。キョンはシュークリームを食べると、パッケージをゴミ箱に捨てた。
塾の後、自宅に帰り、シュークリームを食べる。
「……しょっぱいなぁ。」
やたらしょっぱいシュークリーム。普通に作ったはずなんだけどね……。

翌日。私はシュークリームを作ってみた。
「人道的支援シュークリームだよ、中河。キョンも。」
「佐々木ぃ……ありがとう、ありがとう……」
中河が咽び泣く。……すまない、気持ち悪いよ。正直。
「うまいぜ、佐々木。コンビニなんかとは比較にならんな。」
「それは何より。お礼をしたいなら、次の日曜日に頼むよ。」
「ああ!何でも言え、佐々木!」
キミには言ってないんだが、中河。キョンは、やれやれとゼスチャーし、国木田くんに声をかける。
「国木田ぁ。中河と佐々木と次の日曜日に遊びに行こうぜ。」
「うん、わかった。」
あんなしょっぱいシュークリームは、一度でいい。
「楽しみにしておくよ。」
次は、キミと二人でね。

……あれ?

END

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最終更新:2013年03月31日 23:34
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