70-169『The time of the oath』3

「閉鎖空間は現れず。……どうやら、渡橋さんの説得が効いているみたいですね。」
機関の執務室で古泉が溜め息をつく。
「長門さんの力で、機関が彼の情報をジャミングされているのは痛いですね。まぁ、連絡をしたらいいだけですか。」
キョンにしても、他のSOS団の団員にしても、皆がハルヒを心底思っている。大切な絆として。
「……幸せな方です。本当に。」
ソファの上で、古泉が横になる。日頃の疲れもあり、大あくびをした後に目を閉じた。
いつしか眠った古泉に、森がそっと毛布をかける。

「……あんたが何考えているか、あたしは知ってるわよ。」

仮に、ハルヒが世界に愛想を尽かし、佐々木とキョンを消し去ろうとしたら。
この子は、文字通り命懸けでそれを止めようとするだろう。
例え、何を擲ってでも。

髪を鋤いてやる。古泉はくすぐったそうに目を閉じている。

「一蓮托生よ。……あんたが命を懸けるなら、あたしも賭けてあげるわ。」

その声は、古泉に届いたかどうかは分からない。古泉は規則正しく寝息を立て、眠るばかりだった。

同時刻。
佐々木は膝を抱えてベッドに座っていた。

怖い。

その思いだ。
未来を壊し、ハルヒの思いを否定し、消される。こんな理不尽あってたまるか。
その怒りも、次第に醒めていくに従い…一時の感情に流されていた自分に気付く。
しかし、それを否定する事も出来ない。ハルヒに対する不信感は、寧ろ増している。
あくまでもキョンを取るなら、それはそれでいい。ただ、こんなアンフェアな形など願い下げだ。
キョンは彼女の人形ではないし、自分も彼女の人形などではない。
こうした事も、彼女の『願望』かも知れないが。
「私は、私の思うやり方であなたに逆らう。」
自分に言い聞かせるように。もとから叶うなんて考えてなかった恋だ。
こうして数日とはいえ、思い出を作れたらそれでいい。
そう思っている、つもりだが……流れる涙がそれを否定した。

嫌だ。キョンの手を離したくない。
しかし自分に何が出来る?神に等しい存在に、手も足も出ずに消されるのがオチ。
どうせ同じく消されるなら、せめて一矢報いてやりたい。

佐々木は、完全にハルヒを信用出来ず、視野狭窄の状態に陥っていた。
奇しくもそれは。彼女が言った『正常な判断』の外にある。それにすら気付けない。
たった一言。少しだけ素直になればいい。しかし。それをするには、彼女はあまりに素直でなかったのだ。


リミットまであと二日――――

橘京子は、駆けずり回っていた。
『機関』の協力は仰げない。『未来』の協力など絶望的だろう。それでも。歩みだけは止めない。
佐々木と接触する可能性のある、そして佐々木を好ましく思わない人種。それは。

「お前なのですーっ!」
「いひゃあぁああ!!」

ふとましく育ったバストが憎いのか、腰を掴むはずがバストを握っていた。
「みくるに何をすんだい、この痴女!」
「みぎゃ!」
鶴屋に叩き伏せられ、橘は地面を舐めた。
みくるは橘に『後でお話は伺います』と言うと、そそくさと鶴屋の後をついて走る。
「……やれやれ。あまり手を煩わせないで欲しいものですねぇ。」
古泉は、橘を猫掴みすると車に乗せた。

「拷問と自白、どちらがお好みですか?」
「自白なのです。」
「それは重畳。」
運転席には、森。森は古泉にノートを渡す。古泉はノートに文字を書いていく。
『適当な受け答えを。機関により車は盗聴されていますので。
あと、僕達は味方です。但し、彼の味方ですが。』
汚い字だ、と思いながら、橘は古泉を見た。
「現在の組織の状況をお教え頂きましょうか。」
「黙秘権を使うのです。」
「石を抱きたいですか?」
『長門さんの独自行動により、我々も連携が取れるとは言い難い状態です。』
「抱くなら抱き枕がいいのです。」
『私は、佐々木さんをそそのかした黒幕を探しているのです。』
「森さん、ペンチと針と電極を。」
『そちら、御説明願えますか?』
「自白するのです。」
『はい。待っていてください。』

橘京子の自白。それは……
「組織が機関に最終決戦の自爆テロを行うのです!」
という(嘘と分かっていても)見過ごせるものでなかった。
それもたっぷりの嘘に若干のリアリティーを混ぜる手法。嘘だと前文に聞いていなければ、森ですら信じていたかも知れない。
『組織は消滅してるのです。なので、佐々木さんに接触した方がわかりません。私の情報を渡す代わりに、あなた達が知る情報を渡して貰いたいのです。』
「では、日時を。」
「2日後なのです。死にたくないなら、機関の守りを固めるのですね。」
『役者になれますよ、あなた。』
『女は皆、役者なのです。』
「わかりました。あなたを機関の名に於いて拘束します。」
森が手錠をカラ鳴らしする。
『機関、私の私室でなら、監視はありません。そこでゆっくり話をしましょう。』
橘は頷く。そして。一言だけ返答した。

「どんな苦難があっても、私は佐々木さんを守るのです。」

組織の一員としてなどではない。一人の友人、一人の仲間として。佐々木を守りたい。
そう、力強く。彼女は宣言した。

To Be Continued 『The time of the oath』4

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最終更新:2013年04月29日 13:34
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