22-512「佐々木さん、子猫の目の甘い日々2 何度も僕の名をよんで、の巻」

佐々木さん、子猫の目の甘い日々2
何度も僕の名をよんで、の巻

今日も今日とて、佐々木は猫耳でシャミの代わりに俺の部屋に鎮座ましましておられる。
これを常態としてしまってはいけない、ということで、ちょっと悪魔の囁きに屈してみた。
妹よ、シャミの爪がちょっと伸び気味なんだ。お前切ってくれるか?
「き、キョン、君という男は!」
「はーい、シャミおとなしくしててねー。つっめきり~、つっめきり~♪」
また新たな歌を創作する妹の音楽的才能についてはこの際キッパリ無視しよう。
問題は、妹の爪きりスキルは、拷問として最高ということだ。
「あ痛たたた……。い、妹ちゃん、おとなしくしてるから、そんなに深く爪きりを食い込ませないでほしいニャ。
 いくら家具を傷めるからといって、ネコにとって爪というのは必須のものニャのであって。あ痛っ」
「きょうのシャミはおとなしいねー」
はっはっは。お前がシャミと言い張るのなら、この拷問を甘んじて受けるがいい。
しかし高校生が、見た目幼稚園児+1程度の妹に両手をつかまれて爪きりをされるという光景も、
かなりレアなものだ。妹の目には本当に、佐々木がシャミに映っているのだろうか。
むしろ俺の方が精神病院か、長門に精神鑑定を受けた方がいいのかもしれん。

などと考えながら眺めていたのが良くなかったのだろうか。片手の爪を切り終わったところで、
猫耳佐々木は妹の手を振り切り、俺の本棚の上によじ登ってしまった。
まあうまくあの隙間に人が入るもんである。本来なら、人間の体重には耐えられるとも思えないので、
質量的には、あいつはシャミのままなのかもしれん。もう何でもアリだな。
「おーい、し、シャミ、降りてこいよ」
「シャミ~、まだ爪きり終わってないよー」
「……つーん」
とうとう妹が諦めて部屋を出て行くまで、猫耳佐々木はその場から動かなかった。
「おーい、悪かったよ。いい加減機嫌を直して降りてこないか」
「……人が痛がる様を見て喜ぶニャんて。君がその年で加虐趣味に侵されているとは知らニャかった。
 人生を踏み外す前に矯正することを強く勧めるよ」
おかんむりらしい。
「すまん。もう爪きりを妹にやらせたりしないから。本棚が壊れる前に降りてくれ」
「……それに、僕はシャミかもしれないけど、シャミじゃない。自分でも上手くはいえないけれど、
僕は僕なんだ。シャミと呼ばれると、それを否定されているようで、とても哀しい気持ちになるよ」
そんなこと言われてもお前。
大体、妹もいる所でお前を「佐々木」なんて呼んでみろ。早速家族会議召集だぞ。
あまつさえ、それがハルヒにでも知れてみろ。
「俺が自宅でシャミのことを『佐々木』と呼んで、何やらいかがわしい真似をしている」
なんてことにされてみろ。死人が出るぞ。主に古泉とか。

「それでも、今の僕を認識しているのは、君だけなんだ。シュレーディンガーの猫ではないけれど、
 君がそのことを否定ししまったら、僕は誰にも観測されない、それこそ不確定な存在でしかニャくにゃってしまう。
 この宇宙で寄る辺なき非存在に僕を貶めて、君は一切の良心のうずきを感じニャいのかい、キョン。
 この状態の僕は、君が僕を認めることによってのみ、存在を保証されるんだよ」
そこまで深く考えられるなら、そもそもこの状態を何とかしようとか思わないのかお前。
「……半分くらいは猫なのでそこまで難しいことは分からないニャあ」
きったねー!
まあ分かった。俺もいちいち猫耳佐々木と連呼するのも、なんか変な趣味に目覚めそうで願い下げだ。
けど、今の状態のお前を「佐々木」と呼ぶのは、それこそバレるとやばいし、
普段のお前とは違うから、やっぱり抵抗があるんだよ。
「それなら、今の僕を別の名前で呼ぶのはどうだい。いつもの僕と区別する意味でも、
 周りに変な誤解を与えないためにも。君が名づけてくれるのなら、それを今の僕の名前にしようじゃニャいか」
ササッキーとか。
「もうちょっと捻ってくれたまえ。第一、それだと「佐々木」と呼ぶのと大した違いはないよ」
そうだな。シャミに近い方が、万一他人に聞かれたときにも安全だし。
シャミ、佐々木、シャミ、佐々木……。
ササミ!
「……確かに嫌いではないけど、その非常食のようなネーミングはどうニャんだい」
これもダメか。いちいち注文の多いやつめ。山奥に不思議な料理店でも開きそうな勢いだぞ。
ふむ、やはりシャミに近い音に固執しないと、妹に聞かれたときにヤバいから……。
シャシャキ? いやいやいくらなんでもそれは。
「それがいいニャ」
へ?
「シャシャキがいい。そう呼ぶときの君のあどけない表情が、ニャんだか気に入った」
いやちょっと待ってくれ。これじゃ変だろう。というか呼ぶ方が恥ずかしいんだがこの名前。
「ちゃんとシャシャキと呼んでくれたまえ、キョン。そうでなければ降りるつもりはニャいからね。くっくっ」
勘弁してくれよ佐々木。
おい佐々木ってば。
「……つーん」
本気か、本気なのか。
……。
…。
「し、シャシャキ、降りてこいよ」
そう言った瞬間、あいつは音もなく床に着地した。本気で質量は猫らしい。床はきしみもしなかった。
「くっくっ、僕を呼んでくれたね、キョン」
ああ、まったく。そんなに満足げで、幸せそうな顔で微笑まれたら、何もいえなくなっちまうじゃないか。
これからはシャシャキと呼ばなきゃならんのか。
「もう一回呼んでくれたまえ、キョン」
いや、太ももに頬をこすり付けないでくれ。それはいくらなんでもまずいって。
そんなに嬉しそうに喉をならしてもダメなんだぞ、シャシャキ。
ああ、まったく。
やれやれ。
                             おしまい。
猫の目の日々シリーズ
http://www10.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/1293.html

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最終更新:2012年07月24日 00:22
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