8-245「夏の思い出」

夏の思い出

・・・暑い。マジで暑い。時間は夜の10時をまわったというのに、記録的な猛暑となった今日は、塾から歩いて帰っている俺と佐々木の体力を容赦なく奪っていた。
『暑い暑い言わないでほしいな。心頭滅却すれば火もまた涼し、要は気の持ちようだよ。』
汗ダラダラで、首にタオル巻いて、うちわを扇ぎながら歩いている状態で言っても、説得力ないぞ佐々木。
『くっくっ、それもそうだね。キョンに説教する格好をしていなかったね僕は。実際、この暑さは異常だよ。』
そうだろそうだろ。暑いもんは暑いんだ。もう1Mも歩きたくない。

そんな時、小学校が通り道に見えてきた。こんな日はプールとかに飛び込んだら、さぞ気持ちいいだろうな。
『それだよキョン!』おわっ、何だよ急に?佐々木が声を大にして叫んでいた。
『あの学校のプールに忍び込もうじゃないか。ここらへんは人通りも少ない。余程見つからない筈だ!このままでは僕らは熱中症で倒れてしまうよ。』
正直、いい提案だと思った。余程暑いのか、佐々木がこんなことを言うのも珍しいし、素直にその案に賛成し、プールへ向かった。ただこの時は、暑さで脳がやられていたのか、大事なことを忘れていたんだ。
・・俺、水着持ってないぞ、佐々木。
『迂闊だったね。当然僕も持ってない。
こんな、ほんの先の事が予測出来なかったなんて、僕も暑さで頭がやられてたとしか思えない。』
まあしょうがないな。せっかくプールサイドまで来たが、引き返すしかないだろ。・・
ガサガサ、バサッ
佐々木は全裸になっていた。そして頭からプールへ飛び込んでいった。その、なんだ、びっくりした。
『キョンも早くおいでよ、これは最高だ!』
なんか凄いことを言ってらっしゃる。
そりゃ辺りは真っ暗だが、健全な男子中学生には躊躇してしまうシチュエーションだ。欧米じゃないんだぞ欧米じゃ。
欧米が大胆な感じなのかは実際知らないが。ああ何考えてんだ俺?

ただ、気持ち良さそうに泳ぐ佐々木は、微かに月明かりを浴びて凄く綺麗に見えた。
気が付けば俺も飛び込んでいた。もちろん服は着てない。
子供の頃は風呂とか男女関係なく入ったりしただろ?あんな感じの気持ちになったんだ、本当に。
『キョン、僕は君とじゃなければこんな事は出来ないと思う。それは素晴らしいことじゃないと思わないか?』
そう言った佐々木は微笑み、反転してクロールで泳いで行ってしまった。
俺もそう思うよ佐々木。しかし本当に気持ちが良い。あんなに恨めしかった『暑さ』に、今は逆に感謝している。どこか神秘的な、聖域というか、そんな時間だった。

そんな夏の思い出だった。だから佐々木は「親友」で間違いないだろう。
まあ俺は、それ以上の気持ちもあるんだけどね。

END

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最終更新:2008年01月26日 20:11
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