445 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/01/01(火) 00:00:40
「水銀燈の入っていた鞄を持ってきなさい!」
「鞄?」
鞄といったら、あのやけに重厚な作りのトランクケースのことだよな。
いつも水銀燈が寝るときに使ってるやつ。
「でも、なんでアレを?」
「必要だからよ、当然でしょう。
口の前に手と足を動かしなさい!」
「はっ、はい!」
真紅はやたらと張り切っている。
どうやらくんくんからの激励は期待以上に効果があったらしい。
ともかく、今は逆らわないほうが良さそうだった。
「ええと、鞄、鞄と」
水銀燈の鞄は、土蔵の奥に安置してある。
入り口からは見えないが、すぐに取り出せない位置でもない、という絶好のポジション。
隠匿性と居住性を考慮して、俺があつらえた指定席だ。
いつもなら、これを動かすと水銀燈の機嫌を損なうのだが……今回は特別だ。
鞄を片手に持って、真紅の元へ取って返す。
「持ってきたぞ」
「次はその中を開いて頂戴」
「あ、開けるのか?」
持ってくるだけならともかく、勝手に中を見たりしたらえらい怒られそうだ。
つくづく水銀燈への服従心を植え付けられてることを自覚してしまう。
だが、真紅は俺の言葉を別な意味で受け取ったらしい。
「中に私たちが入っていない限り、中から鍵はかからないはずよ。
用事があるのは中身なんだから、開けなければ始まらないわ」
「あ、ああ……」
言葉の前半は勘違いだったが、後半は確かにその通りだ。
怒られるだの嫌われるだの、そんなのは水銀燈が目を覚ましてからの話。
今はそれ以前の問題なんだから、悩んだってしょうがない。
俺は意を決して、留め金を外した。
鞄のふたがゆっくりと持ち上がり、その中身があらわになる。
「開いたぞ……でも、この中身って……」
鞄の中は、赤い布が敷き詰められているが、ただそれだけだった。
特に何か、変わったところは無いと思うが……?
しかし、真紅は呆れたようにため息をつくと、鞄の隅の一点を指差した。
「何を言っているの。
そこにある、発条が見えていないの?」
「え?」
言われてみれば、鞄の中には唯一つ、赤い布に包まれるようにして発条が入っていた。
そうか、思い出した……これは、俺が初めて水銀燈と出会った時、水銀燈の背中に差した発条!
「真紅、水銀燈を目覚めさせる方法って、ひょっとして……!」
自分でも分かるくらい興奮している俺を見て、真紅ははっきりと頷いて見せた。
「その通り。
発条を巻くこと、それが人間とドールの間に結ばれる、目覚めの契約なのよ」
「そうだったのか……!」
目覚めの契約。
思えば、俺が家の前で鞄を拾ったとき。
その時に隙間から零れ落ちたアンケート用紙に書いてあった言葉こそ、目覚めの契約だったのか。
――まきますか、まきませんか。
あのあと、あの紙はいつの間にか無くなっていたけれど……あそこから、全ては始まったんだ。
俺はてっきり、最初に一度巻けばそれでいいものなんだと思っていた。
でも、今こうして、再び巻く必要があることを目の当たりにしている。
水銀燈が立てなくなったときは、何度でも巻いてあげなければならない。
それこそが、俺が結んだ契約なのだから。
「……よし。
待ってろ水銀燈、すぐに……!」
俺は、かすかに震える手で、鞄から発条を取り出すと……。
α:自分で巻く。
β:真紅に巻いてもらう。
γ:雛苺が仲間になりたそうにこちらを見ている!
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最終更新:2008年01月19日 22:54