345 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/01/05(土) 01:47:22
「いまさら……もう全部、手遅れよ。
私は……っ、お父様から頂いた身体を、穢してしまった……!」
「水銀燈……?」
驚いた。
水銀燈は、泣いていた。
相変わらず背中を向けているし、その表情は陰になっていてわからない。
けど、震える肩が、つっかえる言葉が、水銀燈の感情を代弁していた。
「アリスは……お父様が求めた究極の少女。
アリスになるためには、すべてにおいて完全でなければならない。
それなのに……それなのに……!」
水銀燈の左手が、右の肘だった場所をなぞる。
断面があらわになったままのそこは、人体のような生々しさがない分、余計に喪失感を際立たせる。
「なんて不恰好な身体……これじゃ、もうアリスになんてなれはしないわ……。
私は……不完全な、ジャンクになってしまった……!」
水銀燈は、泣き叫ばなかった。
ひたすら蹲り、肩を震わせるだけの、見ているほうが辛くなるような泣き方だった。
……そうか。
水銀燈は父親に……ローゼンに嫌われることを何よりも恐れていたのか。
完璧であることを自分に課していたのも、父親の願いであるアリスへと至るため。
傷ついたことよりも、それによってアリスへの道が閉ざされたことを悲しんでいるんだ。
いつも強気だったあの水銀燈が、今はとても弱弱しく見える。
そんな水銀燈に、俺はなんて言葉をかけてやればいいんだろう……。
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最終更新:2008年01月27日 21:29