745 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/01/19(土) 15:57:55
やっぱり水銀燈は連れて行こう。
こんな場所に一人で残っていたら、ただでさえ落ち込んでいる気分が余計に塞ぎこんでしまう。
……いや、土蔵の中が精神衛生に悪いっていう意味じゃないぞ?
それを言ったら毎日ここにこもってる俺って一体なんなのさ、って話になるし。
そうじゃなくて、腹が減ってはなんとやら、何か食べないと元気も出ないだろう。
ということで、俺は水銀燈を説き伏せにかかった。
「それじゃあ行こうか、水銀燈」
「……あのね士郎、さっきから貴方、人の話を聞いてないでしょう」
さあ、と手を差し伸べた俺に、控えめに見ても呆れ果てた目を向ける水銀燈。
流石に言い方が直球過ぎたか。
だが、人の話を聞いていないとは失礼な。
俺はただ、人の話に納得してないだけだ。
「そっちこそ聞いてなかったのか?
俺は、もう二度と水銀燈を放っておく気はない、って」
「そ、それとこれとは別でしょう?
とにかく、今は外に出たくないの。
士郎ならともかく……他の人間に、見られたくないじゃない、こんな姿」
「大丈夫、誰も笑ったりしないって。
それに、いつまでも隠したままでなんていられないだろ?」
「だから、せめて服をなんとかしてから、って言ってるでしょう!
こんなみっともない恰好で、どうして晒し者にならなきゃ……」
「ああもう、そんなことを気にするなって。
行くぞ、ほら」
「へっ?
あ、ちょ、きゃあっ!?」
埒が明かないので、渋る水銀燈をひょいと抱えあげる。
そして素早く土蔵の外へ。
さっき説き伏せるって言ったが……すまん、ありゃ嘘だった。
俺にはそんな高等技術はないので、腕尽くで引っ張り出すことにします。
「こら、士郎ぉ!
なにするの、おろしなさぁい、このお馬鹿さぁん!!」
「こら、暴れるな。
お前、今は飛べないんだから、落ちたらえらいことになるだろうが」
我に返った水銀燈が、俺の胸元をポカポカ殴ってくるが、無視して中庭を横断する。
こうなったらスピード勝負、さっさと水銀燈を居間に連れて行って……って。
「……こ、これは一体……?」
もはや恒例のことになりつつあるが、俺が居間に顔を出すと、そこには奇妙な光景が広がっていた。
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最終更新:2008年01月27日 21:35