522 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/04/14(月) 21:34:45
考えた末、俺は膝を折って蒔寺と目線を合わせると、静かに告げた。
「うん、初めに言っておくとね、俺は魔法使いなんだ」
「うわ、にいちゃんすごいな」
なんというか、蒔寺は俺の言葉を素直に信じた。
十年前の俺と全く同じリアクションで、なんだか嬉しくなってくる。
手ごたえを感じた俺は、次の言葉を続ける。
「それで突然だけど、他の人に引き取られるのと、見ず知らずの男の人に付いて行くの、どっちがいい?」
「……なにやってんだよ、衛宮」
「あ、慎二」
振り向くと、そこには立ったまま、呆れたようにこちらを見下ろしている慎二の姿。
雛苺の姿が見えないところからすると、どこかに隠してきたんだろうか?
慎二は、蒔寺と俺を交互に見た後、これ見よがしにため息をついた。
「あ、じゃないよ。
オマエさ、さっき僕が言ったこと、もう忘れたのか?
なんでいきなり自分の正体をバラしてるのさ」
うっ、そういえば……ついさっき、慎二に神秘の隠匿について言われたばっかりだったっけ。
しかし、俺がいきなりカミングアウトしたのは、偉大な先人の知恵という奴なのですよ?
「いや、これは俺の実体験に基づいた、極めて実用的な子どもとの接し方なんだけど」
「はっ、今どき、そんな誘い文句でついてくるようなガキなんて居ないよ。
居たら相当、頭が緩いガキだね」
鼻で笑う慎二。
……俺の中の何かが、深く静かに傷ついた。
「で、さっきから聞いてれば、なに?
この女、記憶喪失したってのかい?」
「いや、記憶喪失っていうよりは、むしろ……」
俺が私見を述べようとした瞬間、事態を更に加速させる闖入者が二人、弓道場にやってきた。
「衛宮、蒔の字。
ここにいるのか?」
「はぁ、蒔ちゃん、速いよ~……」
げっ!
どうやら、蒔寺の後を追ってきたらしい。
氷室と三枝さんの二人は、弓道場の中に入るなり、俺と慎二、そして蒔寺の姿を発見した。
「おや、間桐も居たのか。
弓道場にはもう来ていないものだと思っていたが」
「間桐くん、こんにちは……あれ、蒔ちゃん、どうしたの?」
床に座り込んだ姿勢のままでいる蒔寺を疑問に思ったらしい三枝さん。
そんな三枝さんに応えるように、蒔寺が振り向いて首をかしげた。
「え? おねえちゃんたち、だぁれ?」
「えっ……」
「…………」
予想外の蒔寺のリアクションに、思わず絶句する二人。
まあ、気持ちはわかる。
「……思った以上に気味が悪いね。
あまり直視したくない感じだ」
そして慎二、お前ちょっと率直過ぎ。
「あ、あの、蒔ちゃん……?」
三枝さんは、一体何が起こったのか把握できていないようだ。
蒔寺、俺、慎二の三人を順番に見比べて、おろおろしている。
そして、氷室はというと……。
「…………なるほど」
しばし熟考した後、おもむろに頷いて。
「これは夢か」
全力で現実逃避していました。
いや、俺もそうであればどんだけ精神衛生上楽になったか知れないが。
「氷室、あいにくコレは現実だから。
夢でも幻覚でも雛苺のフィールドでもないから」
「……そうか。
すまん、あまりのことに動揺が抑えきれなかったらしい」
俺が忠告すると、あっさりと動揺を認める氷室。
それでも表面的には冷静を取り繕うのが氷室の氷室たる所以だろう。
「で、衛宮。
これは一体どういうことなのだ?
なぜこうなったかも含めて、説明して欲しいのだが」
「おっと、待てよ氷室。
衛宮には僕が先に用がある。
蒔寺のことなんかどうでもいいから、ほっとけよ」
氷室が蒔寺を指しながら尋ねてくると、そこで慎二が突っかかってきた。
ああ、確かに、慎二に雛苺のことを説明するって言ってから、それっきりだっけ。
でも慎二、その言い方だと、氷室の不満を買うぞ?
「……ほう。
蒔の字のこの様子を見てどうでもいいと言い切るとは、大した男だな、間桐慎二は」
「どうでもいいことをどうでもいいって言って何が悪いのさ?
こっちの用件とそっちの用件、どっちが重要なのかは、衛宮だってよく承知してるだろ?」
「か、鐘ちゃん、間桐くん、やめなよぉ……」
お互いに、自分の知りたいことを知るために主張しあう慎二と氷室。
……こうしてみると、慎二と氷室は、知ってる情報がことごとく違うんだな。
慎二は、魔術と神秘がらみは知ってるけど、薔薇乙女《ローゼンメイデン》については知らない。
氷室は、薔薇乙女《ローゼンメイデン》には関わっているけど、魔術や神秘については知らない。
そして、一人だけ全ての事情の蚊帳の外に居る三枝さんと、一応両方に関わっている俺。
さて、この状態で、俺は一体なにを優先すればいいんだろうか?
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最終更新:2008年08月19日 03:48