720 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/04/30(水) 23:14:06


「……やはり、ヴェルデにはそれらしい店名はないな」

「そっか……」

 俺は今、氷室と二人でヴェルデの入り口に立っている。
 皆と相談した結果、俺は氷室と二人で行動することになった。
 蒔寺と雛苺は、三枝さんが面倒を見てもらっている。
 三枝さんには申し訳ないが、探索のネックになる二人を分散させるのは得策じゃない。
 蒔寺と雛苺を一人に任せて、その分をもう片方のチーム……この場合は俺と氷室が探索に力を入れる、という作戦だ。
 もちろん、俺たちのチームが、三枝さんの分を補うくらいの働きをするのが前提だ。

「俺もここには何度かきたけど、人形店なんて珍しいもん、一回も……」

「……見た記憶は無いな」

 俺の言葉を引き継いで、氷室もため息と共に頷いた。
 俺だけじゃなくて氷室も見たことが無いとなると、こりゃあ可能性は低そうだな。
 入ってきたばかりの自動ドアを再びくぐり、俺と氷室はヴェルデの外に出た。

「こうなると、ヴェルデの周りを足で探すしかないよなぁ……」

 百貨店であるヴェルデの周囲には、大通りと、そこに面した店舗が連なっている。
 その中には、ヴェルデではカバーしきれないような商品を扱う店も数多く存在する。
 もしかしたら、アンティークドールを扱う店もあるかもしれない。

「……」

「……」

 氷室と二人、隣り合って歩く。
 言葉にしてみればそれだけなのだが、今の俺はとても複雑な心境にあった。
 なにしろ……氷室と二人、隣り合って歩いているのだから。

 ――衛宮。私は、君のことが――

 氷室が、あの夕焼けの中で言ってくれたことを、覚えている。

「…………」

 ……俺は、氷室の告白に対して、まだなんの答えも返していない。
 何故?
 水銀燈を探すことを優先したから?
 ……違う。
 水銀燈を探す、という大義名分をかさにして、俺は答えることから逃げたのだ。
 そうであるならば、それは……。

「なんて、卑怯」

「……衛宮? 何か言ったか?」

「いや、なんでもない」

 氷室は、そうか、と言って、再び視線を戻した。
 今、隣で歩いている氷室は、何を考えているんだろう。
 今、氷室はどんな気持ちで、俺の隣を歩いているんだろう。

 あの時。
 氷室は、答えは次に会った時でいい、と言った。
 ならば……今が、そのときなんじゃないか?
 俺がそう考えていると、氷室が、おもむろに口を開いた。

「……何か、あったのか?」

「え?」

 自分の口から、意識せずに間抜けな声がこぼれた。
 氷室の口調は静かで、まるで水のようにサラリと流れてしまいそうで。
 それでも、脳を一瞬で停止させてしまうほどの力を秘めていた。

「なっ……なんでさ?」

「いや……まだ先日の懸念に、決着が付いていないのか、と思ってな。
 今、こうして行っていることも、その懸念の延長上にあるんじゃないか……そう、思ったのだ」

 先日の、懸念。
 氷室も……やっぱり、氷室もあのときのことを思い出していたのだ。
 そして、あのとき……俺が、水銀燈のことを考えていたことも。
 確かに、水銀燈を探した結果、怪我をした水銀燈を見つけたわけで……こうして服を探していることも、その延長線上にあると言える。
 そして……水銀燈を元通りに治すまで、この問題は終わらないだろう。

「前にも言っただろう。
 衛宮は二つのことを同時に考えられる人間じゃない。
 だから……」

 とても利己的な考えなのだが、と前置きしておいてから、氷室は、


α:「早く懸念に決着をつけて、その次に……私のことを考えてほしいな、と、思ってしまった」
β:「こうして腕を組んだりして、強引にでも気を引くしかないんだろうな」
γ:「だから……もういいんだ。今なら、まだ、諦められそう、だから」


投票結果


α:2
β:6
γ:1

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最終更新:2008年08月19日 03:50