107 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/09/21(日) 22:48:00
正気に戻ってください、書くべき場面は銀様が教会で士郎と式を挙げる場面です。
あれ?聖杯で一夫多妻制が認められる世界になったところまでだよね?
何を言ってる? 結婚式を挙げるのは銀様だけじゃなく氷室もだろう
OK把握した。
*****
教会の礼拝堂。
そこで今日、ある一つの儀式が行われようとしていた。
無関係な人からしてみれば、どうってことはないありふれた儀式かもしれない。
けれど、当事者にとっては何よりも特別な意味を持つ儀式。
そして、私は今日、その儀式の当事者の一人だった。
「新郎。貴方は、その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、
これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか、この駄犬」
「最後の一言がとっても不穏でしたが、誓います」
私の隣で、いくらか緊張ぎみに応える士郎。
普段着慣れない礼服に身を包んでいるためか、なんだか可笑しな姿だ。
神父の代役を務めている娘が、次に私のほうに言葉をかけてくる。
「では、新婦。貴方もまた、その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、
これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「……誓うわ」
はっきりと口にする。
言うのは恥ずかしかったけれど、その言葉だけは間違えるわけにはいかない。
神父代行は、私の返事を聞いて、ゆっくり厳かに頷いた。
「では、両者、誓いの口付けを」
どきん、と胸がひときわ高鳴った。
隣に目を移すと、士郎は自然な動作で、私の顔の高さに合わせて屈みこんできた。
「……水銀燈」
「……士郎」
互いに名前を呼び合う。
それだけで、後は言葉は不要だった。
目を閉じて、それを受け入れる。
軽く突き出した唇の先で、甘い感触がそっと触れた。
「神の名によって、あなた方が夫婦になったことを宣言いたします。
神が結び合わせてくださったものを、人は決して離してはならない」
目を閉じたまま、私はその言葉を聞いていた。
「……これで、俺と水銀燈は夫婦ってことになるな」
「ん……そう、ね」
士郎の言葉で、ようやく私は目蓋を開いた。
目の前には、私の最愛の人。
これまで、本当に色々なことがあったけれど。
今という時を迎えられて、本当に良かったと思う。
「さて、それじゃあ……」
「ええ、行きましょうか」
そして、私と士郎は、手を取り合って教会の外へ――
「おや、待ちたまえ銀の字。
まだ式は終わってはいないぞ」
――出ようとしたら、隣から待ったが掛けられた。
「え?」
驚いて振り向いてみると、そこには……。
「確かに君の式は滞りなく終了した。
だが、次は私が士郎と挙式する番だろう?」
純白のドレスに身を包んだ、氷室鐘の姿があった。
「え? え?」
「いやぁ、聖杯の力がとんでもないってことは分かってたけど……。
まさか、一夫多妻制が認められた世界に書き換えられるとはな」
「士郎が皆を幸せにしたい、と願った結果だろう?
皆が納得しているのだから、それでいいじゃないか。
もちろん、私も含めてな」
「え? え? え?」
感慨深く呟く士郎。
実感を込めて頷く鐘。
そして事態が飲み込めない私。
「……ああ、そうだな。
それじゃあ行こうか、氷室……じゃなかった、鐘」
「ああ。ふふふ、私との誓いのキスは、銀の字よりもロマンチックに頼むぞ?
二番手に甘んじてやったのだから、それくらいはいいだろう?」
「おいおい、無茶なこと言うなよ……」
そうして、二人は手をつないで。
今、私と士郎が歩いてきた道を、また戻っていく。
「……ええっと」
なんだかさっぱりちっとも理解できないけど、一つだけ分かったことがある。
どうやら、私の戦いは、まだまだこれからも続いていくみたいね……。
銀剣物語・完
ご愛読ありがとうございました!
112 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/09/21(日) 22:56:09
「……はっ!? 夢!?」
目が覚めると同時に、自分でも驚くくらいの素早さで、私は上体を起こした。
「あ、水銀燈、気がついた!?」
傍らでは、蒼星石が心配そうな目で見ている。
……ああ、そういえば亡命してきたんだっけ。
「ゆ、夢……なにかしら、内容は良く覚えてないけれど……」
なんだかとっても頭がいたい夢だったような……。
「大丈夫?
あんな倒れ方をしたから、心配してたんだけど……」
私の体を支えながら、蒼星石が言う。
なんだか随分と大げさな……って、あんな倒れ方?
疑問が私の頭を掠めたそのとき、もう一人、別の声が聞こえてきた。
「やっと起きたのね、水銀燈。
もうとっくに、お茶の時間は過ぎてしまっているわよ」
「……真紅?」
振り向くとそこには、机の前で行儀よく座りながら、両手で湯飲みを抱えている真紅の姿。
なんで真紅がここに……あ。
思い出した。
なんで私が眠っていたのか。
「し、真紅……!
よくも私にあんな真似を……!」
勢いよく立ち上がる私。
そうだ、こともあろうに真紅は、私をジャンクの山の中に叩き込んだのだ。
それで私は気を失って……ここで寝かされていたというわけね。
「あら、アレは完全な不可抗力なのだわ。
文句があるなら、いきなりやってきたあの人間に言うべきだわ」
「……真紅、あの男の人は、まだ土蔵の中に埋まってるけど?」
しれっと嘯く真紅に、蒼星石が半眼で突っ込みを入れる。
……どうやら、あの謎の乱入者はあのまま放置されているらしい。
ま、私も助けようとは思わないけど……でも、それはそれ。
「真紅……私はもう、アリスゲームに興味は無かったんだけどぉ。
貴女は個人的に、一度決着をつけないと……」
「――ただいま――」
そのとき、玄関のほうから、ひどく聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あら、どうやら士郎が帰ってきたみたいね」
「しっ、士郎が!?」
真紅の呟きに、盛大に反応してしまう私。
「……水銀燈、どうしたの?
なんか、すごく驚いてるけど」
「お、驚いてなんか無いわよぉ。
ただ、ちょっと心の準備が」
「心の準備?」
いや、自分でもなんの準備ができてないのかわからないけど。
なんとなく、さっきまで見ていた夢に影響されているような……。
「で、水銀燈。
さっきなにか言いかけていたようだけど……一体なんなのかしら?」
「くっ……!」
分かってていってるのか、それとも分かってないのか。
どっちにしても……真紅、なんて嫌な奴!!
「ふんっ!」
私は真紅に背を向けて、座り込んだ。
別に、士郎が帰ってきたから止めた訳じゃないわよ?
そう、単に……興が削がれた、それだけのことよ。
「……それにしても、随分向こうが賑やかだね?」
蒼星石が、玄関のほうを見やりつつ首をかしげる。
確かに……なんだか、士郎だけが帰ってきたにしてはうるさすぎるわね。
がやがや言ってる集団は、ほどなくして玄関から居間に向けて移動してきて、そして……。
「あれ? 水銀燈と……」
「ふむ。珍しい先客が二人いるようだな」
「え、え、ドールさんが、三人もいる!?」
「えー、あれ、ヒナちゃんのおともだちー?」
「あ、真紅に蒼星石も! こんにちはなのー!」
「あー? テメェ坊主、なんでこんなところにいやがるんだ?」
そして……私の予想をほんのちょっと上回るくらいの、大勢の人間が現れたのだった。
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最終更新:2008年10月25日 16:06