398 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/12/01(金) 00:22:42

「そう恐ろしい顔で問い詰められてもな。
 釣りをしに来た、とでも言えば納得してくれるのかね?」

 肩をすくめるアーチャー。

「あのね、学園で釣りって、アンタいつからナンパ師になったのよ。
 ランサーじゃあるまいし、アンタがそんなことする性質なもんですかっての」

「うまいことを言う。少なくとも、あの槍兵と同列に見て欲しくないのは確かだな」

 酷い言われようだな、ランサー。

「さっさと本題に入りなさい。
 まどろっこしいのは場合によりけりよ」

「もちろんだ。
 私とて暇ではない、用件は手早く済ませるとしようか」

 嘘つけ、お前が外で働いてる姿なんて見た事がないぞ。
 俺が心中でそう突っ込んでいると、アーチャーは視線だけこちらに寄越して見せた。

「と言っても、用件と言うほどのことでもない。
 付け加えて言うならば……これは君にではなく、そちらの小僧に対する用件でな」

「え? 俺?」

 半ば、遠坂とアーチャーの会話を聞いている気になっていた俺は、急に話を振られてつい間の抜けた声を上げてしまった。
 そんな俺にはお構いなしに、ヤツはまるで文書を読み上げるように簡潔に言った。

「忠告だ、夜の新都には近づくな」

「は?」

 そのあまりにも簡潔な言葉に、再び間の抜けた声の俺。

「なんだそれ、まさかまたお前が待ち構えてるって言うのか?」

「馬鹿を言うな。管理者である凛がこうしてここにいる以上、代役に過ぎん私が新都を監視している道理がどこにある?」

「む、じゃあ一体なんなんだよ、夜の新都って。
 言っとくけどな、俺はお前と違って暇じゃないんだから、頼まれでもしない限り、好きこのんで夜中に新都になんか行くわけが――」

「新都に薔薇乙女《ローゼンメイデン》が潜んでいる、と聞いてもか?」

「な……」

 なんだって??
 アーチャーの放った一言で、三度動転する。
 薔薇乙女《ローゼンメイデン》が、新都に……?

「場所の特定は出来なかったが、まず間違いないだろう。
 人工精霊のお墨付きだ」

 アーチャーが淡々と述べるが、正直、話が端的過ぎて理解が追いつかない。
 分かりやすいところから整理していこう。

「悪い、一つずつ確認させてもらう。
 アーチャー、お前も薔薇乙女《ローゼンメイデン》と契約してるんだな?」

「ああ。今の私は薔薇乙女《ローゼンメイデン》第五ドール、そのミーディアムだ」

 あっさりとアーチャーは白状した。
 もし俺が一対一で問い詰めても、こんなに正直に答えてくれたとは思えない。
 そう考えると、遠坂がこの場に居てくれて助かった。

 だが、このとき俺の頭に一つの疑問が。

「ちょっと待て。サーヴァントがドールと契約って、出来るのか?」

「別に、サーヴァントがマスターとの契約以外に契約を結べないって理屈は無いわ。
 現に、キャスターなんてマスターと契約すると同時にアサシンとも契約してるじゃない」

「あ、成程……」

 横から入った遠坂の解説に思わず納得する。
 サーヴァントによるサーヴァントの使役。
 あれはキャスターの膨大な魔力量が可能にした芸当だ。
 結果としてイレギュラーなサーヴァントが召還されたわけだが、契約自体に問題が生じているわけではない。
 今回のアーチャーの件も、規模こそ違えど同じような理屈なのだろう。

399 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/12/01(金) 00:24:16


「それで、私からも一応確認しとくけど。
 サーヴァントとしての私との契約と、ミーディアムとしてのそっちの契約。
 優先順位はどうなってるの?」

「心配かね? いや、安心するといい。私を現世に繋ぎとめているのは君だからな。
 その点に関しては、天秤にかけるまでもあるまいよ」

 アーチャーは遠坂からの魔力供給で現世に留まっている。
 そして、ドールはアーチャーのから魔力を借りているはず。
 つまり、全ての供給の大本は遠坂であり、優先順位は当然そちらが上、ということか。

「尤も、もう片方の契約をないがしろにするつもりもさらさら無いが。
 よほどの理由が無い限り、そちらの都合で契約を破棄しろ、といった命令を受けるつもりは無い」

「……へえ。随分とそのドールに入れ込んでいるみたいじゃない」

 意地の悪い笑み。さっきのランサー云々は撤回するべきかしらね、とでも言わんばかりだ。
 だが、対するアーチャーのほうも、同じように意地の悪い笑み。

「なに、相手が自分の淹れた紅茶を真摯に味わってくれる、というのは中々に楽しいものだ。
 今まではまともな感想の一つも受けた事がなかったものだからね」

「むっ……」

 思わぬ反撃だったのか、言葉に詰まる遠坂。
 傍から聞いていると、まるで今までは報われない仕事をしてきたような言いようだった。
 いや、案外事実かもしれないけど。

「まあいいわ。
 とにかく、有事には、戦力として計算に入れていいってことよね。
 私はそれで充分よ」

 無理矢理話を切り上げた。
 本題を進めるためか、それとも上手い切り返しが咄嗟に出てこなかったのか。
 仕方ないので、俺が話の筋を戻して再び質問する。

「で、お前たちはその薔薇乙女《ローゼンメイデン》と戦ったのか」

「ああ。相手ははっきりと好戦的だ。
 ドールが眠りに着いた後でのこのこ出て行っては殺されかねん」

 この野郎、内容は真剣でも口調はやけに楽しそうじゃねえか。
 そんな表情じゃ、口には出さなくても『私はともかくお前では』って言いたいだろうことがバレバレだぞ。

「ちょっと待ちなさい。
 ドールが眠った後ってことは、相手のドールも眠ってるはずでしょう?」

 遠坂の指摘に、はっとなった。
 確かに、ドールは夜の九時にはトランクの中で眠りにつく。
 これは水銀燈も、雛苺も同様だったので、てっきり薔薇乙女《ローゼンメイデン》共通のルールなのか、と思っていたのだが……?

「いや。遭遇したのは二回……nのフィールドで一回、現実世界で一回だ。
 その内の一回は、夜の十二時を回っていた」

「ふうん。つまり、ドールが眠りについた後、アンタが一人で相手と遭遇したってこと?」

「ああ。現時点で、相手について分かっている特徴は二つ。
 夜中でも行動可能だということ。
 そして、単独行動が可能だということだ」

「単独行動……?」

「nのフィールドでも、現実世界でも、遭遇したのはドールだけだった。
 そのミーディアムは確認できていない」

 ミーディアムなしで力を行使できるドール……?
 そんなドールが居るなんてとても信じられない。
 ……ん? なにか忘れているような。

400 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/12/01(金) 00:25:31


「私が教えるのはここまでだ。
 後はどうとでも好きにするがいい」

 話は終わりだ、と言いたそうに目を伏せる。
 遠坂も、何か考え事があるのか、口元に手を当てて黙っている。
 ……だが、俺にはまだどうしてもしっくり来ない。

「しかし、何でお前がそんなことを教えに来てるんだ?
 特に、俺に教えに来るって理由がわからないんだけど」

「無論、お前がどこでのたれ死のうと私は一向に構わんさ。
 だが、これは私のドールの意向でね」

「ドールの、意向?」

 アーチャーのドールが、なんでこっちを案じてるんだ?

「無用な戦いは望まないそうだ。
 ……ああ、忘れていた。そちらのドールへの伝言を預かっている。
 『私は私の方法でアリスを目指す』、だそうだ」

 私は私の方法で。
 それはつまりアリスゲームの否定、ということだろうか。
 もし、そうだとするならば。
 いまだ見も知らぬその薔薇乙女《ローゼンメイデン》を、俺は少し好きになれそうな気がした。

「今度こそ、もう何も言うことはないな。
 私はもう行くぞ。お前も無駄な死に方をしたくなければ、せいぜい気をつけることだ」

 アーチャーはそう言い残すと、霊体化して消えようとする。
 と、その直前に、最後に尋ねるべきことを思いついた。

「そうだ、一つだけ聞き忘れてた。
 お前、そのドールを見たんだろ?
 一体どんな外見だったんだ?」

 消え行くアーチャーは、そのまま振り返りもしないで、その問いかけに答えた。

「――左目に薔薇の眼帯をつけたドールだ」


α:放課後、俺は柳洞寺へとやってきた。
β:――Interlude side 1st Doll
γ:――Interlude side 5th Doll
δ:――Interlude side Irregular number

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最終更新:2006年12月01日 21:52