488 名前: 371 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/08/10(木) 21:25:46
土蔵の中に嵐が生まれる。
黒い嵐の中心から、冷たい空気を切り裂いて飛来する羽根、羽根、羽根――!
「な、あっ!?」
咄嗟に、横に転がって回避する。
……だが、遅い。
元々後ろ手に尻餅をついたような姿勢からの回避だ。
その程度で避けられるほど、黒い弾幕は手緩くなかった。
「あ、づ……っ!」
容赦なく俺の腕に突き刺さる黒羽。
腕から伝わる、痺れるような激痛。
「無様ねぇ。もっと上手に避けなさぁい。……ま、避けさせるつもりはないけどぉ」
嵐の中心にいるのだろう人形が、加虐を楽しんでいる声でそう告げた。
その声が。その痛みが。
俺の頭をひどくクリアにした。
状況はどうだ?
どうしてこんなことになった?
玄関でトランクを見つけて。
紙に意味不明な文章が書かれてて。
トランクの鍵が勝手に外れて。
その中に人形が入ってて。
それが全く見事な美しさで。
挙句、発条を巻いたら攻撃してきた。
ああ、全く持って訳が判らない。
……だからこそ、『立ち向かえる』。
なぜなら。
訳の判らない危機なんて、当の昔に慣れている……!!
「やるしか、ない!」
撃鉄を下ろす。
ガツン、という衝撃とともに、魔術回路が起動した。
間髪入れずに、起きたばかりの回路の中にあるだけの魔力を叩き込む。
投影する武装を検索する暇すら惜しい、真っ先に頭に浮かんだ設計図をもぎり取る!
「投影《トレース》――――」
創造の理念を鑑定し、
基本となる骨子を想定し、
構成された材質を複製し、
製作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、
蓄積された年月を再現する――!
「開始《オン》――!!」
結実する。
造り上げたのは、大きな花弁のような『盾』――『熾天覆う七つの円環《ロー・アイアス》』。
だが、それは偽物。
間違いだらけの、穴だらけの、欠陥だらけの出来損ない。
八節は十分に練ることが出来なかったし、注ぎ込む魔力も不十分だ。
現に、七つあるはずの花弁はたった一片しか再現できていない。
それでも。
俺はこの『盾』が、人形の羽根を防げないなどとは微塵も疑わなかった。
「な……!?」
人形の絶句する気配が伝わってくる。
俺の投影した『熾天覆う七つの円環《ロー・アイアス》』は、
殺到する幾多の黒羽を、完全に遮断していた。
さあ、これでようやく……。
α:話し合いが出来そうだ。
β:まともな戦いになりそうだ。
γ:とりあえず謝っておこう。
投票結果
最終更新:2006年09月05日 16:45