875 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/08/16(水) 13:40:26


「よっ」

 土蔵の重い扉を足で蹴り開け、肩で押しながら中に入る。
 かなり無作法な侵入方法だが、両手は塞がっているので容赦していただきたい。

「遅いわ、士郎」

 扉を閉めるなり、天井のほうから声が降ってくる。
 続いて舞い落ちてくる黒羽。
 ガラクタの山から翼を羽ばたかせながら、水銀燈は降りてきた。
 そしてそのまま壁際に寝かせてあった梯子の上にちょこんと座る。

「レディを待たせるなんて最低ね。下僕としての自覚が足りないわぁ」

「そうは言うけどさ、最近はここに通うのも怪しまれてるんだぞ、俺」

「いいからさっさと支度をしなさぁい」

 スルーかよ。
 俺の抗弁はあっさり流されて、水銀燈の視線は既に俺の手元に向けられている。
 視線が向けられているその先には、俺の持つ盆に乗せられた品の数々。
 白飯、味噌汁、焼き魚、煮物、漬物。
 他でもない、先ほど俺も食べていた衛宮家の朝食である。
 当然水銀燈の為にボリュームは1/5程度だ。

「わかったわかった。どうぞ、召し上がれ」

「ええ、いただくわぁ」

 俺が古びた丸机の上に盆を置くと、早速器用に箸を取る水銀燈。
 ……しかし改めてみると水銀燈と和食って激しく違和感があるなぁ。

 このアンティーク人形が箸を握るという奇妙な光景、
 これが生み出されるきっかけとなったのは、俺がふと尋ねた一言だった。

「水銀燈って、食事とか必要なのか?」

 三日前、夕食の支度をしに行く時に尋ねた質問。
 俺のその問いに、水銀燈は少し考えてからこう答えた。

「……無いとは言わないわぁ。
 ドールの中には紅茶を好きこのんで飲むようなお馬鹿さんもいたし」

 水銀燈が食事できることを知った俺は、
 その日の夜、すぐさま水銀燈用の食器をあつらえた。
 水銀燈の大きさを考慮して、通常の子供サイズよりも心持ち小さめに。
 箸、茶碗、ナイフ、フォーク、カップにグラス、大皿小皿シチュー皿。
 ちなみに、言うまでもなくぜーんぶ投影によるバッタもんである。
 剣しか作れない俺が食器など作れるのか、という疑問もあるだろうが、
 やってみると案外何とかなるもんだった。

 ……認めたくはないが、アイツも釣具とか自作してたなぁ。

 もっとも俺の投影食器は外面だけの紛い物だが、
 それでも普通に食器として使うだけなら十分だし、
 いざという時の証拠隠滅にも便利だ。

 で、次の日の朝に、さっそく朝食を携えて土蔵訪問。
 ちなみにこの朝食は食卓に並ぶ前に取り分けておいたものだ。
 さもないと食事後には残っている確証がない。

 土蔵へ向かう時も、誰かに見られないように時間とタイミングを計って向かう。
 もちろん、堂々とお盆を抱えて行くわけにもいかないので、
 カモフラージュとして土蔵の前まではダンボールに偽装して持っていくことにした。
 ……そこまで苦労して持っていった挙句、
 水銀燈に冷たい視線で迎撃された時は流石に挫けそうになったが。

「人形に食事させるために、本気で持って来たの? お馬鹿さぁん」

 だが、そう言っていた水銀燈も、その日の昼からは
 なにかとぶつくさ言いながらも食事に手を付けてくれるようになった。
 なんだかんだ言っても根は素直なのかもしれない。

 ところで、俺としては、水銀燈だけ一人で食事させるのは心苦しい。
 出来ればかつてのセイバーのように、みんなと一緒に食事してもらえればいいのだが。
 しかし、みんなと一緒となるとどうしても藤ねえの目に触れるわけで。
 するとどうなるか。どうみても神秘です。本当にありがとうございました。
 なのでやむを得ず、こうして土蔵の中で食事してもらっている。

「……ところで、士郎」

 朝食を半分ほど食べたところで、一旦箸を置いた水銀燈は俺のほうを見てこう尋ねた。


α:「この家に古い鏡はあるのかしら」
β:「この土蔵の散らかりようはどうにかならないのかしら」
γ:「あなた、昨晩この土蔵でなにをしていたのかしら」

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最終更新:2006年09月03日 18:19