698 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/19(土) 18:29:39

「それは貴女が一人ぼっちだから」

「一人ぼっち……?」

 予期せぬ指摘に、眉をひそめる水銀燈。
 そして、あれほど罵倒されたと言うのに、真紅の瞳には水銀燈に対する怒りは感じられない。

「他人と触れ合う事がなければ、傷つけあうこともないのだわ。
 痛みを理解しようとしない貴女は、だからずっと一人ぼっちなのよ」

「ふん、何を言い出すのかと思えば……くだらなぁい。
 私は貴女なんかとは違って、他の誰かの助けなんか借りなくても戦えるもの。
 他人と触れ合うなんて、必要ないじゃなぁい」

「誰の力も借りず、自分一人の力で生きる。
 ……それが本当に、お父様の望みだと?」

「当然よぉ。
 私たちは、そのお父様の願いを叶えるために、今までの時間を過ごしてきたのだから」

 鼻で笑い飛ばす水銀燈。
 すい、と人差し指を真紅に突きつけ、見下した目で更に言い募る。

「そもそも、究極の少女、アリスに至る事が出来るドールはたった一人。
 なら、薔薇乙女《ローゼンメイデン》たるもの、一人で戦い、勝ち残るべきなのよぉ。
 それが出来ない貴女は、やっぱり三流ってことよねぇ……みっともなぁい」

「そう?
 ならば……あなたの後ろに立っている人間は一体なんなのかしら?」

「え……?」

 弾かれたように、後ろに立っている人間……つまり俺に目を向ける水銀燈。

「確かに貴女の言う通り、究極の少女アリスはたった一人しか選ばれない特別な存在なのだわ。
 でも、私たちが孤独である事がお父様のご意思であるならば、なぜ私たちは、ミーディアムを必要とするの?

「……私は貴女とは違う。
 ミーディアム無しでも、貴方達、他のドールよりも優れているわ」

 再び真紅に向き直り、呻くように言葉を搾り出す水銀燈。
 だが、そこにはさっきまでの高圧的な勢いは無い。
 そんな水銀燈を、さらに問い詰めていく真紅。

「では、なぜ契約したの?
 アリスゲームにミーディアムが必要ないなら、契約したのはアリスゲームとは関係ない、別の理由があったということよね?」

「り……理由なんか、無いわ。
 士郎と契約したのは、ほんの気まぐれよぉ。
 残念ねぇ真紅、貴女の言ってること、てんで見当違い。ほんと、くだらなぁい」

「人工精霊がミーディアムに相応しい人間を選定する理由を、考えた事がないの?
 契約したことは気まぐれだったとしても、出会ったことには意味があるのよ。
 ……私がこの時代で、アーチャーと出会ったように」

 一瞬、真紅の目がアーチャーに向けられる。
 だがアーチャーは、まるでその視線に気付いていないかのように――気付いていないはずが無いのだが――何も答えず、動じない。

「他人と触れ合い、痛みを知るというのはそういうこと。
 それが分からないようでは……究極の少女とは言えないのだわ」

「っ……いちいち屁理屈を……!!」

 真紅の言い聞かせるような言葉に、反発して苛立つ水銀燈。

 俺は――。


α:真紅の言うとおり、ドールが孤独だというのは間違いだと思う。
β:水銀燈の言うとおり、真紅の言うことは詭弁だと思う。

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最終更新:2007年05月19日 23:54