740 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/20(日) 16:13:36
吹き荒れる黒羽の嵐は、ますますその勢いを増していく。
まるで、水銀燈の怒りを反映しているようだ。
このままじゃ、死ぬ、か……?
「すい、ぎんとう……っ!!」
必死に呼びかけてみても、拘束は一向に緩む気配は無い。
やっぱり、水銀燈は、本気で俺を殺しにかかっている……!
「士郎、貴方のいい子ぶった考え方には、もううんざりなのよ……!
私を侮辱した罪、そしてお父様の意思を侮辱した罪!!
今ここで、死んで償いなさぁい!!」
「は、ぐあ……っ!」
憎悪の篭った瞳で、俺を睨みつける水銀燈。
全身を締め付けられた俺は、もはや声を出すことすら禁じられた。
(く、空気が、足りない……!!)
酸素の不足した脳が悲鳴をあげている。
死ぬ。
冗談でも誇張でもなく、俺はこの場で水銀燈に殺される。
(俺は……死ぬ?)
意外なことに、俺はひたひたと近寄ってくる死を、冷静に受け入れていた。
窒息寸前の頭では、死に対する恐怖が麻痺してしまったのだろうか?
その代わりに、俺が考えていたのは、目の前に居る小さな少女のことだった。
(……水銀燈……)
自分を殺そうとしている相手の心配をするなんて、とことん俺は馬鹿だ。
でも、仕方ない。
俺は衛宮士郎だからな、歪なことにかけては筋金入りだ。
何しろ死ぬまで治らなかったんだもんな、アーチャー。
……あぁ、そういえば、あの時アーチャーに言われた事があったっけ。
(俺が戦うのは、他の誰かじゃない……本当に戦うべきなのは)
そうだ、せめて、あの言葉を水銀燈に……。
「う、が……」
ガツン、と、頭の中で激鉄を起こす。
輪転し始める魔力回路。
かき集めた魔力を、全て俺の喉の防護に使う。
魔術とはとても呼べない、ただの魔力の寄せ集め。
こんなんじゃ、ただの一時しのぎにしかならないのはわかってる。
でも、最後に、あれだけは言わないと。
そのために、少しだけでいい、俺に時間を与えてくれ……!
「す、い、ぎ、ん、と、う」
「……っ!
まだ、戯言を言うつもり!?」
水銀燈の翼が一際大きく羽ばたくと、それに反応して俺の身体を縛る羽根も力を増す。
喉の魔力が急激に消耗していく。
だが、まだだ。
「ほん、とうに……かた、な、きゃ、いけない、のは……っ」
「くっ、見苦しいわよ……とっとと逝きなさい!」
更に引き絞られる。
喉を守る魔力が、一気に尽きた。
再び黒い羽根が俺の首を締め付ける。
あと一言でいい。
肺の空気を搾りつくして、気管を全てねじ切って、舌がカラカラに枯れても構わない。
言え。
言うんだ。
あと、一言――!!
「じぶん……じしん……なん…………」
それが限界だった。
全身の力が抜けていく。
もう俺は、声を出すことも出来ない。
これで、終わりか。
なんだか、凄く些細なことに、最後の力を使ってしまった気がするが……まあ、満足だ。
……でも、水銀燈。
俺を殺して、姉妹を殺して、誰も居ない自分だけの世界の果てで。
お前は、自分が一番優れていると、満足して笑えるのか?
今まで歩いてきた道が、間違いなんかじゃなかったって、胸を張って言えるのか?
それだけが……俺は……心配だよ…………。
俺の意識は、そこで途絶えた。
α:気がついた時、俺はまだnのフィールドの中にいた。
β:気がついた時、俺は遠坂の館のベッドの上にいた。
γ:気がついた時、俺は自分の部屋の蒲団の上にいた。
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最終更新:2007年05月20日 19:01