852 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/22(火) 23:32:42

 俺が目覚めてから、およそ二時間後。
 真紅とのお茶会を終えた俺は、正午前に遠坂邸を後にしていた。
 意外なことに、nのフィールドで過ごした時間はほんの数十分だけだったらしい。
 たったそれだけの時間で、俺は真紅と出会い、薔薇水晶と名乗るドールと遭遇して、そして……水銀燈と決別したんだ。

「それじゃあ、真紅。
 色々教えてくれて、ありがとうな」

 玄関まで見送りに来てくれた真紅に、一応ちゃんとした礼を言っておく。
 アーチャーは居ない……あいつが見送りに来てくれることなど、最初から期待してなんかいなかったけどな。

「いいえ。
 ……士郎、最後に一つだけ、お願いをしていいかしら」

 真紅は別れ際に、俺の顔を見上げてこう言った。

「あの子を……水銀燈を助けてあげて。
 それは私にはもう出来ないこと……士郎にしか、頼めないことなのだわ」

「ああ、大丈夫だ。
 やれるだけは、やってみる」

 そう答えて、踵を返す。
 さて、今から帰れば、昼食前には家に戻る事が出来るだろう。
 そんなことを考えながら、俺は遠坂邸の敷地を出た。


『銀剣物語 第六話 どうしようもない僕に天使が降りてきた』



 帰り道を一人で歩く。
 行くときは二人で駆けていった道を、俺一人で辿っていると、なにか物足りないような気持ちになってしまうのは仕方のないことなんだろうか。
 二時間かそこらしか経っていないはずなのに、なんだかもう何十時間も前の出来事だったように錯覚してしまう。

 途中で交差点に差し掛かった俺は、ふと、思うところがあって立ち止まった。
 この道をまっすぐに進めば、商店街を抜けて俺の家まで突っ切る、一番近いルート。
 そして、ここを曲がれば、今朝、水銀燈を連れて走った新都寄りのルートだ。

「……人目を気にする必要も、もう無いからなあ」

 水銀燈はもう居ない。
 だから、帰り道にまで遠回りをする理由はどこにも無いのだが。
 俺は――


α:まっすぐに進み、商店街へ向かった。
β:交差点を曲がって、川沿いの公園を歩いた。
γ:気まぐれに、土曜日の学校に足を向けた。

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最終更新:2007年05月23日 01:44