771 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/08/30(水) 00:57:44


 居間の中はまるで台風が通過したかのような惨状だった。
 転がった湯飲み、ひっくり返ったお盆、突き破られた障子の紙。
 ああ……障子、張り替えたばっかりだったのに。

 そんな居間の中に、肩を怒らせて立つ人物が一人。
 その柳眉はつりあがり、その拳は怒りに震えている。
 ……恐ろしい。
 通過したなど、とんだ勘違いだ。
 台風は、未だこの空間に君臨していたのだ。

「イリヤスフィール、貴女という人は……!」

 凪ぐ風も無いはずの居間の中、セイバーは眼前の敵を睨みつけていた。
 その視線の先には、まるでそこだけ台風の目であるかのように、涼しい顔で座っているイリヤの姿があった。

「私は言ったはずです……凛との用事があるため出掛けるが、私の分も取っておいてほしい、と!
 それに貴女はわかったと言った! 言ったはずです! 言いましたよね!?」

 言葉尻を徐々に荒げながら、イリヤを糾弾するセイバー。
 ……ああ。
 なんとなく、喧嘩の理由がわかっちゃったかなー、俺。

「セ、セイバーさん、落ち着いて……!」

「ひぃぃ……や、山の神様のお怒りじゃー!」

 向こう側に目をやれば、隅っこで寄り添って震えている桜と藤ねえ、
 そしてちゃっかり自分と桜の分の湯飲みだけ避難させているライダーの姿もある。
 遠坂の姿が見えないが……あいつだけ部屋にいるのだろうか?

「だというのに……なぜ……」

 そんな外野はお構いなしに、セイバーはとうとう怒りを爆発させた。

「何故! この『かもめの卵』が食べ尽されているのですか!!」

 がぁー、と吼える剣の英霊。
 怒りの炎を背負ったその様は正に燃えよドラゴン。
 手には空になった菓子詰めの箱。
 表面には達者な字で『銘菓・かもめの卵』と書かれている。
 ふ、ふふ、自分の読みの的確さにちょっと涙が出そうだぜ……!

「あわわわわ、わ、わたしは悪くないわよぅ!
 なんとなく小腹が空いたからなんかないかなーって探してたら、
 イリヤちゃんが『良かったらこれ食べない?』って差し出してくるんだもの!」

「えっと、藤村先生、言わなくてもいいことを言って自爆してますよ?」

「そもそもセイバーの矛先は最初からイリヤスフィールに向けられているようですが」

 奥のほうでは三人がなにやら叫んでいるが、セイバーは聞く耳持たないらしい。

「今からでも遅くは無い。その最後の一つ、こちらに渡してもらおう……!」

「…………」

 対するイリヤは臆した様子も無く、怒り心頭のセイバーと、自分の手元にある全ての元凶――銘菓・かもめの卵の最後の一個を交互に見比べた。
 そして……。

 ぱくり。

「あぁーっ!?」

 セイバーの見ている目の前で、その最後の一個を躊躇無く一口でほうばる!
 ほっぺを大きく膨らませながら、そのまま一回、二回ともぐもぐする。

「あ、あ、あ……!!」

 それとシンクロするように、セイバーが大きく頭を揺らしながら悲鳴を上げる。
 そして最後にごっくん、と飲み込むと、イリヤはふう、と一息ついた。

「あー、おいしかった! 初めて食べたけど、甘くって美味しかったわ。
 でもちょっとお茶がほしくなっちゃったかな」

「い、い、い、イリヤスフィールぅぅぅ!!」

「なに、セイバー? 大声で怒鳴りつけるなんて、レディとしてはしたないわよ?」

 もはや待ったなし。
 子ども相手でも容赦せん、というオーラを放つセイバー。
 それを全て承知の上で余裕の笑みを浮かべるイリヤ。
 さらに、外では氷室が待っているし。
 一体どうすればいいんだ……!?


α:氷室とともに俺の部屋に避難しよう!
β:まず居間の収拾をつけなければ!

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最終更新:2006年09月03日 18:41