大学構内のリアルバトルセンター、そこに俺はいる。
ここはバーチャルバトルセンターと違い普段から人数が少ない。それは今日とて例外では無いが、そんな場所に俺と君島とオマケはいるのだ。
何故こんなところに居るのかと言うと、研究室でカレーを食ってたところに君島が表れ、俺にバトルを申し込んだからだ。断る理由も特に無く―――裕也先輩が君島に負けたというところにも興味があった―――俺は君島とバトルをする為にここに来たという訳だ。最も、君島がリアルバトルを申し込んで来たことに一抹の疑問を抱いたが。
君島はお喋りなキャラじゃないのは見て取れる。だから俺達は口数も少なく神姫の準備をしている。この中で一番喋ってたのがアリカというのはどうでもいい話だ。
ナルに戦闘用装備を装着し、各種作動テストを行った後にバトルスペースの待機場所へと送り込む。あちら側を見れば、アリスの準備は既に終わっているようだ。純白のストラーフの姿が見て取れる。
後は互いの確認の元、バトル開始の手続きを取るだけ。君島の様子は初めて見た時と変わらない、気弱そうな危なっかしい印象のままだ。
「……よし、と。ナル、準備は良いか?」
既に装備のチェックもボディのチェックも終わっているが、気持の問題で話しかける。
「はい、問題ありません」
「OK,怪我しないよう、頑張ってくれ」
ナルは、俺の相棒は何時ものように軽く微笑みながら頷いて、言った。
ここはバーチャルバトルセンターと違い普段から人数が少ない。それは今日とて例外では無いが、そんな場所に俺と君島とオマケはいるのだ。
何故こんなところに居るのかと言うと、研究室でカレーを食ってたところに君島が表れ、俺にバトルを申し込んだからだ。断る理由も特に無く―――裕也先輩が君島に負けたというところにも興味があった―――俺は君島とバトルをする為にここに来たという訳だ。最も、君島がリアルバトルを申し込んで来たことに一抹の疑問を抱いたが。
君島はお喋りなキャラじゃないのは見て取れる。だから俺達は口数も少なく神姫の準備をしている。この中で一番喋ってたのがアリカというのはどうでもいい話だ。
ナルに戦闘用装備を装着し、各種作動テストを行った後にバトルスペースの待機場所へと送り込む。あちら側を見れば、アリスの準備は既に終わっているようだ。純白のストラーフの姿が見て取れる。
後は互いの確認の元、バトル開始の手続きを取るだけ。君島の様子は初めて見た時と変わらない、気弱そうな危なっかしい印象のままだ。
「……よし、と。ナル、準備は良いか?」
既に装備のチェックもボディのチェックも終わっているが、気持の問題で話しかける。
「はい、問題ありません」
「OK,怪我しないよう、頑張ってくれ」
ナルは、俺の相棒は何時ものように軽く微笑みながら頷いて、言った。
「了解です、マスター」
バトルフィールド『ソラーステド・ヒース』又の名を、焼野。
フィールドの壁に設置された出入り口から降りると同時に、硝子の大地が砕け散った。
ここには障害物は一切無い。あるのは不自然に蒼い空と、それを映す硝子の大地だけだ。
アリスの姿は直ぐに確認できた。ストラーフ純正装備、サバーカとチーグルによって生まれる重厚なフォルム。しかし、それは色が変わるだけで印象が全く違う。ノーマルのストラーフが禍々しい印象を与えるのに反し、アリスの姿はある種神秘的であった。蒼に浮かぶ一つの白は、まるで蒼穹を飛ぶ雲の様でもある。
「ナル、相手は純正だが油断はくれぐれもしないように」
言われるまでも無い。第一、ストラーフの純正パーツは際立った能力こそ無いものの、その性能は馬鹿に出来ない。なんてたって私もストラーフですから。
『バトル開始五秒前』
電子音が響く中、私はゆっくりと歩き、アリスとの距離を縮める。その度に硝子の大地が甲高い悲鳴を上げる。
『四秒前』
アリスは微動だにしない。その表情も全くの無表情だ。
『三秒前』
アリスとの距離が3sm程に縮まった。両手に力を入れると、全体が銃鋼と化した右腕からは幻感覚が、右腕からは刃鋼を握る感触が、鉤鋼からは奇妙な感覚が返ってくる。
『二秒前』
アリスはここでようやく動き始めた。背中に付けたフルストゥ・グフロートゥをサブアームで、フルストゥ・クレインを自身の手で執る。しかし、構える様な素振りは見せない。
『一秒前』
左腕を真っすぐ横に構え、刃鋼の連結を解く。
がしゃりがしゃり、という刃鋼同士がぶつかり合う音と硝子が割れる音が重なる。
アリスはやはり、というべきか。全く動いていない。
『バトル』
左腕を横に伸ばす。
『スタート』
瞬間、左腕を思いっきり振り上げた。そして、間髪入れずに振り下ろし、今度は左に大きく薙ぐ。
刃鋼は私の腕の動きを一瞬遅くトレースする。そして、複雑にベクトルが絡み合った刃鋼は予測不可能な軌跡を描きつつ、アリスがいた場所を粉砕する。
ここはリアルフィールドだから掃除が大変そうだ。
硝子が粉塵となって空を舞うその様子、それをそんな事を考えながら眺めていた。無論、警戒は解かない。
だが、私は甘かったのかもしれない。
「ナル、下がれッ!」
マスターの命令に身体が反射で動く。刃鋼を伸ばしきったままで思いっきりスラスターを吹かし、大きくバックステップ。
その瞬間、私がもといた場所に白い斬撃が奔った。
避けながらも視界の隅で確認したのはアリスの白い体躯と白い刃。
記憶の片隅に残る事すらない足音を想像すると寒気が奔った。
純粋に、迅い。そして恐ろしく巧い。
ほんの少し踏んだだけで割れる大地の上を無音で進んだ事。
3smの距離を一瞬で詰めた事。
刃鋼の一撃を搔い潜った事。
「恐れ入りますね……!」
そして、今こうして私目掛けてアンクルブレードを突き出してくると言う事。
バックステップの間、着地するまでのほんの一瞬。
アリスにはその一瞬で充分だったようだ。
異常なまでの速さ。並の反応速度では対処しきれないだろう超高速の攻撃。
しかし、私の感覚はその攻撃を的確に把握していた。
頭部大型センサーホーンに内蔵されたドップラーセンサと超音波センサ。視覚では捉えきれないアリスの動きですら容易に知覚出来る。
そう、例えば白いアンクルブレードの軌跡。喉元に一直線に迫るその軌跡。その軌跡に鉤鋼を重ねる。そんな事も出来る。
しかし、アリスも甘くは無い。アンクルブレードが防がれるのを察し、チーグルに持つフルストゥ・クレインを至近距離で投擲した。
この距離。1sm程の距離での投擲。そんな事をされたら鉤鋼で防ぐしかない。しかし、フルストゥ・クレインを防げばアンクルブレードが防げない。アチラと立てればコチラが立たず。まさにそんな状況だ。
「潜り込め」
その短い言葉の真意を汲み取り、私はあえてアリスに接近した。
ブースターの出力を瞬間的に全開させ、文字通りアリスに突っ込む。勿論、ただの考えなしに突っ込んだ訳では無い。アリスに突っ込む過程でフルストゥ・クレインを鉤鋼で防ぐ。次に迫るアンクルブレードは、右脇に抱える様にして防ぐ。
まさにお互いの息がかかる距離。そこでアリスと視線が交差した。
サファイアの様な蒼い瞳。私の真っ赤な瞳とは違う、澄んだ瞳。その瞳は何の感情も見せず、次の行動に移ろうとしている。
次の行動は右手のアンクルブレードか、フルストゥ・クレインの一撃だろう。ある程度密着しているとはいえ、私の武装とは比べ物にならないほど小回りは利く。
寂しくなるが離れる他手段は無い。地面目掛けて銃鋼を撃つ。中空に浮く私の身体はその凄まじい反動を殺す事が出来ず、銃口とは反対方向にベクトルを向ける。
この衝撃の余波はアリスにも及ぶ。アリスの注意が僅かに逸れたその瞬間に、右足を鋭く振り上げるが、難なく避けられるが計算通りだ。アリスは私の蹴りを避ける為に後ろに下がった。
「アレを使います」
マスターの返事の前に、全身のブースターを全力で吹かす。
前推進力を下方へ向ける。当然、私の身体は上へと向かう。アリスに飛行能力は無いだろうが、油断は出来ない。
バトルフィールドの天井ギリギリまで上昇し、姿勢を安定させる。そして、右腕そのものの銃鋼を天に掲げる。
銃鋼は所謂荷電粒子砲と呼ばれるもので、荷電粒子を磁場で一か所に収束固定し、それを加速して撃ち出すものだ。
撃ち出されるものが荷電粒子なだけで、原理は銃と変わらない。違うところがあるとすれば、弾頭が磁場で収束された荷電粒子である事、磁場の影響を受けやすいという事、距離により拡散してしまう事。
銃鋼には二つの使い方がある。一つは普通に荷電粒子を撃ち出す『連射』、もう一つは通常より強力な磁場を発生させ、そこに荷電粒子を限界まで注ぎ込んでから撃つ『タメ撃ち』だ。
銃口先端に発生させられた石ころ大の磁場。そこに荷電粒子を流し込むと粒子はその磁場に留まる事になる。磁場内に留まる荷電粒子は互いに反発しあい、その量が増えるほどにその反発は強まる。粒子加速器を遣う必要が無い程。
銃鋼の先端に石ころ大の光球が煌く。それは時折放電しながら解き放たれる時を今か今かと待っている。
「さて……コレをどうしますか?」
天に掲げた銃鋼、それを一息で振り下ろす。その過程で、磁場の収束を開放する。
刹那、文字通り雨の様な光弾が硝子の大地へと突き刺さった。
その一撃一撃が、神姫を粉砕して有り余る威力を孕む必殺の弾丸だ。しかも、それが十重二十重に降り注ぐと来れば、無事でいられる神姫はそう多くない。
そう思っていた時期が、私にもありました。
「……全く、痛み居りますね」
フィールドの壁に設置された出入り口から降りると同時に、硝子の大地が砕け散った。
ここには障害物は一切無い。あるのは不自然に蒼い空と、それを映す硝子の大地だけだ。
アリスの姿は直ぐに確認できた。ストラーフ純正装備、サバーカとチーグルによって生まれる重厚なフォルム。しかし、それは色が変わるだけで印象が全く違う。ノーマルのストラーフが禍々しい印象を与えるのに反し、アリスの姿はある種神秘的であった。蒼に浮かぶ一つの白は、まるで蒼穹を飛ぶ雲の様でもある。
「ナル、相手は純正だが油断はくれぐれもしないように」
言われるまでも無い。第一、ストラーフの純正パーツは際立った能力こそ無いものの、その性能は馬鹿に出来ない。なんてたって私もストラーフですから。
『バトル開始五秒前』
電子音が響く中、私はゆっくりと歩き、アリスとの距離を縮める。その度に硝子の大地が甲高い悲鳴を上げる。
『四秒前』
アリスは微動だにしない。その表情も全くの無表情だ。
『三秒前』
アリスとの距離が3sm程に縮まった。両手に力を入れると、全体が銃鋼と化した右腕からは幻感覚が、右腕からは刃鋼を握る感触が、鉤鋼からは奇妙な感覚が返ってくる。
『二秒前』
アリスはここでようやく動き始めた。背中に付けたフルストゥ・グフロートゥをサブアームで、フルストゥ・クレインを自身の手で執る。しかし、構える様な素振りは見せない。
『一秒前』
左腕を真っすぐ横に構え、刃鋼の連結を解く。
がしゃりがしゃり、という刃鋼同士がぶつかり合う音と硝子が割れる音が重なる。
アリスはやはり、というべきか。全く動いていない。
『バトル』
左腕を横に伸ばす。
『スタート』
瞬間、左腕を思いっきり振り上げた。そして、間髪入れずに振り下ろし、今度は左に大きく薙ぐ。
刃鋼は私の腕の動きを一瞬遅くトレースする。そして、複雑にベクトルが絡み合った刃鋼は予測不可能な軌跡を描きつつ、アリスがいた場所を粉砕する。
ここはリアルフィールドだから掃除が大変そうだ。
硝子が粉塵となって空を舞うその様子、それをそんな事を考えながら眺めていた。無論、警戒は解かない。
だが、私は甘かったのかもしれない。
「ナル、下がれッ!」
マスターの命令に身体が反射で動く。刃鋼を伸ばしきったままで思いっきりスラスターを吹かし、大きくバックステップ。
その瞬間、私がもといた場所に白い斬撃が奔った。
避けながらも視界の隅で確認したのはアリスの白い体躯と白い刃。
記憶の片隅に残る事すらない足音を想像すると寒気が奔った。
純粋に、迅い。そして恐ろしく巧い。
ほんの少し踏んだだけで割れる大地の上を無音で進んだ事。
3smの距離を一瞬で詰めた事。
刃鋼の一撃を搔い潜った事。
「恐れ入りますね……!」
そして、今こうして私目掛けてアンクルブレードを突き出してくると言う事。
バックステップの間、着地するまでのほんの一瞬。
アリスにはその一瞬で充分だったようだ。
異常なまでの速さ。並の反応速度では対処しきれないだろう超高速の攻撃。
しかし、私の感覚はその攻撃を的確に把握していた。
頭部大型センサーホーンに内蔵されたドップラーセンサと超音波センサ。視覚では捉えきれないアリスの動きですら容易に知覚出来る。
そう、例えば白いアンクルブレードの軌跡。喉元に一直線に迫るその軌跡。その軌跡に鉤鋼を重ねる。そんな事も出来る。
しかし、アリスも甘くは無い。アンクルブレードが防がれるのを察し、チーグルに持つフルストゥ・クレインを至近距離で投擲した。
この距離。1sm程の距離での投擲。そんな事をされたら鉤鋼で防ぐしかない。しかし、フルストゥ・クレインを防げばアンクルブレードが防げない。アチラと立てればコチラが立たず。まさにそんな状況だ。
「潜り込め」
その短い言葉の真意を汲み取り、私はあえてアリスに接近した。
ブースターの出力を瞬間的に全開させ、文字通りアリスに突っ込む。勿論、ただの考えなしに突っ込んだ訳では無い。アリスに突っ込む過程でフルストゥ・クレインを鉤鋼で防ぐ。次に迫るアンクルブレードは、右脇に抱える様にして防ぐ。
まさにお互いの息がかかる距離。そこでアリスと視線が交差した。
サファイアの様な蒼い瞳。私の真っ赤な瞳とは違う、澄んだ瞳。その瞳は何の感情も見せず、次の行動に移ろうとしている。
次の行動は右手のアンクルブレードか、フルストゥ・クレインの一撃だろう。ある程度密着しているとはいえ、私の武装とは比べ物にならないほど小回りは利く。
寂しくなるが離れる他手段は無い。地面目掛けて銃鋼を撃つ。中空に浮く私の身体はその凄まじい反動を殺す事が出来ず、銃口とは反対方向にベクトルを向ける。
この衝撃の余波はアリスにも及ぶ。アリスの注意が僅かに逸れたその瞬間に、右足を鋭く振り上げるが、難なく避けられるが計算通りだ。アリスは私の蹴りを避ける為に後ろに下がった。
「アレを使います」
マスターの返事の前に、全身のブースターを全力で吹かす。
前推進力を下方へ向ける。当然、私の身体は上へと向かう。アリスに飛行能力は無いだろうが、油断は出来ない。
バトルフィールドの天井ギリギリまで上昇し、姿勢を安定させる。そして、右腕そのものの銃鋼を天に掲げる。
銃鋼は所謂荷電粒子砲と呼ばれるもので、荷電粒子を磁場で一か所に収束固定し、それを加速して撃ち出すものだ。
撃ち出されるものが荷電粒子なだけで、原理は銃と変わらない。違うところがあるとすれば、弾頭が磁場で収束された荷電粒子である事、磁場の影響を受けやすいという事、距離により拡散してしまう事。
銃鋼には二つの使い方がある。一つは普通に荷電粒子を撃ち出す『連射』、もう一つは通常より強力な磁場を発生させ、そこに荷電粒子を限界まで注ぎ込んでから撃つ『タメ撃ち』だ。
銃口先端に発生させられた石ころ大の磁場。そこに荷電粒子を流し込むと粒子はその磁場に留まる事になる。磁場内に留まる荷電粒子は互いに反発しあい、その量が増えるほどにその反発は強まる。粒子加速器を遣う必要が無い程。
銃鋼の先端に石ころ大の光球が煌く。それは時折放電しながら解き放たれる時を今か今かと待っている。
「さて……コレをどうしますか?」
天に掲げた銃鋼、それを一息で振り下ろす。その過程で、磁場の収束を開放する。
刹那、文字通り雨の様な光弾が硝子の大地へと突き刺さった。
その一撃一撃が、神姫を粉砕して有り余る威力を孕む必殺の弾丸だ。しかも、それが十重二十重に降り注ぐと来れば、無事でいられる神姫はそう多くない。
そう思っていた時期が、私にもありました。
「……全く、痛み居りますね」
俺はこの眼を疑った。
ナルのタメ撃ち、決定打にはならないだろうがそこそこダメージは与えられるだろうと思っていた。
が、この光景は何だ?
アリスは事もあろうに、迫る光弾の尽くをアンクルブレードとフルストゥ・グフロートゥで弾き落としているのだから。
これからどうするか? 君島が第一研究室の学生だって事は調べがついてる。アリスの異常なまでの機動力は第一研究室の十八番、アクチュエータを限界まで鍛え上げた賜物だろう。それに加え、アリス自身も相当に強い。武装はストラーフのデフォルトのモノだけだが、今は逆にそれが不味い。全てが刃物、しかも隙が少なく小回りが利く。対するナルは全てのレンジに対応した装備を持つが、小回りは全くと言って良いほど利かない。正直、相性が悪い。
が、勝ち目が無いわけでは無い。アリスの最大の武器が機動力であるなら、その要である脚を潰してしまえば良い。出来れば片足、最悪でも足首を破壊できれば戦況はこちらに傾くだろう。問題はそれを無傷で出来るかどうかだ。肉を切らせて骨を断つくらいしなければ、マズイかもしれない。
「相変わらず、オーバーキル、がお好きな、ようですね」
「……悪いがお喋りに構ってられる余裕は無いんだ」
心理戦、という訳か? そういう事をする人間には見えなかったが。それともナルの言うとおり、俺が人を見る目が無いだけか。
「十三班は、貴方、は。どうして、そこまで、するんですか」
……何だ、君島は何を言おうとしている?
「貴方は、神姫の気持ちを、必要以上の、痛みと、恐怖を味わう、神姫の気持ちを、考えた事が、ありますか?」
成程、そういう事か。恐らく君島はどちらかと言えば愛玩派の人間なのだろう。それなら裕也先輩に仕掛けたのも納得出来る。
「BMAのレギュレーションは満たしているが?」
それなら逆に御しやすい。適当に煽って平常心を崩させて貰おう。
「第一、武装神姫は戦って南保のモノだろう。痛かろうが、怖かろうがフィールドに立てば関係無い。そんな覚悟が無いのなら神姫バトルなんてやらなければ良い」
「し、師匠!?」
余計なのが釣れたが気にしない事にする。
「……それが、神姫を、殺す、免罪符に、なるとでも?」
良し、掛った。掛ったが、何だこの違和感は? 悪寒とでも言うのか、何だか嫌な予感がする。
……恐らく、俺の少ない良心が痛んでいるのだろうがそうは言ってられない。後で君島には謝ろう。
「神姫はモノじゃない……神姫は心を持っている……神姫は……ネリネは……私の……私の……!」
妙だ。君島の様子がおかしい。これは唯の愛玩派の行動じゃない。
……そう、まるで、家族を、殺された、人間の、行動?
「ネリネは……優しい子だった」
何を言っている。俺はお前を知らない。知らない、知らない知らない知らない知らない知らない。
「……殺される……理由なんて無かった」
違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
「……なのに、何で……何で殺したの……!」
まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。
来たのか、来てしまったのか。この時が、この道が。
君島、お前がそうなのか? お前が、そうなのか? 俺が、お前を、殺したのか?
ナルのタメ撃ち、決定打にはならないだろうがそこそこダメージは与えられるだろうと思っていた。
が、この光景は何だ?
アリスは事もあろうに、迫る光弾の尽くをアンクルブレードとフルストゥ・グフロートゥで弾き落としているのだから。
これからどうするか? 君島が第一研究室の学生だって事は調べがついてる。アリスの異常なまでの機動力は第一研究室の十八番、アクチュエータを限界まで鍛え上げた賜物だろう。それに加え、アリス自身も相当に強い。武装はストラーフのデフォルトのモノだけだが、今は逆にそれが不味い。全てが刃物、しかも隙が少なく小回りが利く。対するナルは全てのレンジに対応した装備を持つが、小回りは全くと言って良いほど利かない。正直、相性が悪い。
が、勝ち目が無いわけでは無い。アリスの最大の武器が機動力であるなら、その要である脚を潰してしまえば良い。出来れば片足、最悪でも足首を破壊できれば戦況はこちらに傾くだろう。問題はそれを無傷で出来るかどうかだ。肉を切らせて骨を断つくらいしなければ、マズイかもしれない。
「相変わらず、オーバーキル、がお好きな、ようですね」
「……悪いがお喋りに構ってられる余裕は無いんだ」
心理戦、という訳か? そういう事をする人間には見えなかったが。それともナルの言うとおり、俺が人を見る目が無いだけか。
「十三班は、貴方、は。どうして、そこまで、するんですか」
……何だ、君島は何を言おうとしている?
「貴方は、神姫の気持ちを、必要以上の、痛みと、恐怖を味わう、神姫の気持ちを、考えた事が、ありますか?」
成程、そういう事か。恐らく君島はどちらかと言えば愛玩派の人間なのだろう。それなら裕也先輩に仕掛けたのも納得出来る。
「BMAのレギュレーションは満たしているが?」
それなら逆に御しやすい。適当に煽って平常心を崩させて貰おう。
「第一、武装神姫は戦って南保のモノだろう。痛かろうが、怖かろうがフィールドに立てば関係無い。そんな覚悟が無いのなら神姫バトルなんてやらなければ良い」
「し、師匠!?」
余計なのが釣れたが気にしない事にする。
「……それが、神姫を、殺す、免罪符に、なるとでも?」
良し、掛った。掛ったが、何だこの違和感は? 悪寒とでも言うのか、何だか嫌な予感がする。
……恐らく、俺の少ない良心が痛んでいるのだろうがそうは言ってられない。後で君島には謝ろう。
「神姫はモノじゃない……神姫は心を持っている……神姫は……ネリネは……私の……私の……!」
妙だ。君島の様子がおかしい。これは唯の愛玩派の行動じゃない。
……そう、まるで、家族を、殺された、人間の、行動?
「ネリネは……優しい子だった」
何を言っている。俺はお前を知らない。知らない、知らない知らない知らない知らない知らない。
「……殺される……理由なんて無かった」
違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
「……なのに、何で……何で殺したの……!」
まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。
来たのか、来てしまったのか。この時が、この道が。
君島、お前がそうなのか? お前が、そうなのか? 俺が、お前を、殺したのか?
「絶対に……許さない……カーネリアン……Red Legion……!」