第5話 「歴史」
コイツが俺と同じで、左足がちょいと不自由だってのは今更な話。
フツーに歩く分には『少し違和感がある』程度らしいから、いいっちゃいいんだが……問題は例のデカブーツ。
何度も言うようだが、やたらとデカくてゴツい。 こんなモノくっつけたまま移動するってのは、コイツの足にかなりの負担が掛かるだろう。
かと言って外しちまうと、今度は背中の腕やら何やらが重すぎてロクすっぽ歩けやしない。
さてどうしようかとアレコレ考えていたが、ルーシーの『じゃあ右足にだけ装着しましょう』というヒトコトで解決した。
……つっても、そう簡単に行くわけじゃない。
本来2本の足で支えるべき背中の装備+素体+他各種の重量を1本足で支えなきゃいけないってんで、オートバランサーの調整と一緒に補助シリンダーを装着しよう、という話になった。
細かい調整はコイツ自身が担当するらしいし、俺がやったのはシリンダーの注文くらいのもの。
ここでも俺に気を使っていたが、今や俺とコイツはパートナー。 気にすんなと頭を撫でてやったら赤くなって俯いた。 愛いヤツめ。
ま、部品の到着だ何だでしばらく先になりそうなんだけどな。それまではまったりしよう。
数日の間に改めて世間を見渡せば、武装神姫の話題はそこかしこに転がっていた。
TVで流れるCMに始まり、ネットには1日2日じゃ回りきれないほど大量の専門サイトが乱立し、新聞には取り扱いショップの折り込みチラシ。
外に出れば駅に貼られたポスターに電車内の吊り広告、トドメに街頭でコスプレしたお嬢さんらが笑顔でビラを配り、『武装神姫』のロゴやイラストがプリントされたTシャツだのジャケットだのハチマキだのをした連中が群がってるときた。
「いやはや猫も杓子もナンとやら……こんなんで大丈夫なのかね、世ン中ってのは」
「現在、『武装神姫』は株価市場に影響を与えるほどの大ヒット商品になっているんですよ」
どこか誇らしげなルーシーの言葉に、俺は学生時代に受けた歴史授業の事を思い浮かべた。
「1990年代後半から2000年初頭にかけて爆発的に肥大化した『オタク産業』の再燃ってか」
20世紀の時代から海外でも評判の高かった日本産のアニメ・マンガ・ゲームの3つが基本になってる『2次元産業』に、食玩ってのを中心に広がった『3次元産業』をまとめて『オタク産業』と呼ぶ。
1990年代初頭の『バブル崩壊』から日本経済は延々と停滞・下降を繰り返していたが、唯一と言っていいほど上昇を続けていたコレのおかげでなんとか持ち直したらしい。
当時はヨソの国から「かつての『黄金の国』は現代になって『夢物語』に救われた。 まさに夢のような国だ」なんて陰口を叩かれた事もあったらしいが……何しろ今から40年近く前の話。 俺たちの知った事じゃない。
たかだかオモチャが世界を動かす……武装神姫は、またそういう時代を運んできたのかも知れない。
ちなみに俺は、学生時代のテストで「当時の国内で最もオタク産業の盛んだった場所は?」って問題に「アキバハラ」と答え、めでたくでっかいバツをもらった。
……いいじゃんか、どーせ『アキバ』で意味は通じるんだから。