「犬達の出会い」
「……でよぉ? そしたらそのバカの神姫が勢い余って壁にぶつかってやんの。で、目ぇまわして、相手不戦勝」
「はぁ」
「しっかし昨日の、なんだっけ。『片輪の悪魔』は強かったよなぁ。あいつのマイティがこっぴどく負けるほど強いんだぜ? 戦ってみたいよな」
「はぁ」
「……おいシエン、聞いてんのか?」
「へっ?」
やっぱ聞いてなかったか。
オレの神姫、犬型MMSハウリン「シエン」は、あわてて直立。
「も、申し訳ありません、ご主人様。聞いておりませんでした」
「いや、別にいいんだけどよ。なに見てたんだ?」
シエンの後ろには先ほどまでこいつが操作していたパソコン。画面にはおもちゃ屋のページが開いている。なになに……?
「ごっ、ご主人様!?」
すかさずシエンがマウスを操作し、ウインドウを消す。
「おいおい、何だよ?」
「いえ、あの」
「お前にしちゃずいぶん熱心に見入ってたじゃねえか」
「そ、それは」
「いいから。見せてみろよ」
オレはブラウザの履歴を開く。
「でも」
「見せろ。命令だぞ」
その言葉には逆らえず、シエンはその場でうなだれた。うーん、ちょっと卑怯くさかったな。
最新の履歴には「ホビーショップNOVAYA……」とあった。
開いてみると、そこには、
「1/12スコープドッグ復刻版、フルモータライズエディション?」
「あう……」
三十年も前に発売されたロボットのおもちゃを、間接の一つ一つに小型動力を仕込んだ、ラジコン操作が可能なやつだった。
このおもちゃのすごいところは、完全再現されたコクピットの計器・レバーがすべてアクティブだってことだ。武装神姫とのコラボレートを見込んだ機能らしい。
「お前ぇ、こいつが欲しいのか?」
「いや、その……」
「欲しいんだろ?」
「…………はい」
シエンは顔を真っ赤にして、蚊の鳴くような声で答えた。
「なんだよ。だったら言えばいいだろ。これくらい買ってやらんこともねえぞ」
まあ、ン万ぐらいだったらこいつに出しても良いだろうな、という覚悟は決めた。今。
「でも」
「あ?」
「お値段が……」
「値段?」
オレはページを下に少しスクロールした。
「いちじゅうひゃくせんまん……」
うぐ。オレはのどを詰まらせた。そこにはオレの予想を一桁超えた額が、メタリックフォントで燦然と輝いていたのだ。
まぶしいぜ。
「いえ、いいんです。自分は別に」
オレはシエンの顔を見た。申し訳なさそうに見上げるそいつの目。
そのとき、オレの中で何かが切れた。
「買うぞ」
オレは間髪いれずに言ってしまった。なんだか知らないが、買わなきゃいけない気がしたからだ。こいつのために。
「でも」
「いや、買う。これはご主人様めーれーだ」
言葉が間違っている気がする。
「ご主人様……」
「いいんだよ。金もあるし。お前が喜ぶなら、こんくらい」
「あ、あ。……ありがとうございます、ご主人様!」
シエンは満面の笑みでオレに抱きついた。尻尾を千切れんばかりに振っている。おいおい、そんな表情初めて見たぜ?
「はぁ」
「しっかし昨日の、なんだっけ。『片輪の悪魔』は強かったよなぁ。あいつのマイティがこっぴどく負けるほど強いんだぜ? 戦ってみたいよな」
「はぁ」
「……おいシエン、聞いてんのか?」
「へっ?」
やっぱ聞いてなかったか。
オレの神姫、犬型MMSハウリン「シエン」は、あわてて直立。
「も、申し訳ありません、ご主人様。聞いておりませんでした」
「いや、別にいいんだけどよ。なに見てたんだ?」
シエンの後ろには先ほどまでこいつが操作していたパソコン。画面にはおもちゃ屋のページが開いている。なになに……?
「ごっ、ご主人様!?」
すかさずシエンがマウスを操作し、ウインドウを消す。
「おいおい、何だよ?」
「いえ、あの」
「お前にしちゃずいぶん熱心に見入ってたじゃねえか」
「そ、それは」
「いいから。見せてみろよ」
オレはブラウザの履歴を開く。
「でも」
「見せろ。命令だぞ」
その言葉には逆らえず、シエンはその場でうなだれた。うーん、ちょっと卑怯くさかったな。
最新の履歴には「ホビーショップNOVAYA……」とあった。
開いてみると、そこには、
「1/12スコープドッグ復刻版、フルモータライズエディション?」
「あう……」
三十年も前に発売されたロボットのおもちゃを、間接の一つ一つに小型動力を仕込んだ、ラジコン操作が可能なやつだった。
このおもちゃのすごいところは、完全再現されたコクピットの計器・レバーがすべてアクティブだってことだ。武装神姫とのコラボレートを見込んだ機能らしい。
「お前ぇ、こいつが欲しいのか?」
「いや、その……」
「欲しいんだろ?」
「…………はい」
シエンは顔を真っ赤にして、蚊の鳴くような声で答えた。
「なんだよ。だったら言えばいいだろ。これくらい買ってやらんこともねえぞ」
まあ、ン万ぐらいだったらこいつに出しても良いだろうな、という覚悟は決めた。今。
「でも」
「あ?」
「お値段が……」
「値段?」
オレはページを下に少しスクロールした。
「いちじゅうひゃくせんまん……」
うぐ。オレはのどを詰まらせた。そこにはオレの予想を一桁超えた額が、メタリックフォントで燦然と輝いていたのだ。
まぶしいぜ。
「いえ、いいんです。自分は別に」
オレはシエンの顔を見た。申し訳なさそうに見上げるそいつの目。
そのとき、オレの中で何かが切れた。
「買うぞ」
オレは間髪いれずに言ってしまった。なんだか知らないが、買わなきゃいけない気がしたからだ。こいつのために。
「でも」
「いや、買う。これはご主人様めーれーだ」
言葉が間違っている気がする。
「ご主人様……」
「いいんだよ。金もあるし。お前が喜ぶなら、こんくらい」
「あ、あ。……ありがとうございます、ご主人様!」
シエンは満面の笑みでオレに抱きついた。尻尾を千切れんばかりに振っている。おいおい、そんな表情初めて見たぜ?
数日後。神姫の箱を四つ合わせたくらいどデカいパッケージが部屋の真ん中に鎮座していた。
オレとシエンはパッケージの前に正座する。ごくり。おもちゃに対して固唾を呑むのはさすがに初めてだぞ。
いよいよ開封。鉄片から発泡スチロールの梱包材ごと取り出す。とてつもなく重い。きっとおもちゃのガワの中身は動力がぎっしり詰まっているのだ。下手な持ち上げ方をすればぎっくり腰になるぞこりゃ。背筋をまっすぐにして「ふんぬっ」と中身を持ち上げ、シエンが箱をおろす。適当にスチロールを外すと、出てきたのはシエンの二、三倍はあろうかという緑色のロボットだった。
オレは触ってみて重さの正体を知った。重いのは動力のせいだけではなかったのだ。
「全身金属かよ……。これホントにおもちゃか?」
シエンは尻尾をぶんぶん振り回しながら、ほあー、という顔をしてロボット、スコープドッグを見上げていた。こいつにとっては神姫スケール換算四メートル弱の巨大ロボットなのだ(作者注:倉田光吾郎氏製作、一分の一ボトムズを見上げたことのある方はそのときの感情を思い出してください)。
「あの、ご主人様」
「ああ、良いぜ。乗ってみな」
オレは説明書片手にスコープドッグのハッチを開ける。シエンを持ち上げて乗せようとしたが、
「自分で乗ります」
と言って歩み出た。なるほど、昇降用の手すりや出っ張りがちゃんとあるのか。三十年前のおもちゃにしてはよくできたデザインだと感心する。シエンは乗り込む楽しみも味わいたいようだった。その気持ちはオレも良っく分かる。
シエンが自分でハッチを閉める。中でなにやらカチャカチャしていると思ったら、突然ロボットのカメラアイが「ヴゥーン」という電気音を立てて光りだした。
「うわっ!?」
オレはびっくりして引いてしまう。
主動力らしいエンジン音のようなグングンという音が鳴り始める。
ガシャン
スコープドッグが最初の一歩を踏み出した。
「シエン、大丈夫か!?」
スコープドッグのバイザーが上に競りあがる。頭の穴からシエンの顔が見えた。
「問題ありません。動きます。すごいです、ご主人様」
「そ、そいつは良かった……」
シエンを載せたスコープドッグが部屋の中を歩き回る。時折腕を回したり、いらない段ボールに向けてアームパンチを繰り出したり。うわ、ダンボールが破れた。どんだけ強力なんだ? ローラーダッシュのスピードは俺の狭い部屋じゃ速すぎる。やめろピックを打ち込むな、ターン禁止!! あーあ、床がへこんだ。こりゃあただのおもちゃじゃないぞ?
いやしかし。オレも乗ってみてぇ……。
「ん?」
説明書のほかに妙なチラシが入っている。店側が入れたやつだろうか?
チラシにはこう書かれていた。
『武装神姫in装甲騎兵ボトムズ・バトリングリーグ&トーナメント 近日開催!!』
オレはもう一度、シエンの動かすスコープドッグの方を見やった。
オレとシエンはパッケージの前に正座する。ごくり。おもちゃに対して固唾を呑むのはさすがに初めてだぞ。
いよいよ開封。鉄片から発泡スチロールの梱包材ごと取り出す。とてつもなく重い。きっとおもちゃのガワの中身は動力がぎっしり詰まっているのだ。下手な持ち上げ方をすればぎっくり腰になるぞこりゃ。背筋をまっすぐにして「ふんぬっ」と中身を持ち上げ、シエンが箱をおろす。適当にスチロールを外すと、出てきたのはシエンの二、三倍はあろうかという緑色のロボットだった。
オレは触ってみて重さの正体を知った。重いのは動力のせいだけではなかったのだ。
「全身金属かよ……。これホントにおもちゃか?」
シエンは尻尾をぶんぶん振り回しながら、ほあー、という顔をしてロボット、スコープドッグを見上げていた。こいつにとっては神姫スケール換算四メートル弱の巨大ロボットなのだ(作者注:倉田光吾郎氏製作、一分の一ボトムズを見上げたことのある方はそのときの感情を思い出してください)。
「あの、ご主人様」
「ああ、良いぜ。乗ってみな」
オレは説明書片手にスコープドッグのハッチを開ける。シエンを持ち上げて乗せようとしたが、
「自分で乗ります」
と言って歩み出た。なるほど、昇降用の手すりや出っ張りがちゃんとあるのか。三十年前のおもちゃにしてはよくできたデザインだと感心する。シエンは乗り込む楽しみも味わいたいようだった。その気持ちはオレも良っく分かる。
シエンが自分でハッチを閉める。中でなにやらカチャカチャしていると思ったら、突然ロボットのカメラアイが「ヴゥーン」という電気音を立てて光りだした。
「うわっ!?」
オレはびっくりして引いてしまう。
主動力らしいエンジン音のようなグングンという音が鳴り始める。
ガシャン
スコープドッグが最初の一歩を踏み出した。
「シエン、大丈夫か!?」
スコープドッグのバイザーが上に競りあがる。頭の穴からシエンの顔が見えた。
「問題ありません。動きます。すごいです、ご主人様」
「そ、そいつは良かった……」
シエンを載せたスコープドッグが部屋の中を歩き回る。時折腕を回したり、いらない段ボールに向けてアームパンチを繰り出したり。うわ、ダンボールが破れた。どんだけ強力なんだ? ローラーダッシュのスピードは俺の狭い部屋じゃ速すぎる。やめろピックを打ち込むな、ターン禁止!! あーあ、床がへこんだ。こりゃあただのおもちゃじゃないぞ?
いやしかし。オレも乗ってみてぇ……。
「ん?」
説明書のほかに妙なチラシが入っている。店側が入れたやつだろうか?
チラシにはこう書かれていた。
『武装神姫in装甲騎兵ボトムズ・バトリングリーグ&トーナメント 近日開催!!』
オレはもう一度、シエンの動かすスコープドッグの方を見やった。
了