中学を卒業し、春休み兼高校への準備期間といったところの3月。
卒業後の3月というのは夏休み並に長い休みとなり、宿題もないため基本的に卒業生は皆遊び呆ける期間ということになる。
卒業後の3月というのは夏休み並に長い休みとなり、宿題もないため基本的に卒業生は皆遊び呆ける期間ということになる。
「ゲーム『グラディウス』でプレイヤーが操る……ビックバイパー、と……」
そしてその時期にこの少年は学校の準備など忘れ、ゲームセンターでクイズゲームにかまけていた。
「……あっ」
『残念だけどここでお別れだー、また会おう!』
『残念だけどここでお別れだー、また会おう!』
画面の中の先生から告げられる予選敗退の言葉。
『こんな時だってあるさ! さあもう一度!』
「……悔しいけど仕方ないか」
「……悔しいけど仕方ないか」
荷物を纏め、ゲームセンターから退店しようとする。
が、そこで少年はある人だかりを目にする。
が、そこで少年はある人だかりを目にする。
「……?」
人間、人だかりがあると寄ってみたくなるものである。
少年もその例にもれず、その人だかりの方へ行く。
少年もその例にもれず、その人だかりの方へ行く。
「何かな、この人だかり……?」
少年は同年代の少年達と比べると背が高い方であり、すこし背を伸ばしただけで人だかりの向こう側は見ることができた。
「ん……」
もう少し背を伸ばすと、人だかりの中心にある筐体に書かれた文字が目に入った。
「……武装神姫?」
どうやら筐体の中で少女たちが戦っているようである。
が、それ以上は事前情報も何もないため分からなかった。
が、それ以上は事前情報も何もないため分からなかった。
「何をしている?」
「えっ?」
「えっ?」
背伸びの最中に少年は声を掛けられる、振り返ってみるとそこには友人の顔があった。
「……櫻庭君?」
少年の友人の名前は櫻庭 遊理 。
少年の一番の親友で中学までは一緒であったのだが、高校は別々となってしまったので、日常的に会うことはなくなってしまうのである。
無論、今のように地元で会うことは多いのであろうが。
少年の一番の親友で中学までは一緒であったのだが、高校は別々となってしまったので、日常的に会うことはなくなってしまうのである。
無論、今のように地元で会うことは多いのであろうが。
「いや、人だかりができてたから……
でも奇遇だね、こんな所で何をしてるの?」
「いやまあ……ちょっとな。
お前は……」
「まあ、いつも通りマジアカをちょっと……」
でも奇遇だね、こんな所で何をしてるの?」
「いやまあ……ちょっとな。
お前は……」
「まあ、いつも通りマジアカをちょっと……」
マジアカ、コナミのクイズゲーム、クイズマジックアカデミーの略である。
「「「おおおおおお!!」」」
そんなことを話していると、人だかりの方から歓声が沸く。
「……何?」
「悪いな、通してもらえるか?」
「ああうん……え?
櫻庭君って……えっと、この人だかりができてる何かに興味があるの?」
「ん……まあな」
「悪いな、通してもらえるか?」
「ああうん……え?
櫻庭君って……えっと、この人だかりができてる何かに興味があるの?」
「ん……まあな」
『マスター、もう付いたのか?』
「ああ、いや……」
「ああ、いや……」
遊里のバッグから、褐色肌の小さな少女が顔をのぞかせた。
「……なにそれ?」
少年は少女をみて、おそらくこの少女の所有者であろう友人に聞く。
それに対し友人ははぁ、とため息をつい少年に話した。
それに対し友人ははぁ、とため息をつい少年に話した。
「武装神姫、聞いたことないか?」
「ええと、な……」
「ええと、な……」
ない、そう即答しようとする。
しかし少年は以前、どこかで武装神姫という文字を見たことがあるような気がした。
が、思い出すことはできなかった。
しかし少年は以前、どこかで武装神姫という文字を見たことがあるような気がした。
が、思い出すことはできなかった。
「どうした?」
「いや……ないよ、聞いたことは」
「いや……ないよ、聞いたことは」
聞いたことはない、嘘は言っていない。
見た気がするだけなのだから。
見た気がするだけなのだから。
「そうか、まあ……簡単にいえば、着せ替えて戦うロボットアクションフィギュアだ」
「へえ……ロボットなの?」
「へえ……ロボットなの?」
少年は遊里のバッグから顔を出している小さな少女の方を見る。
「じゃあ、この子も?」
体を屈めて、少女に顔を向ける。
『マスター、誰だこいつ?』
「俺の友人だ、後で紹介する」
「すごい、喋った」
「俺の友人だ、後で紹介する」
「すごい、喋った」
最近のロボットの技術はここまで進歩していたのか、と少年は感心する。
「……でもなんか、高そうだね」
「まあ、ちょっといいパソコンが買える程度の値段はするな」
「まあ、ちょっといいパソコンが買える程度の値段はするな」
その「ちょっといいパソコン」を持っている少年からすると、その値段は容易に想像できた。
「……良く買ってもらえたね」
「まあ、合格祝いにな」
『マスター、そんな事話してていいのか?
終わっちまうぞ!』
「ああ、そうだな。
そうだ、お前も見ていくか?」
「いや……いいよ、今日は日が悪いや」
「まあ、合格祝いにな」
『マスター、そんな事話してていいのか?
終わっちまうぞ!』
「ああ、そうだな。
そうだ、お前も見ていくか?」
「いや……いいよ、今日は日が悪いや」
マジアカを折角プレイしに来たものの、予選敗退となり少々落ち込んでいるようである。
「そうか、ならいいさ。
劫火、行くぞ」
『おう!』
劫火、行くぞ」
『おう!』
遊里はその少女と共に人ごみの中へ消えていった。
「……武装神姫、か」
(そう、僕はこの時、こんなものに興味は持っていなかった。
……かわいいとは思うけど、数ある萌えキャラ系コンテンツの一つだと思っていた。
でも、この後あらゆる意味で意外な形で、意外な広い交友関係を持ち、意外な事件に巻き込まれていくことになるなんて……
今の僕には、知る由もなかった)
……かわいいとは思うけど、数ある萌えキャラ系コンテンツの一つだと思っていた。
でも、この後あらゆる意味で意外な形で、意外な広い交友関係を持ち、意外な事件に巻き込まれていくことになるなんて……
今の僕には、知る由もなかった)
「ただいま」
少年は帰宅早々、誰もいない家に告げる。
この少年の親は共働きであり、あまり家に帰っては来ないのである。
この少年の親は共働きであり、あまり家に帰っては来ないのである。
「ん?」
見慣れない箱が届いている。
「……なんだろう、これ」
そう言いながら箱に書かれている商品名を見る。
「え……」
今日3月26日は予約していたゲームの発売日、
コ○ミスタイルでの予約なので、今日はお届けの日、ずっと待ちわびていた日であった、筈なのだが……
コ○ミスタイルでの予約なので、今日はお届けの日、ずっと待ちわびていた日であった、筈なのだが……
「……ああ、そうか。
今日はもう26日だったか……」
今日はもう26日だったか……」
ずっと前に予約していたのだが、受験等いろいろあって忘れてたようである。
「『ハヤテのごとく!! ナイトメアパラダイス豪華版』。
本当に何故かかなり高かったけど……」
本当に何故かかなり高かったけど……」
そう、この少年はハヤテのごとく!の大ファンである。
ハヤテのごとく!の主人公、『綾崎 ハヤテ』の姿に憧れたのがきっかけでその作品を愛するようになったのである。
もっとも、この少年をオタクの世界へ橋渡ししてしまった作品でもあるのだが。
ハヤテのごとく!の主人公、『
もっとも、この少年をオタクの世界へ橋渡ししてしまった作品でもあるのだが。
「……なら、さっそく!」
少年は予選敗退で落ち込んでいることも忘れ、その箱を抱え階段をものすごい勢いで駆け上がる。
二階の自分の部屋の扉を開けると、机の上のPSPを持ち出してベッドの上に座り込んだ。
二階の自分の部屋の扉を開けると、机の上のPSPを持ち出してベッドの上に座り込んだ。
「PSPよし、充電器もよし、箱の状態もよし……」
さながら一世代前の教習所のビデオのようにわざとらしく指差し確認をする。
「それにしてもゲームソフトにしては大きな箱だな。
それだけ特典が豪華なのかな……やっぱり、凄く高かったし」
それだけ特典が豪華なのかな……やっぱり、凄く高かったし」
特別版ということは、予約特典、早期購入特典が多数付いているということである。
彼は特に特典の内容は気にせず、コナミスタイル販売限定の一番高い物をとりあえず予約したのだ。
『ハヤテのごとく!』の大ファンという理由だけで。
彼は特に特典の内容は気にせず、コナミスタイル販売限定の一番高い物をとりあえず予約したのだ。
『ハヤテのごとく!』の大ファンという理由だけで。
「……それじゃあ、オープン!!」
満を持してその箱を開け。
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
中身を確認し、必要以上のリアクションをとる。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
……え?」
……え?」
箱の中身を見た彼は必要以上のリアクション以上に驚きを隠せない様子を見せた。
何かが足り無かったわけでもなく、内容がそれほどでもなく拍子抜けしたわけでもない。
その中に、予想外の物が入っていたからだ。
何かが足り無かったわけでもなく、内容がそれほどでもなく拍子抜けしたわけでもない。
その中に、予想外の物が入っていたからだ。
「これって……まさか?」
箱の右側に収まっているゲームソフトへの興味はどこへやら。
左側に収まっている箱を手に取り、上下左右裏表、箱の外装をすみずみまで見回し、彼は静かに口を開く。
左側に収まっている箱を手に取り、上下左右裏表、箱の外装をすみずみまで見回し、彼は静かに口を開く。
「武装……神姫?」
それはまぎれもなく、武装神姫だったのである。
「このパッケージ絵って……」
金髪ツインテール、ツリ目のライトグリーンの瞳。
そして、白皇学院の制服を模したカラーリングの素体。
少年にはそれに描かれている少女が誰か、一目で分かった。
そして、白皇学院の制服を模したカラーリングの素体。
少年にはそれに描かれている少女が誰か、一目で分かった。
「ナギ……?」
ナギ、ハヤテのごとく!のメインヒロインの名前である。
その武装神姫のパッケージに描かれていたのは、ハヤテのごとく!のヒロイン、三千院 ナギその人だった。
その武装神姫のパッケージに描かれていたのは、ハヤテのごとく!のヒロイン、
「武装神姫……ナギ……!?」
驚きのあまり、再び声が出なくなった。
そして、ようやく理解した。
ナギのフィギュア付属が付属するというコナミスタイル販売限定豪華版だけが、異常に高かった理由が。
「ちょっといいパソコンが買える値段」である、武装神姫が付属するのならば、それは高くなるわけである。
そしてこの時やっと思い出したのだ『武装神姫』という単語をどこで見たのか。
その場所は、彼がこの度予約したゲーム、『ハヤテのごとく!!ナイトメアパラダイス』の公式サイト及びコナミスタイルに書いてあった、
『コナミスタイル「武装神姫ナギ」付き豪華セット』という文字だったのである。
そして、ようやく理解した。
ナギのフィギュア付属が付属するというコナミスタイル販売限定豪華版だけが、異常に高かった理由が。
「ちょっといいパソコンが買える値段」である、武装神姫が付属するのならば、それは高くなるわけである。
そしてこの時やっと思い出したのだ『武装神姫』という単語をどこで見たのか。
その場所は、彼がこの度予約したゲーム、『ハヤテのごとく!!ナイトメアパラダイス』の公式サイト及びコナミスタイルに書いてあった、
『コナミスタイル「武装神姫ナギ」付き豪華セット』という文字だったのである。
「……」
彼はゲームは基本初見プレイ派なので、公式サイトには通わなかったために、ゲームの予約以来目にすることがなかったのだ。
「……これでいいのかな?
よくわからないけど……」
よくわからないけど……」
待ちわびていたはずのゲームソフトには手をつけず、ナギの箱を開封し、起動に手間取っている彼の姿がそこにあった。
やっとのことで設定は終わり、あとは起動させるだけである。
やっとのことで設定は終わり、あとは起動させるだけである。
『お嬢様型ナギ。
セットアップ完了、起動します』
「え……もう?
起動するの? 本当に?」
セットアップ完了、起動します』
「え……もう?
起動するの? 本当に?」
驚いているうちに、その少女は金髪のツインテールをなびかせ、ライトグリーンの瞳を開きながらゆっくりと起き上がる。
『ん……』
その少女は目を閉じて背伸びをした。
「わぁ……!」
『……おぉ……お?』
『……おぉ……お?』
その金髪ツインテールの小さな少女は眠たげな目こすりながら、『マスター』の方を向く。
「う……動いた……!!」
『……当然だ、動くぞ、神姫なのだから』
「……そ、そう、だよね」
『……当然だ、動くぞ、神姫なのだから』
「……そ、そう、だよね」
聞きなれているツンデレ系ヒロインの鉄板である釘宮理恵ボイスが部屋に響く。
今さっき起動した金髪ツインテールの少女がツンデレボイスで、マスターだけに話しかけている。
アニメのように『綾崎 ハヤテ』やその他キャラクターや、全国の視聴者に向けてではなく。
今さっき起動した金髪ツインテールの少女がツンデレボイスで、マスターだけに話しかけている。
アニメのように『綾崎 ハヤテ』やその他キャラクターや、全国の視聴者に向けてではなく。
(ナギが僕だけに話しかけてくれている)
感動で胸が打ち震えた。
事前情報がなかった分、特に。
事前情報がなかった分、特に。
『……問おう。
お前が、私のマスターか?』
「え?」
お前が、私のマスターか?』
「え?」
ハヤテのごとく!特有のジト目を少年に向けながら、別のアニメの名台詞を言う。
二人称は変わっているが。
二人称は変わっているが。
「……はい、かな?」
『……おい、もうちょっと乗れよ』
「い、いや、あのアニメは見てなくて……」
『途中で切るなよ、アニメは自ら全て見て初めて評価をするのだ』
「……ごもっともです」
『……おい、もうちょっと乗れよ』
「い、いや、あのアニメは見てなくて……」
『途中で切るなよ、アニメは自ら全て見て初めて評価をするのだ』
「……ごもっともです」
別に視聴を切ったわけではないが。
『む……』
少女渾身の目覚めのあいさつを躱されたせいか、少女の顔が明らかに不機嫌になったのが分かった。
『なんだか、あまり歓迎されていないように感じるのだが。
なんだ? もしや転バイヤーか? 起動して問題がなかったらリセットして売り飛ばすつもりか?
ならば残念ながら未開封のほうが高かったと思うぞ』
「い、いや、生まれてこの方僕は転売なんてしたことないけど」
なんだ? もしや転バイヤーか? 起動して問題がなかったらリセットして売り飛ばすつもりか?
ならば残念ながら未開封のほうが高かったと思うぞ』
「い、いや、生まれてこの方僕は転売なんてしたことないけど」
この少年はダブったトレーディングカードを売ったことすらないのである。
「その……驚いたから」
『驚いた?』
「うん……神姫を手に入れるつもりなんてなかったから……
まさか、ゲームの特別版の特典で付いてくるなんて」
『……なんだ、公式サイトを見ていないのか?
ちゃんと神姫ナギが付属すると書いてあったと思うのだが』
「……はい、確かに書いてあったんですけれども」
『驚いた?』
「うん……神姫を手に入れるつもりなんてなかったから……
まさか、ゲームの特別版の特典で付いてくるなんて」
『……なんだ、公式サイトを見ていないのか?
ちゃんと神姫ナギが付属すると書いてあったと思うのだが』
「……はい、確かに書いてあったんですけれども」
公式サイト及びコナミスタイルで予約時に二目見て以来今まで忘れていた、とは言えないわけである。
「その、僕予約の内容とか気にせずに予約するから」
『……』
『……』
その言葉を聞いて、少女は顔を背ける。
『それでは私が傷つくではないか……』
「え、え?」
『だってお前は、私を心からは必要としていないんだろう?』
「え、え?」
『だってお前は、私を心からは必要としていないんだろう?』
神姫というものは基本的には買った人に必要とされているからこそその人の下へ行くのであるが、
この少年の場合は『武装神姫ナギ』が付属することを知らなかったわけである。
捉えようによっては、必要とされていない、とも感じてしまうかもしれない。
この少年の場合は『武装神姫ナギ』が付属することを知らなかったわけである。
捉えようによっては、必要とされていない、とも感じてしまうかもしれない。
「そ、そんなことないよ!
えっと……お、お嬢様?」
『ん、お嬢様?』
「だって君はナギなんでしょ? だからお嬢様」
えっと……お、お嬢様?」
『ん、お嬢様?』
「だって君はナギなんでしょ? だからお嬢様」
この神姫である少女の元となった人物、ハヤテのごとく!のヒロイン、三千院 ナギは圧倒的材力を持つお嬢様、という設定である。
『あぁ、そういえば設定がまだだったな』
「え、せ、設定?」
『……神姫を手に入れる予定がなかったのなら知るわけがないな。
仕方ない、教えてやろう、まず私のマスター……つまりお前のことを私がどう呼ぶかを決めるのだ』
「ま、マスター……」
『あぁ、マスターになる気はないのだったか?
別になりたくないのならいいぞ、誰かハヤテ好きの知り合いにでも引き取ってもらえ。
それかやっぱりヤ○オクにでも出したらどうだ、私としても私を落札してくれるなら大事にしてくれるだろうからな』
「い、いや、なります!
えっと、僕、ハヤテのごとく!が大好きですから!」
『……そうか。
その言葉に、嘘はないな?』
「ありません!! 絶対に!」
『……ほう』
「……」
「え、せ、設定?」
『……神姫を手に入れる予定がなかったのなら知るわけがないな。
仕方ない、教えてやろう、まず私のマスター……つまりお前のことを私がどう呼ぶかを決めるのだ』
「ま、マスター……」
『あぁ、マスターになる気はないのだったか?
別になりたくないのならいいぞ、誰かハヤテ好きの知り合いにでも引き取ってもらえ。
それかやっぱりヤ○オクにでも出したらどうだ、私としても私を落札してくれるなら大事にしてくれるだろうからな』
「い、いや、なります!
えっと、僕、ハヤテのごとく!が大好きですから!」
『……そうか。
その言葉に、嘘はないな?』
「ありません!! 絶対に!」
『……ほう』
「……」
少年は15年間生きてきて中で一番今までになく真剣な目を少女に向けて言った。
『ならばお前は。
私とハヤテの出会った時の、ハヤテの告白のシーンを一字一句言えるのか?』
「……」
私とハヤテの出会った時の、ハヤテの告白のシーンを一字一句言えるのか?』
「……」
沈黙が走る。
目を閉じて、息を整えた。
目を閉じて、息を整えた。
『まあ、流石にそれは冗談……』
少女が言い切る前に少年はゆっくりと目を開け、口を開く。
「僕と…付き合ってくれないか?」
『へ?』
『へ?』
少女に確認をとる間もなく、それを演じ始める。
「僕は君が欲しいんだ」
『なっ……』
『なっ……』
真剣さが伝わる。
先ほどとはまるで違う気迫に、思わず後ずさりをしてしまうほど。
先ほどとはまるで違う気迫に、思わず後ずさりをしてしまうほど。
「わかってるさ!! だがこっちだって本気だ!!」
『……』
『……』
その真剣な眼差しに思わず彼女は……
『で…でも!』
そのシーンのナギの役を、無言で引き受けた。
「こんな事、冗談じゃ言わない…」
吐息のかかる距離。
完全に役にのめり込む二人。
完全に役にのめり込む二人。
「命懸けさ……
一目見た瞬間から…
君を…」
一目見た瞬間から…
君を…」
犯罪者の目。
……をするハヤテを完璧に演じる。
……をするハヤテを完璧に演じる。
「君をさらうと決めていた。」
『………………』
「………………」
『………………』
「………………」
二人はしばらく見つめあう。
そして、『ナギ』は口を開いた。
そして、『ナギ』は口を開いた。
『本気の想い……
伝わったぞ』
「……
シャキーン」
『擬音まで言わんでいい』
「……ごめん」
『……フ』
伝わったぞ』
「……
シャキーン」
『擬音まで言わんでいい』
「……ごめん」
『……フ』
少女は笑顔で『ハヤテ』に言う。
『合格だ。
お前の想いは本物だな』
お前の想いは本物だな』
少年も笑顔になり、少女に言う。
「君に合格をもらえるなんて……光栄だな」
『私も、お前がマスターならば安心できそうだ。
さっきの言葉は撤回しよう』
「……ありがとう」
『私も、お前がマスターならば安心できそうだ。
さっきの言葉は撤回しよう』
「……ありがとう」
ハヤテのごとく!を好きでよかった。
少女の言葉を聞き、少年は心からそう思った。
少女の言葉を聞き、少年は心からそう思った。
『では、続けよう。
なんと呼んでほしい?ご褒美にできるだけ希望に応えてやるぞ』
「呼び方……か」
なんと呼んでほしい?ご褒美にできるだけ希望に応えてやるぞ』
「呼び方……か」
なんて呼んで欲しい? 少年はそう言われたのは初めてだ。
「……ピンと来ないよ」
おそらく、それが普通である。
「例えば、どんなの?」
『そうだな、普通ならば「マスター」やら、お前の名前やら。
それとも「私の執事」、とでも呼ぼうか。
そうだ「バカ犬」でもいいぞ。
望むなら「兄さん」とも呼んでやらないこともないが』
「例えば、どんなの?」
『そうだな、普通ならば「マスター」やら、お前の名前やら。
それとも「私の執事」、とでも呼ぼうか。
そうだ「バカ犬」でもいいぞ。
望むなら「兄さん」とも呼んでやらないこともないが』
バカ犬、兄さん。
どちらもハヤテとは関係のない作品である。
声を当てている声優は同じであるが。
その縁でハヤテのごとく!でネタにされたこともある。
どちらもハヤテとは関係のない作品である。
声を当てている声優は同じであるが。
その縁でハヤテのごとく!でネタにされたこともある。
『……推奨は全くしないが、「下僕」やら、「豚」やら、「そこのお前」、「そこの人」でも』
「……普通に僕の名前で」
「……普通に僕の名前で」
ナギの姿の少女にバカ犬およびほかの呼び方で呼ばれても違和感しかない、とハヤテは考えた。
きっとそれはハヤテのごとく!よりとらドラ!やゼロの使い魔がのほうが好きな人でも同じことであろう。
きっとそれはハヤテのごとく!よりとらドラ!やゼロの使い魔がのほうが好きな人でも同じことであろう。
『まあそれが無難だな。
では……あ』
では……あ』
少女は何かを思い出したように、話を中断し口が空いたままにした。
『そういえば、名前を聞いていなかったな。
お前、名前は?』
「名前……僕の?」
『そうだ、どうした、早く言うがいい』
「うん……僕の名前は」
お前、名前は?』
「名前……僕の?」
『そうだ、どうした、早く言うがいい』
「うん……僕の名前は」
吐息のかからない距離。
机の上の少女の眼を真っ直ぐと見て、少年はその名を言う。
机の上の少女の眼を真っ直ぐと見て、少年はその名を言う。
「ハヤテ」
『え?』
「鷹峰 颯 。
僕が憧れた君の執事と……同じ名前だ」
『え?』
「
僕が憧れた君の執事と……同じ名前だ」
ハヤテのごとく!の主人公、綾崎ハヤテはヒロインである三千院ナギの執事という設定である。
その、自身と同名の『綾崎ハヤテ』の、何があっても、どんな不幸があっても挫けずに立ち向かっていく『ハヤテ』の姿に。
『ハヤテ』にハヤテは憧れた。
『ハヤテ』の勇姿を見た瞬間……彼はハヤテのごとく!のファンになったのだ。
その、自身と同名の『綾崎ハヤテ』の、何があっても、どんな不幸があっても挫けずに立ち向かっていく『ハヤテ』の姿に。
『ハヤテ』にハヤテは憧れた。
『ハヤテ』の勇姿を見た瞬間……彼はハヤテのごとく!のファンになったのだ。
『ハヤテ……か……お前……』
「ん?」
『……まさか名前を詐称などしていないだろうな?』
「してない!
ええい!! だったらこれを見よ!」
「ん?」
『……まさか名前を詐称などしていないだろうな?』
「してない!
ええい!! だったらこれを見よ!」
ハヤテは生徒手帳を取り出し、個人情報の乗っているページを見せた。
まだ高校に入学していないため、中学時代の生徒手帳であるが。
まだ高校に入学していないため、中学時代の生徒手帳であるが。
『おぉ……!! こ……これは……!!』
「ふふん」
『随分と無愛想な顔の写真だな』
「君に言われたくないし見るべきところはそこじゃない!
それにその時は眠かっただけ!」
『おぉー、本当に名前はハヤテではないか!!』
「だから最初っからそう言ってるじゃない!
……流石に苗字は綾崎じゃないけどね」
「ふふん」
『随分と無愛想な顔の写真だな』
「君に言われたくないし見るべきところはそこじゃない!
それにその時は眠かっただけ!」
『おぉー、本当に名前はハヤテではないか!!』
「だから最初っからそう言ってるじゃない!
……流石に苗字は綾崎じゃないけどね」
ちなみに『綾崎』及び『三千院』という苗字は実在しないそうである。
『まあ、ならばいいのだ。
なんというか、呼びやすくて良い』
「それは……よかった」
『では、次は私の名前だ。
いい名前をつけるのだぞ、一生物なのだからな』
「え?」
なんというか、呼びやすくて良い』
「それは……よかった」
『では、次は私の名前だ。
いい名前をつけるのだぞ、一生物なのだからな』
「え?」
名前。
(この少女に付ける名前なんて一つしかない)
ハヤテはそう思うのだが、一応聞き返す。
(この少女に付ける名前なんて一つしかない)
ハヤテはそう思うのだが、一応聞き返す。
「ナギじゃ……だめなの?」
『いいや、ダメではない。
だが、ゲームでもデフォルトネームと言うものがよくあるだろう?
私で言えば「ナギ」はデフォルトネームなのだ、別に変えてもかまわないぞ。
別に魔法少女モノが好きならフェイトと呼んでくれてもいいし、全く関係ない名前をつけても構わないのだ』
『いいや、ダメではない。
だが、ゲームでもデフォルトネームと言うものがよくあるだろう?
私で言えば「ナギ」はデフォルトネームなのだ、別に変えてもかまわないぞ。
別に魔法少女モノが好きならフェイトと呼んでくれてもいいし、全く関係ない名前をつけても構わないのだ』
(あぁ、そういう事なんだ)
しかし、ハヤテにとってはこの少女を『ナギ』以外の名前で見ることはできなかった。
しかし、ハヤテにとってはこの少女を『ナギ』以外の名前で見ることはできなかった。
「でもやっぱりナギはナギじゃないと……しっくり来ないな」
『そうだな、キャラクターの名前を勝手に変えてプレイすると違和感があることもある。
それはそれで懸命な判断だな』
「そ、それはどうも……」
『ということは、私の名前は「ナギ」でいいんだな?』
「うん、もちろん」
『わかった、それじゃあ私の名はナギだ。
よろしく頼むよ、ハヤテ』
『そうだな、キャラクターの名前を勝手に変えてプレイすると違和感があることもある。
それはそれで懸命な判断だな』
「そ、それはどうも……」
『ということは、私の名前は「ナギ」でいいんだな?』
「うん、もちろん」
『わかった、それじゃあ私の名はナギだ。
よろしく頼むよ、ハヤテ』
ナギはハヤテに向かって微笑んだ。
「う……!」
その笑顔にハヤテは思わずキュンとしてしまった。
この瞬間、ハヤテの中でナギの株が鰻登りだったことは言うまでもない。
この瞬間、ハヤテの中でナギの株が鰻登りだったことは言うまでもない。
『ところで、早速だが私は疲れた。
クレイドルを出してくれ』
「……」
『……おい、ハヤテ?』
「えっ?
あ、あぁ、はい、何?」
『……クレイドルを出せと言っているのだ』
「ク、クレイドル?」
『私の入っていた箱に一緒に入っていなかったか?』
クレイドルを出してくれ』
「……」
『……おい、ハヤテ?』
「えっ?
あ、あぁ、はい、何?」
『……クレイドルを出せと言っているのだ』
「ク、クレイドル?」
『私の入っていた箱に一緒に入っていなかったか?』
その言葉を聞いて、ハヤテは箱の中を探す。
すると、比較的大きめな白い物体を見つけた。
すると、比較的大きめな白い物体を見つけた。
「えっと、これ?」
それを取り出してナギに見せつける。
『おぉ、それだそれだ!』
ナギは早く早く、と言わんばかりにクレイドルに向かって両手を伸ばしている。
「えっと、どう設定すればいいの?」
『適当に組み上げてUSBのケーブルをパソコンに差し込めばいい』
『適当に組み上げてUSBのケーブルをパソコンに差し込めばいい』
(大雑把すぎるって……)
そう思いつつもハヤテはナギのために設定をする。
パソコンにUSBケーブルをつなげるという組み上げると言っていいのかわからないほど短い手順であったが。
パソコンにUSBケーブルをつなげるという組み上げると言っていいのかわからないほど短い手順であったが。
「……組み上げた(?)けど」
パッと見ハヤテには、この物体の正体が何かわからなかった。
「これ、何?」
『簡単に言ってしまえば、充電器だ』
『簡単に言ってしまえば、充電器だ』
(これで充電器なんだ)
「でもこれ……どうやって充電するの?
ナギにこれのどこかにある何かを差し込めばいいの?」
『いいや』
ナギにこれのどこかにある何かを差し込めばいいの?」
『いいや』
ナギはクレイドルの上に乗り、それに横たわりながら言う。
『この上で寝ていれば、勝手に充電されるのだ』
「……へぇ」
「……へぇ」
(最近の充電器って、進歩してるなぁ)
そう思いながらハヤテは呟く。
「……科学の力ってすげー」
『まぁというわけで私は寝るぞ、起動したばかりでエネルギーが少ないのだ。
夜には充電が終わるはずだ、話なら後にしてくれ』
「え、あ、あの……」
『Zzz……』
『まぁというわけで私は寝るぞ、起動したばかりでエネルギーが少ないのだ。
夜には充電が終わるはずだ、話なら後にしてくれ』
「え、あ、あの……」
『Zzz……』
ハヤテが止める間もなく、ナギはクレイドルで眠りについてしまった。
「……」
ナギの寝顔を見ながら、ハヤテは呟く。
「武装神姫……か」
ひょんなことから神姫のマスターになってしまった少年、鷹峰ハヤテ。
これは、ナギや友人とともに駆け抜けた、ハヤテの激動の高校生活を綴る物語である。
これは、ナギや友人とともに駆け抜けた、ハヤテの激動の高校生活を綴る物語である。
プロローグ
「悪夢の楽園より」 完
「悪夢の楽園より」 完
『学校……お前、ニートじゃなかったのか』
ハヤテ「あくまで、執事ですから……」