ゆっくり堂 混ざるな危険

 陰と陽、男と女、光と闇、対立概念は数あれど、混ざってもらっては困るものもあるようで……?
 好評不評は不明なれど、続きを書きたきゃ仕方がない。
ゆっくり堂、誰得の第五段!


ゆっくり堂 第五段 混ざるな危険



 反物質という、普通の物質と触れ合えば消滅してしまうものを、外界の人間たちは作り出そうとしているらしい。
その関係で、加速器という物質を作り出す力のある道具で、マイクロブラックホールというものが出来、星を食ってしまうかもしれない、という話を読み、これが幻想入りしたということは、今のところその心配は無いわけだ、と霖之介は安堵した。

 最近は騒がしい香霖堂であるが、騒がしさのもとであるまりさはというと、アリスおねーさんとピクニックに行ってくるぜ! などと言っており、持たせてやる弁当づくりやら、見送りやらで、関係ないはずの霖之介の方が忙しいというありさまであった。

 もっとも、文句を言いながらも完璧にこなせた、という自負はある。
伊達や酔狂で一人身が長い訳ではないのだ。

「…………」


 なぜか、空しくなった。


 とはいえ、久方ぶりにだれも居ないというわけで、心置き無く本を読み、茶をたしなむことが出来るわけで、それはそれで良いことではある。客商売でなければ。

 やれやれ、と霖之介はため息をつく。
奉公していた霧雨の親父さんならば、ため息をついている暇があれば、営業でもやってこい、と叱責を飛ばしそうなものである。
が、あいにく取り扱っているのは希少度は高くとも、買い手の方の希少度も高い外界の道具である。
多少営業をした程度で売れるならばいざ知らず、そうではない。あまつさえは、ほかに競争相手も居ないのであれば、別にがつがつとする必要もない、という理由があり、彼も呑気なものではある。

 からんからんというカウベルの音が、本のページをめくる前の彼の耳に届く。
なるほど、今日は幸先が良い。さっそく客か、それ以外だ。それ以外ならば、ツケを払ってもらうこととしよう。

「たのもー!!!」

「たのもー!!!」

 いらっしゃい、と言おうとした霖之介は、耳に届く大音上に、いささか鼻白む。
いやに子供っぽい声だから、これはひょっとして妖精かもしれない、と身構えるが、あてが外れていた。
そこに居たのは、チルノを元にしたゆっくりと、最近神社で温泉卵をくわえている地獄烏のゆっくりであった。

「……いらっしゃい、今日は何をお求めで?」

「ええっとね、うーんとね」

 ちるのは何かを必死に思い出そうとし、そして、地獄烏を元にしたうつほは、それをみてどこか得意げだ。

「あたしわかるよ!……えーっとねー」

 得意げな調子で始めたうつほは、だんだんと眉間にしわを寄せ始める。
必死に言葉をひねり出そうとし、しかしそれがかなわず、目の端に涙すら浮かべ始めた。

「う、うにゅううう……」

「やーい、ばーかばーか」

 いや、それはそっちもそうだろう、と霖之介は口から突いて出そうになる。
とはいえ、さすがに顧客ではあるようなので、迂闊なことは言えない。

「ば、ばかってゆーな! ばかっていったほうが馬鹿なんだぞ!」

「あたいは馬鹿じゃないもん! うにゅほだもん!」

「ちるのだって!」

「ちがうーっ!」

 ああ、子供の喧嘩ですね、わかります。などと霖之介はつぶやく。
なにやら、外の世界ではこのように言うのがしきたりらしい。

「……ほらほら、喧嘩をするなら外でやりなさい」

 こう言うときには、気勢を削ぐのが一番である。
わざわざ外に行ってまで喧嘩をしようとは思わないし、なにより、外に行ってまでやるようなことでもない。

 だが、ぎゅう、と押した拍子に、うにゅほとちるのの体が、触れた。

「あ゛」

 その瞬間強烈な光を発し、うにゅほとちるのは一瞬で霧散した。
何が起こったのかわからないが、ひょっとすれば、彼女たちは外の世界から幻想入りした、反物質と正物質のセットだったのかもしれない。
だからこそ、口喧嘩をしつつも、決して触れはしなかったのだ。

 いや、この理屈ならば、真っ先に触れたはずの霖之介が消滅していなければおかしく、説明が不能だ。
などと考えて、しかし答えなどでそうもないな、と思って文机に戻ろうとすると、そこにはちるのとうにゅほが鎮座していた。

「……僕はどういう反応をすればいいんだろうね」

 そう言うと、ふたりはにまあ、と笑って、こう言った。

「あたいたちね!」

「お茶とおいしいまんじゅうがこわいんだよ!」

 なるほど、お茶菓子を引き出すための一芝居だったらしい。
今回は、面白いものが見られたことと、してやられた事に免じて、おとなしくお茶と美味しい饅頭を出してやることにしよう。
霖之介は、知恵者二人のおでこを軽く小突いてから、お勝手に向かった。

ゆっくり堂 第五段 まざるな危険 了



あとがき

 W-ZERO3って、無線LANが使えたんですよね……すっかり忘れてました。というわけで、そこからうpしてみますですだよ。

ゆっくりと動物の人

  • 芝居かい!
    このゆっくり達てばモデルになった当人よりも頭が良さそうだな。 -- 名無しさん (2009-05-11 07:34:32)
  • いやまあ、あの二人も結構頭は良いと思いますよ? ベクトルがアレなだけで。
    ただ単に対消滅、ってだけでは芸がないかな、とおもって、少し捻ってみました。 -- ゆっくりと動物の人 (2009-05-11 20:55:02)
  • 消滅後の再生力ぱねぇw -- 名無しさん (2009-05-12 12:24:55)
  • 逆に考えるんだ、消滅自体がわりと演技っぽいと考えてみるんだ。 -- ゆっくりと動物の人 (2009-05-12 20:21:03)
  • 実際にゆっくり程度の大きさの物質と反物質が対消滅したら
    地球が吹き飛ぶほどの爆発が起きるぞw -- 名無しさん (2012-10-13 16:53:10)
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最終更新:2012年10月13日 16:53