小ネタ212 きめぇ丸のからだ

 ドラム式の洗濯機がごうんごうんとモーターを駆動させる音を立て、洗剤を溶かした水を、洗濯物に浴びせている。きめぇ丸はその前を、ひゅんひゅんと風を切りながら飛んでいた。これだけならばまだ正常な光景ではある。

 もっとも、洗われているのがきめら丸でなければ、の話だが。

「おお、おそいおそい」

 何事だ、これは、と男は声をかけるが、しまいこんでいた冬服が汚くなっていたので洗うという理屈である。なるほど道理であるが、あれが冬服か。

 きめぇ丸をじっと見ていると、いつの間にやら振り返り、彼女はほほを紅色に染めていた。

「おお、はだかはだか」

 それは失礼、と男は居心地の悪い思いをするが、しかし裸も何も、そもそもああいう生き物ではないのだろうか。

 が、考えるだけ、無駄である。男は腰を下した。

「やめてください、死んでしまいます」

 何事かと思えば、きめら丸がごうんごうんと回されながら、きめぇ丸への恨みごとを吐いている。どっちが本体なのか。

「おお、わたしわたし」

「いえ、わたしです」 

 どっちでも良かったようだ。しかし、男は何の用で来たのだろうか。さぐってはみるが、とんと記憶にない。

「何言ってるんですか、貸したものを返してもらいに来たんですよ」

 きめぇ丸はそう言う。何を借りたのか、そんなことを考えているうち、きめぇ丸はいつの間にか男の頭のうえに乗る。

「おお、体体」

「おお、抜け駆け抜け駆け」

 男が返すべきものは、きめぇ丸の体だった。彼はきめぇ丸の体だったのである。

  • まさにショートホラー。きめら丸ボディが凄くシュールですねw -- 名無しさん (2009-05-15 10:48:07)
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最終更新:2009年05月15日 10:48