緩慢刀物語 紅魔章 前-1

※編注:容量制限により分割

 このお話は作者鬱なすが西尾維新作『刀語』にインスピレーションを受けて書いた作品。まぁ悪く言えばパクリです。
それでも良いという人はどうぞ。長い上にまだ前半です。



 これは人間達と人間が生まれた頃から共に暮らす動くお菓子「ゆっくり」の物語。
太古の昔から人間とゆっくりは共に狩りをし、クニを作り、時には争い合ったりしたもののその共生関係を破綻させることなく愉快に暮らしてきた。
ある時は人間がクニを治め、ある時はゆっくりが国を治める。そんな時代を何度も繰り返して、今乱世の世に至る。
これは刀を求めるゆっくりと刀を携えて彷徨う少女の旅物語である。


泡剣「升斗形鬼」紅魔章 紅刀「鉄血」


 時は弦早45年、東の海に浮かぶ島日元の国は大きく二つの地方に分かれ大規模でないにしても互いに争っていた。
一つは西に大きく広がる神の国、守屋。そしてもう一つは守屋と比べて土地こそは少ないが軍事力に秀でる力の国、博麗。
そしてそんな二つの国が争う時代の中、刀を持ち武士と呼ばれる人々やゆっくり達が台頭していった。
人が持つ刀は人に合わせ力強くそして硬く。ゆっくりが持つ刀はゆっくりに合わせ脆くとも軽く、そして生まれ変わる。
その様に時代に合わせ生物も刀もまた進化していった。
この乱世の時代。一人の少女とひとつのゆっくりは進化していく刀達を求め、果てしない終着点へと誘う旅を続けていく。
と言うわけで(自称)乱世痛快娯楽緩慢劇緩慢刀物語始まりまっす!


「あ~旅って楽じゃないね、いいねみょんさんは足が無くて」
 ほんのり暖かくなった四月の中旬。遠い向こうに水平線が一望できる海沿いの道を一人の少女と一つのゆっくりがとぼとぼと草臥れた様子で歩いている。
遠くから見れば単なる旅人に見える二人だが近くで見ることによってその異質さは浮き彫りになって目に見えてくる。
 少女(注:十代の女性。空を飛ばないがこう指す)はその藍色の髪に横一尺縦五寸ほどの大きくて紅い洋物のリボンを付けている。
それ以外に髪の装飾品はないが如何せん髪の長さが腰まであるため色彩と共にそのリボンは少女によく似合い、よく目立っていた。
 そしてそれとは対照的に少女はその矮躯な身体に似合わない刀を腰に差している。
それをほんのちょっと下にずらせば先端が地面に付いてしまいそうだがその刀はまるで作りたてのように傷一つ無い。
ただそれは鞘や鍔など外見上であって中の本体がどうであるかははっきりしなかった。
 少女と並んでとぼとぼ跳ねていくゆっくり(注:動く生首お菓子。この場合は柏餅)は白い髪を携え黒いリボンを付けている。
言うなればゆっくりみょん。隣の少女と比べ至って普通のゆっくりみょんだった。見た目月並みである。
「ぴょんぴょんはねているこっちの身になってほしいでござる。ああ、スィーでも持ってくれば良かったみょん」
「スィーかぁ、たまには乗り物に乗って移動したいね。船とか」
「……………次の港町はただ立ち寄るだけだみょん」
「ちぇっ」
 少女は口を尖らせてそのみょんに文句を言う。ただ次向かう港町は主に外国との貿易を中心に行っていることを知ってるためか
単なる軽口にとどまった。もしかしたらこのゆっくりは自分を外国に売り飛ばしてしまうのかという恐れさえもあったのだ。
「人聞きの悪い……」
「いくら私が五十億円で売られたとしてもこの刀だけは絶対に売らないからね!」
「…………………」
 ツッコミ所が二つある。みょんは一気に二つツッコめるスキルがないためそのまま苦々しい顔で少女の顔を見つめる事しかできない。
ただその表情がかなり真剣なことから少なくとも後者の方は本気で言っているように見えた。
「いるかな………良い刀鍛冶……」
「あるかな………いいお菓子……」
 二人とも勝手なことを口走りながら共に進んでいく。向かう先は港や海が紅く染まる町『暮内』。

「こりゃ紅い。紅いね」
 彼女たちが出会い、旅を始めてから約二日。ゆっくりと少女は紅い煉瓦を積み上げて作られた外壁で囲まれた町を見る。
中にある建物の殆どは紅い瓦を屋根に載せていて、たったそれだけで町が紅く染め上げられていたように見えたのだ。
「かたな殿。こう紅いとみょんは目が痛くなるでみょん。目がもれなく赤くなるでござる」
「…………みょんさん、何回も言うけど私の名前は彼方。『烏丸彼方』です!」
 自ら彼方と言った少女はやたら語尾の安定しないみょんに向かってそう憤慨した。
「それを言うなら、私の名前はみょんじゃないでござる。しっかりとよーむと言う名前があるんだみょん!」
「でもみょんじゃないですか!」
「よーむだみょん!!かたな殿!」
「か・な・た!!と言うかわざとやってるでしょう!」
「ああそうだみょん!いつもいつも刀のことばっか言ってるから今度からそう呼ぶみょん!」
「なにをー!!」
 些細な言い合いから二人は足を止め、互いに睨み合う。だがそんなつまらない啀み合いもみょんが目から赤い液体を出したことで急激に終結した。
「ぎゃあああ!!!だ、大丈夫ですか!みょんさん!」
「よ、よーむだみょん……」
 そしてみょんはそのまま顔を空に向けその場に転んだ。瞳から溢れる赤い液体は緩やかに目に溜まっていく。
溜まっていった液体はそのまま頬を垂れ、心なしか呼吸さえも弱々しくなっていくようにも思えた。
「みょ、みょんは……霊になる前に……一杯お菓子が食べたかったでござる……あ、おじいちゃんが見えた」
「ひええ、しっかりしてください!みょんさんは私の旅付き合ってくれるんじゃないんですか!?どうすればいいんですか!」
「……………それじゃ………団子、須天、そしてうまい棒を………30年分………」
「それじゃはりきって行きますよ、あと30年生きられるんだから」
 そう淡白に言い切って彼方はみょんを抱え城門をくぐり抜けていった。
   『暮内』
 そこはこの国日元で一番の規模と呼ばれる港町である。港では絶え間なく外国船が来港しそれによって様々な物品が右往左往と行き交い、
貿易による利益はこの国でも十本の指に入るほど莫大であると言われているのだ。
そしてこの町自体の特産品は紅瓦、紅苺と赤に関係したものが多い。
「その事からこの町は別名『全てが紅に染まる町』だそうだみょん」
「そうなんだ。で、大丈夫?目の方は」
「赤いのは屋根だけで良かったみょん……」
 かなり赤く染まっていた瞳もすっかり元の色に戻り、流れていた赤の液体もすっかり流れきっている。
瀕死だったのは演技だとしても目に関してはある程度までは回復したようだ。
「やっぱ名所なだけあって人の通りが多いでござる。かなた殿。子供ゆっくりを踏まないように」
「そんなことよりもさ、刀鍛冶だよ刀鍛冶。私たちの旅はそれが目的」
「…………そればっかでござるな。もっと余裕をでござるよ。ぶれすれっとぶれすれっと」
 常にせわしなく行こうとしている彼方に対しみょんはゆっくりしようとしている。
そんなみょんの態度が余計に彼方を苛立たせていった。
「みょんさん。酷いね。私は一生懸命頑張ってるのに。そうやって私を虐めるんだ」
「いや、そんなことは……」
「だったらさぁぁ!!!はやく!!」
「JAO!!たびびとさんですね!ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしね!」
 彼方が怒鳴るその直前突如足元からその様な声が聞こえてきた。
怒りを少し静め辺りを見回してみると足元にちっちゃいゆっくりめーりんとゆっくりふらんがいた。
「JAOOOON!このまち、おもにみなとにはいろんなものがあるんですよ!ぜひゆっくりみていってくださいね!」
「ふー!ふー!ゆっくりみてしね!」
「……………え、えと。ありがと。見てみるよ」
 その愛くるしい笑顔にすっかり毒を抜かれたのか彼方はめーりんとふらんが去った後でもすっかり意気消沈してしまった。
そんな彼方とは逆にみょんは妙にうきうきしている。
「…………ここは凄い町だみょん。見てみる価値はあるでござる。」
「…………あーもう!買い物してからね!お代はみょんさんもち!いいでしょ!」
 はいはい、と楽しそうな笑顔を見せてみょんはそう答える。
そして二人はそのまま港へと続く道を歩いていった。
 ふと横を見るとふらんとさくやが追いかけっこをしている。ふらんは楽しそうに、さくやは慌てた様子を見せていたため恐らくさくやが
子守をしているようだった。ちょっと見上げてみれば屋根の上にはめーりんがシエスタをしている。起こしてはいけない。
「む、むきゅう。たてばしゃくやくすわればぼたん、あるくすがたはゆりのはなよ」
「さすがですぱちゅりぃさま!」
 頭に本を載せたゆっくりパチュリーとゆっくりこあとすれ違う。言動から綺麗な歩き方を会得しているのではないかと思ったが
明らかに本を本棚一列分くらい載せていた。それを崩さずに移動しているのだから大和撫子どころではない。
「へぇ……ゆっくりって面白いね」
「?かなた殿の故郷にはゆっくりがいなかったのかみょん?」
「あんまりね。殆ど人間だった。ゆっくりは隣の国の方が多かったな」
 彼方はみょんを抱えながらゆっくり達が足元で動くのを何とか躱しながら歩きそして港まで辿り着いた。
沿岸には多くの外国船が停泊していてその前の広場では多くの露店で賑わっていた。
「うっひゃああああ!!すっごい!すっごいよ!」
 彼方も先ほどまでの不満そうな顔は何処へ行ったのやらその場の熱気に圧倒されはしゃぎ始める。
そしてみょんを放り投げてすぐさま近くの露店へと走っていった。
「みょ、みょん!」
「うわぁぁ!これ全部外国の食べ物?おねーさん見ていっても良い?」
「ゆっくり見てっていってね!」
 店員のこあくまが見てる中で彼方は様々な物を物色していく。
生意気だけどこういう可愛いところがあるんだなとみょんはぶつけた頭をさすりながらしみじみ思った。
「かなた殿~お金は持ってるでござるか~?」
「…………ん?」
 振り向いた彼方の頬はまるでリスであるかのように膨らんでいる。
そしてそれと同時に店員のこあくまも良い笑顔でみょんの方を向いた。
「とりあえず全部併せて五十七銭となります!」
「………………………ゴメン、貸して?」
「遅い」

「おお楽しい楽しい!ほら見て!ねぇこの金属の筒ってなんて言うの?」
 あの後みょんは渋々こあくまに代金を支払ったが彼方はそれを反省した様子もなく次から次へと買い漁っていた。
「MUKYU。それはパースエイダーよ。KATANAばっか使ってる日元ではいつかこれの時代が来ると思うわ。MUKYUU」
「なにを!刀の時代は永久だい!でもかっこいいなぁ」
「……………かなた殿。もうそろそろ……」 
「げぇ高い!ゴメンねガンちゅりぃさん。またいつか!じゃあね!」
 そう言って彼方は店主のぱちゅりーに別れを言い、そのままみょんの元に戻ってくるわけでもなくまた別の露店へと走っていく。
みょんはそんな彼方の破天荒さに頭を抱えたが一人でいるのも虚しくなってのでみょんも近くの露店へと駆け込んでいった。

「かなた殿?何処に行ったでござるかぁ~」
 みょんは彼方に渡したお金の八十倍を持って露店で買った熱々の肉棒を咥えながらすっかりはぐれてしまった彼方を探していた。
港は広く見つけるのに苦労するかと思ったが赤いリボンを目印にすることで意外と早くに見つけることが出来た。
「あ、みょんさん!ちょっと来て下さい!」
「MUKKYU!」
 彼方は露店で買ったのであろう様々な物を抱え、倉庫と倉庫の間で背の高い者と一緒にいる。
その者の肉体は鋼の如くそびえ立ち、厚さ一尺ほどの教典を片手で抱えそのゆっくりした目で彼方を見下ろしていた。
「え~ん変なぱちゅりーに捕まっちゃったよぉ!」
「OH~アナタはカミ、このクニのタクサンいるスピリットではなくいわゆるゴッドをシンジマスカァ~」
 どうやらゆっくりぱちゅりーの亜種である体付きのゆっくりまちょりーに絡まれてしまったようだ。しゃべり方も胡散臭い。
「みょん!ちょっと急いでるので失礼させて貰うみょん!」
「OH~ザンネンネ~」
 残念がるまちょりーを後にしてみょんは彼方の手を引きながら港の前の広場へと急いで駆け抜けていった。
「みょん!ああいう胡散臭い人にもゆっくりにも関わっちゃいけないでござる!」
「うう………だってさ、背が高くて人間だと思ったからつい抱きついちゃって……」
「抱きついたって……」
 だが一概にもそれを否定できない状況にある。この港、いや、この町に入ってから二人は一回も人間を見ていないのだ。
足元にゆっくりばかりいる状況に彼方も無理に神経を尖らせたのだろう。今まで人間に囲まれて生きてきた彼女にとって慣れない状況であったに違いない。
「それにしてもゆっくりって面白いね」
「それ二度目…………」
「うわああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!」
 それはあまりにも突然の事。どこからか知らない人が叫びながらいきなり「らぐびい」なら世界行けるほどのタックルをお見舞いして
そのまま二人共々地面を転がっていった。
「な、何ですかぁ!?眼盾!?」
「廿一じゃないみょん!普通の人間でござる!」
 抱きついてきたのは体付きのゆっくりでもなく、またオクフト(注:オクラフットボールの略)の選手でもない単なる普通の長身の女性であった。
その女性は涙を流しながら彼方の年の割には成長した胸元に顔を埋めている。とりあえず身動きが取れないので彼方とみょんは力尽くでその女性を引っぺがした。
「ふあっ人間!人間!ヒューマン!ひゅーまんりびんぐぅ!!!」
「落ち着いて下さい!いきなり抱きつかれたからびっくりしました!」
 どうどう言いながら彼方はその女性の頭や背中をぽんぽんと軽く叩く。
それを何回か続けている内にその女性はまるで全身骨格が全て崩壊したかのようにその場で身体を崩した。
「ふにゃあ………!!!あ、ソ、ソ、ソーリー!!!アイムソーリー!」
「そり?」
「あ、ご、ごめんさない!噛んだ!すみまへんっ!今までずっとゆっくりばっかで人間を初めて見へ……また噛んびゃ!ぎゃぶう!!今度は舌ぎゃあ!」
 どうやらこの女性も先ほど彼方がしたのと全く同じ心情で豪快なタックルをかましてくれたようだ。
とにかくこんな様子ではまともに会話が出来ないので二人はこの女性が完全に落ち着くまでしりとりすることにした。
「かにみそ」
「素麺」
「あ………あの……ぎょめんなさい。いきなり飛びついてしまって。」
 ほんの二秒だけの戦いだったがこのしりとりは熾烈を極め、そして勝者が栄光を手に入れていった。
そして女性が何とか正常に言葉を発すると同時に二人は身体軸を中心にそちらの方を向ける。
「ああ、大丈夫ですよ。私にも同じ様な前科がありますし」
「みょんみょん。気にすることないみょん。こんな子ですし」
 すかさず彼方はみょんの身体を掴みそのまま軽く雑巾のように絞る。そんな状態でも慣れてるのかみょんはいつもの太々しい笑顔を見せていた。
「あ、あの、そんなことしたらそのゆっくりさんが……」
「いや~意外とこのみょんはタフだよ。ぽいっと」
 そう言って彼方はすっかり捻られたみょんをすぐ横に投げる。すると何回か跳ねた後みょんの身体はあっと言う間に元の丸っこい姿に戻っていった。
「…………………………………」
「どうしたの?みょんさんからちょっと離れちゃって。生意気だけど口を塞げば可愛いよ~」
「それはこっちのセリフみょん~」
 そう気楽に話しかける二人だがその女性のみょんを見る目は何処かしら恐怖しているように見える。
試しに彼方は女性にみょんを差し出してみると女性は怯えた様子で後ずさった。
「かわいいのに」
「た、確かに可愛いですけど………でも………ゆっくりと接してるといつか潰しそうで怖くて怖くて……」
「なるほど。」
 適度に頷きながら彼方はみょんを拾い上げそしてそのまま有無を言わさずにそのみょんを女性の胸へと押しつけた。
「きゃうんっ!」
「大丈夫だって。ゆっくりもこうして生きてるの。人間ほど硬くはないけどそんな脆くもない」
「そうみょん。うぷぷ」
 女性はその押しつけられたみょんを少しの間見つめ、そして手を震わせながらもみょんに直で触れていった。
指がみょんの肌に触れるたびに女性の呼吸が乱れていく。そんな様子を見ながら彼方は腕を振りながら激励の言葉をずっと女性にかけていた。
「そう、そのまま抱いて。柔らかいでしょ?その感触を忘れないで。」
「は、はい……」
「もっと包み込むように。貴方がお母さんになった時同じ様に抱くの。それを想像して」
「母の気持ちで…………」
 指から腕に。二つの腕でみょんを抱える形にどんどん移り変わっていく。
一寸、一寸ずつみょんと女性の距離が近づいていく内に呼吸と鼓動が収まっていく。そして女性は全身でみょんを抱きしめた。
「ああ、柔らかい………痛くないですか?」
「全然痛くないみょん。むしろ気持ちいいみょん」
 何時しか身体の震えは収まり、女性はその恐怖を乗り越えた余韻に酔いしれみょんを抱えたその腕を胸に近づけていった。
「……………………私。誤解してました。ゆっくりって弱くないんですね」
「うぷぷ、弱かったら今の世の中ゆっくりはいないみょん……うぷぷ」
「ああ………それにしても柔らかいなぁ、こんにゃに柔らかいならもっと早くに抱いてるべきでひた。むにむにむにむひむにむにむにむにむに」
「……………………………あの……ちょっと」
「?何です…………………あ、」
 それはさながらクラインの壺のよう。長い間女性の腕に抱かれていたみょんはその腕の跡を残し、すっかり真ん中が括れていた。
「ナイススタイルというと思ったら大間違いでござる!」
 みょんはそんな状態になりながらそんな事ほざいていたが、もちろん二人はその光景を見てそんな場違いなことを言えるわけがなく
唯々申し訳なさそうにその括れを見つめることしかできなかった。

 その後、女性はみょんと彼方にお礼をしたいと言い、その誘いにホイホイ乗った二人は誘われるままに近くの茶屋へと訪れていた。
最初二人は見慣れない紅く彩られたモダンな茶屋を見てぎこちない様子でいたが、そんな二人も日元では味わえない紅茶の魅力には敵わなかった。
「ああ、お茶紅ぇwww まじうめぇwww」
「そうだ、名前言い忘れてましたね。私の名前は柏木 重と言いまふ。この間まで外国に留学してたから言葉がつたにゃいかもしれませんが宜しくお願いしまふ」
「拙いとか関係無しに噛み噛みじゃん………ああ、うめぇwww」
 茶屋の中は彼方達の他に多くのゆっくりで賑わっていて、その賑わいを眺めるように店主のめーりんがカウンターで眠っているように佇んでいる。
店の奥からは外国の絡繰りが『上海紅茶館』の曲を流していた。良い曲ではあるのだが店主のことを考えると多少自画自賛のようにしか思えない。
「留学って一体何でござるか?」
 浴びるように紅茶を飲み続ける彼方と違ってみょんはティーカップを髪で掴みそのまま音を立てずに呑んでいる。
身体の括れも完全とはいかないまでも殆ど元の丸顔に戻っていた。
「主に料理でふ。トリスティンやヴィントブルーム、ネオヴェネチアとか様じゃまな国で勉強してきました」
「へぇ~料理かぁ………外国の料理食べてみたいな」
 そう言ってがばがば紅茶を飲みながら重を妙な視線で見つめる彼方であったが重は申し訳なさそうな口調で口を開いた。
「すみましぇん……あ、噛んだ。外国の料理って日元にはあまり無い食材ばかりだからすぐ作るのは難しいと……」
「……………じゃあなんで留学しに行ったの……意味ないじゃん」
「そ、それは………………いわゆるわよーせっちゅーですよ」
「また外来語を……………」
「日元語でござる」
「う…………ご、ごめんなさひぃ………ごめんなきゃいいいいい!!!!!」
 重はそんなふて腐れながらも紅茶を何杯もおかわりするなどと不遜な態度を取る彼方に対し申し訳なく思ったのか、立ち上がって頭を下げた。
その謝罪は周りの人々を驚かせるくらい誠実かつ本気で、謝られた彼方の方が申し訳なく思えるほどであった。
「……………ご、ゴメンゴメン言い過ぎた」
「その気になれば港の露店で買ってくることもします!何か食べたいものとかありますか!?」
「………………外国の料理しらないよぉ」
「みょんも同じく」
 二人の言葉を聞いて重は残念そうに肩を落とす。それが理由かは分からないがつられるように店の中の雰囲気もどんよりとしてしまったようだ。
さらに重はその雰囲気をもろに感じ取って余計に気を落としてしまった。もはや背景に縦の効果線すら見える。
「……し、しかしお茶だけでは物足りないみょん。何かお菓子はないのかみょん?この町名物とか」
 みょんはそんな空気をどうにかしようとそう慌てた様子で店主に向かいそう言った。
「…………むにゃ。あ、はい!今すぐ持ってきますじゃおん。」
 先ほどまで佇むように寝ていた店主はみょんの言葉を聞いて俊敏に店の奥へと駆け込む。そして30秒も経たないうちに店主は三つの皿を持ってきて
それらを重達の目の前に置き、またカウンターに戻って寝始めた。
「ぐぅ………この町特産の紅苺を使ってみました。じゃおん……すぅぴぃ」
 寝言のようにそう言う店主。と言うかほぼ寝言。
三人の前に出された皿の上には白い球形の物。それはゆっくりまりさを構成するお菓子として有名な大福であった。
「…………え、苺?」
「ウ・ニュー………日元の大福ですね。てっきり苺と言うから洋菓子かと思いました」
「どきどき」
 彼方は驚いたような表情で、重は少し疑っているような表情、そしてみょんはというとその大福を目の前にして目を輝かせていた。
「苺と大福が絡まって生まれる新食感。苺の酸っぱさがあんこの甘さをどう引き立てるのか!ぱないの!」
 嬉しそうにみょんはそうはしゃぎ、その両もみあげで大福を掴みそのまま口の中へと放り込んだ。
満面の笑顔を周りに撒き散らし、むーしゃむーしゃと言う擬音とセリフを発しながら咀嚼していくみょん。
だが十四回目の咀嚼が終わった時点でみょんは時が止まったかのように動かなくなった。
「………………………………みょみょみょみょみょみょみょ(注:放送禁止用語は全てみょん語で翻訳されます)」
「ZZz………じゃお?」
「みょーーーっくみょーーーーんッッッ!!!」
 そう叫んだ次の瞬間みょんは口の中から青みがかった黒くて透き通った長いものを取り出しそれを店主に向かってじりじり寄り始める。
そして一気にその間合いを詰めその棒を内部に当たらない程度にめーりんの口の中に突っ込んだ。
「じゃ!じゃおお!!お客様!何を」
「だまれぃ!この外道剣羊羹剣のサビとなりたいカァ!!!」
 みょんの突飛な行動に店内の誰もが驚きその場から動く事が出来ない。そんな状況の中彼方は大福を頬張りながらみょんとめーりんの間に駆け込んだ。
「まぁまぁ殿中でござる。殿中でござる。おいしいじゃんよ、これ」
「…………………………かなた殿は分かっておらぬ様だみょん…………」
 みょんは一度羊羹剣を口の中に仕舞い、彼方が咥えていた大福を取り上げそれを店主へと突きつけた。
「店主殿……………この明かに手抜きなお菓子は何でござろうか………?」
「じゃじゃお………それはいちごだいふくです。手抜きと言われても………」
「テメェーーーーーーーーーーーッッッッッ!!ナメてんのかッ!こんなの大福の中に苺入れただけじゃねェェーーーかッ!!!
あんこの甘さと苺の甘さがクドいだけなんだよッ!口の中が一瞬おかしくなっちまいそうだったじゃねぇかッッ!喉が渇くわッ!
その上苺特有の酸味もあるから余計に味覚がこんがらがっちまう!テメェは苺の入ったまりさを見た事あるのか!?
そんなまりさいるわけねぇんだよ!クドいし媚びてると見えるからなッ!そんなのゲームで出したら叩かれること確実ッ!
だいたい紅苺はその紅さが特徴だってのに大福の中に隠しちまったら意味ねぇだろうがッ!!ダボッ!
皮に練り込むとかそう言う創意工夫とかシヤガレッテンダッ!コノドテイノウガァァーーーーーーーーッッ!!!」
 あまりにおぞましい形相でそう熱弁したみょん、この台詞を聞いてこのみょんがゆっくりだと思う人はほぼいないだろう。
当然と言うべきだろうがそんなみょんに店内の誰もがみょんから距離を取っていた。
「…………マジひくわー…………」
「あ、あの……みょんひゃん………これも食文化の一種ですからそんなに否定しにゃいほうが…………」
「ナメンナッ!みょみょみょっくなみょみょみょんめ!!切り捨て御免でござる!」
 再び口の中から羊羹剣を取り出しみょんはそれをめーりんに向かって振り落とそうとする。
だがその瞬間おろおろしていた重が急に駆けだしその両手でみょんを突き飛ばしていった。
「ギャブゥゥゥゥーーーーーーッッ!!」
「だめですよっ!そんな料理のことで争いごとなんて!!」
 突き飛ばされたみょんは壁にぶつかっていったが何事もなかったようにそのまま跳ね返り元の場所へと戻っていく。
ダメージはそんなに無いようだがみょんはてんこ並の形相を浮かべ羊羹剣を重に突きつけた。
「………このっ………辛さが分かるかっ……!!この期待外れが……!みょんの心にどれだけっ……!」
「みょんさん…………」
 みょんの瞳から微かに雫が流れ出す。傍目から見れば単なるタチの悪い我が侭な客にしか見えないが、
この時の重には何かみょんの別の表情が見えたようだ。他の一目から見れば単なるタチの悪い客であり実際そうである。
「…………わかりました」
 そう頷き重はみょんと視線が合うように地面に膝を付け大きく目を見開いてみょんにこう言った。 
「私がみょんさんのお眼鏡にかなうお菓子を作って見せます!絶対!私の持つ全てを使ってみょんさんのお気に召すようなお菓子を!!
苺を最大限に使って見せます!だから……だから!!」
「……………………………かさね殿…………」
 みょんはその重の熱意と台詞を噛まなかったことに心打たれたのか羊羹剣を再び口の中に仕舞う。
それを見て重は朗らかな笑みを浮かべ、自分の荷物の中からエプロンを取りだしそれを綺麗に着付けていく。
またその空気から意図的に外れるようにその横で彼方は気怠そうに苺大福を貪っていた。まるで脇役のようである。
「それではキッチン、厨房を貸していただきます!いいですよね!」
「あ、わかったじゃおん」
 アクティブに、そしてストレートに重が厨房に吶喊していくのを見てみょんはにんまりと笑みを浮かべる。
そしてその横で彼方はまた興味なそうに117杯目の紅茶を飲み干していた。何処か達観している。
「はああああああああああああああああああああああああ!!!!!苺を!使った!!洋菓子!どこだ!どこにあるにょぉぉ!!!!噛んだぁぁ!!」
 この厨房から聞こえてくる声は誰のだ、と誰もが思う程の怒声。
消去法で考えれば自ずと結論は出るのだが、皆その事を故意に考えないようにしていた。
「ざいりょおおおお!!今!!買いに行かなくちゃああ!!!」
「いやぁ元気が出てきたねぇ。これも私のおかげかな?」
 確かに彼方の助言のおかげで重は少し勇気を身につけることが出来た。
けどこれはキャラ変わりすぎだ。と、みょんを始め彼方以外の客はそう思っていた。
「それはそうと何杯飲んでるんだみょん…………」
「ただいま!戻って参りましたぁ!!!」
 怒声と共に大きな袋を抱え大粒の汗を垂らしながら再び重は厨房へと駆け込む。
そんな重を店内にいる誰もがその姿を見つめ、そして誰もがその行動に見合う結果を期待していた。
「泡立ててホイップ!そいや!回転!黄金比率の回転!」
「カマドだァァーーーーッ!パンケーキを焼くんだぁぁぁぁーーーーっ!いけぇぇぇぇ!ハイパーキャノンッ!!!」
「高く!もっと高く!HIGH UP!!!」
「……………………いやぁまさにプライドかけたハッスルだね、さっきのみょんさんより引きそう」
「みょんたちに対しての餞別というのもあるんだろうみょん」
 重がただひたすらに頑張る様子を見て彼方は他人事のように茶をすすりながら静かに鎮座している。
みょんもゆっくり待つのに飽きたのか、ふと近くのお品書きを手に取りパラパラと流し読みをする。
意外にも茶屋であるのに満漢全席があるというのはみょんも驚いた。そして紅茶の欄を見てみょんはその本を閉じた。
 みょんは何も見てない。紅茶がよもや高級品で十六銭もするなんて見てない。一杯で単行本二冊買えるなんて知らない。
みょんは何も見てないんだぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!
「ユックリノマナイデイッテネ!!!」
「ん?何か言ったみょんさん?」
 悠々自適に彼方は何杯も紅茶を飲んでいく。もうみょんの頭の中には本能である「ゆっくりする」のことばかりしか思い浮かばなかった。
それはそれで幸せなのだろう。本能のまま動く生物は悩みも何も無いのだろうから。
「出来たぁ!!!出来ましたよ皆さん!!」

 厨房に駆け込んでから2時間、重は白い泡をエプロンから顔に至るまで付けたまま白い塔の様なお菓子を彼方達の前に置いた。
その塔の高さは約二尺、横幅もそれの半分くらいあって所々に特産品の紅苺がその白い塔の色彩を彩っていた。
「こ、これがお菓子!?」
「そうです!オクラホマ合衆国で生まれたケーキ。その名もショートケーキです!皆さんの分も分けますから欲しい人は来て下さい!」
(注:この物語は一応フィクションなので実際の人物・地名とは特に関係ありません)
「ゆっくりたべていくよ!!」
 その重の言葉に従うよう店内の全てのゆっくりが皿を持って重達のいるテーブルに近づく。
店内が賑わう中彼方はようやく紅茶を飲む手を下ろし心神喪失状態のみょんを強く揺さぶった。
「うわぁなんか石鹸の泡みたいな物がいっぱい付いてておいしそうだよ!みょんさん!ねぇ!」
「サッキマデタブンヒャクゴジュッパイイジョウハノンデルカラユックリカゾエルト………」
「ねぇみょんさん!」
「はっ!ゆっくりおかしくなってたよ!!!」
 何とか饅頭知的生命体としての知性を取り戻し、みょんは再びやたら漢字を使い常識的で変なゆっくりに戻っていく。
「こ、これは………これが西洋のお菓子だというのかみょん……」
 みょんは目の前にある自分の身長の2倍もあるショートケーキを見上げ有りもしない威圧感に押され始めていた。
「みょんさんと重さんの分もありますから、待ってて下さいね」
 並んでいるゆっくり達に一切れ一切れ綺麗に渡していく重。ただ客の数も多いので時間も掛かりそうであったし
ケーキの量も次第に減っていってるので、みょんはもしかしたら自分の分はないのではないかという不安を覚え始めた。
「こそーりこそーり」
「みょんさんったらいけないひとっ!その剣で勝手に切ろうとしてるね!」
「ゆっくりまちやがれッ!はやくしょーとけーきがたべたいんだよッ!!!」
 その不安に突き動かされつまみ食いしようとしていたところをめざとく彼方が囃し立て、案の定みょんは他の並んでるゆっくり達に非難を受けてしまった。
「じゃあみょんさん。どうぞ!」
「……………あ、ありがとうでござる」
 惨めに縮こまるみょんの様子をみて重はみょんの前に一切れのショートケーキを差し出す。
それが逆に肩身が狭まるような扱いであったが、みょんはその重の笑顔に当てられ否応なしに剣を使ってショートケーキを口に運んだ。
「…………………………これは」
「どうしたの?口ぽかんと開けて」
「みょんはッ!今までこんな食感のお菓子を食べたことがないみょん!!!」
 先ほどまでの気の沈みようも何処へやら。みょんは先ほどの陰鬱な表情さえも吹き飛ばし、流れるように次の一切れを口の中へ運ぶ。
その時のみょんの表情はえげつないほどの笑顔で、愛剣である羊羹剣でさえもつい落としてしまうほど悦に浸ってしまったのだ。
「な、なんだみょん。この口の中の軽さ!そしてとろけるような甘み!くどくもないしパンとこの泡みたいなものがうまく絡み合っている!
 コイツはウメェーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!たまんねェーーーーーーーーーーみょんゥゥゥ!!!
 今まで味の濃い和菓子ばっか食ってたからこの感触は初めてだぜェェーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!
 しかもッ!しかもッ!この間に挟まる苺の酸っぱさと甘さが泡と混ざり合ってたまんねェーーーーーーーーーーーーッッッでござるゥ!!
 これほどの組み合わせは今まで味わったことないみょん!!!例えるなら渡辺明夫さんの絵に桃井はるこの声ッ!
 ロリっ娘にかないみかさんの声の様だみょんッッッッッッッッッッ!!!!
 むーしゃ!!!むーしゃ!!!しあわせーーーーーーーー!!!!!」
ちなみにツンデレキャラにくぎみーは少し食傷気味。ついでに大谷育江さんの少女ボイスは癖になる。どうでもいい話だ。
「へぇ、それじゃ重さんはやくっ!はやくっ!」
「こらぁ!!ゆっくりまちなさい!」
「黙れッ!これだけ見せつけられちゃ食べずにいられないんだよっ!」
 非難し続けるゆっくり達の声を完全に無視し彼方は平気な面で皿を重の方へと持って行く。
むしろ差し上げる重の方が非難を聞いていて辛そうであった。
「じゅ、順番はまみょって貰いたいんだけどなぁ………また噛んだ。」
「それじゃいただきまーす。おっ、こりゃうまい!!」
 優しい不良的で人並みな感想を述べながら、彼方はほいほいケーキを口の中に入れあっと言う間に食べ尽くしてしまった。
その横ではみょんが一欠片一欠片ケーキを味わって食べているためみょんの目の前にはまだ半分ほどケーキが残っている。
「…………………ごくり」
「むーしゃ………はっ!何じろじろ見てるんだみょん!いやらしい」
「チッ!」
 わざとみょんに聞こえるよう舌打ちをして彼方は243杯目の紅茶を飲み干す。それを見て再びみょんは現実から逃げ出したくなったが
そんな思いもこの莫迦莫迦しさ騒がしさであっと言う間に吹き飛んでいくのであった。

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最終更新:2010年09月12日 19:51