【2009年冬企画】サンタクロースが死んだ朝に(SS735)

※悲しい境遇のゆっくりと人間が登場します
  けっこう鬱展開なので注意です




 彼はこの冬もやってきた。
 袋を担いで、情けない足取りで。
 一年に一回だからか、慣れる気配が無い

 住人達は素直に来訪が嬉しくて、木陰から飛び出して歓迎する

 「ゆっくりしていってね!!!」
 「ゆっくりしていってね!!!」
 「また来たの?未練なの?思い上がりなの?」
 「ゲラゲラゲラゲラゲー」

 最初は無視して、山奥へと向かう
 そして、夜遅く、もしくは山中でキャンプまでして降りてくる。
 疲れ果て、袋ももう持てず、その時また出迎えてくれた連中に、彼は
力なく袋の中身を明け渡す

 「教えてくれよ。知ってるだろ?どうやったら、もう一回あそこへ行けるんだ?」
 「知らないよ」
 「知らないよったら 知らないよ」
 「これに懲りずに、来年もまた来てね」



+++++++++++++++++++++++++++++++++++


 意気地なし、の認定は、どこまでも付きまとい、誰もが恐れる。
 世の中がどんなに変わっても、たとえ50年ほど経っても、皆意気地なしと呼ばれる
事は恐れるだろう。
 その日の2週間ほど前、近所の墓を荒らしまわって遊んだが、その時一人参加しなかった。
その不参加のクラスメートは、毎日意味もなく殴られている。
 だから、彼は断れるはずもなかった

 「ゆっくりを捕まえにいこうぜ」

 何せ、得体の知れない妖怪である。 そこらの野良犬や野良猫をいじめるよりは
よほど難しいはず。
 今の所被害にあった者はいないが、子憎たらしい少女の生首が野山を駆け回ったり、
ふよふよ浮いているのは中々空恐ろしいものがあった。
 が、その正体はあまり強くないというのだ

 「いつも笑ってる、れみりあって奴がいるだろう」
 「蝙蝠みたいなの?」
 「すげえ前の話だけど、あれ、俺の兄貴が倒したんだ」

 夕暮れ、山へ向かう道で、重そうにふわふわ飛んでいる所を、竹鉄砲で後ろから打って
見たところ、悲鳴を上げながら山へ逃げていったという。
 それは、決して倒したという事ではないし、そいつ自身がやったことですらないのだが、
一同は皆興奮して話を広げ、いつしか悪行を重ねるれみりあを成敗した話へ突入した。
 さて、そうなると暇を持て余し、色々な壁も紙より脆い中学生達の事。そのれみりあが
向かっていたという、元々ゆっくりの村――――通称生首村――――へ討伐へ行く事と
なった。

 「けどよお、あそこ小学ん時も探したけど、そんなん見つかんなかったぜ」
 「それがさ、一人知ってんだよ。出入りできる奴」

 そんな人間が入っていけない技術を持っているのだから、考えなくても恐ろしい相手に
感じたが、それだけでは子供の蛮行を抑止できなかった。

 「雑貨屋があって、そこにいる死にかけのジジイが知り合いなんだと」


+++++++++++++++++++++++++++++++++++


 そうした訳で、最も話のしやすそうな、スケープゴートの彼が、老人から生首村
とやらへの行き方を聞き出すことになった。
 後ろからの嘲笑を聞きながら、雑貨屋の扉を開ける。
 ――――本当に息も絶え絶えな老人がいた。
 サンタクロースの格好をしている。
 ご丁寧に、丈夫そうな袋を台車に乗せている。

 「おお、いらっしゃい」
 「はあ」
 「すまんが、クリスマスじゃ。あいつらから迎えがこんので、わしの方から行く事にした」

 迎え――――の意味が自然に通り過ぎて、一瞬たじろいだ。しかも、今日は12月23日。
これは、生首村からの迎えが来るという事?とはいえ、本当に認知症ならば却って都合が
良かろう

 「ゆっくり達の所へ行くのなら、お手伝いしますよ」
 「――――本当かね?おお、やはり連中、段々と人間にうちとけてきたんかな」
 「いや、僕もゆっくりが好きでして」
 「わしゃ別に好きな訳じゃないがな。しかし、ゆっくりが好きな奴に、そう悪い者はいない」

 本当は関心すらなかったので、この老人以下なのだが、嫌いと言う訳ではないのでそれほど
嘘は言っていないと自分に言い聞かせる。
 台車を押す、サンタクロースの変装をした老人に気をつかないながら山へ向かうのは、
想像しなくても滑稽だった。
 容赦の無い、外で待っていた、学友達からの嘲笑を浴びる。
 この様子に満足して、ゆっくりを捕まえるなどどこかに吹き飛んだか。ついてこようとはしない。
 しかし通り過ぎる際に念を押された

 「手ぶらで帰ってきたらハブだかんな」


+++++++++++++++++++++++++++++++++++


 その山の麓まで来た時には、もう老人は青くなっていた。
 本当に危機感を覚え、近くの民家に入り、電話を借りて救急車を呼んだ。
これで結局、老人の散歩の介助をしただけで、何も得るものが無かったと嘆いていたら、
帽子と、赤い半纏を手渡された。

 「頼む。これをつけてれば村に入れるじゃろう。贈り物を届けておくれ」

 断りきれる状況ではない。承諾すると、老人は心底安心した様子で、車に搬送される
時にさえ、親指を力強くこちらに立てていた。実は元気なんじゃ・・・?

 「あの地蔵が沢山立っておるのが見えるだろう。あの裏よ」
 「・・・・・・・」
 「もう、これを届けるのが生き甲斐なんじゃ。頼む」

 そんな、いかに小さい生物でも、集落などというものがあるようには見えなかったが・・・・
 それに、奥どころか、山の中ですらないような、非常に行きやすい場所だ。

 「行くだけ行って見よう・」

 地蔵は相当に古く、中には首がもげているものさえあった。
 生首村の目印が、首無しとはこれいかに
 半信半疑で、やたらと重い袋を担いで、裏側を覗く
 ――――生首が転がっていた。
 柔らかそうな丸みを帯びた、間抜けな少女の顔。
 確か、比較的多く見られる れいむ とかいう奴だ。
 ソフトボールくらいのゆっくりれいむは、不思議そうにこちらを体全身を傾かせてまじまじとみると、突然目を大きく
開いて叫び始めた

 「に、にんげんだああー」
 「えっ」

 顔を上げれば――――そこには村があった。
 いや、町といってもいいかもしれない。
 基本的に石造の建物と、綺麗に舗装された道。どこから水を引いたものか、隅っこに(中央にすればいいものを)
噴水まである。
 人間が住むことは流石にできないが、これだけ写真に収めて、イタリアくんだりの映画のミニチュアセットだと言えば
多分通る。それだけのものが、あの地蔵に隠しきれるとは思えないのだが・・・・・・・どんな原理なのか?


 と、いうか全体的にクリスマス仕様だ。
 彩りは、基本赤と緑と黄金。
 クリスマスツリー
 ベル
 サンタクロース
 大きな赤いブーツ

 浮かれた人間が安易に手を出してそこら辺に置くものが、ここでも同じ様に溢れている


 「また来たの?今年もなの?」
 「ちょっと時間早いね~」

 先ほど騒いでいたれいむは元の顔に戻って、大して興味も無さそうにこちらを見上げている。ポーズだったのか?
 見渡す限り、確かに生首だけのゆっくり。
 大きさは、最大でもバスケットボール程度。小さいものが、ピンポン玉くらい。
 騒ぎを聞きつけて、一堂集まってくる

 「あれ?じいさんじゃなくない?」
 「若返った?」
 「孫?」
 「いや、玄孫や養子という説もあるよ」

 好き勝手な事を、顔を伺いながら、騒がしい事この上ない。
 彼はしどろもどろになって答える

 「雑貨屋さんの代理です」
 「なーんだ」
 「それじゃあ」

 一斉に声を合わせ

 「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」」

 中々壮観であった。
 一人一人は確かに小さい。が、ゆっくりという割には、妙に俊敏性があり(特にきめぇ丸とかいうタイプ)、捕まえる事は
容易ではなさそうだった。実際に格闘になれば流石に勝てる自信はあったが、数が多すぎる。
 何より、元々どんな生物なのかもわからないので、迂闊に手を出す勇気が無い。
 しかし、ゆっくりの方はと言えば、いかにも友好的だ。
 広場の切り株に、柔らかそうな座布団を置き、おまけにお茶と、どこの国か解らない菓子まで用意している。

 「ゆっくりしていってね」
 「ゆっくりしていってよーゆっくりしていってよーゆっくりしていってよー」
 「ゆっくりしていけやあ」

 ちょっとイライラする所はあったが、何か人間に危害を加える事はなさそうだ。 ここで彼は、本来の目的を忘れないように
胆に命じる。
 自分はこのゆっくりの、どれでもいいから一匹を持ち帰らなければならない。クラスの皆に見せびらかして、少なくともいじめ
られるのを阻止しなければ、卒業までにもの凄く嫌な思い出を作る事になるだろう。そして一生引きずるだろう。
 妖怪だし、あいつらに捕まっても自分で解決できる と思う。自分の身の方がやはり大事だ。

 (こんなにたくさんいるんだから、一人くらいいいじゃん!)

 すぐ逃げ出せるようにと、入り口付近のゆっくりを狙う。
 たて看板にもたれて、暢気に寝ているゆっくりがいる。めーりんとかいう奴だ。
 そっと手を出すと――――何かが、手の甲を掠った。
 続いて、うっすらと血が滲む。 一瞬の事でよく解らなかったが、改めてめーりんを見ると、帽子のバッジに、ナイフが突き刺さっ
ていた。
 振り返ると、能面のような表情のゆっくりさくやさんがいたのだった。
 ぞっとしてその場を去る。
 なるべく目立たない場所にいるゆっくりを捕まえようとしたが――――――

 ――キスメは木の上に逃げられ
 ――ちぇんやらおりんやらは近寄っただけで逃げられ
 ――ぱるすぃは、捕まえたと思ったら二つに分裂した

 それも、ゆっくり達は彼の苦労など意にも介せず、マイペースで移動しているのだ。
 どうも、逃げているという意図さえ感じられなくなる。
 ならばと、どう見ても身体能力で大人に劣るであろう子供達に狙いを絞った。が・・・・・・

 「ゆひゃはははは」
 「おじちゃん おもちろーい」
 「おにごっこしてるみちゃい」

 本来ならば、子供達にとっては鬼ごっこどころの騒ぎでは無いはずなのだが、暢気に構え、そのくせ大人達より全力で逃げる。
しかも騒ぐ。
 彼としてはこっそり捕獲したかったので、そちらの方が恐怖だったが――――触れる事さえ敵わず、地に膝をついて荒い息を吐いて
いると、やや年をとったらんしゃまがやってきた。

 「はっはっは 精が出てるみたいだね!!!」
 「ええまあ」
 「可愛い子供ばかりだから、触ったりだっこしたくなる気持ちも解るけど、おいたは駄目だよ~」

 どうやら本当に子供が可愛くて寄ってきたと思われたか。いや、よく見ると本気で笑っていない。鳥肌が立った。

 「中々ここはいい所だろう」
 「ですね」
 「決まった人間しか入ってこられないように作ってるから、安全だし煩わしくないし楽しいよ。ここはある意味楽園だね」
 「そっすか」
 「君は、じいさんの御孫さん?最近会えなくてごめんね。段々、こっちも村の外には出られなくなってきてるんだ」

 本当にたまたま来た見ず知らずの客だと言ったらどう思うだろうか
 気になる言葉が随分あった。こいつら、歓迎はしているが、実は排他的な連中の様だ。元々人間を信じていない。あの雑貨屋は
数少ない橋渡し役立ったのだろう。
 そんな重要な役職を、通りすがりに渡してしまうとは、あの老人、冗談では無しにかなりガタが来ているのかもしれない
 とりあえず事情は話さないほうがいいだろう。
 そうこうしている内に、日も段々暮れてきて、町の中央では焚き火が灯された。
 クリスマスツリーにも、そこら辺のイルミネーションにも明かりが点る。
 何だか目に痛いほどの明るさ
 焚き火と共に非常に香ばしい匂いがする。焼いているのは肉だった。
 向かい側を見ると―――――「竜」がいた。
 正確な名前は解らない。
 ただ、知っている限りの、大きさにして約10m程の、まず日本には生息していないであろう生物が、包丁を咥えたゆっくり達に解体
されている。

 「あれって・・・・・・・・・・・・」
 「まだまだだね。狩でも、あのレベルを倒すのにはまだ群れじゃないと駄目なんだよ」

 呆然とする中、見る見る内に切り分けられていく竜の死体

 ――――駄目だ

 ここまで訳の解らない連中だとは思わなかった。
 狩猟民族もいいところ。 恐竜も束になれば倒してしまう相手なら、力技ではまず無理。そして余程の策略が必要に生るだろうが、
そこまで彼自身頭はよくない。
 大体、いつまでもここにはいられない。

 「まあ、驚きなさんな。美味しいから」
 「プレゼントもあるよ」
 「え?」

 ゆっくり一人一人全員分―――とまでは流石に行かないが、それに近い数の小箱が、いつの間にか持ってきた台車に積まれていた。

 「あ、でもこれ、元々じいさん用だよねえ」
 「帰ってから二人で分けるならいいけど、実質君のプレゼントはないね!!!来年ちゃんと用意するよ!!!」

 何故だか解らないが、これはちょっと悔しかった。
 何から何まで上手く行かない事だらけだったし、向こうは間違っては居ないだろうが―――――
 まとめると

 ―――クラスの屑虫どもに脅されて、低俗な悪戯をする事になり
 ―――下らない自慢話を聞かされ
 ―――老人に付き合い
 ―――義務感から、謎の生物の集落に先入し
 ―――捕獲に失敗し、彼女たちの得体の知れなさに怯え体力を消耗し
 ―――そんな化物達から、プレゼントをもらえたと思ったら、老人へのものだった


 「何だこれ」


 思わず笑ってしまう。
 笑っていると、何を勘違いしたのか、近くで子供達も嬉しそうにピョンピョンと跳ねる。
 確かに赤ん坊は、周りが笑っていると一緒に笑う事があるが、それはあくまで赤ん坊の話。こいつらは人間で言えば何歳くらいなのかは
解らないが、少なくとも赤ん坊と言う年ではない。
 ここで――――彼には何となく、ゆっくりの頭の精神年齢は、人間よりも一回り低い、という先入観が生まれたのかもしれなかった。
 そうなるとちょっと腹も立つが――――ゆっくりも可愛く思える

 いや、本当に可愛い

 捕まえようとする奴がいるのも、単に可愛いからか?
 ちょっとからかって泣かせてみたくなる表情だ。
 ただ、このゆっくり達を、怒らせたり泣かせたりする事自体がとても不可能に思えた。
 多分、口先だけの悪口では何とも思わない

 「どうぞ!」

 目の前に、とんでもなく山と肉が詰まれた皿が運ばれる。あの竜の肉か。
 食べる気も起きなかったが、ややあって、最初に持ってきた袋が解かれ、中の物が配られていく

 「本当はクリスマスに配るんだけどね」

 そう言って、主に子供達の前に置かれる、絵本やおもちゃ達。中にはゲームボーイさえある

 「あークリスマスかぁ」

 やる事といったら、ちょっと大き目の鶏肉を食べて、ささやかなプレゼントをもらうくらい。別にもう嬉しいとは思わない。
 彼には付き合う女の子も居ない。

 「最悪だ・・・・・・」
 「まあまあ そんなに落ち込みなさるな」
 「お肉を食べなよ。お肉をさ!」

 ゲームボーイは、れみりあの子供に渡された。羽でも使ってプレイするのだろうか?
 うーうーと、元々笑っている顔を更にほころばせて全身で喜んでいる。

 「あーあ、いいな。れみぃちゃん」
 「お前等ももらったんだろ?」
 「れみぃちゃん、クリスマスが誕生日だから、明後日また色々もらえるんだよ」

 クリスマスが誕生日・・・・・・ゴールデンウィークや、夏休みと被るより、それはちょっと痛々しい。

 「マジでか?」
 「マジでよ。誕生日は楽しいけど、ダブルって楽しいよね。すごいな~ あこがれちゃうな~」

 クリスマスに、いい思い出はない。そして、今年もろくな日にならないことは決まっている。

 「てか、親甘やかしすぎじゃね? むしろ、プレゼント節約したいからクリスマスに産んだんじゃねえの?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それを言っちゃあ」

 お?
 脈あり?
 周りの会話が止まった。周りのゆっくりの目が (○)  (○)に変わった。当のれみりあ本人は、意味が解らないらしく、
半笑で焦った顔をしている。

 「安上がりでいいじゃんか」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・にいさん、それを言っちゃあいけないよっ」
 「てか、他の親の悪口を言うの?馬鹿なの?」

 それはそうか。確かに言いすぎだ。
 しかし彼は、何となく続けたくなった。
 ちょっとここで、からかって、怒らせて見たい。泣いてる顔も見てみたい。
 散々からかわれたから、一矢報いたい。
 愛しさゆえの、軽い嗜虐心、欲求不満、好奇心、諸々の感情が、一気に混ざり合って、頭を麻痺させた。

 誓って言うが、これは純粋な悪意ではなかった。

 そして、大して考えずに、本当に真面目に考えずに、その欲求に従ってしまった。

 「クリスマスなんて、下らない日になあ」

 座っていたふらんがふわりと浮いた事に、彼は気がつかなかった。

 「下らない日じゃないよ」
 「俺にとっては糞みたいな日さ。彼女はいない。クラスのリーダーにはからかわれる。別に親からいいものもらうわけじゃねえ
  世の中浮かれた奴が多いみたいだけど、関係ないね」

 子供らしい。所詮バテレンの行事を、商業主義に乗っかっただけの薄っぺらい意識しか持ち合わせていない、2daysクリスチャン
どもめ

 「取り消せ」
 「やだね。屑は屑だ。今年だってそうだ。どうせこの後苛められるんだ。で、一人で過ごすんだ。胸糞わりい」
 「屑屑屑屑言うな。おまえはクソ人間か?」

 徐々に集まってくる。
 怖かった。しかし、彼はもう、引き返したくても引き返せなかった。

 「どうせ屑人間さ。ついでにクリスマスだって、12月24日も25日も 屑の日だ。屑みてえな日さ。何度でも言ってy」


                            ガチン


 眼球のほんの数センチ先での音。
 ここまで間近にゆっくりを見た人間はそういまい。
 熱い息がふきかかる程の距離で、ふらんが、歯軋りしている。
 少し下がって解ったが、みすちーとちるのが抑えていなければ、恐らく、彼の鼻頭は、食いちぎられていたかもしれない。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何?なに?・・・・・・・・・・・・・」
 「糞な日と言ったな」

 情けなく、後方にへたりこんだ彼を、半数の集まったゆっくり達は怒りに満ちた目で彼を見下ろし、半数は、首を悲しげに振って
目を逸らしている。

 「あの子の誕生日だ。それが糞な日か? 一年無事に生き延びられた事を喜べないか? 『そんなの当たり前』か?
  お前は目の前に、両手両足・目鼻耳を持たない人がいない限り、 『体があるなんて当たり前』と言うんだろう」
 「そんなつもりじゃ・・・・・・ 俺はただクリスマスが嫌いで」
 「12月25日が糞の日と言ったな。あいつは糞の日に生まれたのか? それを待ちわびている私達はなんなんだ?」

 普段なら言い返す事ぐらいできた、できたが、彼はゆっくりに怯え続けた。
 そしてふらんは言った

 「25日は、あの子の親が、お姉さまが死んだ日だ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「ただ飛んでただけで、お前等人間に羽を撃たれた。そんな事で死ぬほどやわじゃなかったけど、それから飛べない生活が慣れなくて、
  川に落ちて溺れて死んだ」
 「それって、あの」
 「お前なんかに、今日を大事にしたいわたし達の気持ちが解るか」

 子どものれみりあは泣き始めていた。
 周りの子ゆっくり達が必死であやしている。
 目を逸らしていたゆっくり達は、とぼとぼと家路についていき、憤怒の表情で彼を取り囲んでいた者達もそれに続いた。

 「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです。本当にすみません。すみません。傷つけるつもりじゃ・・・・・・」

 彼は無様に謝り続ける。ふらんの一言一言が、胸に突き刺さり切り刻まれるよう
 保身のために、ゆっくりを捕まえようとしていた事。人間じゃないからと、完全に見くびっていた事、老人をだました事、全てを
彼は全力で後悔していた。
 残ったのは、らんしゃまと、ふらん・さくや・めーりん、そして、みっともなく半泣きで、ゆっくり相手に謝り続ける、馬鹿な少年が一人。

 「本当にごめんなさい・・・・・・・」
 「お前は、私たちの一年の頑張りと、じいさんと、あの子の人生と、あの子の母親の命を馬鹿にした」

 いつしか深夜になっていた。
 広場には、らんしゃまと彼だけが残っていた。

 「言って良い事と悪い事があってね・・・・・・・・・・・・冗談でもだ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「冷めてしまったが、とりあえず肉を食べないか?」

 皿の上の肉は、まだ肉汁を滴らせている。
 彼は泣きながら食べた。それは本当に美味しかった。

 「これはこれで、君用にとっておいたんだけどね」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「しかし、やっぱり人間とは上手く行かないね。難しいね」

 何故か、運ばれながら親指を立てていた老人を思い出した

 「いや、ごめんなさい・・・・・・・」
 「ごめなさいとかじゃなくてね、やっぱり色々前提や価値観が違うんだよね。じいさんとは、どうしようかな・・・・・・・」
 「そんなに違うかな・・・・・・・・・・」
 「少なくとも、『糞な日』なんて概念は、ここのゆっくり達は持たないよ」
 「あれは言葉の綾で・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「あとさ。皆を捕まえようとするのはやっぱり性質悪いよ。どうせ無理だからふざけて黙ってたけど、君はちょっと・・・・、もうこの村に
  入れるわけにはいかないね」

 そりゃこっちだって願い下げだ と来たばかりの時ならば言っていたかもしれないが・・・・・

 「せめて、あの子に直接謝りたいです・・・・・・・」
 「もう遅いよ」

 暗くなったから、という意味と捉えたかったが、そうでもないだろう。
 らんしゃまは、地蔵が並ぶ入り口まで彼を促した。

 「じいさんへの贈り物は・・・・・・・・どうしようか・・・・・・・・まあ、こっちで何とかして届けるわ」

 地蔵の横から、一歩先に出て―――― 振り返ると ―――― もう、村は見えなくなっていた。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++


 翌日、また地蔵の前に立ち、覗き込んだが、村は見つからなかった。
 サンタの帽子と、赤い半纏も着たが、村は見えなかった。
 雑貨屋は、しまっていた。

 その翌日―――――25日―――――一昨日搬送した病院を何とか調べ、病室へ行ってみた。土曜日だったので、朝から行った。
 白い布が被せられていた。
 ベッドの脇には、台車と、うず高く詰まれた贈り物の箱。
 その半分ほどが開封されていた。
 突然届けられており、それを一つずつ開けている最中に、事切れたらしい。
 半纏と赤い帽子は、その場に置いた


 どんな顔で逝ったか。
 大量の贈り物が届けられた朝、老人はどんな様子だったか。ゆっくり達と、そもそもどんな関係だったか

 それは、誰にも聞けなかった


+++++++++++++++++++++++++++++++++++


 学校では、案の定いじめられた。元々標的は他の生徒だったが、完全に彼に移った。
 それは、卒業するまでの1年半で終わった。
 その後すぐに、家が東京に引っ越した。
 卒業してからは、滅多にその事を思い出せなくなった。
 それ自体は、そこまで人生に深い影響はなかった

 生首村の出来事の一つ一つは、頭から離れなかった。
 1年半では終わらなかった。
 卒業後も、忘れられなかった。
 もう一度生首村へ行き、謝りたかった。 人生に大きな禍根を残した。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++


 彼はこの冬もやってきた。
 袋を担いで、情けない足取りで。
 一年に一回だからか、慣れる気配が無い

 そんな彼に、慣れてしまった野生のゆっくり達がいたが、これは、あの村とは関係ないらしい
 素直に来訪が嬉しくて、木陰から飛び出して歓迎する

 「ゆっくりしていってね!!!」
 「ゆっくりしていってね!!!」
 「また来たの?未練なの?思い上がりなの? 一回位、探しに来る訳を教えてよー」
 「ゲラゲラゲラゲラゲー」

 最初は無視して、山奥へと向かう
 そして、夜遅く、もしくは山中でキャンプまでして降りてくる。
 本当は、地蔵の裏手にあるはずなのだが、どうしても見つからないので、山のどこかに無いか、
誰か知っている者やゆっくり、手がかりがないか散策する
 疲れ果て、袋ももう持てず、その時また出迎えてくれた連中に、彼は力なく袋の中身を明け渡す

 「教えてくれよ。知ってるだろ?どうやったら、もう一回あそこへ行けるんだ?」
 「生首村 なんて知らないよ」
 「知らないよったら 知らないよ」
 「これに懲りずに、来年もまた来てね」

 今年は、二袋持ってきたのだが、一袋、大量に仕入れたカップ麺を、沢に落としてしまった。

 「後生だ。教えてくれ、頼む」
 「知らないってばあーん」

 野生のゆっくりのくせに、連中はふざけながら、あの赤い帽子を皆被っている。大きなブーツにすっぽり
収まっている奴もいる。

 「どうしてもあの子達に謝りたいんだ。そうしないと、もう・・・・・・・・・」
 「相変わらず諦めの悪い人間だね!!!」
 「罪は帳消しにならないよ!!!」

 本当は知ってるんじゃないか?という気がする。
 しかし、どれ程聞いても答えてはくれない。 答えてくれる者は、この世界に誰もいないかもしれない

 「まあ~ いいじゃないのー」
 「クリスマスなんだから、ゆっくりしていきなよ~」
 「肉もケーキもないけどさっ」

 座り込んですすり泣く彼に、ゆっくり達はずりずりと頬を摺り寄せる
 れみりあが、真っ白になり、残り少ない髪の上にぽてりと降りる。

 「もう一度行きたい。謝りたい・・・・・・・・・」
 「おお、未練未練」

 涙が、皺だらけの干からびたような手の甲に落ちる。
 しわがれた声で、何度も一人謝るが、それが届くはずもなく。
 そして、それに答えてくれる者もなく


                                                 了

  • ビターだね
    幼き日の過ちがなかったらサンタクロースになれたかもしれないのに
    サンタクロースはいなくなったのか -- 名無しさん (2009-12-27 12:29:57)
  • これって他の企画ssと繋がってる? -- 名無しさん (2009-12-27 21:57:35)
  • (2009-12-27 21:57:35)
    そです(作者) -- 名無しさん (2009-12-27 22:01:28)
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最終更新:2009年12月28日 11:24