ゆっくりもんすたあ 第一話

 この広い世界には様々な不思議がある。
森林の奥に秘められた遺跡、宇宙から飛来する謎の物質、星から流れるメロディー………………
そして人々の身の回り、そこには人間の首のような不思議なナマモノ『ゆっくりしていってね!!!』略してゆっくりが数多く存在していた。
人々は古来からそのゆっくり達と手を取り合い、時には争いつつも共存し続けてきた。
 そして現在、ゆっくりと少年の旅が、今ここから始まる!!!



  ~ゆっくりもんすたあ~ スカーレットレッド
 第一話「ゆっくりれいむ!ゲットだぜ!!」

 暦も三月を迎え春も訪れる頃となった今日この頃。
このカザハナタウンではすっかり桜が咲き誇り、学校を旅立ちゆく卒業生達を送るように優雅に舞い散っている。
その桜吹雪の中、生首だけのゆっくり達、この近くに生息しているゆっくりみすちーやゆっくりなずーりん達は各々気ままに遊んでいた。
「………………羨ましい」
 桜が舞い散る小道で一人僕は卒業証書を握りしめながらそんな事をつい呟いてしまった。
こんなではいけないと想い僕は嫉妬心を振り払うために思いっきり首を振った。いくら今の自分の心に余裕がないからってゆっくりに憧れてちゃどうしようもない。
 そう、心に余裕がないのだ。
僕は手に握りしめていた卒業証書を見て再び憂鬱な気分になる。
この卒業証書は僕が第一風華小学校を卒業したことを証明する紙。しかしそれと同時に義務教育を果たし、社会に進出しろと行っているような命令書のような物でもある。
 僕には自信がない。この世界を一人で乗り切っていくだけの自信が。
今まで学んできた物、知ってきた物が一体どのように役に立つとかどのように役に立たせるかと悩んでばかりだ。
 世間巷では『ゆっくりトレーナー』とか言うゆっくりを戦わせて『ゆっくリーグ』へ挑戦するという職業?みたいな物があるらしいが、
僕は一回もゆっくりをゲットしたことはなく、接し方も戦い方も一つたりとも分からない。それに僕はそんな風天のような生き方は少々抵抗があった。
「ゆっゆっゆ、ゆ?」
 ゆっくり達は今もなお黄昏れている僕に気付いたようで警戒しつつものろのろと僕に近づいてきた。
「ゆっくりしていってね!!!」
「……………………………はぁ、ゆっくりしたい」
 このカザハナタウンは殆ど田舎と言って良いほど産業が発達しておらず、僕みたいな何の特技もない平々凡々な少年が就職するには難しい土地柄だ。
もちろん小学校ではそのための職業訓練とか行われていたけれど、僕は一体何を思っていたのか職業訓練に力を入れず、
普通の勉強とか何故か紅い服、紅いバンダナ、紅い稲妻の髪飾りとかを着飾ってヒーローごっこしていた記憶がある。
 一応勉強の方は出来るがそのアドバンテージを生かすには他の町へ行かねばならず、他の町へ行くには野生のゆっくりとの対策が必要だ。
とどのつまり、今の僕が希望を見いだすためにはゆっくりとの交流が不可欠なのだ。
「ようし、ゆっくり、ゆっくりしてろよ~~」
「ちんち~ん?」
 僕はちょうど近くにいたゆっくりみすちーを捕まえようと、声を殺し、気配を殺し、腕を構えてジリジリと歩み寄る。
本来ゆっくりを捕まえるためにはゆっくりボールとか言う道具が必要だが、ゆっくりくらいなら僕は手で捕まえられるくらいの自信はある。
「ち~ん~~~ちっちっ~」
「よし今だ!!」
 みすちーが呑気に歌い始めた隙を見逃さずに狙い、僕はみすちーに向かって飛びかかっていった。
今、僕の体の軸はゆっくりみすちーの直線上にあるッ!このまま掴み損なうことさえなければこのみすちーを確実に腕の中に抱くことが出来るはずだ!!
「ち~~んちん、ち~んちん、ち~~~~んち~ん~~~~~♪」
「もらったぁ!!」
 だが、ゆっくりみすちーを手の中に入れようとしたその瞬間、昼間にもかかわらず猛烈な睡魔が僕に襲いかかってきた!
「な、なっ!!!う、うううう」
 みすちーのうたう!
シュンはねむってしまった!!
「…………………………Zzz」
 僕の腕は目の前のみすちーを掴むことを忘れ空を切り、僕はその体勢のまま地面を滑っていった。
「ゆっくりねむっていってね!!!」
 意識が落ちた僕の耳にその言葉は届くことなく、ゆっくりみすちーは僕を足蹴にして空に飛んでいく。
このように人間ではゆっくりの不思議な力には太刀打ちできないことが多くある。
けれどゆっくりにはゆっくり、ゆっくりさせられるのならこっちが相手をゆっくりさせてしまえばいい。
だからこそゆっくりを捕まえて、育てることがとても重要。それを見事に失敗した僕はとりあえず今は眠っておこう。

「ゆっくり起きてね!ゆっくり起きてね!!」
 パソコンで出力したような、または幼い少女のような、もしくは中○○衣さんによく似た声が僕の耳元でそう叫び続けている。
その言葉通りに僕は目を覚まし、それと同時にほろ苦い土の味を味わってしまった。
「う、うつぶせのまま寝てたから………」
「ゆっくり起きたね!」
 体を起こして顔や体に付いていた泥を落とし、僕は寝ぼけ眼で辺りを見回す。
先ほどから僕の耳元で『起きてね』と呟いている美少女は一体何処のどなただろうか。
「起きたら起きたでゆっくりしゃっきりと!!」
「………………………………うおりゃ!!!」
「残念、それは残像だ」
 近くにいたゆっくりれいむを目にした瞬間、僕の身体は反射的に動いていたがゆっくりれいむはゆっくりしてない速度で回避し、僕の腕は再び空を切った。
「ゆふ、このれいむをすででつかまえようだなんてじゅうねんはやいね」
「どこがゆっくりなんだよ………………」
 一世一代のど根性捨て身タックルを二回もしてしまったから卒業式用のスーツが信じられないほど汚れてしまった。
落とせども落とせどもこびり付いた汚れは全く持って落ちることはなく、僕はこれから訪れるであろう親からの叱責に心を暗くした。
「で、なんだよ。一体僕に何の用だ」
「ゆっくりこれをうけとりなッ」
 そう言ってれいむはいつの間にか口に咥えていた一枚の紙を僕に手渡し、すぐさま何処かへと去ってしまった。
いつの間にか他のゆっくり達も姿を消し、僕は桜が舞い散る中一人残された。
「……………………なんだよなんだよ!みんなして僕の事が嫌いかッッ!」
 好きなことに一生懸命で何が悪い、目的に向かってがむしゃらに突っ走るのが何が悪いんだ。
みんなはその僕のがむしゃらな行動に醜さを感じ取り、ただそれだけで避けていく。子供も大人もゆっくりも。
 頑張れば頑張るほど僕の周りから人がいなくなって、どうしようもなく立ち尽くすしかない。
「…………………まぁ、一応この手紙読むか…………」
 一人癇癪を起こしても聞いてくれるような人は誰もおらず、次第に虚しくなってきて僕は手紙のことをふと思い出す。
ただゆっくりが手紙を書くとは思えない。だとしたら誰かに手渡された物なのだろうか。
「ええと、なになに『今日伝えたいことがあるので小学校の裏山にある夕香林樹の下に来て下さいBy森陰孫子』」
 とりあえずこの町に小学校は第一風華小学校しかない(第一で唯一)。だからそこで待っていることは間違いない。
そして僕はその差出人の名前を良く知っていた。
「森陰というと、あの子か」
 もりかげまごこ、見栄えのよいオレンジ色の短髪でいつも教室の盛り上げ役となってきた元気のよい女の子。
時々教室で今のように孤立しかけていた僕に話しかけてきたのも彼女。そのおかげで僕は大分救われ、今まで心を壊さずに生きてこられた。
その女の子が僕を待っている、これは期待が出来そうだ
 その上裏山の幽香林所と言えば絶好の告白スポット、この木の下で告白すると必ず成功するといういかにもでありがちな伝説まである。
「……………………………アリジャネ?」
 いやいや、と僕は甘い考えを振り切って深く考えてみる。
もしかしたら彼女はその伝説を知らないかもしれないし、ただ僕に用事を押しつけようとしてるだけかもしれない。
 でもそれならそれで良い。確かに僕は彼女に好意を抱いているがこぞって付き合いたいと思う程度の好意ではないのだから。
彼女は小さい頃からゆっくりと一緒にいるというのを聞いた事があるし、そこでゆっくりの捕まえ方をレクチャーして貰うのもいいはず。
 それに、仮定の話だがもし僕が本当に心の底から彼女のことを好きであるのなら、こちらから告白してもいい。
「とは言っても、今はそんな大好きってわけじゃないしな」
 そう思っているもののつい頬が緩んで、僕はつい手紙を握りつぶしてしまった。
気持ちも晴れたしそれでは向かおう、伝説のあの場所へ。

 元々いたのが学校近くの小道だったので裏山に行くのにはそう時間は掛からず、日が落ちる前までには夕香林樹の所まで来ることが出来た。
「お、いたいた」
 木の下の橙色の髪が遠目からでもはっきりと見えて、容易に彼女、森陰孫子だと特定できた。
待っている間手持ちぶたさだったのだろう。森陰さんは何か金髪のゆっくりらしき物と一緒に戯れている。
「もういるんだな…………」
 僕の手の中に入らないゆっくりがあんなにも彼女の近くで楽しそうしているのを見て僕は非情に羨ましくなる。
その楽しそうな表情を見るたび僕は激しい敗北感に襲われ、一度は帰ってしまいたいとも思い始めた。
「……………………………うう」
「ん?あ、来た来た、おーい、相次瞬~~~こっちこっち」
 彼女は僕の名前を呼び捨てにして、楽しそうに手を振っている。
これでどんなイヤに思っても逃げるなんて選択肢は消されてしまった。
「ゆっくり来るんだぜ、出来ればいそいで!」
 どっちだよ、と言ってもその矛盾点ッぷりが尽きないのがゆっくりだ。口調からするとどうやらゆっくりまりさのようである。
二人の眩しい笑顔が余計に僕の心を窮地に押し入っていく。お前等はキン肉星の王子かっての。そして僕は悪行超人か。
「あ、そのなんかそこらへんのゆっくりれいむから手紙貰ったから来たんだけど………」
 そう言って僕は手紙を取り出すが握りつぶしていたのを忘れていて、ぐしゃぐしゃな手紙を見て彼女はほんの少し悲しそうな表情になる。
「なによ、そんなに私の事が嫌い?」
「さいてーだね」
「ゴメン、その場の勢いに任せて握っちゃった……いや別に嫌いじゃないよ!むしろ…」
 と言いかけて僕は唐突に口を紡ぐ。
あぶねえ、危うくこちらから告白しそうだった。
下手をしたら『嫌いじゃない』と言う言葉も告白に当たりそうだったが、彼女は未だ顰めっ面で僕を見つめている。
「それで用ってのは一体?こんな所呼び出したんだからそんなつまらない用じゃないと思うけど……」
「うーん、確かにつまらない用じゃないわね、何てったってあんたの一生に変化与えちゃうほどだもん……ね」
 フラグか。
伝説の木の下で人生を左右するほどの出来事と言えばあれしかない。
あれ、そうあれ!あのあれとかメタルあれではなく、所謂告白!!!
「で、でも心の準備が」
「ここまで来ておいてそれはないでしょ、変なところで気弱なんだから!」
「…………………それでは、どうぞ」
 ここまで押し切られたらもう僕は何も言えない。彼女は改まって一つ咳をして僕と向かい合う。
「瞬!あんた旅に出る気はない!?」
「…………………………………旅?」
 とりあえず告白ではなかったようで僕はほんの少し安心したが、その単語の意味を僕はいまいち掴めなかった。
「旅って、どういうこと?」
「う~ん、ここで話すと長くなるから、後で家に来て!私の家分かる?劇場の近くの研究所だから!」
 そう言ってここから去ろうとする森陰さんだがその前に一つ聞いてみたいことがあって僕は彼女を呼び止めた。
「その、この木にまつわる話って………知ってる?」
「???誰かが首吊ったとかそんな話?」
 あ、知らないんだ。ここの呼び寄せる事の意味を。
はっきり言ってこの伝説自体に効力は全くないと僕は考えてる。場所なんかで恋心が変わるかと言ったらプラス面では絶対働かないと思う。
重要なのはここに呼び寄せること。それ自体が告白行為となって、婉曲的であっても相手に好意を伝える。
 知らないなら知らないでしょうがないや。そう家に帰っていく彼女を見ながら自分で納得させるも何処か虚しい物があった。
じゃあ何でここに呼び出したんだよ。

 学校をから約十分、僕の家からは十五分程度歩いたところにカザハナタウン唯一の劇場があって、
その向かいの家のすぐ隣に森陰家、というかオレンジTIE研究所があった。
 オレンジTIE研究所は名前からはわかりにくいが生物、主にゆっくりの研究を行っている場所だ。
ゆっくりと人間の歴史はそう浅くはないのだが何故か未だゆっくりの生態についての研究は全くと言って良いほど進んでいないらしい。
それ故に各地の研究所が我こそはと互いに激しく敵対して研究を進めているほどだと聞いている。
「確か彼女の母親が………ここの主任だったっけ」
 会うのは初めてだなぁと思って僕は初々しい気持ちで研究所に正面から入っていく。
いや別に結婚とかお付き合いのことを言いに行く訳じゃないからそう固くならなくてもいいのだけど、どうも先ほどのことが尾を引いているようだ。
「しつれいしまーす。相次瞬という者ですがぁ」
「ゆっくりしていってね!!!」
「おーきたきた。こっちこっち」
 奥の扉から森陰さんとまりさが手招きをしている。とりあえず導かれるままに歩を進める僕であったが研究所に入ってから何処かみょんな臭いが鼻についていた。
生物研究所だからホルマリンとか薬品の臭いくらいはすると思うのだがこの臭いは薬品とは違った嫌悪感がある。
「それじゃ、お邪魔しまぁす」
「おーお前が孫子の言っていた相次かぁ、初めまして、あたしがこの研究所の主任兼孫子の母親森陰橙子だ」
 扉の奥には白衣を着たオレンジ髪の女性が口に十本以上の煙草を咥えてそう僕に挨拶した。
ナルホド、この臭いは煙草か。よく見ると森陰さん(孫子)のゆっくりまりさはいつの間にかMS-06の様なガスマスクを付けていた。
容姿は親子だからか森陰さん(孫子)とよく似ているがスタイルの良さと髪の長さ、そして眉毛の太さだけは孫子さんよりもグレードが高かった。
「あーゴメン、うちの母さんもはやスモークゾンビだから………」「(シュコーシュコー)」
「とりあえず問題無いけど…所で用というのは」
「ああ、それは母さんに聞いて」
 母さんに聞いて、ということは研究所がらみの話だろうか。まさか隣町まで荷物を取りに行けなんてそんな話では………
「あー早速だけど相次、全国廻ってゆっくり捕まえてこい」
「……………………え?」
「いやこの町にいるだけじゃ全然研究捗らないし、サンプルというか資料が欲しいんだよ。
 まごまごしてたらライバルの玖我シアリーズ研究所に遅れを取っちまう。それだけは我慢ならん!!
 だからお前と孫子の二人で全国廻っていろんな種類のゆっくり集めてきてね、旅費は出すから!」
「その、一つ聞きたいんですが何故僕に?」
 クラスにゆっくりと付き合っていた子はそんな少なくなかったはずで、ゆっくりとの付き合いがない僕が頼まれると言うのも変な話だろう。
そう弱々しく僕が反論すると橙子さんは太々しくこう言った。
「だって、お前将来決めてないらしいじゃん」
 ………………………人が気にしていることを。と言うか何でそんな事貴方が知っているんだ。
「いや将来と言っても社会に出て働く気はありますよ?でも隣町とか行くのも辛いしこの町で雇ってくれるかどうか………」
「じゃあゆっくりが必要だな、それならついでに私の提案を聞いても悪くないだろう。だから行け」
「全国廻れって、ついでのレベルじゃないでしょう!!」
 間違いなく人生棒に振りかける行為だ。と言うかもうお願いから命令になってるし!!
「………………ね、母さん。私ゆっくリーグに挑戦しても良い?」
「ん?ああ、その代わり私の頼み疎かにすんなよぉ」
「へへ………」
 橙子さんに頭を撫でられて嬉しそうにする孫子さん。
見ていて心和み、羨ましくもなる光景だが僕にとってはそう言う問題じゃない。
「えーと、僕いやですよ。そんな旅に出て根無し草の生活だなんて。ましてや、ゆっくりトレーナーなんて………」
「近頃のガキはませた考えしてるなぁ………夢がないよ…………ん?でも…………………」
 ふと何か思い立ったかのように橙子さんはそこらの棚から一冊の本を取り出す。
何処かで見たことあるような本だが何故か思い出せない。学校で見た事あるような………………
橙子さんはパラパラとページを捲り、とあるページで指を止めて僕の方を何故か見た。
「なんですかその本…………」
「えー、こほん『ぼくのしょうらいのゆめ』」
 ………………………………………………………え?
「『ぼくはおとなになったらじんるいさいきょうのうけおいにんになってあいかわさんみたいにさつじんきとかころしやとかをばったばったとたおしてみたいです。
  ふたつなは”すかーれっとふぉとん”とか”らくえんのしんくなうけおいにん”とかがいいで』」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
 なぜ!なぜそれをおおおおお!!!!!!!!!!!!僕の忌まわしき過去がアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「これ一年前の文集だけど………この一年で一体君にどういう心情の変化があったのかしら?」
「私は知らないよ」
「……………………………………!」
 畜生、よくもやってくれやがったな。一年前の僕はそりゃあブイブイ言わせてたけど今ではしっかりと常識人だ。
もう絶対に協力何かしてやるもんか!!この太眉オレンジババァめ!!
「もし断ったらこれを町中に配布する!」
「このくそばばああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「それって既に学校中に廻ってると思うけど、聞こえてないねこりゃ」
 なんて事を!ここまで露骨に脅迫して来るだなんて!!!!
「やだよぉ………………風天の生き方だなんて」
「……………………………いいじゃん風天でも」
 床で三角座りして屈辱を噛み締めている僕に対して孫子さんは優しく僕の肩を叩く。
「何か目的を持って突き進むことは社会で生きていくのと同じくらい誇れることだと思う。だからさ、良いじゃないゆっくりトレーナー」
「………………………………目的なんて」
「じゃあ、競争しましょ!!どっちがゆっくリーグチャンピオンになれるか!!今から私たちはライバル!今から始め!!」
「……………………………ゆっくリーグか、」
 夢を捨てて僕は常識人になったつもりでいたが、結局それは無意味でしかなかったのに今気付いた。
僕の夢は強くなって誰かの役に立ち、誰かのために戦えるヒーローになること。正義とかじゃない、誰かのために立ち上がれる戦士に。
ゆっくりトレーナーは誰かの役に立てるだろうか、誰かのために戦えるだろうか。
 目指す価値は、あるはずだ。
「分かった、それじゃあ僕と孫子は今からライバル。競い合おう」
「よしっ!それじゃ今からスタート!いやっほおおお!!」
「ゆっほおおおおおおお!!!」
「ちょっと待ちなさい!孫子!」
 この煙まみれの空間から逃げ出すように孫子さんとゆっくりまりさは外へ行こうとするがその直前、橙子さんは急いで孫子さんを呼び止めた。
「リーグも良いけど私の頼みを疎かにしないって言ったでしょ!ほら、図鑑!」
 橙子さんは机の上から二つのデバイスを取り、それらを僕と孫子さんの二人に手渡した。
赤い小型の電子辞書みたいな形状で表面には大きく『ゆ』と描かれている。
「これはゆっくり図鑑!ゆっくりを捕まえていくごとにデータが私の方に送られてくるから大事に保管しておきなさいよ!」
「う、うん、分かった。それじゃ!いってきまーす!!」「いってくるんだぜ!(シュコー)」
 そうして扉は大きく開かれ孫子は一目散にこの部屋から逃げていった、いや飛び出していった。
僕は手の中にあるゆっくり図鑑を見て自分の夢、目的を思う。
これからゆっくりと旅して、育て、戦い、突き進むのだ。
 だから……………………………………………………………………………あれ?
「あの、おかーさん?」
「あんたにおかーさんって呼ばれる筋合いはないっ!呼んで良いのはパパだけよッッ!」
「いや、旅立つためのゆっくりを~なんて」
「……………………無い」
「………」
「いないのよ、そんなの。とりあえずれいむとかさなえとかさくやとか用意したけど…………いつの間に逃げられた」
 そりゃあこんなたばこ臭いところにいたらゆっくりだって逃げ出す。
とりあえずその煙草どうにかしろ。いつか肺ガンで確実に死ぬぞ。
「それじゃ、ゆっくりボールとか………」
「注文したけど全然来ない、KONOZAMAよ!!!」
「………………………じゃあ、どうやってゆっくりを捕まえろと…………」
「……………ゴッドハンドで頑張れ」
 先ほどはそれをやって失敗したんだが。
しだいに橙子さんの頬から冷や汗が流れ始め、目が泳ぎ始めている。もう僕の姿さえも積極的に見ようとしない。
「………………………………せ、製品版ではれいむ、まりさ、さなえの三つが選べるわよ」
「このばばあああああああああああああああああああああ!!!!もうしらねえよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 どうしようもない居たたまれなさと煙の不快感で僕は脱兎の如く勢いよくこの部屋から飛び出した。
どいつもこいつも!!そんなに僕の事が嫌いかアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!



 帰宅後、服を汚したことで一番始めに母さんの怒鳴り声が聞くのだろうかと思っていたが、母さんはまず最初に僕の卒業を祝ってくれて、
その次に服の汚れを心配し、その後服にこびり付いた煙草のにおいであらぬ疑いをかけられた。
「瞬、いくら卒業したからって煙草は…………二十歳になってからよ」
「吸ってないよ、ちょっと森陰さんちで」
「ああ、あのスモークゾンビ博士の…………なら仕方ないわね」
 一応それであっさり疑いは晴れたがあの博士ってとんでもないイメージで広まってるんだな、と妙な納得をした。
 その後、父と母と僕三人揃った夕食となり、当然のように進路の話となり僕は今日のことを逐一話した。
これからの自分に不安があること、ゆっくりがいなければ隣町に行けないこと、そしてゆっくりトレーナーとして旅に出ること。
 旅に出ることに関して両親は反対することはなかったが、やはり不安なのだろうか二人とも会話中とても心配そうな表情を浮かべていた。
「う~ん、僕の母さんはゆっくりを連れて旅してたって言うけど、瞬。お前ゆっくり捕まえられるのか?」
「この辺でゆっくりボール買える所なんてないし、一つくらいゆっくり匿った方がよかったかしら?」
「………大丈夫だから、僕なら出来る。それなりに、うん」
 反対することがなかったのは僕の祖母も同じ事をやっていたからだそうだ。今も老体の身で二人のゆっくりを連れて世界中を旅しているという。
僕はそんな二人の気遣いを受け、旅の準備のために自室に向かった。
これから一生を左右する旅に出ることとなる。そのためにも今までの自分をきちんと整理しなければいけないと僕は考えたのだ。
 修学旅行のとき使った大きなバック、遠足のとき使った大きな水筒。どれもこれも懐かしく、思い出深い品物がざくざくと出てくる。
そしてその中に、一枚の紅いバンダナがあった。
「……………………………………………」 
 側面に二つ紅い稲妻の飾りが付いた紅いバンダナ。それは僕が本気で正義の味方になろうと思っていた時自力で造ったバンダナだ。
正直昨日までの自分だったら黒歴史の一つとして無下に捨てていたかもしれない。
 しかしこれは僕が本気で夢を目指していた証の一つ。形からでも正義の味方になろうとしていた自分がいた事を思い出させた。
「……なぁんで、正義の味方になること諦めちゃったんだろうなぁ」
 正義の味方になろうと頑張れば頑張るほど、人は僕から離れていき、そこに虚しさを感じた僕はその夢を簡単に手放してしまった。
そう考えると、僕は今も昔も、全然何も変わっていないではないか。何が常識人だ。
「………………頑張るか」
 僕は意気込んでそのバンダナを頭に被り、自分の姿を手鏡でまじまじと見た。
似合うかどうかは別として、このバンダナはぼくに夢に向かう勇気を与えてくれる。今も昔も変わっていないのなら夢に向かう力もまだ残っているはずだ。
 そして決意する。明日、あの場所でアイツと決着を付けることを!
「しかしやっぱ似合ってるなぁ、特に紅い髪に紅と言うのが」


 木陰から朝日が差し込みその光は僕の眠気を徐々に徐々に覚ましていく。
紅いバンダナを被り、大きなバックを持って僕は再びあの学校近くの桜舞い散る小道に訪れていた。
「出てこい!れいむ!昨日の続きだ!!!」
「おにーさんもしつこいね」
 僕の呼びかけにまるで待っていたかのように木の影から現れた昨日のゆっくりれいむ。
れいむはそこからゆっくりとゆっくりと僕に近づいていく。
「で、おにーさんは準備とかできたの?ちゃんとゆっく」
「おらぁ!!!!!!!!!!」
 先手必勝、僕はバックをその場に置き、セリフの途中でれいむに掴みかかった。
しかしれいむは機敏な動きで僕のタックルを簡単にかわしていった
「ゆっ!?昨日れいむにまけたこと覚えてないの!?ばかだね!」
「『負けた』?いや、その言い方はおかしいな、お前を素手で捕まえようとしたのはこれで二回目だ!」
「二回も三回も、何回やっても同じだよ!らくえんのすてきなまんじゅうは素手じゃやられるほどおちぶれちゃいないね!!」
「捕まえてみせるさ!俺はその楽園の素敵な幻想を………ぶち壊す!」
 自分で格好いいと思うセリフを吐いて僕は再びれいむに向かって突進し、れいむはそれを再び躱す。
そのやりとりは不毛ながらも何回も続けられ、両方の体力をとことん削っていった。

「………………みぐるしいよ!どうしてそんないっしょうけんめいになるの!?」
 この戦いが始まったのは朝であったが、いつの間にか太陽が頭の上から照りつけている。
二人の呼吸音がこの世界全ての音のように感じる。それほど二人は長く戦い続けてきた。
「見苦しいだと、こいつ!!!絶対に捕まえてやるッッッッ!!」
 なぜこうも僕の努力は、他人から蔑まれることしかないんだろう。
れいむの言葉を聞いて僕は激昂し、足のバネを全力で縮ませて一気に飛び出す。
だがそれもまたれいむに躱され、僕は近くにあった木に頭からぶつかってしまった。
「うわぁ…………………流石にあきらめてね!!」
「……………………諦める…………だとぉ…………このゆっくりがぁ!僕をなめんなッッ!」
 ぶつけた額を抑えながら僕は再びれいむに照準を合わせる。
何か顔中ぬるぬるした感触に襲われたり、視界が赤く染まったりもするが、そんな事は今は関係ない!!
「おらあああ!!相次スカーレットバスターッッ!!」
「なんかばかなこといってるけどまじでこわいぃぃぃ!!!!」
 右腕と左腕を後ろで伸ばして組み、あえてれいむを飛び越す程度にジャンプをしてれいむの頭上で腕を一気に元に戻す!!!
例え前や後ろに逃げようがれいむの後ろに回ったときに捕捉出来るし、右や左に逃げてもこの両腕で大きく振りかぶりれいむの体を掴めるはずだ。
しかし腕を元に戻した瞬間、目眩がし視界がぼやけ、腕が空振り僕はそのまま頭から地面に激突した。
「がッ…………………………ご、ごの」
「わけがわからないよ…………………しょうじきいっておにーさんは変だね!!!」
「うるぜえええええええええええ!!!!おまえらも僕の事をバカにずんノが!!!」
 僕は怒りにまかせて再びタックルしようとしたが、何故か足が動かず、何も見えなくなってきた。
頭がぼーっとする、思考が廻らない、額が軋む、顔が動かない、首が回らない、目が開けられない、息をする度に唇が痛む。
一体僕はどうしたのだ?いやそんな事は関係ない、今考えるべきは目の前のれいむを捕まえることだけ……………………
「……………?はは、頑張るよ、僕は頑張るから……………行かないでよ」
「…………………い、いくら涙目になってもれいむにはゆっくりとしてのプライドがあるよ!ゆっくりボールなら避けないことを考えてやらんこともない!」
「………ははっ………そんなのないから、僕は素手で頑張るしかないんだよ………」
「頑張る頑張るって限度があるよ!!」
「うるせええええええええ!!!努力に限度なんてあるか!!!何でみんな僕を否定しようとすんだよ!!!
 認めてくれよ!!!こんなに………こんなに頑張ってるんだから…………みんな………僕を嫌いにならないで…………」
 頑張っても、頑張っても、結果に辿り着く前に周りの人は僕を止めようとして、結果の是非にもかかわらず誰からも評価されない。
残るのは嘲笑、苦笑い、後悔。だから僕は夢を追うことを止めた。
「でも…………………今は全力で頑張らせろ!!!頑張れば……………絶対何か出来るから………」
「でもそんな怪我でどうやってがんばるの?」
「…………怪我…………?怪我してる…………のか?」
 そうか、先ほどの不調の原因は怪我のせいか。でも、僕は今立ち止まることは…………出来ないから…………………
「………前々から思ってたけど、瞬は一人で頑張りすぎ」
 ふと聞き覚えのある女の子の声を聞いて振り向くと、そこには昨日旅だったはずの孫子さんとまりさの姿があった。
「何だよ、お、おまえまで、ぼ、ぼくを……………ばかに」
「そうじゃない、瞬はいつも『一人』で頑張ってるのよ、誰からの手助けも必要としないで……
 もうちょっと……人を頼ってよ」
「…………………それなら、そうと言えよ…………………」
 見栄を張りたい12歳な僕。他人の手を借りることが恥ずかしいこと、自分一人ですることが格好いいことだと思い続けてきた。
だから困ったときは誰かを頼るという考えは思いつかず、僕はいつも一人で何とか極地を脱しようとがむしゃらに頑張ってきた。
 他人の力を借りれば、避けられることも無かったかもしれないのに。
ゆっくりボールくらいこの町の誰かが持ってるだろう。その人から貰うなり借りるなり出来たはずだ。
「…………………………でもこれは…………僕一人の事情だから」
「はぁぁぁ!?うぜぇぇぇ!!」
 孫子は僕の頭を掴み無理矢理僕と視線が合うように手を捻る。首が痛いがその真摯な表情に声を出すことが出来なかった。
「あんたとあたしはもうライバル同士よ。だからあんたがそんなんじゃ張り合い無いじゃない!!」
「……でも」
 人に借りを作るのは苦手、ましてやいつ返せるかも分からない借りはあまりしたくなかった。
僕がそんな遠慮がちな態度を取っていると孫子は痺れをきらしたようで地団駄を踏み僕に叫び散らした。
「あんたは変なとこで気弱なのよ!ほらこれ、あたしのゆっくりボール!しっかりと使いなさいよ!」
 孫子から小さいボールを無理矢理渡されて背中を押された僕は再びれいむと向かい合う。
手渡されたボールは何故か暖かさを感じた。仕方ない、こうなりゃ孫子の好意を有り難く受け取ろうではないか。
「こっからが本番だぞ」
「ゆふふ、そんな事分かってるよ。さあこれがラストステージ。一発限りの真剣勝負だね」
 僕はゆっくりボールを構えてジリジリと射程距離を縮めていく。
狙いを定めて投げつければそれで終わりだが、生憎視界と意識が朦朧として上手く狙いを定められない。
 手元にあるボールは一つ。他人から手を借りるのはこれで最初で最後。
だからありとあらゆる手を使ってでも確実に相手にボールを当てるようにしなければならなかった。
「………………………………………」
「………………………………………」
 固唾を呑み、僕とれいむは互いに無言のまま互いの動きを探り合う。
そして、僕の朦朧とした視界の中で、れいむはほんの少し動きを見せた。
「今だッッッッッッッッ!!!」
「ゆっっっっっっっっ!!!」
 れいむが跳ねると同時に、僕は大きく振りかぶってゆっくりボールを投げつける。
だがほんのちょっとタイムラグが生じてしまいその投射方向にれいむの姿はもう無かった。
「躱されたッ!?」
「いいやっっ!!!」
 何者にも当たらず、地面にぶつかったゆっくりボールは地面で回転を始め、そのままれいむに向かって跳ね返っていく。
空中で身動きの取れないれいむはその弾道を躱しきれず、ボールにぶつかりそのままゆっくりボールの中に吸い込まれていった。
「……………………………つ、捕まえたか?」
「いや、体力が余ってると外に出られることがあるから…………………」
 それなら大丈夫だ。体力なら、もう既に削りきってある!!
 れいむを吸い込んでから地面で大きく揺れていたゆっくりボールは次第に動きが収まり、最終的には動かなくなった。
「たぶん、いやきっと成功よ」
「……ふ、ふ、ふ、ふ、いやっほおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
 僕はその嬉しさのあまりあまり動かせない足を無理矢理動かして、ゆっくりボールを手に取り高く掲げた。
「ゆっくりれいむ!!!ゲットだぜ!!!」
 一度入ってみたかったセリフだ。後悔はない。


 余韻を十分堪能した後僕はゆっくりボールを目の前でまじまじと見つめ、捕まえたれいむの顔を見てみたいと思いボールをいじくり回す。
触っているうちにボールの真ん中にあるボタンを押してしまい、中かられいむが飛び出してきた。
「ぷーーーっ!やってらんないよ!」
「ふふ、ふふふふふふふ」
「な、なに!今度はにやけ顔とおにーさんさっきから気持ち悪いよ!」
「いやさ、さっきまでの反抗的だったお前がこうして僕の手中に入ることが」
「………………十二分にきもちわるい理由だったよ、やっぱすなおににげとけばよかったかなぁ」
 そうやって嬉しく思っているとポケットに入れていたゆっくり図鑑が光を発していることに気付き、僕はゆっくり図鑑を取り出した。

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      ,'==─-      -─==', i
      i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i |
      レリイi (ヒ_]     ヒ_ン ).| .|、i .||
       !Y!""  ,___,   "" 「 !ノ i |
        L.',.   ヽ _ン    L」 ノ| .|
        | ||ヽ、       ,イ| ||イ| /
        レ ル` ー--─ ´ルレ レ´     ゆっくり図鑑 NO.002 ゆっくりれいむ
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らくえんの すてきな まんじゅう。 その あいくるしい
すがたで がいたの みんなを とりこにした。
わきを みせびらかしている みこは にせものだ!

 がいたとかにせものとかがよく分からないがこれでゆっくり図鑑が一つ埋まり、旅の目標に一歩近づいたこととなった。
とりあえず頬ずりもしておきたいところだったが、れいむは果てしなくイヤ~~~~な顔をしているのでとりあえずボールに戻しておくとしよう。
「ええと、戻し方は」
「また同じボタン押して、出てきた光をゆっくりに当てるのよ」
「そうか、それじゃれいむ!戻れ!」
 孫子に言われたとおりにボタンを押して僕はれいむをボールに戻そうとしたが、れいむはボールから出てきた光をさっと躱した。
「…………………………………」
「…………………………………」
 狙いが悪かったのかなと僕は再びボタンを押すがれいむは側転をしてその光を躱す。完全な回避行動だ、コレ。
「戻れよ」
「そんなタバコ臭いところはもうゴメンだね!」
「タバコ臭い!?」
 れいむの言葉を受けて僕はそのボールの臭いを嗅いでみると確かに煙草の臭いがむんむんと発せられている。
「そういえばうちに置きっぱなしのボールだったから……………」
「ぜっ~~~~~たいにもどりたくないよぉぉぉ!!!」
 あの太々しい表情を絶やすことの無かったれいむが大声を上げて泣いている。
そういえば、橙子さんが『れいむとかさなえとかさくやとか用意したけど…………いつの間に逃げられた』と言っていたな。
もしかしたらこのれいむはその逃げ出したゆっくりの一つなのかもしれない。
「けど、どうしよう。ボールに戻せないんじゃ……」
「いや?別に問題無いわよ?私だってまりさをいつも外に出してるもん」
「そうだぜ!」
 戻さなくてもいいんなら戻さなくてもいいだろう。いくら辛酸を舐めさせられたといっても無理矢理嫌なところに行かせるのは正直気が引ける。
それに僕だってあの煙草の臭いをかぎ続けるのは流石にイヤだ。
「ゆ~ゆっくりありがとね!おにーさん!イヤ礼を言うほどでもないかも」
「はは、僕の名前は相次瞬って言うんだ。お前は?」
「れいむはゆっくりれいむだよ!しゅんおにーさん、ゆっくりしていってね!!!」
 れいむは僕の頭に載ってふんぞり返るが、今の僕にはそれが心地よい。
これが僕のパートナー、初めてのゆっくり。
「それじゃ、これで私たちはようやくスタートラインに立ち並んだと言う訳ね」
「孫子…………さん」
「ライバルだから孫子でいいんじゃない?せっかくだからバトルしたいけど、その様子じゃね」
 れいむは疲労困憊、僕は満身創痍でバトルなんか出来る状況ではない。
そもそも僕はバトルの仕方さえも分からない。まだまだヒナになってもいない初心者だ。
「そんじゃ、私は先に行くから!また何処かであったらバトルしましょうね!!」
 そう言って孫子は手を振ってまりさと共に路地を駆けていく。
そのまま見送るのもよかったが、僕は彼女に言いたいことがあって追いかけて呼び止めた。
「?」
「…………あの、その、ありがと」
 ゆっくりボールを貸してくれなかったら僕はスタートラインに立つことが出来なかったかもしれない。
それに人を頼ることを、彼女は教えてくれた。
「ふふ、それじゃ最後に一つ忠告!ゆっくりバトルはゆっくりを信じ、ゆっくりに的確な指示を与えることが大事!
 一人だけで頑張ってたって、何の意味もないからね!!それじゃ!!」
「ゆっくりバッハハーイ!だぜ」
 そうして別れの言葉を言って、孫子の背中はどんどん小さくなっていった。
桜散るこの世界で、今はれいむと二人ぼっち。
目の前には道、廻りには頼るべきゆっくりがいる。
「さて、僕達も行くぞ!」
「ゆっくり頑張るね!!ちゃんとフォローもおねがいするよ!」
 ここから始める大冒険、不思議なナマモノゆっくりと少年の旅はまだ始まったばかりだ!!




 第一話 終わり



               書いたかもしれない人 躁みょん(カリカリ)の人

  • 卒業文集の将来なりたいものってやつ見返してみると黒歴史。あるあるw
    しかもなんでこんなのになりたかったのかと疑問に思うものばっかり -- 名無しさん (2012-06-30 18:44:39)
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最終更新:2012年06月30日 18:44