こうして、とある焦げれいむ姉妹の冒険はここで終わってしまったのであった。
だいたい私の所為。
~終わり~
『勝手に終わらすんじゃねぇえええええ』
「ぎゃわー」
饅頭による渾身の一撃が私の顔面を強襲した。
見た目と違って凄く痛い攻撃だ、これ。当たった箇所ががひりひりする。
『お前、マジどーしてくれんだよ!マジどーしてくれんだよ!冗談じゃ済まないよ、これ!』
「いやうん、まさか私もこんな展開になるとは思いもよらなかった。今は反省しているごめんね」
『そんな軽いノリの謝罪で許されるかぁああ!!この饅頭殺し!』
「まぁ待てよ、お前ら饅頭だし、美味しく食べられて死ぬって凄く本望なんじゃね。
ゆっくりは“美味しく食べられるのが何よりの幸せ”とかどうせそういう設定あるんだろ?
そいうい食べ物の妖精さん的な存在なんでしょ、お前ら。なら何も問題はないでしょう」
『なに分かったような口でゆっくり語ってんだよ!?マジ腹立つんだけど、この小娘!』
ゆっくりらしかぬ憤怒の形相でシャフトの限りを尽くす焦げれいむ。
私に悪気はなかったのだが、どうやらけっこう深刻な事態になってしまったらしい。
『うあわぁああああああああ。姉じゃぁあああ!!私を置いて逝ってしまうなんて‥』
そして焦げれいむはとうとう大粒の涙を流して泣き始めた。
いよいよ場の空気に悲壮感が充満し始める。
そういう空気の中でも“泣いてる顔とか思ったより可愛くないなぁ”としか思ってない私はけっこう酷い奴なのかもしれない。
『うぅうう、ぢくしょう! 強襲した鳥妖怪に夜空の星にされてはや11ヶ月‥、
小惑星に不時着したり、暗黒宙域をさ迷ったり、
黒焦げになりながらも成層圏に突入してはやぶさ並みの感動の帰還を遂げたり‥』
「お前それは流石にISAS(宇宙科学研究所)の皆さんに失礼だろ」
『そんな奇想天外ゆっくり姉妹、命がけの大冒険。残した家族と再開するため必死に長い旅を続けてきたってのに‥。
こんな所でその冒険が終わってしまうなんて‥!!』
「まぁ元気出せよ。確かにお前の姉の長い旅路はここで終わったかもしれない。
けれど、お前と言う存在が生きている限り、お前の姉ちゃんの今までの頑張りも決して無駄にならないさ。
残されたものには意思を継ぐ義務がある。一つの長い物語が終わり、そして今ここでお前だけの新たな物語が始まったんだよ」
『アーロン気取りか!?実行犯のお前が言うことでどんな高尚な台詞も台無しなんだよ!まずそれを理解しろよ!
ああうう、姉じゃ。なんであんたがこんな小娘に食べられなきゃならない‥!』
(私、この旅路が終わったら‥、
WORKING!のぽぷらちゃんみたいなちっちゃくて可愛い子に食べてもらうのが夢なんだ)
『夜寝る前、決まって私にそう語っていた姉じゃが、どうしてお前みたいな小娘に‥!!』
「お前の姉ちゃん、ただのロリコンじゃねーか」
可愛い子に“食べてもらう”とか、饅頭の発言ってやつは本当にアブノーマルだと思う。
「あ、でも。そういう夢ならけっこう叶ってるじゃない。 ほら、私ってけっこう小柄だし、かわいいし」
『寝言は寝て言え、お前みたいなちんちくりんがぽぷらちゃん語るとか100年早いわ』
「‥‥お前も取って食ってやろうか?
ていうかなんだとこの饅頭、私の何が不満よ!?」
『とりあえずバストサイズ二回りは増量させてからまた来い!今のままじゃ話にならんわ!』
「む、む、胸の話は関係ないでしょ!!それに私そんなに小さくない!!」
『胸を反らすな!それでも全然盛り上がらないところが寧ろ郷愁を誘うわ!』
「う、うっさいわぁボケー!これ以上胸のことは言うな、泣くぞ!」
『色んな意味で泣きたいのはこっちじゃぁあああ!!! ていうか既に泣いてるし!』
そんな感じで饅頭と延々と続く口論をワーワー続けていた時、
あの“声”が、突然私たちの耳に囁かれた。
【くだらない喧嘩はそこまでにするんだ。我が妹、そして常闇の妖怪よ‥】
もう既に、この世に存在しないはずのあの声が。
『この声は‥、まさか姉じゃ‥?』
「そんな‥。あいつは死んだはずじゃ!?」
まさか、全部食べていたと思ったのは私の気のせいで、僅かに欠片が残っていたのだろうか。
注意深く辺りを見渡すが、それらしき物体はやっぱり残っていない。
【ああ‥、確かに私は死んだ。この常闇の妖怪‥ルーミアに食されたことでな。
だが、なんとか魂だけは浮世に残すことができたみたいだ】
魂‥?
通常、死んだ生物は霊魂となり、彼岸へと渡るはずだ。
それが、浮世、そしてこの場所に留まっただけならまだしも、こうして生きている私たちに聞こえる声で喋っている?
そんなこと、あまりにこの世界の摂理から逸脱した現象だ。
【悲しむな、妹よ。私は今凄く気分が良いんだ。きっと饅頭としての本懐を遂げたからだろうな。
あらゆる因果から解放され、天へと浮かぶ心地でもある】
いったいこの声はどこから‥!?
私は聴覚を集中させ、この不思議と頭に響くような声の発生源を探った。
かなり近い位置から聞こえる気はするのだが‥。
そう、ちょうど私の顔の下。私の身体の中心辺りから。
ん? お腹‥?
【悔いを残すとすれば、妹のお前のことだけだ。家族と再会するまでは私がついていてあげたかったんだが‥】
私は、無言で両手を使い自分の腹部を覆ってみた。
【おふぁえをふぃとり残しふぇ逝く、ふぉろかな姉ふぉゆひゅふぃてふれ】
丁度、口を手で押さえながらも無理矢理喋ったような、くぐもった声が腹部から響いた。
『姉じゃ‥、良いんだ、れいむは‥。もう二度と会えないと思っていた姉じゃの声をこうして聞くことができたのだから。
それだけでれいむには十分過ぎる』
【そふゅか‥。ひゅまない‥】
「なんて場所で会話してくれてんだお前ぇ!!」
驚きのあまり、私は腹部から手をどけて、思いっきりの嫌悪感と気味悪さを込めて叫んだ。
確かにこいつは私の腹部で溶けて死んだことになるんだろうが‥、
なにも同じ場所に霊魂残して語りかけてくることはないだろ!一応女の子お腹だぞ、そこは!!
【こうやって一度死に臨んでみるとな、そういう細かいこと全部どうでもよくなってくるんだ、不っ思議だねー。
ていうか実際けっこう居心地良いわ、ポカポカあったかいし。なんか永住とかしたくなってきた】
「いや、マジやめてくれる? お前を食っちゃったことはマジ謝るから、それだけはマジやめてくれる?」
【ルーミアよ。少しでも私を食ったことを悔やんでくれるというなら、一つ頼まれてくれないか】
「いやうん、何でもしてあげるからマジそこから出ていって、いやマジで」
【そうか‥、ならば妹のことを頼む‥】
「妹‥? このれいむのことよね?」
【ああ。何も一生世話をしてくれと頼む訳ではない。
ただ、このまま妹一人を魑魅魍魎が闊歩する夜の森に捨て置くのではあまりに危険極まりない。
どこか、ゆっくりでも安全な生活が送れるようなところまで、案内を頼めるだろうか‥?】
『姉じゃ‥、最後までれいむを気遣ってくれるなんて‥』
「別に、それくらいなら構わないけど」
【そうか、良き返答、感謝する。 妹よ‥】
『なんだい、姉じゃ‥』
【お前は、お前だけは‥ どうか立派に‥】
【ぽぷらちゃん‥、もしくは轟さんのような女性に食われて、幸せな生を終えるんだぞ‥。
間違ってもこんなちんちくりんを選ぶな】
『あ、姉じゃ‥。姉じゃぁああああ!!
分かりました!れいむは、れいむは、きっと深夜アニメで人気が出そうな美少女に食べてもらいます‥。
間違ってもこんなちんちくりんには食べられません!!』
「余計なお世話だぁあああああああ!!!!」
【だってお前良くてレベル山田じゃん】
レベル山田じゃん‥】
ル山田じゃん‥】
山田じゃん‥】
やまだじゃん‥】
だじゃん‥】じゃん‥】‥】
こうして、苛立たしく不快なフェードアウトを残して、
私のお腹から響いていた焦げれいむ(姉)のボイスは、因果地平の彼方へと消えていった。
『姉じゃ‥、今までありがとう‥』
「塩飲んでやる、塩!」
そして、夜の森には今度こそ、私と、一匹の焦げれいむしか残らなかった。
そして、私は当初の目的どおり、パートナーとしてのゆっくりを確かに手に入れることになった。
よりによって、一番遠慮したいと思っていた“れいむ”のゆっくりを‥。
「はぁ、まったく嫌になるわ」
『え? なに 何がー?』
別に、縁結びの効果があるといっても、
『手に入れたゆっくりと同じ顔の相手とくっつくことができる』という法則性が必ずしも働いている訳ではない、と思う。
ミスティアが持ってたゆっくりだって最初は“れいむ”だった訳でもあるし。
だが、それでも、できるだけこのゆっくりとは、出会いたくなかった。
『そんなにれいむが気に要らないのかよー』
手の平の上で焦げれいむが訝しげに尋ねてくる。
夜の小道を歩きながら私は無言で首を振った。別に、こいつ自身に対して不満がある訳ではない。
そしてそれは、博麗神社に住む“本人”に対してもだ。
だが、それでも‥
「ネックなのは確率論だよねー」
『えーと、人類は十進法を覚えました?』
「人のネタを取るな、しかも関係ないし。
要はさ‥、宝くじは買わなければ当たらないって奴。
どんなに確率が低くても、可能性は零じゃないっていう言葉」
耳障りだけは良い、明るい希望の光で満ち溢れたポジティブな言葉。
「私さ、あれ嫌いなんだよね」
『はぁ、何突然?』
「あれ言う奴ら絶対理解してねー。
当たる確率がはずれる確率の何千万分の一か。一って言葉に浮かれすぎなんだよ。
想像できる? 他の9999999個の席ははずれなんだよ、残り一個に自分が居なきゃ意味ないんだよ」
私一人が特別になって、あの人の隣に居れる可能性はどれくらいだろう?
宝くじで一等当てるのとどっちが簡単か。
「無理じゃないし、不可能じゃない。可能性は零じゃない。
だけど、そんなのはずれるに決まってんだろ、当たる訳ないでしょ」
だから、希望は持たない。変な期待は持たない。
それが普通。“逃げ”とか“楽”じゃない。
心躍る特別な幸運に、当たらないのが“普通”なんだよ。
『お前に夢も希望もないのは分かった』
「まぁ、否定はしないよ。それで、これからの予定だけど‥、
お前みたいのがたくさん住んでる場所知ってるから、明日連れてってあげるよ」
『私みたいのって?』
「博麗神社って神社に、お前と同じ顔したゆっくりがたくさん住んでるんだ」
いつも眺めてる場所だから、そのことは良く知っていた。
「そこなら、ある程度安全に生活できるでしょ」
『まぁ、OK。分かった。お別れは寂しいけどね』
「はん、良く言うわ」
希望や期待なんて、持たない方がずっと楽。
分かりきったこと。
「とりあえず、今日はもう夜遅い。私の縄張りで眠ろうか。 はぁ‥」
『ういすー。 しかし、元気ないね?何か嫌なことあったの?』
「別に‥」
逆だ。
ああ、理屈では分かってる。分かっているのに。
どうしようもなく、私なんかじゃ絶対的に無理だって分かってるのに‥。
明日、博麗神社に行く用事が出来た。
なんで、それだけで、身体中をけたたましく駆け巡るこの胸の慟哭は収まらない?
ああ、嫌だ。
会って、ちょっと話ができるかもって、それだけなのに‥、
私、心の中から、明日のこと“楽しみ”だって思ってる。
そのことが、嫌で嫌でたまらない。
~fin~
乙女ルーミア三部作これで一応終了です。御愛読ありがとう御座いました。
最後の方ゆっくり空気‥、お許しください! byかぐもこジャスティス
- 山田好きな俺からすれば全然問題ないな。
一応ゆっくりが誤解の上で死んだはずなのにそれを明るくコメディとして調理できるところからして
作者さんのセンスが光っていると思う。 -- 七氏 (2010-07-02 11:45:57)
- 塩のんだら成仏しちゃうじゃないですかーw
-- 名無しさん (2010-07-24 18:16:26)
最終更新:2011年08月26日 15:01