ゆっくりもんすたあ 第五話-2



「やっぱあんま変わってないなこのジムも~」
 時間つぶしのため僕達はメディカルセンターに行って一度ゆっくり達の治療を行い、準備を整えて改めてコウマジムの前までやってきた。
ジムには先ほどのメイドとバニーの喧嘩の傷跡が外にまで荒々しく残っている。修理してあるところもあるがそれも継ぎ接ぎのようにしか見えない。
 しかしこれを見て変わってないとは一体どういうことなのだろうか。
「お嬢様に能天気メイド、事務メイド、『おーっす!未来のチャンピオン!』と言うエロい人……みんないるだろうか」
「なんすかそのエロい人って」
「入りゃ分かるよ。たのもーう!!」
 道場破りのような口上を言ってケシキさんは両手で勢いよくジムの扉を開ける。
ジムの内装の方は修理が終わっていたようで、瓦礫の汚れが残っていたものの整然とした紅い洋館の姿がしっかりとそこにあった。
「スカーレット!!この路岬 気識が再び挑戦しに来たぞ!!」
「あ、その」
 そんな風に勇んでジムの中に入っていくと、先ほど僕を外に連れ出してくれたメイドさんがおどおどしながら僕達に近づいてきた。
先ほどの喧嘩の処理で忙しかったのだろう。純白のメイド服は汚れに汚れ、時々肩を落として溜息までついている。
「一応……挑戦者ですよね」
「ああ、俺とこのシュン君。二人とも挑戦だ」
「先ほどはどうも」
「あっ……その……無事で何よりです」
 ほっと胸をなでおろすとそのメイドさんは一度大きな深呼吸をする。
そしてポケットからマイクを取り出して喉から出せる精いっぱいの声を張り上げた。
『お、お、おーーーーーーーーーーーっす!!み、み、未来のチャンピオン!!!』
「……………………」
「……………………エロくないですね」
『ひぇっ!え、エロいだなんて言わないでくださーーーーい!!』
 マイクで増幅されたメイドさんの叱責が耳をつんざく。
一緒にいる描写はこの文節には無かったけど、久しぶりにバンダナに載っていたれいむもその衝撃で僕の頭から転げ落ちていった。
「ちくしょうまたこんな扱いか!」
 でも戦う前に傷つかれても困るので僕はれいむを間一髪掴みそのまま腰の前まで持っていった。
腕の中でれいむは僕のことを見つめている。なんかこのふにふにしている頬も妙に紅潮していた。
「……こ、こんなことぐらいでみなおしたりなんかしないんだからねっ!」
 はいはいツンデレツンデレ。それにもすっかり飽きたので僕はそのままメイドさんの方に向きなおした。
『つ、続けます!このコウマのジムは初心者はともかく中堅さえも苦戦する全国屈指のジム!それでも挑戦するというのかーーー!!』
「挑戦するぞーーーーーーーーー!!」
 ケシキさんはノリノリでいいのだがメイドさんはかなり無理してる感じがある。
エロくないし恐らく人事異動でもあったのだろう。まぁ結構可愛いから問題無いか。
『げ、げ、元気が良くていいぞぉ~~!!それじゃあこの門番のお姉さんが……あ、台本通りじゃ駄目なんだ。
 このメイドのお姉さんが特別にここのジムリーダーの情報を教えちゃうぞーーー!!………はぁ』
 そう言うとメイドさんは近くの銅像にもたれかかって一休みし始めた。
なんでこんな人を妙な役職に就けるんだ。もっと適材適所というのがあるだろ。可愛いから許すけど。
『ふぅ……それじゃ耳かっぽじ…よく聞いてねーーー!!』
「いやっほーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「ゆっほーーーーーーーーーーーーー!!!」
「い、いやっほーー……」
 なんかれいむまでノリ始めたので僕も一応叫んでみる。くそっ妙にシニカルに育った自分が腹ただしい!
『それじゃあ!!!リーグの条約によってジムリーダーは基本タイプが統一されていまーす!!』
「「イエーイ!!」」」
『それはこのコウマジムも過言じゃありません!それを今から皆さんに教えましょう!』
「「「ヤッホーー!!」」」
『このジムリーダーが使うタイプは血湧きたぎる格闘タイプ!もみじやてゐとかのノーマルタイプはかなり不利ですよ!!』
「「イエーーーッッッ「ちょっと待った!!」ダァーーー」」
 と、さっきまでテンションノリノリだったケシキさんが突然制止を入れたせいで、ノリかけた僕のテンションが一気にダダ滑りしてしまった。
折角いい情報を貰ったというのにいうのになんで止めるんだろう。ケシキさんは訝しげな表情でメイドさんに物申す。
「アイツは「飛行」タイプ使いだったはずだぞ。それがどうして格闘なんかに」
「あ、その、いや……真に言いにくいのですが……その」
 どうやらケシキさんは以前戦った時とは専門にしているタイプが違うということについて尋ねているらしい。
メイドさんも答えようとしている意思はあるようだけど、ケシキさんの妙な威圧に怯えて上手く言葉を紡ぐことが出来ないようだ。
 そうグダグダな状況が続いていると二階の方から女性特有の甲高い声が洋館中に響いていった。
「それはこの私が説明しましょう」
 その声がする方へふり向いて見ると、先ほどまでバニーと空中戦を繰り広げていたメイドさんが二階の手すりに腰掛けていたのだ。
顔には喧嘩のあとと思われる絆創膏が張り付いていたが服装だけはきちんと整っていた。
「なっ!お、お前は事務メイド!!これは一体どういうことだ!」
「あら、本当にお懐かしい顔ですね。再挑戦しにこないから他のところに行ったのかと思いました」
「今から挑戦するところだ!それにしても格闘タイプって一体どういうことなんだ?あいつ宗旨替えしたのか?」
「ああ、今から説明したします。少々お待ちを」
 メイドさんは手すりから降りると、メイド以上のように思えるほどの優雅な歩き方で一階まで降りてくる。
そして僕達の前まで来てスカートの端を持ちコクリと一礼した。
「私はあなた達を歓迎いたします」
「……で、説明してくれるんだろな」
「ええ、でも残念なお知らせになると思いますよ」
 それでもいい、そう言った強固ない意志を込めてケシキさんは頭を下げる。
メイドさんは僕にも了承を取ろうと言う風に顔を向けたので、僕もとりあえず頭を下げた。
「分かりました、では。
今このジムには全国最強ジムリーダーと呼ばれる、いや呼ばれていたお嬢様はいません」
「「「な、なにぃぃーーーーーーッッッッ!!!」」」
 と一緒に驚いてみるけれど、全国最強の相手と戦えないということは僕にとってかなり好都合ではないかと思う。
上級者同士の戦いが見れないのは少し残念だが、本意である挑戦が容易になったのだ。
 心がかなり昂ったが、がっかりしているケシキさんの前でガッツポーズもできるはずもなく僕はその感情を無理矢理心の中に押し込めた。
「ゆっほーーーーーーい!!これで勝つる!」
「………………」
 けれどそんな僕の気遣いを泡にするようにれいむははしゃいでしまい、その結果ケシキさんの強烈な敵意の視線を受けることとなってしまった。
というか動けない。まるで全身が麻痺してしまったかのような感覚を受ける。
「い、一体どういうことだ!?というか呼ばれていたって!!」
「落ち着いてください。別に引退したというわけじゃありません。
 お嬢様はかねてからのゆっくリーグの要請を受けてこのジムを発ち、ゆっくリーグ四天王の座に就いたのです」
「り、リーグ!?それって……」
 ゆっくりトレーナーの最大の目標にして最後の壁。
そんな凄い人になるほど強いのかと僕は感心していたがケシキさんはその説明で納得出来なかったようで再びメイドさんに詰め寄った。
「四天王ってもう全員埋まってるだろ!?だからアイツもこのコウマで燻っていたわけだし……」
「ご存じないのですか?三か月ほど前、四天王のトップであるミツズキさんが辞めた、いや勝手に脱走したんですよ?」
「……トップに何があったの?」
 四天王が脱走って絶句と言うしかない状況じゃないか。僕達三人全員開いた口がふさがらない。
「さぁ?なんか『I return a normal girl!!』とかほざいて三階の窓から飛び出したようで。
 捜索も空しく、仕方なくお嬢様がトップ代理として着任しました。もっともお嬢様はかなり御不満のようでしたけれど」
「……そうか」
 リベンジに闘志を燃やしていたのが空回りに終わってしまい、ケシキさんはひどく落ち込んだ様子で近くの銅像にもたれかかった。
一粒一粒涙が零れ落ちているのを見るととても嫌な気分になって、僕はケシキさんをほっとけずに居られなかった。
「大丈夫ですよ。リーグに行けばまた戦えます!!だから……」
「……お前の言うとおりだ、そうだよな!!」
 僕の言葉を受けて、ケシキさんは涙を拭きあっという間に立ち直った。
なんてさばさばした人なのだろうかと感心しつつも呆れている自分がいる。まぁそうでなきゃ僕もこうして付いてきたりはしないのだけれど。
「そんじゃリーグを目指す為にはまずバッチだよなぁ。と言うわけでお手合わせ願おう」
 そう言ってケシキさんは勇ましくゆっくりボールをメイドさんに付きつけた。
それに対しメイドさんは訳が分からないといったような表情で首をかしげている。
「私と戦うのですか?」
「あんたはこのジムの実質NO,2だろ?あいつがいなくなった今ここのジムリーダーはお前のはずだ」
「……………ごめんなさい。もう一つ伝えなければいけない事がありました。実は」
「セリエさん!!!!私の出番まだですか!?」
 メイドさんが深深と頭を下げ説明しようとした時唐突に二階の方から別の女性の声が響き渡る。
かなり遠いところから発せられているはずなのに近くで拡声器を使ってるほどではないかと思えるほどの声量に僕は思わず耳をふさいでしまった。
「門番!せめて説明が終わってからに」
「あれだけ押しつけたくせに待ちぼうけは酷いですよ!!テヤァ!!!」
 その掛け声とともに僕達の目の前の床に突然影が映り、その影を蹴りつけるかのように勢いよく女性が降ってきた。
ウサ耳の付いた中華帽に扇情的なバニースーツ、生足を隠しつつも色気も醸す網タイツ、着地の衝撃で胸が揺れるほどエロい体型。
 どこかしらゆっくりめーりんに似ているような雰囲気はあるが、ゆっくり自体は昔からいるのできっと似ているだけだろう。
「あっ!『おーっす!未来のチャンピオン!』って言ってたエロい人!!」
「確かにこれはエロい」「エロい、流石バニーエロい」
 豊満な胸がバニースーツから零れ落ちてしまうんじゃないかと思うくらいのエロさに、僕とれいむは『エロい人』という言葉を妙に納得した。
「あーはいはいエロいですよ……普通に中華服着たいなぁ……」
「門番、お嬢様の命令に背くつもりですか」
「命令って!!それならセリエさんこそお嬢様にジムを任されたのに!!」
「ええ、そうです。その命令は絶対に破ってはいません」
「それならジムリーダーはあなたがやるべきでしょうに!!!」
 口論の末再びメイドさんとエロい人の喧嘩が始まりそうになり、もう一人のメイドさんとケシキさんはその間に入って仲裁をした。
さっきのようなレベルの喧嘩が始まったらもうどうしようもなくなってしまう。
 それを知っている二人が必死で宥めてくれたおかげでエロい人の興奮は収まり、喧嘩の危機はなんとか回避されたのであった。
「おい事務メイド。お前がジムリーダーじゃないのか?」
 ケシキさんが先ほどのエロい人の言葉を受けてそうメイドさんに質問するとメイドさんは頭を下げてこう言った。
「はい、申し遅れてごめんなさい。今から紹介します」
 そしてもう一人のメイドさんと一緒にエロい人をはさむような位置に移動し、祝福するかのように二人はエロい人に向かって拍手をする。
「そう、この人が!!」「新しくコウマのジムリーダーとなった門番です」ってセリエさん!!人の名前を門番にしないでください!!」
 このエロい人、つまり門番さんが全国最強の人に代わってこのコウマジムのジムリーダーとなったわけか。
けれどケシキさんの方はその紹介でもまだ納得できないようでなんとも煮え切らない表情をしていた。
「なんでこいつが……?」
「実は私ジムリーダー試験の更新をしていないんです。それで一応暇そうだった門番にリーダー試験を受けさせて……」
「更新試験くらいちゃっちゃとオトハ島に行ってやってくださいよ!!セリエさん私より強いんですから」
「だから門番!私はこのジムを任された身としてここを離れるわけにはいかないのです!!」
 大体の理由分かったけれどメイドさん、いやセリエさんは少し頑固すぎるような気がする。
こう言うのが忠義なのかなと少しメイドという職業をしっかりと理解できたと思う。
「まぁ確かにオトハ島まで行くのに最速で往復一カ月って言うしな」
「そうです。私以外経理や事務を行える人がいませんから。そのことで門番と先ほどは大喧嘩までして………
 アリアさんにも迷惑をかけてしまって……本当にごめんなさい」
「あ、いいんですよセリエ先輩。メイド仕事の厳しさを体感できましたから」
 おどおどしたメイドさん、アリアさんは格下であるはずの自分に何の躊躇いもなく頭を下げてくるセリエさんに驚きつつも優しい声で気遣う。
ジムも単なる公共事業じゃないから色々苦労してるんだなと完璧蚊帳の外にいる僕はそんなことを思うしかなかった。
「いろいろ事情は分かったが……そろそろ挑戦してもいいか?」
「あ、はい、分かりました。ちなみに私の名前は此ノ花 芹恵と申します。以後お見知りおきを」
「人の名前を門番って言ってるくせにちゃっかりと自己紹介だけはするんですね……」
 門番さんの冷たい目を華麗にスルーして話を続けるセリエさん。
何かこの人、他の人にはとことん丁寧だけど門番さんにだけはとことんシビアなような気がする。


「それでは、まずどちらが先に門番と戦いますか?」
 ようやく話題に入れそうになったと思ったが、セリエさんの何気ない言葉に僕とケシキさんは互いに顔を見合わせる。
最初は全国最強の敵が相手だからケシキさんから先と言うことにしていたけど、こういう事情だと話は変わってくる。
「どうする?」
「ん~」
「へんっ!全国最強じゃないなら問題ないよ!とっととかかってきな!」
 腕の中のれいむは相手が門番さんと知るや否や調子に乗ってそんなことをのたまっている。
口が悪いのはよくないがやる気を出してくれて何よりだ。なら、僕も頑張らなくちゃいけない。
「それじゃケシキさん。僕が先でよろしいですか?」
「ん?あとの方が相手の戦略とか見れて有利だと思うんだが」
「いや、まだこの後七つもあるのにそんな甘えたことは言ってられませんよ」
「わかりました。それではシュン様が最初ですね」
 戦闘順を確認するとセリエさんはメイド服のポケットからリモコンを取り出して階段の方を向いてボタンを押す。
すると階段は真っ二つに割れてその下からフィールドのようなものがせりあがってきた。
 ジム専用のフィールドと言うことなのだろう。全体的に平野だがギミックとして岩や柵があったりと芸が細かい。
「おー懐かしい、でも前とちょっと変わってるな」
「ええ、お嬢様用からこの門番用に変えたので。全くエロいやつは本当に金食い虫ですね。経理と事務を行う身になってください」
「酷い言いようです」
 肩を落としながらも門番さんは縮地法でも使ったかのように一瞬でフィールドのトレーナーが立つ場所まで移動していた。
「さて挑戦者!!私だってあのお嬢様の門下生!ゆめゆめ油断しないようにお願いします!!」
「わ、わかりました!!」
 門番さんの大声量につられて僕も声を張り上げフィールドへと一歩踏み出す。
これがジムの風、ジムの空気。門番さんを目の前にして僕の鼓動は張り裂けそうなくらい鳴り響いていた。
『それでは!!コウマジム決戦!挑戦者シュンVSジムリーダー門番!!2VS2のシングルバトルを始めます!
 ちなみに審判はこの菜ノ奈 有亜が務めさせていただきます!!それではゆっくりファイト!!レディーーーーー!!!
 GO-----------------------ッッッッッッ!!!!』






 ジムリーダーの門番が勝負を仕掛けてきた!!!                             BGM 対決ジムリーダー!(赤緑ver) 


「アリアさんまで人のことを門番って!と、とにかく行けッ!!いちりん!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
 門番さんの放ったボールからは何か頭巾を被ったゆっくりとスタンドみたいな髭親父っぽいものが出てきた。
頭巾の方は普通のゆっくりだが髭親父の方はただのゆっくりとは思えないほどの威圧がある。これは一筋縄ではいかなそうだ。
「……ん」
 あれ?今僕の目の前には『二人』ゆっくりがいるように見える。
もしかしたらスタンド扱いだからいいのかなと思いつつも僕はゆっくり図鑑を開いて分析してみた。


                 ,-── -、___
             , ' ⌒´ ̄   、⌒(    `ヽ、   、
           ,-'"        )) `ー'    ヽ _))
        ,,.-''"´ ̄ ̄`ヽ      ( (_-──-__,─'ノ ̄
    /::::::::::::::::::::::::::::::::\    / ゙、..} 二 {..,─'ヽ`ヽ、
   /i´::::::::::::::::::::::::::::::::::`i:::ヽ   l rr=-,   r=;ァヽ  )
  ./::|彡:::::::::::::::::::::::::::::::ミ|::::::ヽ ノ   ム___ゝ     l (
  l::::{;;;;;;;;\;;;;;;;;;;;;/;;;;;;;;;;}:::::::::|( // _ノ ,,,,,,,,ヽ、ヽヽ ,) ヽ、
  |::(( (´(ヒ_] ̄ ̄ヒ_ン)`Y l:::::::::| 彡 ̄_ノ   ヽ、 ̄ミ    )
  |::::))ノ"" ,___,  ""ノソ:::::::::| ´ ̄         ̄` ノ   ヽ
  |::::::::ヽ   ヽ _ン    /::::::::::::::|`ー─ ---─---─ '   __)
  .ノ:::::i:::::::>..,____,,... イ:::::::::i:::::::|`(__(___,-── '"   ゆっくりNO、 いちりん ゆっくりNO,うんざん
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
めいんは いちりん。 うんざんは おまけ。 うんざんは しゃべらない
うんざんは やさしい うんざんは ほうようりょくが ある
うんざんは うんこに にてる。 めいんは いちりん。


 ええと、説明分は一つだけどデータ自体は二人分埋まっている。
やっぱりこいつらは二人なのだろうか、悩んでいても結局結論は出なかったので聞いてみた。
「レフェリ~!これって二人分じゃないんですか」
「あ、ええといちりんとうんざんは特別なんですよ。うんざんはいちりんがいないと制御できないしいちりんは一人だと個性ないし」
「ちくしょう!不人気って言われても『毎月10日は一輪の日』って言ってくれる人がいるんだい!」
 まぁそれなら仕方ない。それじゃあこちらもいくとするか。
「いけっ!みのりこ!!」
「秋たりしないでね!!」
 投げたボールからみのりこが飛び出しそのままいちりん&うんざんコンビと向かい合う。
そして、みのりこが二人に向かっていったところから戦いの火蓋は切られた。
「なにごとも先手必勝!!うおりゃ!!」
 得意ののしかかりをしようと思いっきり跳ねるみのりこだったがそれもゆっくり一人分移動されただけであっという間にかわされてしまった。
「そんな単純な攻撃ぃ」
「いけっ!はっぱカッターだ!!!」
 余裕があるからこそ相手のいちりんは最低限の回避しかしなかった。
今、みのりこといちりんとの距離は1mもない。射程距離としては十分、みのりこから放たれた葉っぱは勢いを保ったままいちりんに向かっていった。
「なっ!!」
「むううううううううううううううううううう!!!!」
 だがいちりんの額に葉っぱが刺さるというその瞬間、急に風が巻き起こったかと思うと葉っぱは影も形もなく消え去っていた。
一体どこ行ったんだと見まわしてみるとうんざんから巨大な腕が生えていることに気が付く。そしてうんざんの固められた拳からぱらぱらと葉っぱが舞い散った。
「ぜ、ぜんぶうけとめたというの……?」
「いちりん!!そのままマッハパンチ!!」
「うんざん!マッハパンチ!!」
「!!」
 門番さんからいちりんへ、いちりんからうんざんに命令が伝わっていく。
そのタイムラグを狙ってみのりこはその場から離れようとしたが、うんざんに命令が伝わった途端うんざんの拳が目にもとまらぬ速度で放たれ、みのりこの体を吹き飛ばしていった。
「ゆぎゅん!!」
「みのりこ!な、なんて強さだ……」
 強い、強いぞ。あのうんざんとかいうやつ。
だがそれにも付け入る隙はある。一つは命令のタイムラグ、そしてもう一つは命令中継がなければどうしようもないということだ。
「や、やってくれるじゃない」
「みのりこ、いちりんを重点的に狙えるか?」
「難しいわねぇ……あれだけ近くにいたらこっちが近づく前にやられちゃう」
 耐久型のみのりこにとって火力と敏捷がある相手はタイプを別にしてもかなり相性が悪い。
どうにかして引き剥がせないものか。
「来ないのならこっちから行きます!!そのまま殴りかかりなさい!」
「うんざん!!」
 二人の掛け声によってうんざんは巨大な拳を固めパンチの構えをとるがみのりことの距離は結構ある。
拳撃の速度に反してあの図体から全体的な機動力は無いだろう、そう考えて僕はみのりこにもっと離れるように指示を出した。
「……ん?追ってこない?」
 けれどもいちりん達は全く動く様子がなく構えたままずっとその場に鎮座している。
こう言う怪しい行動に限ってとんでもない技が来ると思うので僕は油断せず離れるように指示を続けた。
「ゆ、ゆぅ……やっぱ近づいてこないか」
「相手は草タイプ。下手に時間を取ると危険です、今すぐ放ちなさい!!」
「わかったよ!うんざん!」
 やはり油断を誘っていたらしく指示は正しかったと内心ほくそ笑む。これだけ距離をとれば相手が近づいてくる前に防御態勢は完全に整うだろう。
しかしいちりんがみのりこに向かって跳ねるとうんざんはその場で拳を振るい、その拳はまるでロケットパンチのようにみのりこに向かって吹き飛んできたのだ!!!
「にゃにぃ!?」
「よ、よけろおお!!!」
 車と見間違うほどの速度で巨大な拳はみのりこを襲うが、最初から回避の準備をしていたおかげで直撃はなんとか免れた。
攻撃を回避された拳は減速してそのまま逆再生するかのようにうんざんの元へと戻っていく。
その間にもみのりこはもう体勢を整えて、隙だらけな手甲にむかって攻撃の準備を始めていた。
「みのりこ!!拳に向かってはっぱカッターーー!!」
「いちりん!霧散させなさい!」
「な霧散!!」
 距離一メートル、威力が減衰されずに放たれた葉っぱは拳に突き刺さると思っていた。
けれど拳の形がぼやけたかと思うと葉っぱは拳に刺さることなく素通りし、そのまま3m辺りのところでへにゃへにゃと床に落ちていった。
「なんだこりゃ!?攻撃が……」
「ふふん、うんざんは入道雲のゆっくり。もともと形がないものだと思ってくださいね」
 なるほど。特定の形状を持たないからこそ腕を飛ばすという豪快なことが出来るのか。
雲と言うのなら風で吹き飛ばせばいいがみのりこはそんな技を持っていない。せめてれいむにチェンジできればいいのだけれど。
「審判~ゆっくりのチェンジってありですか?」
「今出てるゆっくりが戦闘不能になったらいいですよ」
 これは地味に困ったことになった。れいむを出す為にはみのりこがやられなければいけない。
みのりこもただやられる事をよしとしないだろうし、もしそうなったとしてもれいむはいちりんともう一人のゆっくり相手に二連戦をしなくちゃいけないこととなる。
 風を使う作戦は無しだ。他に打開策は無いか僕は指示を出しながら必死に考える。
「……待てよ、体が雲?」
 門番さんが言うように雲は元々形が無いようなもの、もしかしたら通常は雲のようになって攻撃や防御の時だけ硬化しているのではないだろうか。
その仮定が正しければきっと付け入る隙はある。
「みのりこ!近づいていちりんを狙え!!」
「ゆっ!?わ、わかったわ」
 賭けになると思うが拳が飛ばせると分かった以上距離を取るのは無意味だ。
僕の指示に戸惑いを感じて入るもののみのりこは多少迂回しながら着実にいちりんとの距離を詰めていった。
「わざわざ近づいてくるだなんていい度胸ですね!!とっておきの技見せてやりなさい!!炎のパンチ!!」
「よっしゃあ!!ふれいむぱーんち!!」
 いちりんがそう叫ぶと、どのような理屈かは分からないがうんざんの右拳から炎がぶわっと噴き出した。
そのまままるでファンタジー漫画のように炎は拳を纏い、うんざんの影も炎によってユラユラと揺らめいている。
 そして炎の拳はみのりこを狙って一直線に飛んできたのであった!!
「!!」
「みのりこ!!」
 迂回しながら移動していたため直線軌道の拳は簡単に避けられるはずである。
けれど僕はそう言った指示を出すことが出来なかった。うんざんの左拳が固められているのを見てしまったから。
きっと炎の拳を避けて隙が出来あったところをあの左拳で始末するつもりだろう。
「そのまま炎の拳に乗り移れ!!」
「えぇっ!?」
「いいから早く!!」
 訳が分からないのも無理はないが、納得できるほどの指示を出したら相手にこちらの行動を読まれてしまう。
理由の分からない行動ばかり指示して迷惑をかけていると感じてはいるけれど、みのりこは僕を信じるといった表情でそのまま拳に載るように跳ね跳んだ!!
「やっぱり駆け出しか……草タイプに炎は禁物、乗っただけでも全身に火が回ってあっという間にやられちゃいますよ!」
「分かってないのはそっちですよ、みのりこ!飛び乗ったらそこからうんざん達の真上に行けぇ!!」
 タイミング良く炎の拳に乗ったみのりこは炎に焼かれながらもそこから一気にうんざん達へ向けて飛び跳ねる。
炎に纏われながらも元気に飛び跳ねたみのりこの様子を見て門番さんは信じられないといった表情を浮かべた。
「な!何故炎が効いてないの!」
「一つ言っておこう……」
「みのりこは焼き芋だ!!!炎など効かん!!」
 これはあのケシキさんとの戦いで知った事実。
酷い敗北に終わった戦いだたけどこうして得た情報もあった。今更ながら戦ってよかったと僕はケシキさんの方をちらりと見る。
「い、いちりん!うんざんの拳を上に……」
「ああん!うんざんの拳どっちも放ってしまいました!!」
 中止の伝令が伝えられていなかったため、うんざんは左拳を予定通り右拳の影を狙うように放ってしまっていた。
今、いちりん達は完全に無防備。今が最大のチャンスである。
「そのまま降下!!その時の風でうんざんを吹き飛ばしてしまえ!!」
「ゆっ!!今までの指示はこの時のためだったのね!!」
「させませんよ!!いちりん!落ちてくるまでに左拳を相手に向かわせなさい!そのくらいの余裕はあるはずです!!」
「うんざん!拳をUターンさせてみのりこを狙え!!」
 いちりんの指示と同時にうんざんの左拳は急遽方向を変え勢いを保ちながらみのりこの方へ向かってくる。
そう来たとしたらこっちも予定を早めるだけだ!
「うおりゃあああ!!」
 みのりこは帽子の中から葉っぱを取り出し勢い良くうんざん達のいる真下へと投げつけた。
今みのりこはうんざん達と2m以上は離れている。普段だったら勢いも減衰して意味のない攻撃になるだけだけど、今は上下という構図だ。
投げられた葉っぱカッターは重力に惹かれ、減衰することもなくうんざんを容赦なく切り裂いて行った!!!
「!!!!」
「う、うんざん!!」
 うんざんが形を崩すと同時にみのりこを狙っていた拳も雲のようになってみのりこを素通りしていく。
そしてみのりこ降り立った衝撃と風によりうんざんの体は完全に崩れフィールド上に広がっていった。
「ああ!うんざん今すぐ戻って」
「させないわよ」
 狼狽しながらなんとかうんざんを戻そうとするいちりんの前にみのりこが立ちふさがる。
この間合いならうんざんが戻る前にいちりんを倒せるはず。勝ったと僕はプレッシャーを吐きだすように肩を下ろした。
「シュン君!油断するなよ!」
「あ、はい。分かりました」
 そう、問題は相手の奥の手と思われるもう一人のゆっくり。
その強さは未知数だ、れいむで勝てるかどうか分からないため今まで以上に油断しないようにしないといけない。
「ゆふふふ……まさに詰み(チェックメイト)ね。星組の不人気として見込みあると思ったんだけどねぇ」
「き、貴様のようなってたまるものか!!!!」
「さて、のしかかりでぺしゃんこになりたい?それとも葉っぱを額に受けるメイド流お仕置きがいい?」
「……なめるなよ、この東方オブ不人気め」
 そのいちりんの一言がみのりこの逆鱗に触れてしまったようでみのりこは憤怒の表情でいちりんに襲いかかった。
いちりんのふてぶてしい表情に僕は何か不安を覚える。もしかして勝ったとと誇るのは、まだ早かったのではないだろうか?
「いちりん!!発勁!!!」
「うおりゃ!!!!」
 いちりんはみのりこの攻撃をかわすように、そこから一気に攻撃に転じた。
それは単なる体当たりにしか見えなかった、けれど怒りに身を任せて防御を忘れていたみのりこはその直撃を喰らい大きく吹き飛んでしまったのだ。
「ぎゃーーーん!!!」
「みのりこ!!!!」
「……いちりん一人ならなんとかなると思った?」
 門番さんの妖艶な声がフィールド越しに伝わってくる。それはまるで警告のようであり、同時に侮蔑のようにも聞こえた。
「普通のトレーナーならうんざんにかまけていちりんを鍛えることを忘れてしまう。
けれど私は『ジムリーダー』。このコウマジムを任されている身!そこらのトレーナーと一緒にしないでください!!!」
「じ、ジムリーダーの実力……か」
 門番さんの言葉が僕の心にずしんと圧し掛かる。
全国最強じゃないからと言っても相手は曲りなりともジムリーダー、エロい服装のこともあって僕はそれほど警戒していなかった。
それがこの結果だというのか。本格的な力の差に僕は再び目の前が真っ暗になり始めた。
「おい!シュン君、何やってるんだ!」
「……ケシキさん」
「まだ負けたわけじゃないというのにぼさっと立ってんなよ!!」
 ケシキさんの声援が聞こえ僕は顔をケシキさんの方に向ける。
ケシキさんは会ったばっかりの僕の戦いをじっと見守ってくれて、声援までしてくれた。
でも駄目、これがジム戦なんだと痛感してしまった。チャンスはいくらでもある、ここはもう諦めるしかないのだ。
「ふざけんなよ!!初心者!確かに目の前のエロいやつはお前よりかは強いかもしれない!!
 でも圧倒的な差ってわけじゃないんだ!!ここで負け癖が付いちまったらお前絶対この先勝てない!!
 初心者だからこそ!!!ここを乗り越えて強くなれるんだろうがああ!!」
「ケシキ……さん」
「そ、そうよ……このまま負け戦が続くなんてまっぴらごめん」
 先ほどの攻撃で吹き飛んだみのりこはボロボロになっていてもなんとか立ち上がる。
圧倒的な差じゃない、その言葉で僕は少し希望を持てた気がする。
 愛するゆっくりのために、そして応援してくれる人のために僕はたたかう!
「威勢が良くても、理想を語っても、現実は残酷ですよ。いちりん、うんざんは?」
「もう元に戻ったよ!」
 フィールド上に散っていたうんざんのかけらは一か所に集まり再び髭親父の姿を取り戻していく。
やはり力の差かさっきよりもうんざんが大きく見える。そしてうんざんはみのりこの狙いを定めて拳を放ってきた。
「く、くそっ!!」
 この満身創痍の状態でみのりこはあの拳は避けられないだろう。
やはり勝つというのは理想に過ぎないというのか。でも、希望は捨てたくない!
「あ、秋らめるものか!!うおおおおおおおお!!!」
「ふん!!無駄な抵抗は……」
 空を裂き、障害物を破壊しそうなほど豪快な勢いで突き進むうんざんの拳。
だがそれは幻影であったのか。みのりこに当たるはずのその拳は幽霊のようにみのりこを素通りし、何のダメージを与えることなくそのままあさっての方向へ飛んでいったのだ。
「………な、い、一体どういうこと!?いちりん!」
「霧散はさせてないです……え?何うんざん……え、え、ええーーーっ!」
「一人で驚いてないで教えて!」
「なんか異物が混じって上手く硬化出来なかったようです」
 異物だと?だが相手は雲そのもの、それに一体何が混ざるというのか。
けれどフィールドを見回してみるとその異物の正体が何なのか分かった。
「煙だ、さっき拡散したせいで煙がうんざんの中に入り込んだんだ」
「煙って一体どこから!?」
「……お前の帽子から」
 炎の拳の影響で帽子も帽子についてるブドウも燃えて頭頂部がかっぽりと見えてる始末だ。何というMs,ファイヤーヘッド。
でもそのおかげで煙が発生しうんざんの硬化を食い止めた。今ならいちりん単体を相手できる!!
「今度は油断なんかしないぞ!!!みのりこ!!いちりんをぶっ飛ばせ!!」
「おりゃあああ!!!」
 全速力でみのりこはいちりんのもとへ近づき、もみ上げに携えた葉っぱでいちりんの頭巾を切り裂いた。
先制出来たのはいい、けれど相手の近接攻撃をどう対応するのかが問題だ。
「こ、この!!格闘タイプに近接で勝てるものか!!」
「うっせぇ!どうせ鍛えられたと言っても中の中程度でしょうに!なむさんの腰巾着に負けてたまるか!」
 いちりんとみのりこは超至近距離で技を出す暇もなく殴り合いをする。
横から加勢がないかと心配になったが、うんざんもいちりんからの命令がないおかげで援護することもなくまごまごしていた。
あとは1対1で勝てることを祈るのみ。頑張ってくれ。
「いちりん!まずはうんざんを元に戻すことに専念しなさい!なんでもいいから一度吹き飛ばして体勢を整えて!!」 
「わ、わかってます!!でも、こいつ何故か全然動かないです!まるで何かに固定されているかのように……」
 そう、固定されているのだ。みのりこが根を張っていることによって。
衝撃が逃げずにそのまま残ってしまうという欠点もあるがうんざんが復活することの方がずっと問題だ。
 でもやはりみのりこが傷つく姿を見てると、僕はどうしても心苦しい。
「背負うものが大きければ大きいほど!!わたしは!!どこまでも守れるのです!!!!!」
 攻撃の隙間を縫って放たれたいちりんの渾身の一撃により、みのりこは糸が切れたかのように攻撃の手が止み、白目をむきかけて無防備にも仰向けになってしまう。
その様子を見ていちりんは勝ったと思って溜息をつき、ようやく攻撃の手を止めた。
「……自分を」
「!?」
 だが完全に戦闘不能になっていたはずのみのりこから声が漏れ、いちりんは拍子抜けた表情を浮かべる。
そしてみのりこは根を動かして一気に起き上がったのだ!!
「自分自身の全てを賭けているからこそ!!私は……絶対に秋らめきれないんだああああああああああああ!!!!!!」
 みのりこは怒涛の叫びをあげていちりんの額に向けて葉っぱカッターを投げつける。
突然の事態にいちりんは何もする暇もなく額にぱっぱカッターを突き刺されその場に昏倒してしまった。
「……へっ、下積み期間が……違うのよ」
 誇りきった顔でみのりこはそう呟き、力なくその場に倒れた。
フィールドには戦闘不能のゆっくりが二人。勝てはしなかったけれど、本当に、本当によくやってくれた!!!!
『………いちりんとみのりこ!両者戦闘不能!!!』
「うそっ!!そんな……いちりん!」
「次が最後の戦い……ですね」
 僕はみのりこのもとへ駆け寄り選別の想いを込めるように思いっきり抱きしめてからゆっくりボールに戻す。
門番さんもいちりんとうんざんをゆっくりボールに戻し、次のゆっくりを繰り出す準備をしているようだ。


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最終更新:2010年10月20日 20:19