【2011年春企画】緩慢刀物語 とある妖夢の追憶章

「みょんさんってゆっくりらしくないよね」
「みょん?」
 始まりはそんな何気ない一言。
旅の道中、二人はいつものように茶店で茶をすすりその身の疲れを癒していた。
ただすることも無く暇を持て余した彼方が茶店に備え付けられた本をまじまじと読み、隣のみょんを見つめながら冒頭の台詞を呟いたのだ。
「だってみょんさんってなんか大人びすぎてるじゃん。漢字とか平気で使うし……」
「え?ゆっくりって漢字使っちゃあかんの?漢字と平仮名と片仮名の国でその三分の一をゆっくりという理由で自重せなあかんの?」
「それにこの本によるとみょんさんってみょんさんの元になった人っぽくないよ?」
 はぁ?と首をかしげながらみょんは彼方からその本を受け取る。
その本にはしっかりと体がありながらゆっくりみょんに似た少女の姿があった。
両手には二振りの日本刀、体の周りには霊。注釈にはその少女の性格や行動、評価などが事詳しく書かれている。
 それを見たみょんはふぅと溜息をついて本を閉じ、題名が書かれた表紙を眺めた。
「なんだ、幻想郷縁起じゃないかみょん」
「何それ?」
「ゆっくりの起源を記した本みょん。えっとこれは第百八十七版、最新版ござるな」
 幻想郷縁起、それはこの世界に太古の昔から伝わり、幻想郷という世界やそこに住む人々と怪異について書かれた記録書である。
その人々や怪異はゆっくりと非常に外見や性格が酷似しており、ゆっくりの性質を判断するゆっくりの起源書という側面もあるのだ。
 だがその幻想郷という世界は未だ確認されておらず著者もはっきりとしない、それなのに数年に一度更新され虚構なのか現実なのか未だ学者の頭を悩ませ続けている書物でもある。
「幻想郷って……あの神様が言ってたやつかな?」
「いやいやあんな寂しい世界では無いでござろう。ともかくあんまり鵜呑みにするべきではないでござる。
 確かにこのなんか短髪ではきはきしていて瞳に鋭さを持ったかわゆい少女とみょんは似ているけどあくまでも別人。
 現にこの本によるレッテル貼りで苦労しているゆっくりも多いそうだみょん」
 カリスマを過剰に求められるれみりゃ、優雅さを過剰に求められるゆゆこ、ドSさを求められるのうかりん。
確かにこの本に書かれていることは間違いではない。けれどあくまでゆっくりにはゆっくりの個性がある事を知ってもらいたいのだ。
「そーなのか、色々ためになるなぁ」
「分かってもらえればうれしいでござるよ、ずずぅ」
 みょんは本を彼方に返しゆっくりのんびりとお茶の続きを飲む。
彼方もお茶をがぶがぶ飲みながら幻想郷縁起を読み耽りゆっくりとした時間を過ごしていった。
「でもさぁ」
「今度はなんでござるか」
「みょんさんって何でゆっくりみょんなのにちーんぽとか言わないの?」
「ぶーーーーーーーーーーっ!!」
 みょんの口から思いっきりお茶が吐きだされ、飛沫が宙を舞い綺麗な虹を象る。
人がお茶を飲んでいるというのに何卑猥な言葉を言ってんだこの娘は。周りの客も彼方の言葉に驚いて咳ごんだり喉を詰まらせたりしていた。
「ちょちょちょ、かなた殿!そんな卑猥な言葉を……」
「え?卑猥、卑猥って何、食べられるの?バナナみたいにおいしいの?卑猥を語って猥談なの?」
「分かってて言ってんだろテメーーー!! あ、すみません、この子がアホな事を……」
 店員に平謝りしてみょんは苦虫を噛み潰したような表情で彼方を睨みつける。
そもそも何故ゆっくりみょんがちーんぽという卑猥な言葉を発することを知っているのだ。彼女は自分以外のゆっくりみょんは潔玉城の門番以外会ってないはずである。
しかもそのみょんは彼方の前ではちーんぽとは言っていなかったはず。それがどうして。
「ん、ここに書いてあったから」
 そう言って差し出したのは先ほどの幻想郷縁起、みょんは彼方の手からそれを奪い取り血走った瞳で流し見た。
「『なお、幻想郷緩慢縁起はこの百八十七版において幻想郷縁起と併合いたしました……稗田阿幾仁』……だと?
 道理で前のと比べて厚いわけだみょん!!」
「それによるとゆっくりみょんはちーんぽとか言うらしいよ。なんでみょんさんは言わないの?」
「ううっそれは……」
 ゆっくりにも個性がある、だからちーんぽと言わないみょんがいたっていいじゃないかと適当にあしらおうとしたかったがみょんはその気持ちを抑える。
幻想郷の少女にも似てない、ゆっくりらしくもないみょんらしくもないと言ったらここにいるみょんは一体どういう存在なのか否定されそうな気がしたからだ。
 みょんはしばしの間沈黙し、そして観念したかのように重々しく口を開いた。
「みょんだって……その、ちーんぽと言っていた時期が……あるでござる」
「あ、そうなの?じゃあなんで今は言ってないのかな?」
「あの時はよくもまぁ卑猥な言葉を恥ずかしげも無く巻き散らかしていたみょん……それもこれもあの人のおかげみょん」
「あの人って誰よ」
「そう、それはまだみょんが10歳のころだった……」
「急に語りだした……短編なんだから短く済ませてよ」



 みょんの実家、真名家は西行国でも一二を争う名家の一つだったみょん。
筆の桜庭、刀の真名というようにとりわけ真名家は武芸に秀でた家柄だったでござる。だからみょんは生まれたころより武士として育ちついたみょん。
だが武士とは礼節を重んじる者、そのような身分で卑猥な言葉はふさわしくない。幼少時のみょんはそのちーんぽと言う癖というか習性がとりわけ酷かったみょん。
『ちんちーんちーんぽ!一足す一はちちちーんぽ!ちんぽっぽはぽぽぽぽ~ん!』
『みょん!いい年なんだからそんなこと言わないの!お母さん怒りますよ!』
『ゆ~、でもちゃんと刀の修行はしてるみょん。みょんはみょんらしくいるでちーんぽ~♪』
『うう、どうしてこんなことに……』
 10歳になり真名家の娘として西行国の国主に初めて謁見することが決まったこともあって、ますますこの癖はどうにかしなければならなかったみょん。
でもどう叱りつけても宥めても治らずお父様とお母様は酷く頭を痛めたそうでござる。
 そして謁見するその5ヶ月前。お父様はみょんの癖を治す為にとある人を雇ったみょん。
『初めまして真名身四みょんくん。私の名前は緋銀(ひしろがね)、今日から君の言葉を治す為に家庭教師を行うこととなった』
『ゆ、ええとよろしくおねがいしますちんぽ』
『ちんぽ!なんて卑猥な事を言うゆっくりだ!下品極まりない!これを五カ月で治せと言うのか!?全く真名妖花妖夢どのは私に無理をおっしゃる!!』
 最初のころは酷く罵倒されたみょん。口を開けば下品下品卑猥下品猥俗猥褻物陳列と聞くに堪えなかったみょん。
でもあの人は真摯に頑張ってくれた。それだけじゃない、この半霊の無い自分を全く差別せず一人のみょんとして扱ってくれたのでござる。
『はい!今から言う言葉を復唱!「新保さんはおりんりんとヴェニスに行ってきっと断行するだろう!」』
『ええと、「ちんぽさんはおちんちんとペ○スにイって亀『スタァーーーーーーーーップ!!』』
 修行は長く苦しかったみょん。卑猥な言葉に似て非なる言葉の連続復唱。影絵による発想力の特訓。
ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を単なる砲台として扱う訓練……
色々失敗はあったけど、着実に、着実にそのちーんぽと言う癖は治っていったみょん。
 そしてようやく謁見の日が訪れたでござる。
『ゆゆ~』
『あなたが真名妖花妖夢(まなようかようむ)と編御体千四季(あみからだちしき)の娘ですか。
 初めまして、私の名前は西行幽微意幽意です、と幽微意様はおっしゃっております。ちなみに私は桜庭家現頭領兼翻訳係の桜庭南と申します』
『その、みょんの名前は真名身四みょんと申しますち……。こ、これから全身全霊を賭けてあなたにお仕えいたします!』
 結果は大成功でござった。その上みょんは幽微意様に気に入ってもらえたようで18にて正式な御家人に、24という若さで栄光の『妖夢』という名を承ったでござる。
先生のおかげでみょんは癖を治し栄光の道を進むことが出来たみょん、でもそれは別れをも意味するのでござった。
『先生!言ってしまうのかみょん!?』
『ああそうだ、久しぶりにアバロンのまずいメシを食べたくなったからね』
『そ、ぞんな……もっと一緒にいてほしいみょん。ちゃんと完璧に癖を治してほしいでござる。何時あれを言ってしまうか不安でならないみょん』
『私をバカにする気か!?私は持てる力の全てを使ってお前の卑猥な言葉を発する癖を治したんだぞ!武士なんだから自信を持ちやがれ!』
『ぜ、ぜんぜい……』
『んじゃな!』
 そうして先生は西行国から颯爽と去っていったみょん。その後の行方は分からない、けれど今日も誰かを罵倒しながら元気に暮らしている事を信じてるでござる。


「みょんがちーんぽって言わないのも先生のおかげなんだみょん。いくら自己同一性とかなんや言われてもそれだけは曲げられないのでござる」
「みょんさんの過去にそんなことがあったんだ……」
 思えば今まで二人で長い旅を続けてきたけれど彼方はみょんの経歴や交友を全く知らない。
みょんさんの事を知りたい、みょんさんについて調べたい、みょんさんの弱みを握りたい。
そして、いつか自分の事も彼女に話してあげたい。彼方は嬉しく思いながらお茶を久しぶりにゆっくりと啜った。
「……ん、さて、そろそろ行くかみょん」
「あ、ちょっと待って。これ全部読み終わってから」
「みょんなことに興味を持って……」
 彼方は横のみょんと本に描かれているみょんを見比べてその違いを楽しむ。
彼女のお父さんも妖夢と言う名前を持っているらしいからきっとみょんのお父さんもみょんなのだろう、だがそこで彼方は一つの疑問を覚えた。
「ねー、千四季って名前って幻想郷縁起にも幻想郷緩慢縁起にも載ってないんだけど」
「え?なに?そう言う事聞いちゃうの?人が気にしてるのに?」
「だって人間がゆっくりの子を産むなんてまずおかし……」
「なんでそう言う事言うの?おお、ひどいひどい」
「あ……もしかしてみょんさんって拾い子……」
「……そうであれば……どんなに悩まずに済んだのか」
 へ?と彼方が言う間にみょんはお金を置いて一目散に逃げ出した。
取り残された彼方は思う。きっとこの事を知ろうとすればきっとおぞましきものに目の当たりとなるだろうと。
とりあえず、ゆっくりのことはまだ知らない。でもあんま深くまで知るべきじゃないなと彼方はお茶の残りを飲み干してしみじみみょんの背中を見つめるのであった。



~続く~











役に立たない人物設定

  • 真名妖花妖夢(ゆっくりみょん)
この話の主人公であるみょんのお父さん。元西行国旗本武士兼ゆっくり剣術指導部部長。現在は隠居中。
若かったころは本体と半霊で真剣を一本づつ持ちやたら滅多に振り回したことから『二振り刃の妖夢』として恐れられていた。
ゆっくりみょんでありながら「ちーんぽ」とか「みょん」とか言わず「です」「ます」をよく使う礼儀正しいゆっくりであった。だからこそみょんの口癖には酷く頭を悩ませていたらしい。
海外渡航経験アリ、海外にはゆっくりみょんは非常に少ないため慣れないことが多かったようだが緋銀とはそこで仲良くなった。
ロマサガ2風のステータスだと 腕力14 器用さ18 魔力21 素早さ22 体力19くらい。

  • 真名千四季(旧名 編御体千四季)
この話の主人公であるみょんのお母さん。元はフリーの剣士であったが西行国の武術大会にて真名妖花妖夢と出会い、恋に落ち、そのまま結婚した。
日元ではあまり慣れ親しみの無い小剣を華麗に操り、決闘形式のような一対一ではまず負け知らずだったらしい。
けれど子を授かってからは武術を捨て一人の母親としてみょんをたくましく育て上げた。それでもみょんの口癖は治せなかったらしい。
ロマサガ風のステータスだと 腕力15 器用さ24 魔力9 素早さ25 体力20くらい。
え?一体どんな種類のゆっくりだって?いや彼女はうわなにするやめくぁwせdrftgyふじこlp;@

  • 色々設定があるんですね。 -- 名無しさん (2011-05-02 00:06:26)
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最終更新:2011年05月02日 00:06