二つの月が輝く夜に、ワルの笑いがこだまする!
国から国に腕利きの、鍛冶師を探し果て無き旅路!
戦国少女烏丸彼方、お呼びとあらば即、参上!
「なんかいつもと違う!?」
セイケン「コンペイトウ」 緩慢刀物語 堕壊章-開- マケン「コンペイトウ」
「あ~!!超お腹減ったしっ♪♪」
待ちに待った一休み。
彼方はいつものように茶店で飲み物を注文する。
徒歩での移動は面倒。
だけど相棒であるみょんと一緒に茶店で一服するのが唯一の楽しみなのだ。
「パクリはやめるみょん」
「インスパイヤだよ。ほら、茶店ではじまる話多いからちょっと気分転換にね」
はははと笑いながらお茶をかぱかぱ飲み干していく。器用な娘だ。
いつも通り凄まじい勢いで飲み物のおかわりを重ねる彼方に、いつも通り軽いめまいを覚えつつも、みょんは店員に大福を注文した。すると店員驚いた。
「だっ大福ですか!?」
「?何をそんなに驚いてるでござる?普通の大福でござろう」
「あの、あんなんですけど…」
みょんと彼方は、店員が指差した方に視線を向けた。そこにはおもちゃみたいな刀を持った女の人が座っており、そこへ…
「「でっか!」」
巨大な大福が運ばれてきた。おそらく注文した当人であろうあの人も、連れのゆっくりれいむ、ゆっくりまりさと共に驚いている。あまりに大きいため、ゆっくりが横に並ぶとどれがゆっくりでどれが大福かわからなくなる。嘘だ。見りゃわかる。
「みょんさん…チャレンジ、する?」
「…遠慮させていただくみょん。じゃあ別の…」
『スィー!スィー!スィスィーン!スィィィーン!』
みょんが再びお品書きを取り、注文しなおそうとした時、外からうるさいんだか静かなんだかよくわからない爆音?が聞こえてきた。
「何だろう…って、スィーなんだろうけど。行ってみる?」
「みょん」
同時に外が騒がしくなってきたのも気になった彼方とみょんは、ひとまず表に出てみることにした。
「おらおらどけどけー!」『スィーン!スィィーーーーン!』
怪音の正体は、やはりスィーだった。サングラスをかけたてんこが、スィーに乗って道の真ん中をゆっくりと突き進んでいる。
「おらおら邪魔だ邪魔だー!どけどけー!」『スィィーーン!』
人間は別段気にしていない様子だが、ゆっくりたちは異常なまでに怖がり、道を譲っている。
「なんか昔、どっかのお笑い芸人があんなネタやってたよね」
「そうでござるか?それにしても、みんななんでそんなに怯えてるでござる?」
「だって暴スィー族だよ!」「こわいよ!」「不良だよ!」
(暴スィー族、ねえ…)
言ってる事は確かにそれっぽいが、肝心のスィーのスピードがかなりスローリィなので迫力が全然ない。速さが足りない。
「そこのババア邪魔だー!どけー!」
てんこの進路上に1人の老婆がいた。しかし老婆は耳が遠いらしく、道を譲ろうとはしない。てんこはもちろん回避などせず突っ込み、てんこのスィーは老婆にGEKITOTZした。
ぶつかった衝撃で身体が宙に放り出され、およそ三丈(9メートル)ほど離れた地面に落ちた。
てんこが。
「………」
てんこは無言のまま帽子とサングラスを拾い、装着しなおしてスィーに搭乗する。
「おらおら邪魔だー!」
そして、無傷の老婆を避けて再び暴スィー行為をはじめた。
「…あれが、怖いの?」
「こわいよ!ゆっへん!」
改めて近くにいるゆっくりに尋ねた彼方だが、返ってきた答えは同じだった。あまつさえ威張られた。
「どうしてそんなに怖がってるみょん?」
「だって、この前聞いたんだよ!」
Q.あなたは、不良ですか?
A.はい、不良です
「不良怖いよ!」
ここで2人はようやく理解した。ああ、こいつら「不良」って肩書きにビビってるだけなんだ。
「みょんさん、どうする?」
「人畜無害っぽいし、放っておく…」
「やいやいそこのゆっくりみょん!」
「…というわけにもいかなくなったようでござるな」
どうやら目をつけられたらしく、スィーがこちらに向かって近づいてきた。しかしあまりにゆっくりなので、みょんの方からも近づいて行ってやった。
「さっきから人のことジロジロ見やがって、なんか用でもあんのか!?」
『無いです』。即答しようと思ったが、いつの間にやら周りに集まったギャラリー(ほぼゆっくり。時々ヒマそうな人間)の視線がそれを許さなかった。彼方殿ならこんな空気、物ともしないのだろうな、などと考えながら姿を探すと、ギャラリーの一員と化していた。他人事かよちくしょう。
「あー、その、みんなの迷惑だからやめるみょん」
「ああ!?私のどこが迷惑だっつーんだ!?」
「いや、それを言われると弱いのでござるが…とにかくみんなが怯えているでござる」
「うるせーな!それなら力づくでやってみやがれ!」
「やれやれ、仕方ないでござるな…」
お約束の展開にやれやれといった表情を見せつつも、みょんは気を引き締めて目の前のてんこを見やる。
てんこの方もやる気満々の目でみょんを睨みつけている。
両者が構えをとり、2人の間に沈黙が訪れる。緊張感。それは周囲にも伝染し、自然とギャラリーも静まり返る。
限界まで張り詰められた空気が弾けるように、2人は同時に動き出し、叫ぶ!
ヴァンガードファイトを始めようとした二人に対し、彼方が叫んだ。
「違うでしょみょんさん!具体的に言うと戦い方が!…っていうかいつのまにそんなものを!?」
「ちょっとフザけてみただけでござる」
気を取り直して。
「ゆっくりしねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「むっ!」
てんこが両手を上に掲げ、みょんへと走ってくる。そのポーズに何の意味があるのだろう。
突撃した勢いに任せて繰り出されたてんこの蹴りを、みょんは紙一重でかわす。そして蹴りを放った事で重心が不安定になった事を利用し、軸足に対して足払い(体当たり)を仕掛ける。てんこはバランスを崩し尻餅をついた。尻とかいやらしい。
みょんは、てんこが起き上がる前にてんこに飛び乗り、その頭を足場にして空高く跳んだ。
「私を踏み台にしたぁ!?」
そしてそのまま着地する。大した意味はなかったようだ。
「くそ、この野郎!」
「フッ」
てんこは起き上がると同時にみょんに飛び掛る。みょんはそんなてんこをあざ笑うかのように、襲い来るてんこに自ら飛び込んでいき、腕を伝い、肩に飛び乗り、背中側へと駆け抜けた。
「ちっ、ちょこまかと!」
「もうやめるでござる。実力差は理解したはずみょん?」
「何言ってやがる!」
「まだ気づかないみょん?」
みょんの視線が、てんこの目よりやや上に向く。
「…はっ!」
その時、てんこはようやく気づいた。
「てめえ、これは…!」
「そう、さっきすれ違った瞬間にさせてもらったでござる」
てんこの帽子。そこについているはずの桃の飾りが、いつのまにか桃缶にすりかえられていた。
「こいつ、ふざけやがって…!」
てんこは懐から缶切りを取り出すと、桃缶を開け中の桃をたいらげ、こんな事もあろうかと持っておいた予備の桃をセットし直した。準備のいい奴だ。
「もう容赦しねえぞ!」
てんこは怒りに任せ、右拳を自分の胸に当てる。
「スターソー!ドエムロード!」
そして、光り輝く一本のノコギリを取り出した。対峙するみょんは、冷静な目でそれを見つめる。
「…得物(それ)を抜いたからには、覚悟を決めるみょん」
「あぁ!?何言ってやが」
そこまで言った時点で、てんこの身体は宙に舞った。
「それは、脅しの道具じゃないってことでござる」
羊羹剣一閃。一瞬のうちに放たれた、羊羹剣による「切れない居合い切り」によって、てんこは武器を使う間もなく倒されたのだ。
やがててんこは頭から地面に突き刺さり、地面から身体が生えているようななんとも滑稽な格好になった。決着がついたことを確認したギャラリーはばらばらと散っていく。野次馬などそんなものだ。
「みょんさんお疲れー」
「野良犬相手に表道具は用いぬ」
「おもっくそ使ってたし。ねえ、あいつ全然動かないけど死んじゃったの?」
「まさか。気絶しているだけでござる…ん?」
2人がこの場を去ろうとした時、散っていく野次馬とは逆にみょんの所に近づいてくる男がいた。
「お見事な菓子剣捌きでした」
「どちらさまでござる?」
3人は、立ち話もなんだからという事で、茶店に入り、向かい合って座った。
「ほう、菓子剣の研究を」
近藤平(こんどう・たいら)と名乗ったその男は、自分のことを刀剣の研究家であると言った。そして、最近は菓子剣の研究に勤しんでいるとも。
「それにしたって何でよりによって菓子剣なんか?」
「菓子剣なめんなみょん!」
「みょんさんは舐めた事無いの?」
「…たまに」
甘そうだもんね。
「より強く、より切れることに注力した真剣は、単純ながらも奥が深いです。しかし切れ味よりも多彩な能力や形状をもってゆっくりの力となる菓子剣もまた、奥深いものです。脈々と受け継がれてきた歴史をもち究極を目指す真剣に対し、菓子剣には未知への探求と無限の可能性が秘められています」
「ふーん…」
そんなもんか、と彼方は聞き流した。ちらりとみょんの方を見ると、『なかなかわかってるじゃないか小童』と言った、得意げな表情でうんうん頷いていた。
「そこで相談なのですが、みょん殿のもつ菓子剣、是非私のところで研究させていただけないでしょうか」
「…そうしてあげたいのはやまやまでござるが、みょんたちは今旅の途中で、長居するわけにもいかないのでござる」
「そういう事であれば、お時間はとらせません。名前と能力、元となった菓子をお教えいただき、少しだけ調べさせてもらえるだけでも…」
「うーん、彼方殿、どうするみょん?」
少しくらいなら協力しても構わないとみょんは考えたが、旅の第一目的は彼方の覇剣修復にある。彼女の意見を無視するわけにはいかない、と思い彼方の方を見たが、当の彼方は、彼女にしては珍しく、頬杖をついて何やら考え込んでいるようだった。しかし、真剣な表情をしつつも相変わらずお茶をかぱかぱ飲み続けているのでその滑稽な光景に思わず吹き出しそうになった。
「…近藤さん、刀剣研究家、って言ってたよね」
「はい」
「菓子剣専門?」
「いえ、今は菓子剣が主ですが、真剣の研究も行っています」
「じゃあさ、刀の直し方にも詳しかったりするの?」
「ええ、まぁ並みの鍛冶師よりは詳しいと思いますが…もしや、旅というのは」
「いかにも」
旅の目的が刀の修復である、と近藤も悟ったようだ。
「彼方殿の剣がみょんな…もとい、ひょんな事から折れてしまったので、それを修復できる鍛冶師を探しているのでござる」
「それならば、お力になれるかもしれません。私のところにもある程度の設備はありますし、もし手に負えないようなものであっても、私の知りうる限りではありますが、腕利きの鍛冶師をご紹介します」
「やったぁ!」
「それで、その折れた剣というのは」
「これなんだけど…」
彼方は覇剣を取り出し、少しためらいつつも近藤に渡した。以前一時的にしろ取り上げられた経験からか、他人に渡すのには少し抵抗があるようだ。
「これは…覇剣、ですか」
「よくご存知みょん。さすが菓子剣研究家」
「刀剣だっつの」
「………」
近藤は折れた刀身をまじまじと見つめ、再び鞘に収めると彼方へと返した。
(…うん?)
返してもらった事に安堵しつつも、彼方は覇剣を見つめていた近藤の視線が気になった。今まで覇剣を見る者の目は大抵、羨望だとか、欲望だとか、そういった感情に彩られていた。しかし、近藤の視線からは、僅かに怯えのようなものが感じられた。
「まさか、あの覇剣と出会えるとは…はは、緊張して少し汗をかいてしまいました」
「物の価値がわかる人間は違うみょん」
みょんがまたもやうんうんと頷く。どうやら冒頭で菓子剣を褒められた事で、近藤の事を気に入ったようだ。
「…これならば、もしかしたら私のところでもなんとかなるかもしれません」
「マジでっ!?これ覇剣だよ!?」
「ええ。さすがに同じものを打てと言われても無理な話ですし、バラバラになっているような状態であれば私の技術の及ぶところではありませんが、折れ方が綺麗なので、修復自体は私程度の腕でも何とかなるかもしれません。ただ、こういった特別な刀を直す場合、道具も特別なものが必要になってくるので腕だけではどうにもなりませんが…」
「近藤さんとこなら、それが!?」
「確約はできませんが、出来る限りのことはやってみます」
「よっしゃあ!」
刀を直せる。あくまで、『かもしれない』のレベルだが、おそらく旅を始めてから初めて、覇剣修復のアテがついた。仮に近藤が直せなかったとしても、彼の知る鍛冶師を紹介してくれるという。つまり、失敗しても次へと繋がるのだ。
話は決まった。3人は茶店を発ち、近藤の自宅へと向かった。
「この山の上が私の家です」
3人は彼らが出会った村を出、少しの間野原を進み、小さな山の麓に着いた。近藤の家に行くには、この山を登らなければいけないらしい。
「あれはなんでござるか?」
みょんの視線の先を、彼方と近藤も見やる。山の側面に、ぽっかりと洞窟のようなものが開いている。
「ああ、この山は昔鉱山だったらしくて、その名残みたいです。随分と前に廃鉱になったみたいですが。中がどうなってるかわからないし、危ないので近づかない方がいいですよ」
「ふーん。そんな事より早く行こうよ。そして早く覇剣直そうよ」
「正直なのはいい事でござる」
急かす彼方に押されるように、3人は山を登っていく。
「着きました、ここです」
「ここ、でござるか…?」
やがて3人は近藤の自宅へとたどり着いた。
「なんというか、風情があるというか、侘び寂びの世界というか…」
「すっごいオンボロだね」
みょんの気遣いむなしく、彼方の口からどストレートな言葉が飛んだ。これから物を頼む相手の家に対して何言ってやがるんだこのドグサレがァーと一瞬思ったみょんだったが、当の近藤は「大抵、そう言われますよ」などと笑い飛ばしている。慣れたものらしい。
中に入ってみると、案外小奇麗に整頓されていた。
そんな展開は幻想である。中は外以上に惨憺たる有様で、辛うじて足の踏み場がある程度だった。みょんはドン引き、彼方は一周回ったのか単にツボっただけなのか爆笑していた。
「流石にこれは片付けた方がいいと思うみょん…」
ぽつりとそう漏らしたが、近藤はまたも「大抵、そう言われますよ」などと笑い飛ばした。立地には拘っているくせに住環境そのものに拘りは無い、というか無頓着のようだ。
2人は客間のようなところに通された。ここは比較的片付いているなと思ったが、よく見たら単に物が全然無いだけだった。おそらく普段は全く使わない部屋なのだろう。
「ではまず、菓子剣の方を…」
「えぇぇーーーー!!!」
「すみません、覇剣の修復は時間がかかりそうなので…」
ゴネる彼方をなんとかなだめ、みょんは別の部屋(刀剣や本などが大量にあったところを見ると、研究室らしい)で自分の持つ菓子剣を近藤に披露した。外郎剣「羊羹剣」をはじめ、泡剣「升斗形鬼」、円剣「胴夏」、甲剣「千兵」。名前と能力を説明し、現物を出して見せる。近藤は熱心に説明された事、形状や質感などを記録する。流石に味見は断られた。
一通りの記録を終えると、2人は彼方の待つ客間へと戻った。
「彼方殿」
「うぇっへへへダメだよ真白木さんさんいやらしい………はっ!寝てねーよ!」
「とりあえずヨダレをふくでござる」
指摘され、彼方は袖で口元を拭う。
「では、次は覇剣を」
「はーい」
手を差し出した近藤を半ば無視し、彼方は研究室に入っていこうとする。
「…あの、彼方殿」
「うん?」
「覇剣を…」
「うん、直すんだよね。早くやろう、どんどんやろう、さあやろう」
「いえ、その…渡していただけますか?」
瞬間、彼方は露骨に不機嫌な顔になった。
「えぇ…でもこれ、大切なものだし…ねぇ?」
以前、盗まれかけた事が相当堪えているらしい。頑なに他人の手元に行くのを拒んでいる。
「彼方殿、気持ちはわからなくもないでござるが、駄々をこねていてはいつまで経っても直らないでござるよ」
「うー…」
さんざん渋りに渋った彼方だったが、『近藤殿みたいなヒョロ男が覇剣を持って逃げられるわけないでござる』が決め手となり(近藤は苦笑していた)、覇剣を預ける事となった。
「では…作業に入ります。終わったらお知らせするので、暫くお待ちください」
近藤はそう言って研究室にこもり、その間彼方たちは客間で待つことにした。
「さて…待っている間暇でござるな。ヴァンガードでもやるでござるか?」
「いや、いいよ。ってかやり方知らないし」
答えながらも彼方はずっと研究室を凝視している。やはり、相当気になるらしい。しばらくそうしていた彼方だったが、やがてこっくりこっくりと舟をこぎ始めた。
「…一日千秋の思いでただじっと待っておくのも良いでござるが、流石に寝るのは失礼だと思うみょん」
「当ったり前じゃん!」
睡魔なんかに、絶対負けたりしない!
「…はっ!」
目覚めた時、彼方はようやく自分が横になっている自分に気づいた。なんと枕まで用意している…と思ったらみょんだった。というかみょんも寝ていた。やっぱり睡魔には勝てなかったよ…。
自分がうっかり寝てしまったことに気づいた彼方は、
「世界!」
がばっと飛び起き、
「ふしぎ!」
客間の戸を豪快に開け、
「覇っ剣!」
研究室の戸を蹴破った。しかし、そこに近藤の姿は無かった。彼方は一瞬真っ白になり、次の瞬間怒りに震えた。
「よ…」
そして
「よくもだましたァァァァァァァ!だましてくれたなァァァァァァァァァァ!」
その怒りのままに叫んだ。大声のおかげでみょんも目を覚ましたようで、大慌てで研究室に入ってきた。
「どうしたでござる!?」
「みょんさん!あァの野郎が覇剣を…」
「?覇剣なら、それ、そこに」
「へ?」
みょんが示した先には、確かに見慣れた鞘と柄。
「…あ」
手にとってみる。間違いない、いつぞやの偽物とは違う、これは正真正銘の覇剣『舞星命伝』だ。
どうやら近藤は、何かの用事で外しているだけのようだった。それを彼方が、覇剣を持ち逃げしたと勘違いしたのだ。
「なぁんだ…………………ん?んん?んんんんんんん?」
念のため、覇剣を抜いてみる彼方だが、どうも様子がおかしい。いや、おかしくないのがおかしい。
いつもなら抜く途中で折れている箇所が出てきてしょんぼりするところなのだが、刀身がそのまま続いている。
「え?ちょっと、ねえ、これって…」
「みょん!?まさか…」
そして見慣れた『折れた箇所』は最後まで姿を見せず、代わりに出てきたのは懐かしいその姿。
折れた部分がくっついた、元の形そのままの覇剣『舞星命伝』。
「な…」
「な…」
「直ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
その叫びに呼応するかのように、覇剣が光を放つ。
「ふっ、久しいでござるな、この覇剣シャイン!」
「変な名前つけんな!ああでも許す!許しちゃう!」
覇剣がくっついた事に大騒ぎする2人だったが、やがて鳴った腹の音で自らの空腹に気づいた。
「あー……大はしゃぎして気づかなかったけど、もうお昼過ぎてるねぇ」
「そうでござるな…」
2人はあの後、食事のため一度下山し村に戻ってきた。近藤がいないのが気にかかったが、いつ戻るとも知れない人間を待っていられるほど腹に余裕は無かったので、とりあえず書置きだけしてきた。
「いや、私は出来るって最初から信じてたよ。蓄えた知識を蓄えたままにせず世のため人のために使うことが出来る、あの人は本物の研究家だね、うん」
定食屋にて、少し遅めの昼食を摂りながら得意げに語る彼方に対し、『よく言うでござる、さんざん渋った上に持ち逃げされたと勘違いしたくせに』と言いたくなったが、みょんは適当な相槌を打っておいた。せっかく喜んでいるのだから水を差すことも無いだろう。
「さて、それじゃあそろそろ近藤殿のお宅に戻るでござる。これだけの事をしてもらったのだから、直接お礼を言う…みょん!?」
店を出ようとしたみょんに大量の白濁液がぶっかけられた。
「いやらしい」
「ちょっと、気をつけて欲しいでござる……………?」
ゆっくりの店員が牛乳をぶちまけてしまったようだが、どうも様子がおかしい。
「はぁ……!はぁ……!はぁ………っ…!」
「いやらしい」
「…違うでござる、これは…」
店員の顔色は青く、呼吸は荒く、見るからに具合が悪そうだった。よく見ると店の内外を問わず、ゆっくり達が皆、苦しんでいる。
「これって一体…?」
「彼方殿、足元を!」
みょんに促され足元をよく見てみる。すると、地面からおよそ3寸(9センチ)ほどの高さに、薄い紺色の空気が流れている事がわかった。
「まさか…毒?」
「…その可能性は否定できないみょん」
再び周囲を観察する。苦しんでいるのは主にゆっくりで、人間にはそれほど被害は出ていないようだ。
ゆっくりにだけ有効な毒。
誰が?
何のために?
その答えはまだわからないが、2つだけわかっている事がある。
まず、ここでじっとしていても何も解決しそうに無い事。
そして…
「行こう」
この毒には『流れ』がある事。
2人は毒の流れに逆らい、走り出した。
-続く-
Q.ブロント語も喋らないしドMでもないんだけど、あれって本当にてんこ?
A.お前の勝手なイメージを押し付けるな!
書いた人:えーきさまはヤマカワイイ
最終更新:2011年05月08日 19:42