ゆっくりちるのの飼育日誌1

ゆっくりちるの飼育日誌

 おとこもすなるにきというものを、という書き出しなのは確か土佐日記だろうか、と乏しい古文知識から引用をしてみたが、似合わないので止める事とした。
日記というのは柄ではないが、飼育日誌を読み返した時に去来する感情を期待してみたためだ。体調管理という意味合いもある。

 たしか、小学生の時分に宿題に出された朝顔の観察日記は三日で飽きて、それ以降は無趣味だった母親がそれを楽しむようになり、
幾分達者な絵をつけていて、教師にはそれでバレた。母にガーデニングという趣味が出来たというのは、いいことだったが。
その当時は文字通りの三日坊主だが、忍耐心についてはいくらか成長したつもりなので、この日記をつけてみることとしよう。

最低でも一週間坊主ぐらいにはなれるはずだ。なってほしいが。

飼育種族はゆっくりちるの、品種は中型種、有性生殖を行う品種でもある、体調は良好で、いささか元気すぎるくらい。
 くりっとした青い目と同じ色のリボン、幾分不遜な顔つきをしていて、緊張気味に見える。
大きさは赤ん坊を脱して、テニスボールほど、といったところだろう。

 名前をつけてやろうかと思ったが、ネーミングセンスという物が絶無な当方としては、種族名のちるのと呼ぶ事とする。
まさか名前で虐待と言われたくはない。


10月3日


 ちるのは、ペットショップで売れ残っていた子である。
順調に他のれいむやらまりさやらは売れていたが、ぽつねん、と一人、あるいは一匹、または一頭とでも呼ぶべきか。
ともかくもそう呼ぶに足る状況で取り残されていた。

 もとよりゆっくりを飼ってみたいと思っていたが、動物を飼うという事はその子の一生に責任を持たねばならない、という事でもある。
だから迷っていたが、ついに決心がついた。というわけで、ちらちらとこちらを見ているちるのを買うこととした。

 その店はゆっくり専門というわけではないのだが、管理は行き届いているように見えたし、実際評判は悪くないようだったので、そこで購入した。
試しに、店員の女性になんでこの子だけずっと居るのか、を聞いてみたら、わかり易すぎる理由が返って来た。

「まあ、これから冬になりますから……」

 納得である。
確かにちるのは冬になると元気になるらしいが、ほほを触ってみたらすこし冷たいし、気温がこころもち低くなったように感じる。
それほど寒くはならないらしいのだが、さすがに冬場にちるのを飼う気にはなるまい。ここに飼う気になったやつはいるが。

 なぜか会計を担当したのは、サッカーボールぐらいの大きさに育ったゆっくりりんのすけで、女性店員ではなかった。
これはなんだ、という視線を向けると、苦笑しながら店員は、家で飼ってる子なのですが、たまたま連れてきてみたらレジに陣取って動かない。
ならば、というわけで会計を担当させてみたところ、思いのほかうまくいっている。
ということで、りんのすけがレジ担当になったという。

 どうやってレジのキーを打っているかは、丸っきりの謎だというのだから、笑うところだろうか。

「ゆっくりお金をおいていってね!!!」

 店じゅうに響く大きな声でりんのすけは言う。
それに答えて、はいはい、と言いながらちるのの代金を置いていき、店を出る。
空気穴の開いた箱の中でがたがたと動き回りながら、ゆっくりしていってね!!!などとちるのは言っている。不安なのだろうか。


付記:どうも、女性店員に聞いた話によれば、りんのすけはお金を勘定する事は好きなようで、しかも得意なのだが、それの価値についてはとんと無頓着らしい。
まあ、レジ係としては適任ではあるのだろうが。


 車に新しい同居人を乗せて、家路につく。
やんちゃな筈のちるのも、外の風景を見せているとおとなしいもので、何のトラブルも無かった。
家に着き、箱を開けてやると、ちるのはあっちこっちをぴょんぴょんと飛び跳ねながらはしゃいでいた。
危ないものは特に置いていない筈なので、大丈夫だとは思うのだが、と考えた次の瞬間にはこけて顔を地面に打ち付けていた。

「あたい、サイキョー!」

 そういいながら、むくり、と起き上がる。なんというか、元気がよくてそれはそれで素晴らしいのだが、大丈夫なのかな、と思わないでも無い。

 その後も、ペットOKながら多少狭いワンルームを元気よく跳ねながら移動し、アルミラックの上に上ってふんぞりかえったり、
コンポの上で踊っていたらカセットテープの開閉ボタンを押してしまい、ころころと転がりながら裏側に落ち、
そこから埃まみれになって出てきたり、見ていて飽きない。

 さすがに埃はまずいので、濡れタオルを出して、床に敷いてやると、ちるのはきゃっきゃっと笑いながらそこで転がり、埃を落とす。

 そして、それをニコニコしながら見ていると、ちるのはタオルから飛び上がり、出しっぱなしのこたつに置いてある座布団の上にとびのり、
初日だというのに不安さを微塵も感じさせない、自慢げな表情であの台詞を言った。

「ゆっくりしていってね!!!」

 なるほど、とりあえずゆっくり出来るところを見つけられたらしい。

「ゆっくりしていくよ」

 そう私は答えた、と記憶している。
 まあ、そこそこいいスタートじゃあないだろうか、と自画自賛はしてはみる。
 今日のちるののご飯は、ホットミルクとペットショップで購入したペレット食だったのだが、
ホットミルクはいつの間にかミルクシャーベット、のようなものに変わっていた。

 ちるののくしゃみが原因らしい。なるほど、赤ちゃんのゆっくりが凍ることがあるから気をつけるように、と書かれているわけだ。

「のめないよ!!!」

 仕方が無いので、スプーンで掬って口に運んでやる事にした。

「むーしゃ♪むーしゃ♪……しあわせー!!!」



……結果オーライだったのかもしれない。しかし、ここまで簡単に人に慣れるものなのだろうか?犬だってここまで簡単に慣れはしなかったはずだが。



10月4日



 朝になると、ベッドの上で飛び跳ねるちるのの声で目を覚ました。

「ゆっくりごはんをつくってね!!!」

 自慢げなちるのの顔と時計とを見てみれば、七時をとっくに回っていた。すわ遅刻かと慌てたが、今日は非番だった。

「ちるの」

「ゆ? なぁに?」

小首を、という表現もおかしいが傾げながら、ちるのは聞いてくる。

「どいてくれないとご飯が作れないぞ」

「ゆっくりどくね!」

 ぱああ、と急に表情が明るくなり、調子外れなゆという音しかない歌をちるのは歌いながら、ベッドから飛び降りる。
達者なもので、少し高さのある梯子をひょいひょいと飛び降りていくのだが、最後の一段で顔から落ちた。
 だが、昨日と同じように、むくりと起き上がり。

「あたいサイキョー!」

 と言っている。怪我をしなかったのか、と上から声をかけてみるが、サイキョーだから怪我なんてしないよ!だそうな。
 とは言っても、顔の真ん中の辺りが真っ赤になっていたので軟膏でも塗ってやるべきかな、と思ったが、
のそのそと起き出して、ちるのの朝食と、自分の朝食を用意している間に消えていた。回復力も結構高いようだ。

 ゆっくりの食事は人間と同じものでも大丈夫だ、と言われているが、それでも昨日と同じペレット食と、
ゆっくりれいむとまりさが描かれたマグに入っている、暖めた牛乳だけだ。

 多分、あのペットショップでは恒常的にこういったものを食べていただろうから、急に変えるのはいけない、
と本に書いてあった通りにしてみた。なにせ、まだ二日目だ。

 ベーコンエッグと、トーストをむしゃむしゃとやっていると、ちるのはこちらのベーコンをちらちらと見ている。
こういうときに、簡単にあげるとわがままな上に、癇に障る言動を繰り返すようになる、というのであえて見なかったことにする。

「ゆっ……ゆゆゆ」

再びこちらを見始める、ビニル皿に平たく盛られたペレットの減り具合は悪化する一方で、口の端から涎まで垂れてくる始末だ。

「ちるの、食べないのか?」

「ゆっくりたべてるだけだよ! と、とらないでね!」

 ちるのは再びもぐもぐとやり始めたが、こちらへの視線はいや増すばかり。
明日辺りは小さなベーコンエッグでも作ってみよう。そう考えながら、ベーコンに箸をつけた。

 燻製の香りと、カリカリとした食感、塩気の強い旨みがたまらないが、これをこのまま出したらちるのの口の中を切るかもしれない。
意外と飼って見ないとわからない事が多いものだ。

 非番ながら、特に用事も何も無いものだから、ちるのと一緒に何故か子供向けのテレビを見ていた。
ちるのは、上機嫌に調子はずれの歌を歌いながら、踊っている。

「ゆっ♪ ゆゆっ♪ ゆー!」

何というか、子供向けの番組を喜ぶあたりは、それらしいかな、とは思う。
その間に、パソコンを立ち上げて、ニュースサイトを巡るが、そばに居なくなった事に気付いたちるのがやってきた。

「どおじであぞんでぐれないのー!!!」

涙を堪えながら、ゆっく、ゆっくと言っている。
手の上に乗せてごめんね、というと泣き止んでくれたが、自信たっぷりなように見えて、かなり不安だったらしい。配慮不足だった。

「じゃあ、お歌の練習をしようか」

「やるー!」

涙を拭ってやると、二人で歌の練習をした。
 相変わらずちるのの歌は調子はずれだったが、不安は吹き飛んだらしい。終始笑顔で、にこにこ笑っていた。

 お昼はペレットとオレンジジュース、夜はペレットとホットミルク、肉じゃがにを少し分けて分けて食べさせてみた。
なんというか、ペレットとは食べる勢いが全然違う。あんまり美味しくないんだろうか。
そう考えてペレットを食べてみたが、全然美味しくない。これは酷い味だ。



10月5日


 やられた。朝をちるのと一緒に食べて、お昼ご飯を置いて出社したのだが、帰ってきてみれば家がすさまじい事になっていた。
ティッシュはぶちまけられてるわ、スピーカーは倒れているわ、アルミラックに載っていた炊飯器は落ちているわで、泥棒に入られたのかと思ったが、
ちるのが部屋のど真ん中であたいサイキョーと言っていたことから、下手人はあっさり発覚。


 悪いことをしたので、勿論しかったが、泣き出すわ喚くわでこっちの神経の方が磨り減りそうになる。
確かに昨日の今日で置いていくのはまずかったが。

「あ゛だい゛わ゛る゛ぐな゛い゛も゛ん゛!!!」

 その泣き声に諦めて、ご飯をちるのの分も作るが、ちるのはただ泣いていただけで、ちっとも謝っていないことを思い出した。
食べようとしていたちるのを止める。

「先にいう事があるだろう」

 そういうと、また泣き出そうとするので、泣いたって駄目だ、と強く言う。

「なんであんなことをしたの?」

 あんなこと、とは言うまでも無いが悪戯の結果生み出された惨状のことである。

「ゆ……ゆうう……だって、だってぇぇぇぇぇ!!!」

寂しかったから、らしい。
飼われているゆっくりは、時折構ってほしくて悪戯をする、とは聞くが、さすがにここまで凄いとは思わなかった。

「そうか……ごめんなさいは?」

「ゆ……おにいざん、ごべんなざい」

 よし、上出来だ、と言って涙を拭ってやり、一緒にご飯を食べた。
次第に機嫌を直してくれたしまあよしとする。次が無いことを祈りたい。

 ちなみに、ご飯を食べた時には、怒ることを優先してしまい、散らかしっぱなしだった。
悪戯をした後片付けを一緒にやることで、自分がどれだけ迷惑な事をしたか、を自覚できたらしい。瓢箪から出た駒というやつだろうか。





あとがき?


 とりあえず、久々に投稿してみます。ゆっくりと動物の人です。
今回は、飼育日誌をつける……という形式で書いて見ました。
まだ小さめ(だけど滑舌はある程度はっきりしてる。赤ゆっくりじゃなくて子ゆっくり、というとこでしょうか)という設定なので、
外に出る描写が無いのは仕様です。

 車があることから、基本的には幻想郷の外側、って感じになってます。野生の子も居れば、飼われる子も居る、って感じでしょうか。
昔から犬や猫のように、ゆっくりという隣人が居るって感じの世界観……というほど大袈裟なものでも無いですが。
 版権作でわかりやすい例だと、河童の飼い方みたいな感じですかね、この場合では。

……いや、本音を言うと、ゆっくりを頭の上に乗せてみたいなぁ、という欲望が筆を滑らs(以下略)



  • このゆっくりちるのの可愛さは
    下手すると鼻血レベルものだなwww -- 名無しさん (2010-07-26 22:48:39)
  • ちるのかわいい 虐待なくてよかった
    -- 名無しさん (2010-11-03 17:28:59)
  • ちるの可愛いーーーー!
    ほしいーーーー! -- 名無しさん (2010-11-25 17:25:32)
  • おうどんたべたい!
    -- 名無しさん (2011-03-17 19:28:26)
  • こんなに可愛いと冬でも欲しいな


    -- 名無し (2011-03-18 22:40:03)
  • うん、サイキョーだな!鼻血とまんねー -- 名無しさん (2012-07-25 15:40:03)
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最終更新:2012年07月25日 15:40