ゆっくりちるのの飼育日誌2

10月6日

 とりあえず、三日坊主だけは脱せたが、一週間坊主となる可能性も無きにしも非ず、である。
成長したちるのを見て、このころは可愛かったのになあ、と思うのか、それとも今はもっともっと可愛くなったなあ、
と思えるようになるのかは、私しだいであるというのは、いささか不安でもある。

 ともかく、最低限一ヶ月坊主ぐらいにはなり、日記をつけねば違和感で卒倒しかねないほどになりたいものである。

 昨日のいざこざの後に私が仕事に行かねばならないという事を『二人ともゆっくりできなくなる』という言葉で納得してもらえたのはよかった。
 朝食はベーコンとほうれん草を入れたココットとヨーグルト、冷蔵庫にあった野菜で作ったスープと、
薄く切った食パンをカリカリに焼いたものを出した。ちるのに与えた量は、私の四分の一ほどだ。

 ちるの用のココットは、鶏卵では多すぎるので、ウズラの卵で作ってみた。
平皿に出すと見た目が多少悪いので、スプーンですくって食べさせてやる。

「むーしゃ♪ むーしゃ♪ しあわせー!」

 口の端に黄身のかけらをつけ、にこにこと笑いながら食事をしているちるのを見ていると、心が洗われるのだが、
ちるののご飯と、自分の弁当を作って出なくてはならないため、私は早く食事を切り上げ、ココット以外をむしゃむしゃと上機嫌に、
しかも恐ろしい勢いで食べているちるのにゆっくり食べないととっちゃうぞ、というと、表情がいっぺんに慌てたものに変わった。

「だめだよ!!! あたいのだよ!!!」

 ゆっくり食べれば取らないよ、と冗談めかして言うと、昼食を作り、ラップをかけて、食卓の上に置いておく。

 昨日の昼食はペレットがメインだったので、ラップの剥がし方をちるのに説明しなくても済んだのだが、今回はおにぎりと鶏の唐揚げに、
切り干し大根の煮物、朝に使ったほうれん草のあまりで作った胡麻和えに卵焼きであるため、ラップをかけておかないと不味い。
 飲み物として、たっぷりの水を入れた給水機と、平皿に入れた、凍らせたオレンジジュースもオマケにつけておく。
ちるのが自分で入れられれば一番なのだが、冷蔵庫を開けるだけの力があるわけではないのだから、仕方が無い。

「ゆっくりわかったよ!!! あたいがんばるね!!!」


 返事はいいのだが、本当にわかったのだろうか、いささか不安になっては来ていた。……その不安は、見事に的中していた。

 要は、ラップをうまくはがせなくて、挙句食い破ろうとして大失敗。
さらには、ひっくり返して大惨事になってしまったわけである。

 水気はそれ程無かったから、純然たる被害は幾分ましだったが、ぴいぴい泣いているちるのと、
ひっくり返った皿、言っている内容にげんなりしたものだ。

「おなか、おなかすいたよおおお!!!」

 教訓、お昼はペレットにしておかないと悲惨な事になる。……夜は一緒に片付けて、美味しくいただけたのだが。
あと、さすがに子供が喜ぶ怪獣映画だからだといって、いかにいってもヘドラを見せるのは不味かった。

10月7日

さて、爽やかな目覚めかと思いきや、なにやら額の辺りが冷たかった。

「ゆ……ゆう……ゆう……さ……サイキョー!」

 一応寝床は用意してやっていたつもりだったのだが、私の頭を寝床にしていたらしい。
そもそもサイキョーってどういう寝言だ。そんなに強さ比較が大好きなのか、などと思わないでもないが、
あんまり意味は無いのかもしれない。

 起こすつもりで、ちるののぷにぷにしたほっぺをつつくが、ちっとも起きずに、寝言の頻度が上がっていくだけである。
どんな夢を見ているのか、非常に気になるところだ。

 怪獣映画のDVDを昨日見せたのが原因かもしれない。
というより他に原因が無い。強がってはいたが、よっぽど怖かったんだなあ、と思う。
せめて頭ではなくて布団に潜り込んでもらいたかったが。

「ちるの、ちるの、起きなさい」

「……ゆゆゆ?……ゆ~……おにいさん、なんであたいここでねてるの?」

 声には反応する辺り、実はゆっくりの触覚は鈍いのかもしれない。この子だけかもしれないが。

 ともあれ、あくびをしながらぴょん、と跳ねてベッドの梯子をちるのは降りる。最後の一段に差し掛かった時に、また落ちるかな、と思ったら上手に着地した。思わず私もガッツポーズを作る。
ちるのは、こちらを見てえへへと笑っていた。前回失敗したのは少し恥ずかしかったらしい。

「あたい、サイキョーね!」

「サイキョーだね」

またしても例の調子のはずれた歌を歌いながら、テーブルの定位置についてコロコロと転がり、ごはん、ごはん、と催促している。

「こらこら、ご飯はもうちょっと待て」

「ゆっくり待ってるね!!!」

 普段のゆ、という音だけの歌ではなく、ごはん、ごはん、おいしいごはん~とずっと歌っている、
この子、よっぽど食い気が強いのかもしれない。
舌を使って上手に食べるし、ゆっくりという種族の名にはまるっきり反する凄まじい勢いだ。
 とは言っても、さすがに子供だけあってぽろぽろこぼすが。

 朝以外には特に変わったこともなく、相変わらずちるのは可愛かった。
 悪さと言えば、新聞紙に包まってマントだよ!と言っていたことぐらいだろうか。
遊んだら片付けよう、と言っておけば、人間基準から見れば雑だが、しっかりと片付ける。
結構頭のいい子かもしれない。……こういうのを、親ばかというのだろうか。まだ四日しか経っていないのだが。

10月8日

 マーフィの法則によれば、安心したと思ったらトラブルが発生するらしい。
まさにその通りだな、とは思う。昨日、一昨日と大人しくしていたから安心しきっていたようだ。
 開けた冷蔵庫に潜り込んで、中で涼むだけならいざ知らず、カレー粉を舐めてぴいぴい泣いていたのだ。

 ちなみにレタスはちるのの噛んだあとがついており、ジュースの蓋は同じように、しかも大量の歯型があった。
道理で行ってくる、といったときに返事が無いはずであった。
 発見したのは、帰ってから。ちるのの涙で冷蔵庫は水浸しである。
バターの箱がふやけるくらいまで泣いていたらしい。私の不注意だ。

「ごわがっだよ゛おぉ!!!」

「勝手に潜り込むからだ。何でこんな事をしたんだ?」

「だって、だっでぇ、ずずしそうだっだんだもん!」

ひっく、ひっくとしゃくりあげ、今度はこっちの右手が水浸しになるところだった。

「……なんにしても、危ないから勝手に冷蔵庫に入っちゃだめだ、怖かったんだろ?」

「もうじない!!!」

 真っ暗で怖くて仕方がなかったらしい。完全にこちらの不注意だった。

「……よし、反省したな。……こっちも悪かったよ、気付かなくってごめんな」

「ゆっぐり反省じでね!!!」

 ゆっぷし、とくしゃみをしている。風邪を引いたのかもしれない。
タオルで体を包んでやるが、小一時間もするとタオルをわずらわしげに脱ぎ捨て、ごはんまだー?と聞いてきた。現金なものである。



10月9日

 さて、今日は貯まった有給を消化する為に休め、と言われていたので、休みである。
ちるのと一緒に動画サイトで、歌を歌いながら動画を見たりしていたが、ゆっくりのおつかい、というクリップが目に入り、クリックしてみる。
 それは、体つきのれみりゃがゴールデンレトリバーの散歩をしながら、お肉屋さんとか八百屋におつかいに行く。
という内容だったが、嬉しそうなれみりゃと、苦労人のような表情をした犬の対比が面白い。
 だが、これは不味いかもしれない、と思った次の瞬間には、ちるのがこう言い出した。

「あたいもおつかいやるよ!!!」

 無謀とはこういう事を言うのだろうか。駄目だという事を説明すると、案の定ちるのは泣き出したので、
折衷案として一緒に買い物に行く事にした。ちるのは胸ポケットにおさまり、普段とは違う視点にご満悦の様子だった。

「ゆ!あのおにくおいしそうだよ!おにいさん!」

「……確かにおいしそうだけど、高すぎるよ、ちるの」

 ちるのご指名の牛肉ではなく鳥の胸肉の二枚入りを買い、一枚で鶏はむを作って、もう片方はバンバンジーを作る事にした。
まあ、ちるのはお肉が食べられるという事で、今度はおにくの歌を作詞して歌い始めていた。そんなに肉が好きなのだろうか。

 買い物が終わるころには、嫌に静かだったので、ポケットの中を見てみるとちるのは寝ていた。
はしゃぎ過ぎたようである。寝る子は育つというが、もっともっと育ってもらいたいところだ。


 帰る途中の公園の遊具の中に、野良のまりさが居た。
どうも捨てられた子のようで、体の大きさはちるの程度だ。可愛い盛りの筈なのだが……

 ポケットの中でもぞもぞとちるのが動き出すのがわかる。起きたらしい。

「……ゆ?まりさがいるよ!おにいさん!」

「お、起きたのか?ちるの」

「おきてたよ!!!」

 ついさっきまで寝ていて、なおかつよだれまで垂らしているのに寝ていない、と主張している。
まあ、追求したところで望む答えが返って来るわけでもない。

「ゆ?おにいさん、ここはまりさのおうちだよ!ゆっくりしていってね!!!」

 多少不安そうな目をしていたが、まりさはドーム状の遊具の中で例の表情をしてこちらにゆっくりしていってね、と言っていた。
人に慣れているようで、どこかの子供が餌付けでもしているのかもだ。

「ゆっくりしていくね!!!」

ぴょん、とちるのがポケットから飛び出し、まりさとじゃれあい始める。
肉は氷のパックを当てているので、少しくらいは持ってくれるだろうと踏んで、ベンチの上に買い物袋を置き、コーヒーを買いに行く。

「あたいね、あたいね!サイキョーなんだよ!」

「ゆ!すごいね!」

 ころころと転がって、遊具の端から端まで競争したり、ほおをすりすりとしたり、
ゆという音しかない歌を一緒に歌ってけらけらと笑っていたりで、微笑ましい。
とはいえ、さすがにいつまでも遊んでいると、袋の中身がとんでもない事になる。

「ちるの、帰るぞ」

「おにいさん!もっとあそんでたいよ!」

「ちるの、だめだよ!言う事聞かないと置いていかれちゃうよ!」

 まりさはそう言い出し、ちるのを強引に遊具の外に押し出した。
……涙をこらえるかのような表情が、印象的だった。ちるのは呆けていたが、跳ねながらまたね!と言い、
こちらの手に乗って、ポケットにもぞもぞと入り込んだ。

 言う事を聞かないから置いていくんだ、という要旨の事を言って、この子を前の飼い主が置いて言ったらしい。
許せないし、腹立たしいが……。


あとがき?

さて、ゆちるの飼育日誌第二段です。相変わらず地味な感じですが、仕様です。
日々のトラブルだとかを記していく、という感じなのですが、楽しんでいただけたならば、幸いです。
楽しめなかったという方には、ごめんなさい。
 基本的にこの世界のゆっくりは犬や猫のようなポピュラーなペット、というポジションなのですが、妖精っぽいものなのかもしれません。
 まあ、動物だろうが妖精だろうが、ゆっくりが可愛いというのは不変ですが。あんたもそう思うだろ?(byダン・モロ)

ゆっくりと動物の人



  • <まあ、動物だろうが妖精だろうが、ゆっくりが可愛いというのは不変ですが。あんたもそう思うだろ

    全力で同意します。素晴らしい作品をご馳走様でした。 -- 名無しさん (2008-09-21 21:30:09)
  • まりさかわいそうだなぁ。なんとかならないかなぁ。ゆっくりさせてあげたいなぁ。(泣 -- ゆっけの人 (2008-10-05 00:06:34)
  • ああ、俺もそう思うね、もしもゆっくりが本当にいるとしたら
    マッハで可愛がってやんよ! -- 名無しさん (2008-10-05 00:13:12)
  • チルノいいよチルノ
    ちょっとイタズラするくらいで余計可愛いかもしれんね -- 名無しさん (2009-03-23 15:46:29)
  • お守りとかを胸ポケットに入れるとフラグを避けれるそうだ -- 名無しさん (2009-10-13 23:20:14)
  • まりさ・・・ -- 名無しさん (2010-12-01 13:23:06)
  • ゆっくり飼いたい! -- 名無しさん (2012-03-27 09:11:51)
  • まりさ!バッチコイ!! -- 名無しさん (2012-07-25 15:44:01)
  • まりさ捨てたやつ
    人権剥奪されればいいのに -- 名無しさん (2012-08-14 10:11:08)
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最終更新:2012年08月14日 10:11