ゆっくり愛で小ネタ70 ゆっくりミーツボーイ

ゆっくりを可愛がるスレ7(実質8)>>426より


 父が、死んだ。肺ガンだった。
 母は、思い出のしみこんだアパートから実家に帰る事にしたが、そこは人より牛の方が多そうな町、というか村だった。どうにも、馴染めそうにない。
母の一週間もすれば馴れる、という言葉を信じては見たが、やっぱり馴染めず、友達も作れなかった。
あまつさえは態度が気に入らぬ、という理由で殴られて、取っ組み合いになる始末であった。無論負けた。惨めである。

 そんなときだ。あの不思議な生き物に会ったのは。

 良くわからない理由で殴られて、半べそをかきながら家に帰るときに、何故かリボンが落ちていた。土ぼこりで汚れているものの、細工は綺麗なものである。
「ゆっくり返してね!!!」
 大きな声で言われ、びくり、とする。そこには、同じく半べそをかいた、不思議な生き物がいた。
「これをかえしてほしいの?」
「そうだよ!」
 ヒトウバンという妖怪のように、人間の頭そっくりで、すこし下膨れのように見える。拾ったリボンと同じ色の髪飾りを黒い髪につけ、態度や声はどことなくふてぶてしい。
 たしょうむっとはしたが、リボンをかえしてやる。だが、それを結べないようで、今度は泣き出してしまった。
「むすんで! むすんで!」
「しょうがないな」
慣れないものだから、幾分不細工な結び方だった。だが、何とかその黒い髪の生き物にリボンをつけてやると、きゃあきゃあと喜んでくれた。鏡は見せないほうが賢明だろう。
「ありがとう! ゆっくりしていってね!!!」
「はいはい」
 生返事をして、そっぽを向いて歩き出すと、となりをその生き物がぴょんぴょん跳ねながらついてくる。追いつくと、ズボンの裾をぐいぐいと引っ張っている。
「なにがしたいんだ」
「ゆっくりおれいをするね!!!」
 何がお礼だ。そう思って、無視しようかと思った。ただ、一瞬視線をそらして、もう一度見てみると、そこにふてぶてしい生き物はおらず、紅白の饅頭が白い皿に乗っていた。
 今考えれば、なぜかはわからないが、気づいた時にはつい饅頭に手を伸ばしていた。それを口の中に入れる。もっちりした皮と、甘く、優しい餡の味が口の中に広がった。おいしい。なんだか、幸せな気分になれる。

それ以降も、何度となくその生き物には出会った。大人になるまでは、泣き虫なものだから良く泣いていたのだ。その涙を、あの子が残していく饅頭は忘れさせてくれた。
大人になってからは、泣かなくなった。だから、あの子には会っていない。泣けば、あの声が聞けるのではないか、と思うのだが。




  • 男の子は涙の数だけ強くなるんだねー、分かるよー。
    じーんときました、サンクス。 -- 名無しさん (2008-11-29 09:12:58)
  • 人に元気を与えるために現れる不思議な何か「ゆっくり」
    いいね〜 -- 名無しさん (2012-06-29 17:39:37)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2012年06月29日 17:39