軽く外れたタガ



 おそらく、きっかけはゆっくりえーき様とこまちという、比較的希少なゆっくりの絵だ。

 えーき様が、めをつむり、極端に長くなった唇を、こまちに寄せている。

 出自は福建省の壁画だとか言われているこの絵はすっかり有名になってしまった。
 Tシャツやポスターまで、あらゆるメディアで使われているこの絵の「続き」を、殆どの人間は知らない。
 その日、朝のバラエティー番組の一コーナーで、知られざる「こまちとえーきのその後」を特集していた
のだった。
 「かごめかごめ」を、冷戦を予言した内容とか嘯いているような、朝の時間帯らしからぬ方向の番組では
あったが………

 彼女は、前日にルームメイトとケンカしていた。
 朝から顔を合わせづらく、食事もそこそこに学校へ出向いた。未だにこちらに背を向けているけんか相手
に、一応挨拶はしておく


 「じゃ、行ってくるわ。遅くなるから」
 「……………いっでらっじゃい………」


 バイト先で知り合い、今では2人で部屋を借りているれみりゃは、テーブルに(幼児用の椅子で)向かってもむ
もむとパンを頬張っている。
 目の先のテレビでは、そのこまちとえーきの有名な絵が映し出されて、アナウンサーが何やら説明している事
だけ解った。
 こちらを見ようとして、目が合いかけると、すぐに大袈裟にそっぽを向く。
 お互い素直になれないものだ。



 (こっちから謝らないとなあ………)



 そんな罪悪感を感じながらの講義は、ろくに頭に入らなかった。
 続くバイトも、れみりゃとは違うシフトだったが、上手くは行かず、親方には浴びるほどどやされた。傷心
のまま、帰宅する気にもなれず、ふらりとパチンコ屋に入ってしまい、大負け
 自暴自棄な気分で、家に帰る気もひいた。
 屋台のおでん屋で、ちびちびと始めてしまう。


 「なんでえ…………別にバニーゆっくり通いくらいいいじゃねえか……減るもんじゃなし…」
 「学生さん、その年で………?」
 「相場がよくわからないのよ。焼酎一杯150円かと思ったら、栗羊羹で8000円、1時間で3000円。これって普通の
  クラブとしてどうなの?」
 「さあ……………」
 「ったく、そこのゆっくりちぇんやらうどんげやら、他のれみりゃと浮気したって………減るもんじゃなし」
 「へるもんじゃないよね!!!」


 こんにゃくを突付いていると、隣から声。


 「わかる、わかるよー」


 最初はちぇんかと思ったが、体つきである。
 てんこだった。朝のこまちとえーきといい、ちょっと見かけないゆっくりをよく見る日だと思った。


 「―――何が?」
 「じちょうをおしつけられて、てんこのいかりはうちょうてんになった!!!」


 丁度卵を食べ終わったてんこは、屋台の店主にコップと皿を向けていた。
 「9杯でよい」
 ――――というかと思ったが、単なるお冷にとどまり、ちくわぶだけを9個もよそってもらっている。何やら裏切
られた気分だった。


 「自重って何をよ?」
 「わたしも後輩とのすっきりーができなくなってイライラしていた!!!」


 それは………


 「いや、別に相方とそうした交渉ができないことにイライラしているわけじゃなく……そんな関係じゃないし」
 「あの後輩、潔癖厨だろ。汚い………いやきれいすぎ、さすが後輩、きれいすぎ………」
 「ああ………後輩とうまくいってないのね。言い方がおかしくなってるけど、まあ、後輩が嫌がってるなら無理に
  する事ないじゃない」


 仲の良い相手とケンカしてしまった辛さは解る
 見た所こどものゆっくりでもないので、無言で一杯渡した。
 くぴくぴと無言であおり、荒い息とともに乱暴に机にグラスを置いて、てんこは低い声で呟いた


 「あの後輩、何で嫌がる………野外プレイぐれえいいじゃねえか………」
 「野外………そら嫌がるわ」


 酔いが回っていたことと、自分も自暴自棄になっていたこともあって、彼女は店主がひいているのもお構い無しに
続けた。


 「何?外ですっきりーしたかったの?どこで?」
 「裏庭で……あれ以来すっきりーできてない……………」
 「無理矢理すぎたんじゃない」
 「お姉さんこそ、色々鬱憤がたまってるみてえじゃねえか」
 「それは…………」
 「おお!!?なんでえ、自分だけ綺麗なままでいつるもりですかい」


 これでは秋姉妹の片割れである。どんどん流暢に喋るに比例して、言葉遣いが荒くなる


 「あんたもバニーゆっくり通いが過ぎたってんだろ?」
 「いや、それもあるけど、そこのれみりゃに色目使ったって怒ってんのよ」
 「それだけれみりゃ好きってことじゃねえんですかい?」
 「いや…………その、そいつの母親なのよ」
 「おお、親子丼親子丼」


 今度はこちらがおちょくられる番だった。


 「いや、本当に知らなかったんだってば。色目も使ってないし、ただ面白かったから、よく一緒に飲んでたの」
 「親子に同時でふられて、それで欲求不満でここまできたんだろう。えげつない流石大学生えげつない」
 「中学生じゃないんだから」
 「だったらこっちがその親子の代理でもなんでも受け皿になってやろうじゃねえかあ」


 酔ったためか、話し方にゆっくりらしさが完全に残っていない。


 「ほら、飲んだらいいよ!!!」
 「ありがとう………でも、あんたは代わりに…………って、私は人間だし、ゆっくりとそうしたことをしようとは」
 「私のさけが飲めないというのか!!!いくじなし!!!」
 「何だって?」
 「さあ!!!男なら、わたしの背中にのってごらんなさい!!!」
 「あたしゃ女だ」
 「さあ、さあ、お乗りなさい!!!」
 「………………………………………………」


  ――ぱっかぱっかぱっか  ひひーん!!








 気がつくと、深夜の公園の真ん中で、てんこを踏みつけていた。







 「んほおおおおおお」
 「どこの馬の骨とも解らないてんこの酒なんか飲んだ結果がこれだよ!!!」
 「気持ちいい 主に私が 気持ちいい」
 「そうか、そうか気持ちいい?ひゃっはー もう我慢できねえ!!!」
 「もうしてるだろ!!!」










 全力で叫んでいると、当然のことながら、警察がやってきた。

 暴行罪か、猥褻物陳列罪かで少し警察は頭を悩ませていたが、ゆっくりをよく理解している面々だったらしく、
相手がてんこということで、2人は直ぐに釈放された。良い時代になったものである
 てんことは気まずい顔でお互いに会釈し、署で分かれた。行きずりの2人が、もう一度顔を合わせる事は多分
もう無いだろう。
 友達とケンカし、講義は頭に入らず、バイトでは怒鳴られパチンコで負け、どこぞの通りすがりのてんこと勢い
でゆっくりしてしまい、警察に連れて行かれた。
 散々な一日だった。
 身も心も疲れ果て、部屋の鍵を開ける。
 れみりゃが玄関で眠っていた。
 そこを寝床としたわけではなく、座ったままで転寝している状態である。


 「れみぃ?」
 「………ん」


 ぼやけた頭で、くしくしと目をこすりながら、れみりゃは彼女の帰宅を認めた。


 「おぞいよおおおおおお!!!」
 「ご、ごめん」
 「ごめんええええええええ!!!」


 ばとばとと羽ばたき、れみりゃは彼女の胸に顔を埋めた。
 ボロボロと泣きつつ、華奢な腕でどんどんとこちらを叩く。
 何といって謝ろうかと考えていたが、向うから謝ってくるとは意外だった。


 「どうしたっていうの?」
 「れみぃ、ごめんね?悪い子だったから、もうかえってこないとおもったの……」
 「そんな訳無いでしょ。こっちも悪かったわよ」


 泣きじゃくるれみりゃを抱え、まずは居間へと戻る。
 テーブルの上にちょこんとれみりゃを乗せて、ハンカチで泪を拭いてあげた。


 「こっちもごめんね?これから、あんまりあのお店で遊び過ぎないようにするからさ。お母さんとは
  普通の中だしね?」
 「本当?」
 「うん。約束。だから、皆と仲直りしようね?」


 そう―――元の関係に戻りたいのだ。
 そのために―――――仲直りの際には、やっていた事がある。一種の儀式とも言えた。


 「ほーら、んんー」


 こちらから、目を閉じ、唇を突き出すのだった。
 さながら、朝見たゆっくりえーき様の様に………… あの絵は子どもの頃からして知っていたので、
意識せずとも影響されて、このポーズをしていたのだろう。
 れみりゃは、一々それに大袈裟に照れて、もじもじと体をよじった挙句、頬にキスしてくれる。
 いつになったら口にするんだー 等と戯言を吐いて、そのまま2人は仲直りしていた。

 しかし、この日は違った。


 「う、うう~~!!?」


 照れもせず、身をよじりまくって、れみりゃは恐怖に顔を染めていた。
 ややあって……


 「うわっ!!!?」


 口に、本当にその小さな唇を押し付けたのだった。


 驚いたのは彼女の方である。いつものように、少し間をおいて、頬にしてくる事を予想していたからだ。
 目を見開くと――――れみりゃは泣いていた。
 先程の安心した時の泪ではなく、不安が爆発した時の顔だ。


 「行かないでえええええええええ!!!」
 「へっ!!?」
 「キスするから、病院行っちゃだめえええええ!!!」


 彼女は、どこかで聞いていたのだった。
 朝の番組でやっていた、あのゆっくりえーき様とこまちの絵の「その後」――――それは、れみりゃの胸に
それなりの黒い影を残していたのだった。
 誰もが好きな、あの二人の絵。ほのぼのとした裏の真相は―――




 ―――こまちは、このえーき様に毎日キスをせがまれるのが嫌だったという解釈があるのだ。汚れで解りにくいが、
壁画の隅に、そうしたこまちの台詞らしきキャプションが描かれているのが確認されたらしい。

 ―――更に、別の層より発見された壁画が、この絵の続きでは無いといわれているのだ。



 <どうしてこんなになるまでゆっくりしていたんだ!>
                                             ,.-、


 慰謝らしき者達が、くちびるが長くなったえーき様を担架で運び、何故か海に突き落とす。
 おそらく画面右下にいるのは、ゆっかりんであろう。
 「どうしてこんなになるまで」というのは、唇のことであろうが、この医者達が、精神科という解釈をすれば、また
別の話が浮かんでくるではないか


 ―――残されたこまちは………
 その後、秋姉妹の元に身を寄せようとしたらしいが、危うくシベリアへ飛ばされそうになり、元のえーき様の座に居
座ろうとする所で、文字としての物語は終わっているらしい。
 しかし、極めつけに最後の絵として、空に開いたスキマから、えーき様が怒って下りてきて、それをこまちが怯えた
目で見つめ図も発見されている



 ―――実は、恐ろしい話なのである。


 「うああああああああ!!!」
 「大丈夫よ。私はどっかにいったりしないし、怒らないって」
 「うにょーーんってならない?」
 「普通はならないの!」


 口へのキスに、驚きはしたものの、更に泣きじゃくるれみりゃの顔を、苦笑しつつ、ハンカチで拭く。
 拭いていると――――


 「………………」


 いつもは目を閉じていた

 だから、今より近くで、れみりゃの顔を間近に見た事は無かった。
 ふにふにとした心地よい感触が、ハンカチ越しに手に伝わる。


 「うー!」


 泣き止んだれみりゃは、もういつもの愛くるしい笑顔に戻っていた。
 そのまま、頬をおさえたまま、彼女は止まってしまった。



 ―――下膨れ気味の丸い顔

 ―――小さな口

 ―――悪意を知らない、子どもそのものの目

 ―――暖かく、いつも染まっている頬



 残虐な一面は、確かに種としてあるかもしれない。現に、この子は赤ん坊の頃に、れいむの子に噛み付いて
託あかちゃんゆっくり所にいられなくなった経験があるのだ。

 それでも、今はそうした捕食もせず――――我侭でだらしが無い所を抜かせば、人間以上に周りへの気遣い
も、優しさも広げられる性格だ。
 それがれみりゃ特有のものなのか、この子特有のものなのかは解らないが――――それはそれで、そんな
相手とルームシェアしている生活は、すばらしいものでは無いか?

 一日の疲れや嫌な思いでは一気に消えていった。
 代わりに、目の前の相手への愛しさと、どこぞの行きずりの相手とゆっくりしてしまった罪悪感がこみ上げて
きた。


 「れみぃ」
 「うー?」






 これ以上に、 誰かを可愛く思うことがこれから先に、あるだろうか?






 再び、気がつくと―――――2人は口付けしていた。
 息苦しくなるまで、唇同士をこねくり合わせ、限界まで来て、ゆっくりと口を離すと、二人の間に。つつと
唾液が名残惜しいように糸を引いた。


 「……………あ………あ…」


 脳裏に浮かんだのは、てんこと一緒に警官に取り押さえられた時の記憶と、バニーゆっくりにいる、れみりゃの
母親の笑顔だ。
 取り返しのつかないことをやってしまった事は理解できた。
 何と言っていいものか―――――もう、本当に以前のような関係は気付けないのかと、自分の軽率さに怯えつつ
れみりゃを改めて見つめると――――――

 泣いているどころか、こちらを潤んだ目で、見つめ返している。


 「うー………」
 「れ、れみぃいい……………」


 震える手で、顔を少し遠ざけよう取るすると、赤ん坊のような手が、それを拒んだ。


 「ねえ……」
 「え?」





 ――――――もっと…………ちょうだあい……vv



 「いいですとも!!!」




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 目が覚めると、同じベットで寝ていた。


 流石にれみりゃは服を着たままだったが、一部はだけ―――彼女自身は下着だった。
 胸に、顔を埋めたまますやすやと寝息をたてている。



 何があったかは、深く考えたくは無かった。



 後悔もしたくなかった。


 れみりゃが起きない間に、自分は簡単に朝食をとり、少し豪勢にれみりゃの分も作りおきし、更に昨日買っておい
たプリンもテーブルの上においておいた。

 そのまま、そそくさと大学へ出てしまった………


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 結婚相談所で働いていた友人は、快く前例を教えてくれた―――が、れみりゃとの婚姻はまだ見たことが無いと
言っていた。


 「そういや、あんたの嫁とはどうしてるの?」
 「嫁?ゆっかりんが旦那様なんだけど?」


 そうですか………
 わざわざ、相手のゆっくりアパートメントで生活しているらしいが、腰が痛くはならないのだろうか?もし、自分
達なら―――と考えてしまう

 しかしだ


 「でも、かなり若いれみりゃなんでしょ?」
 「そろそろ就職はする予定よ?」
 「でもねえ…………それって相手何したか解ってたの?」


 今更だが――――れみりゃの性行為といって、ぴんと来る人はいないだろう。通常のゆっくり同士のすりすり等の
行為は割と知られているが、れみりゃ達がどのように子を成すのか―――それは、種としてなのか、あまり性欲が
盛んではないためらしい。食欲などが何よりも優先してしるのだ。

 だから―――人間が、子どもを作る前のれみりゃと性行為の一歩手前まで進んでしまうのは、ある意味性的虐待と
もいえるのではないだろうか?


 「『合意の上』ってのは勝手な理屈よねえ?」


 実際に、大昔にアメリカに「ナンブラ(North America Man Boy Love Asociation)」という、「合意の上による、成人
男性と未成年男子の性的交渉を合法化するべき」、と唱えていた集団が存在したそうなのだが、それと大差が無い。


 「あれも…………勢いだけだったの?」


 昨夜のてんことのやり取りを思い出す。
 愛し合ったとしても、それが衝動ならば………


 「謝った方がいいのかな……」


 それは物凄く卑怯な気がした。
 彼女は、本気であのれみりゃを―――伴侶が見つかるか、天寿を全うするまで、許されるなら見守り続けたいし、その
ためならどんな犠牲でも払う覚悟を決めていた。
 しかし、やはり自分のやった事は虐待ならば、事後のそれは最悪ではあるが、謝るべきではないだろうか。



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 今度は、遅くならないうちに家に帰ってきた。

 何といって切り出そうかと考えていると――――


 「おっかえりー♪」


 れみりゃが、こちらに背を向けてお茶を入れる準備をしている・
 ただし、いつものように羽では飛ばず、いちいちダンボールを積み重ねて、台を作っているのだった。


 「?」


 疑問に思っていると、れみりゃは不意に――――





                -──----、_
             ,,.'"        `ヽr-‐'7  ♪
             ,'"           i::::└
        ((    へ_          /::: ノ
           ノ ! ゝへゝ_rへ__ゝ∠ i  ハ  ',  ぷりっち~なひっぷにめ・ろ・め・ろ♪になるんだどぉ~♪
          .〈, /li / ゝ-'‐―´"v` ハ ヽ.
          ノ レヘ  ノ ハ  ノ    i i
          /⌒` レ'ヽハヘレ /^ヽVヽノ
    ♪   〈/ ハ /iヽ    /  }! i ヽ
         ⌒Y⌒Y乂Y!.`〈{_   ノ  }  _」  
           "   /      ⌒Y⌒Y´  
              '"゙ ̄ ゙̄ ヽ、ノ、_
      ((、   /  .        ヽ、 
       .   /         ',      r>、  ))    ♪
         ,,rく_        ハ  ゝイン"         
          `'、__ 、   ,   .,,,dr゚'. `        
            ' |゙゙'''‐,iニ,,,,,'''」''\  .゙'(′         
          :::::::゙l、 _,|:::::::::::::::::::::::\ .,,/ヽ:::::::::




 「も、もう我慢できにゃいよ……………!!」


 色々な苦労を覚悟しながらも、涙目で彼女はいい感じの高さの台に、れみりゃを抱きしめた。





  • ふたりに幸あれー -- ゆっけの人 (2008-11-28 01:24:42)
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最終更新:2008年11月28日 01:24