秋の冬

※注意書き

いわゆるなんでも有りのフリーダム系で
貴方のイメージし認識に持つゆっくりとは大きく違う可能性があります
さらにはそのゆっくりが喧嘩してます。

進むのであればそれらをご了承なされた上で自己責任でお進みください。

















































『秋の冬』



ゆっくり秋姉妹が他のゆっくり達におりきゃら認定されてしばらく後。
季節が流れ、秋が過ぎ去り冬が訪れました。

大概、秋に活動するのが本分の秋姉妹はこの季節が来る頃には
土の中で眠るのがもっとも手間もかからず楽で良いので、別段必要なくともそうするのですが、
あまりに自分達の知名度の無さに気付き、今年はこもってないで本気出す。
そんな意気込みで自分達をアピールするべく、冬になっても各地で活動を続けていたのです。

しかし、一向に知名度は上がらずどこに行っても「誰?」「おりきゃら?」と言われる始末。

「ド畜生が!!!」
「お、お姉ちゃん落ち着いて・・・。」

ゆっくりしずは、それにイライラ。
ゆっくりみのりこは、そんなゆっくりしずはを鎮める役です。基本的に、ですが。
そんなこんなで今日も頭だけの姿で山の中を跳ね進みます。

「ああ、さみい!!!マジ寒い!!!最悪!!!」
「ブルブル・・・ホント、なんか間違ってるくらいに寒いわねえ・・・。」

彼女達の心情と知名度を表すがごとく冷たい木枯らしが吹き付けました。

「うわあああああ!!なんだこりゃあ!!ホント、冬に外出るなんて有り得ねえよ!!」
「じゃあ、お姉ちゃん。もう篭りましょうよ。ほんと、冬なんて寒くて肌も荒れるだけで良い事ないんだから・・・。」
「ダメに決まってんだろ常考・・・。あたし等の事をもっと世に知らしめて、おりきゃら呼ばわりを返上するまで各地で
 アピールしまくらなきゃ!!」

そう言って心を燃やし、跳ねる速度を上げたしずはと対照的に
みのりこはやれやれといった感じでそれに続いて行きます。

そうして少し進んだ所の余り木の生えていない、開けた場所に着いた時でした。
再び、身を切り裂くような冷たい風が吹き荒れたのです。

「うおおおおおお!!!!こいつあやべえゼ!!姉貴!!!」
「うう・・・。みのりこ、これは洒落にならんわね。雲行きも怪しくなってきたし今日は此処で休む事にしましょう。」

此処で休むと言いましたがこの場所には何もありません。
山の少し開けた場所でキャンプには向いた場所ではありましたがそのまま休むには
風除けも無く不向きで有ると言えます。
しかし、ゆっくりである彼女達にそんなことは関係ありませんでした。

「「さっさとカマーン!!ゆっくりハウス!!!」」

二人がそう叫ぶと同時に空間が歪み、其処にはコテージサイズの“ゆっくりハウス”と呼ばれる、
ゆっくり秋姉妹の頭そっくりの外見でしずはとみのりこの物が二つが繋がった形の建物が現れたのです。

「あーしかし、この外見何とかならんかね。」
「仕方ないでしょ。各地回るので色々使っちゃって改造する費用が無いんだから。」

クールで冷めた目をした、しずは頭の外観をした方の入り口から二人は入っていきます。
家に入ると丁度、外見で二つの頭のつなぎ目になっている場所にあるリビングに移動しました。
二人とも疲れていたのか、そこに敷いて有る赤いカーペットの上で垂れる様に平べったくなってしまいます。

「ふぃー疲れたぁ~。」
「やっぱ家の中はいいわねえ・・・。」

のんびりゆっくりと休む二人ですが外の風が強く吹きつけ、
窓が閉まっているにもかかわらず冷たい空気が部屋の中に流れてきてしまい、
リビングを徐々に冷やしていってしまいます。

「へっくち!!!あー、さみぃ・・・。へっくちゅん!!!」

くつろぎながらも寒い部屋の中で、しずはが震えながらしきりにくしゃみをしています。

「この家暖房無いから・・・。ねえ、買ってくださらない、お・ね・え・さ・ま!!キラ☆」

そんなしずはの隣でみのりこがねだりつつ、媚びる様にウインクしながら視線を送りました。

「イラ☆ うぜえ。これでも食らってろ。」

みのりこの態度が気に入らなかったのでしょう。
冷めた目のしずはが居る場所のすぐ目の前、何も無いはずの床からスプレーを持った右手が生えてくると
その紅葉用に何時も使っている愛用の着色スプレーを何の躊躇いも無くみのりこに吹きかけました。

「ぶっ!!!・・・ひでえ。この甲斐性無しが!!!」

瞬く間にみのりこは真っ赤に染まってしまいます。
そんな姿のままプンプンと頬を膨らませて怒るみのりこを華麗にスルーして
どこからかしずはがマッチを取り出しました。

「まったく。姉の癖にこんなだから私も揃っておりきゃら呼ばわりされるんじゃない!!だいたい・・・」
「落ち葉カマーン」

みのりこが何か言っていますが相手にせず、
しずはは冷めた目のままどこからとも無く落ち葉の束を呼び出すと、

「ファイア」

なんと、家の中だと言うのにマッチで落ち葉に点火してしまいました。

「お、おお、おい、ちょ!!!おま!!なにしてんだこのボケ姉!!!」

床に溜まった落ち葉の束がばちばちと音を立て始めます。
細く白い煙が徐々に立ち上がり、少しずつ火が広がっていきました。
この事態にみのりこは慌てて水面所に跳ねて駆け進み
バケツ一杯に貯めた水を、頭に乗せて戻ってくると火に向かって勢いよくかけたのです。
おかげで火は消えましたが、床と近くに居たしずはが水でずぶ濡れになってしまいました。

「この野郎。ちめてーじゃねえか!!」
「お前が悪いんだろ!!このくそ姉が!!!家が燃えちまうだろうが!!」
「んだとこらあ!!!てめえがガタガタ騒ぐからやってやったんだろうが!!!」

くつろいで少し休んだと思えば、いつもどおり姉妹喧嘩が始まります。
別に床に穴が開いているわけでもないのに、ずるりと床下から這い出るようにして二人の頭の下に身体が出てきました。
いわゆるゆっくりボディといわれる約三頭身のデフォルメチックで小さくて少しむっくりとしたボディです。
その姿でお互い向き合うと同時に戦いのゴングが鳴り響きました。

「姉に勝る妹など居ねえ!!!」

しずはが執拗にローキックで攻め立てます。

「こいや、おらあ!!!」

そんな、しずはにみのりこは何時の間にやら手に持った木槌で応戦します。

「ぐ!!この姉に、ぐお!!!なにをするかー!!!」

執拗なローでみのりこの機動力をそぎ、足から崩そうとするしずは。
しかし、木槌での頭上からの攻撃は強力で、しずはの身体は床を突き破り土の中まで埋もれていきます。
徐々に土に埋まっていくしずはの姿にみのりこは勝利を確信しました。

だが、しずはもただでは終わりませんでした。
木槌攻撃で胸の辺りまで埋もれてしまい、チョップで引き続き足を攻撃していましたが
なおも降り注ぐ木槌の攻撃に徐々に防戦一方になりつつも
埋もれかけた上半身を必死によじり手に持ったマッチに火をつけたのです。

「往生際が悪いわね!!!姉さん!!!」

(火をつけて自分を焼き芋にでもしようというのか。
 ふん、ばかな姉さん。そんな小さな火種で私を倒せるほどこんがり焼けるとでも思っているの。)

みのりこはそう思いつつそんなしずはの行動を悪あがきと判断して、余裕の表情を浮かべます。
そして、トドメと言わんがばかりに大きく振りかぶり、木槌を振り下ろしました。

が、しかし。

「ふ、ばぁかめ!!油断したわね!!!先程食らったのにもう忘れたの!?」

そうです。しずはお得意の紅葉スプレーを何時の間にか左手に持っていたのです。

「!?」

完全にみのりこの失策でした。
自分達ゆっくりはどんな状況でも自分の持ち物を出したり身体を変えたりすることが出来るというのに
あの子憎たらしい姉に勝てる!!と勝利を確信し油断してしまったみのりこはすっかり警戒を怠り、
状況を焦って謝った判断をしてしまったのです。

「こんがり良い色に焼けてね☆」

しずはは憎らしいほどに愛らしく、可愛らしい笑顔を浮かべ噴出孔に火を近づけたままポチっとスプレーを噴射しました。

「うわああああああああああ!!!!!!」

勢い良く炎が迫り来る刹那、目を見開いたみのりこは、自己の失敗を呪う様に叫び声をあげます。
そのわずか数瞬後には顔に引火して床を転がりまわり、手で払うようにしながらもがいていました。
数分の後ようやく鎮火した頃には、何時の間にか身体は消えてしまい、こんがり焦げ目のついた頭だけの姿になって居たのです。

「ハッハー!!!姉に勝る妹など存在しねえ!!!」

邪悪な表情を浮かべ、叫ぶしずはは埋まっていた身体を消滅させ頭だけの姿に戻り部屋の床に上がると
満足そうに天を仰ぎ大声で笑いました。

「おーっほっほっほっほっほっほ!!!」
「・・・。」

すっかり良い具合に焦げ目が付き、言葉無く震えながらホクホクと煙るみのりこからはとても甘い良い臭いがします。

「ふう・・・。とっても良い運動になったわ。おかげで身体が暖まっちゃった。」

ひとしきり笑った後、みのりこの姿を眺め勝利に酔うしずは。

「汗もかいちゃった事だし、お気に入りのソファーでくつろぎながらみのりこの無様な姿を肴にして、ワインでも飲みましょ。」

そう言ってみのりこに背を向け台所へ向かおうとしたそのときでした。

ビシュッ!!!

鋭い音が部屋に響き渡ります。
何が起こったのか、しずはには理解できません。

「・・・な・・・に?」

ただ、目の前の壁が黒く焦げている事。
額と後頭部に違和感が有る事。
その二つの事象をしずはが認識すると同時に彼女の意識は白色に飲まれて行きました。

「ふ、甘いわ。お姉ちゃん。」

前のめりになって倒れていくしずはの姿の後ろに
顔色がこげ茶色になりつつ、ほかほかとした湯気と臭いを発たせたみのりこが邪悪な笑みを浮かべています。

「油断したわね。そんなだから何時までたっても甲斐性なしなのよ。」

みのりこがそう言うと同時になんと、しずはがむくりと起き上がったではありませんか。

「ふぅん・・・さすがにしぶとぉい☆。やっぱり一発だけじゃあだめか。」

別にこうなる事が解っていたのか、冷淡に笑いながらみのりこが言います。
起き上がったしずはは、みのりこの言葉を無視し、振り向かずに抑揚の無い冷たく静かな声で言いました。

「みのりこ。何もしないからこっち来なさい。」

しかし姉の言葉と不気味な気配にも、余裕の表情で不敵に口端を歪めるだけで微動だにしないみのりこ。
わずかばかりの沈黙が部屋の中を支配し始めると同時にぬらりと、そしてゆっくりと、しずはが振り向きました。

「ちょっと。お姉ちゃんの頭に穴が開いちゃったじゃない。」

忌々しそうなに歪んだ顔でそう言ったしずはの額には大体直径2cm位でしょうか。
それ位の穴がぽっかりと開いていて、正面からそれを眺めると後ろの焦げてしまった壁が覗ける程に綺麗な円でした。

「心配ないわよ、お姉ちゃん。」

身の毛もよだつ様な恐ろしい表情のしずはを見てもなおみのりこは動じません。
どれどころか、さらに不敵な笑顔を色濃く顔に浮かべいます。

「だって、これから穴だらけになるんだからなあっ!!!!」

そういうと同時にみのりこの右目が煌き緑色の光が直線に迸ります。
これが、しずはを後ろから狙い打った物の正体でした。

「フフッ、相手の真正面で、自ら手の内を明かすなんておばぁかさん。」

しかし、右目が輝きを発した瞬間にはしずははその場所から消失していました。

「なに!?」

驚嘆の声と同時に先程しずはを狙った物。
すなわち緑色のビームが空を裂き、先程までしずはが居た場所の後ろに有った壁を打ち抜きました。

「ちぃ!!」

しずはの頭だけの姿を見失いみのりこは戸惑います。

「うふふふ・・・。」
「クッ!そぉこかぁーーー!!」

天井からしずはの不気味な笑い声が聞こえたと認識した瞬間。そこにビームを放つみのりこ。
ビシュッ!!とまたも鋭い音がして天井に小さな穴を開けますが手応えが感じられません。

「あまいわねえ・・・。それ、撃つ方の視界がなくなってるでしょ?」
「な、なに?なんで・・・」

みのりこはしずはの的確な指摘に狼狽します。
なぜ、先程まで見せた事の無かった攻撃の欠点を知っているのか。
みのりこは焦り始めました。
この展開は、不味い、と。

「ほおら、またそんなに露骨に動揺しちゃって。こんな時は虚勢でも強気を保つものよ。」

おちょくる様に、そう教授する声が今度は床下から聞こえてきました。

「ばかにするなああああああ!!!」

声が聞こえてきた方向の床にビームを放ちます。が。

「ぶっぶー・・・はずれねえ。」

心底バカにした声で言うしずは。
プルプルと頭だけの姿で震えるみのりこ。
戦局は明らかにみのりこ不利。
またしても油断が最悪の事態を招いてしまいました。
そんなみのりこをどこからか、隠れながら眺めつつしずはが語ります。

「私を見つけられないようだし、ヒントも兼ねて暇つぶしに何でそれの欠点が解ったのか教えてあげようかしら。」
「ど、どこよ!!!隠れてないで出てきなさい!!!卑怯者!!!」

モロに焦りの見え始めたみのりこの安い挑発を軽く無視し、せせら笑う様に四方からしずはの声が響き始めました。

「始めにそれを撃たれた時、倒れる前に壁が見えたわ。
不自然に焼け焦げた後、そして頭を貫通した時の感触・・・。それで気付いたの、熱線兵器の類だとね。」

一発食らってなお、冷静に其処まで見破っていたことにみのりこは驚愕してしまいます。
さらにしずはの講義は続きました。

「そしてわざわざ、私の目の前でそれを撃ってくれたのが最大のミス。挙動だけでどうすれば良いのか判っちゃったわ。」

あのビームを放つ一瞬で欠点を見破り、見えなくなるであろう発射側・・・つまり右側に高速移動して姿をくらました、と
しずはが言うにはそういうことだったのです。

「まあ、焼き芋になっても負けを認めずそんな技を隠し持っていたのは評価してあげるけど
みのりこ、そう言う一発芸でチャンスを得た時は一気に畳み掛けなさい。」

余裕たっぷりに嫌味たらしく言うしずは。みのりこは唇を噛み締めながらそんな姉を探し出そうと
躍起になって周りを見渡しますが、依然として気配が有りません。
声も四方から聞こえてくるので場所を特定するには至りませんでした。

「さて、暇つぶしの講義はオシマイ。ゆっくり恐怖していってね!!!」

しずはがそういい終えると同時に部屋が恐ろしいまで沈黙に包まれます。

(どこ?どこから来る?)

沈黙の中疑念と警戒心がみのりこの精神を焦燥させ、焦りで挙動不審なまでに目をきょろきょろとさせます。
恐らく、喋り終えたしずはは次こそ攻撃を仕掛けてくるはず。
しかし、依然として気配すらも感じられません。

「クッ!!!」

急いで壁際の棚に隠れるように頭だけの身体を縮めました。

(この状況・・・。不味いわ。落ち着いて、落ち着いて考えるのよ。みのりこッ・・・!!!)

自分にそう言い聞かせ、息を殺しながら思考をめぐらせます。
目を閉じず、しきりに周りを見渡す事も勿論欠かさず、神経を研ぎ澄まし、全ての感覚に集中しました。

(奴が立てそうな物音は・・・だめだ。聞こえない。それどころか、この部屋に居るのかすら怪しい・・・。)

動くものが存在するならば僅かな動向も気配として感じられますが
そういった感覚が、今の部屋からはまったく感じられないのです。

(この部屋の中に気配を感じないのなら多分、まだ天井裏か床下に居る筈・・・。
しかし・・・。お姉ちゃんなら気配を消しきることも容易いわ。)

みのりこは、推察しながら次に取る行動を思案していると、有る物が視界に入ります。
そこにはふわふわで座り心地のよさそうな淡い水色のソファーが有りました。

(・・・あのソファーはお姉ちゃんのお気に入り。
この前の収入で買ったばかりのKIMO社ブランドで特に人気のソファー。
これを犠牲にする事などあの人の性格からしてありえない。しかし・・・。)

この状況で先手を打たれれば致命的なのは確定的に明らか。
しかし、迂闊に行動すれば一瞬の隙が命取り。
みのりこは用心深く周りを見渡しながら慎重に考えます。

(お気に入りのソファーの近くに居れば、もしかしたら、お姉ちゃんは躊躇するかもしれない。
でも、さっきまでの様子だと逆にそんな事お構い無しに攻撃され、ソファー諸共お陀仏になるかもしれない。
だけど、一か八か、行って見る価値が無いわけではない。どの道、今この部屋全体が危険地帯なのだから・・・。)

そう頭の中で結論を出すと
じりじりとした空気の中、どこから来るか判らない攻撃に備える為と、
刹那の勝負になるであろうと考え砲撃を安定させる為、
身体を出さないで頭だけの姿のまま次々と物陰を渡って身を隠しつつ、ササッと地面を小さくすばやく跳ねて走りぬけます。

(わからないよー、ね。このソファーが私を守る盾となるか・・・それとも。)

思考しつつも音を立てず、かつ、素早くなんとかソファーの近くの物陰までいく事に成功しました。

「まだ仕掛けてこないなんて・・・。」

幾度かその姿を晒しながら移動していた為、攻撃のチャンスは何度かあったはず。
なのに、しずはが仕掛けてこなかったこと、そして今だに攻撃を仕掛けてこないことにみのりこは引っかかりを憶えました。

「まさか・・・。」

物陰から飛び出し、
約一メートル程離れた場所でソファーを前にじっとそれを見つめ、眺めます。・・・じっと・・・じぃっと。

「ゆっくりしね!!!」

みのりこがソファーに向けて叫ぶと同時に極太ビームを放ちます。
その威力はソファーを丸ごと消し、その後ろの壁を爆砕するほどの物でした。

「ぬわああああああああああああああ!!!」

しずはの叫び声が聞こえて来ると同時にものすごい爆発が起こり凄まじい煙と瓦礫の山を築きました。

「ビンゴだッ!!!勝ったッ!!“秋の冬”完ッ!!!」

聞こえてきた叫び声に今度こそ勝利を確信します。
段々煙が晴れていくと、其処にはソファーと恐らくしずはも塵になった物が有りました。
さすがに、塵になったり消え去ったりすればゆっくりと言えどもしばらくは活動できません。
まあ、少し時間が立てば何事も無く復活するのですが、相手をこの様に一時的にでも再起不能にさせる事が
ゆっくり同士の喧嘩の勝敗となるのです。

が、

「ぐあッ!?」

いきなりみのりこの下顎に強い衝撃が走り、頭だけのその姿が宙に舞ったと思うと
帽子を避けるように後頭部を直接、鷲掴みにされたのです。

「なん・・・だと・・・!?」

みのりこは何が起こったか理解できません。
目を見開き瞳孔が開いたままガクブルと震えます。

(まさか・・・まさかッ!!)
「ふ・・・ふふふ・・・惜しかったわね、みのりこ・・・。判断は・・・悪くなかったわ・・・。」

その、まさかでした。
ぜえぜえと方で息をしながら体中が良い具合に焼けたしずはがむんずとみのりこを掴んだのです。

「あ、あんたが、もう少し、迷わずに撃ってたら、はあ・・・はあ・・・消し炭になってたでしょうね。」

しずはは講義の後、みのりこの思考ならば必ずソファーを盾にしようとするはずと読んで
地中からソファーの中に隠れ、近付いてきた所を確実に仕留めようとしていました。
しかし、みのりこは寸前の所でソファーが怪しいと気付き、それに攻撃を加えたのです。

其処までは良かったのですが、
あの時、みのりこがソファーを僅かに見ていたあの時間です。
その隙のおかげで、しずは攻撃を受けつつも辛うじて逃げ出す事が出来、
さらには煙に隠れて後ろに回ることが出来たのでした。

「く、離せええええええええ!!!」
「うふふ、チェック・メ・イ・ト☆」

悔しそうに暴れるみのりこに対し、ゆっくりと身体が元通りに修復されながらしずはがにやりと笑います。
しっかりと後頭部を真後ろから掴まれる形になってしまったため、みのりこにとって非常に不味い状況です。
上から掴まれたのなら帽子をパージして逃げる事も出来ますが、この掴まれ方ではそれも叶いません。
砲撃に特化させる為、そして身を隠す為に身体を出さず、頭だけの状態で居たのが裏目になってしまいました。
今更身体を出そうにも恐らく、身体を出す前にはやられてしまうでしょう。
現に、火炎放射器の銃口がすでに顎に突きつけられていました。
少しすると遂にみのりこは大人しく負けを認めたのか抵抗をやめ、黙って力なく持ち上げられるままになってしまいました。

「良い子ね・・・。そのまま大人しくしていればお仕置きも優しくしてあげる・・・。」

しずはは穏やかな口調でそう言いつつも表情には優しさの欠片も見当たりません。
むしろ悪魔のような形相しながら、銃口をぐりぐりと押し付けます。
今度は容赦なくこげ芋にするつもり満々です。

「ふん・・・。好きにしなさいよ・・・出来るモンならねッッッ!!!!」

観念していたと思ったみのりこがそう言った瞬間でした。
帽子が超高速で回転して飛び出し、凄まじい鋭さを持った刃となってしずはの腕を狙ったのです。

「な、なにぃぃぃぃぃぃ!!!!????」

しずはは驚嘆すると同時に腕を持っていかれないよう、咄嗟に腕をひきました。が、
その時、思わずみのりこを掴んでいた力が弱まってしまい、その隙を見逃すことも無くみのりこが逃げ出してしまったのです。

「くッ・・・しまったッ!!!」

そう呻いてかすった腕を押さえます。

(まさか、そんな手を隠し持っていたなんて・・・。)

しずははそう思いながら素直に妹の執念を認め、そして改めて妹の方を見直すと
みのりこはすでに身体を出して仁王立ちしていました。

「どう?これが本当の切り札ってやつよ。」
「ふうん・・・ホント、やる様になったじゃない。」
「まあね。」

二人の顔に僅かな笑みが浮かびます。
お互いを強敵と認め、立ち尽くす約三頭身のゆっくりボディ。

「もう小細工は無しよ・・・。みのりこ!!!」
「ふん、望む所よ。姉さん!!!!」

しずはは火炎放射器を床に下ろし、腰を落とし体中に力を込めます。
みのりこも、脇を占めて力を込め始めました。

「ぬうううううううううううううん!!!」
「ふぉああああああああああああああああ!!!」

お互いの気合が半壊状態の部屋に、響き渡り、空気を振動させます。
そして、二人は気合の雄たけびに同期して、ビキビキという音を立てながらありえないぐらいにマッチョなボディ・・・
すなわち、身体がありえないぐらいに筋肉質な男性の身体で、服は秋姉妹まんまと言うそれは凄い状態になりました。
ついでに顔つきもやたらと劇画チックで濃くなっています。

「「でやああッ!!!!!」」

こうなるともはや言葉は必要ありません。
お互いの拳と拳がぶつかり合います。
ひとたび放たれたしずはの蹴りをみのりこが避け、勢いそのままに振りぬかれると、みのりこの背後にあったコンクリートよりも硬い謎の物質で出来た壁を砕き、
その隙は逃さないと、みのりこが振り下ろしたチョップをしずはが僅か紙一重で避けると、手刀がその勢いのまま床を叩き割って、地面を露出させます。
しずはのローキックがみのりこを捕らえれば、みのりこはただでは足を持って行かせないとばかりにミドルキックを腹部に決め、
みのりこが渾身のストレートを放てば上等!!と言わんがばかりにしずはが正面からカウンターで迎え撃ち互いの拳が顔面を抉るようにめり込みます。

そんなこんなで二人の喧嘩は熾烈を極めました。
そして・・・。

「はぁ・・・はぁ・・・ぬぅぅうおおおおおおおおお!!!!こ、これで、最後よ!!みのりこ!!!」
「うぅおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!ね、姉さん、貴女もまた、強敵(とも)だった!!!」

何時の間にやらで満身創痍になっていた二人が、
お互いの全力の拳を放ち、それが互いに食い込みました。

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」

しずはの腹を下から突き上げるようにみのりこの拳が抉り込み
みのりこの頬にしずはの鉄拳が振り下ろされます。
お互いの攻撃が当たると同時に、両者は凄まじい咆哮を上げ
しずはは天井を突き破って果てしなく高く、雲を突き破り、成層圏近くまで舞い上がり、しばらくの空中遊泳の後、
先程飛び出した穴の少し横の屋根を突き破り屋根にもう一つ穴をこしらえ部屋の床も突き破って地面に小さなクレーターを作りました。
みのりこはきりもみ回転してわずかばかり宙を舞い落下すると
その勢いのまま床を抉り取り、壁を突き破って外の地面にこんもりとした土の山を作ってそのまま地下数十メートルの所まで埋もれていってしまいました。

しかし、二人は、まだ、倒れませんでした。
当然のごとく、まるで効いてないかのようにムクリと立ち上がります。

「み~の~り~こ~ぉぉおおおおおお~~~~~~~~!!!!」
「おねぇ~ちゃあああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~ん」

しかし、両者とも満身創痍です。
怨念が感じられる声を放ちながらよろよろとゆっくり部屋の中心まで戻り、両者とも向き合うと構えを取ろうとします。
が、

「「ぐはあ!!!」」

其処まででした。
両者ともボロボロのマッチョボディが消え去り、約三頭身のボディと何時もの顔に戻るとばたりと大の字で倒れこんだのです。

「「はあ、はあ、はあ・・・・」」

大きく、途切れ途切れに息を吸っては、吐く二人。
実質的なダブルKOでした。

「はぁぁぁぁーーーーーー・・・・。やる様になったじゃない。みのりこ。」

開いてしまった大穴から空を見上げるしずは。
残念ながらどんよりと黒い雲に覆われた空でしたがどんな快晴の空よりも不思議と晴れ晴れとした気分で空を見ていました。

「ふふふ・・・。伊達にお姉ちゃんの妹やってないわよ・・・。でも・・・やっぱりお姉ちゃんは凄いわ・・・。」

そう言ったみのりこも同じ気分で空を見上げのんびりと眺めました。

「うふふふふ・・・。」
「あはははは・・・。」
「「あははははははっ!!!」」

ちょこんとしたゆっくりボディで大の字になって泥だらけの顔のまま笑います。
確かに見た目こそ不恰好なのかもしれません。
ですが、日の光を浴びずとも。
泥だらけであっても。
そのすがすがしいまでの笑顔はとても素晴らしい輝きを放っていました。






激戦の疲れか二人とも、しばらく大の字のまま何することも無く静かでゆっくりとした心地の良い時間を味わっていると・・・。

「うー♪うー♪」

ピンポーン、という音と同時にインターホンから声が聞こえてきました。

「あら、この声は・・・。」
「郵便かしら?」

ゆっくりと立ち上がると、玄関にパタパタと駆けて行きます。
走る二人の姿は先程の激戦など無かったかの様に、傷跡一つ残っていません。

「はいはーい。」
「ゆっくりしていってね~」

バタンと玄関のドアを開けると其処には二人の予想通り
箱持ちれみりゃが浮いていました。

「ゆうーびんっ!!!」

可愛らしい笑顔のれみりゃがそう言いながら箱をゆっくりと下ろすと、帽子の中から下敷きに挟まれた紙を差し出しました。

「受け取りサイン♪受け取りサイン♪」
「はいはいっと・・・みんなに大人気のあきしずは・・・っと。」
「お姉ちゃん、流石に郵便のサインにそれは・・・。」
「うー、うー、・・・・・・おりきゃらが何書いてんだ。」
「「そこ!!!黒い顔してボソッと言うな!!!」」

こんなやり取りはいつもの事です。
二人的には色々と問題なのでしょうが、周りはもはや半ばネタとして考えているのかもしれません。
秋姉妹のスムーズな突っ込みと流れにれみりゃはとても楽しそうに笑っていました。

「はい。どうも。」
「毎度うー!!」

みのりこが改めてサインし直しそれをれみりゃに渡すと、れみりゃは飛び去っていきました。
二人は箱を持って早速部屋の中に戻ります。

「何かしら・・・。ああ!!これは!!ねえさん。」
「なになに、ちょっと見せなさいよ。」

箱には、なんと最新型のハロゲンヒーターが入っていました。

「お姉ちゃんこ、これは・・・。」
「え、これ・・・ちょっと待ってて!!!」

しずははそう言うと自分の部屋まで走っていきます。
少しすると、しずはは雑誌を手に戻ってきました。

「ええっと・・・あった。これ、これよ!!!」

嬉しそうに雑誌の写真を指差すしずはに、みのりこは何事かと駆け寄ります。

「なになに・・・。KIMO社開発、最新型ハロゲンヒーターを一名様にプレゼント・・・
 なお当選者の発表は賞品の発送を持ってかえさせていただきます・・・。と言う事は・・・。」
「これよこれ!!!きっと当たったんだわ!!!何時も送ってた甲斐があったわ~・・・。」

しずはは満面の笑みで少し嬉し涙が目にが浮かばせて感動に浸ります。

「すごいわ!!姉さん!!!」

それに乗じてみのりこもぴょんと跳ねて喜びを表現。
否応無く二人のテンションが上がりますが・・・。

「でも。ハロゲンヒーターって一人で温まる物よねえ・・・。」

みのりこがハッと気付くとそう呟き残念そうにします。
結局温まれるのは一人だけ。しかも、当てたのはしずは。
みのりこはガックリと肩を落してしまいます。

「そうね・・・。でも・・・。」

そんな、みのりこの方を見ながら、優しく言うしずは。

「このリビングに置いて二人で使う事にしましょ。」
「お、お姉ちゃん・・・。」

しずはがウインクしながら言うと、みのりこはそんな姉の心遣いに打たれうるうると泣きながらしずはに抱きつきます。

「みのりこったら、もう・・・。」

しずははそんなみのりこを抱きしめてよしよしと頭を撫でました。



最新型のハロゲンヒーターの前で二人はホクホクと温まります。
身体を戻して頭だけの姿で頬を寄せ合うその姿はとても仲睦まじい様子でした。

「ねーお姉ちゃん・・・。」
「んー?なにぃ、みのりこ・・・。」
「おなか空いちゃった・・・。」
「・・・そうねえ。チョコフレーク食べる?」

えへへ、と照れるみのりこに
右手だけを出し、髪飾りを外してしずはがそっとみのりこの口に持って行きます。

「ウマー・・・。お姉ちゃんもタルト食べる?」
「いただくわ・・・。ウマー・・・。」

みのりこも、頬をピンクに染めながら右手だけを地面から出して帽子を外し姉にプレゼント。
ふたりとも笑顔で談笑しながらお互いのオヤツを分け合います。

「「しあわせ~・・・。」」

目を閉じ寄り合いながら幸せに浸る姉妹。

「ねーお姉ちゃん・・・。」
「んー?今度はなあにぃ、みのりこ・・・。」
「この部屋どうしよっか・・・。」
「んー・・・。」

しずはが見渡すと、先程の激闘で壁は穴ぼこだらけ、床にも幾つも穴が開き家具はめちゃくちゃになり
お気に入りだったソファーは塵となってしまいました。

「まー、良いんじゃない・・・。後で直せばいいんだし・・・。」
「そうよねー・・・。んーお姉ちゃんすりすり~・・・。」
「もう、ホント、しょうがない子ね・・・。」

ひゅうひゅうと風が吹き抜け、きらきらと白い雪が舞う光景の中、ヒーターの前でぬくぬくな二人は
中睦まじくそのまま寝てしまったのです。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






しばらくして二人の目が覚めたときは完全に雪に埋もれた状態でした。
ボコォッ!!と言う音と共に頭だけの姿で二人が雪の中から勢い良く飛び出します。

「「このド畜生が。」」

二人とも顔に影を作り睨むような目つきで口をゆがめこめかみに血管を浮かべています。

「はあああああああ!!!!せっかく良い気分だったてのによおおおお!!!!」
「ああああああああ!!!雪、マジうっぜええええええええええ!!!」

帽子や髪、そして顔中に雪の塊が残る姿で空を仰ぎ、まだまだ振り続ける雪に向かい悪態をつきました。

「たく。だからこの部屋どうしようかって言ったんだ・・・。このボンクラ姉が。」

みのりこがしずはを睨みながらぼつりといいます。

「な、てめえええ。私のせいだってのかい!!!
てめえも“そうよねー・・・。”とかほざいて後回しにしてたじゃねえか!!
それになんだぁ?“んーお姉ちゃんすりすり~・・・”って。
うえええええ、気持ち悪ぅ~!!!」

しずはは心底気持ち悪そうに嗚咽を吐きながらみのりこに言い捨てます。

「な!!このクソ姉が!!てめえだってなにが“しょうがない子ね”だ、気色悪いったらねえんだよ!!!」

みのりこもそのことを思い出し少し恥ずかしかったのか頬を染めつつも、忌々しそうな顔で吐き捨てる様に言い放ちます。

「あんだぁとぉごるあああああああ!!やんのかぁみのりこ!!ああ!!!?」
「おう、こら、上等じゃああああ!!!こんのボケがあああああああ!!!」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



そうして再び熱い戦いを繰り広げ、深夜になって激戦を終えてまたもダブルKOの結果になると、
冷静さを取り戻した二人はほぼ全壊状態の家にひたすら後悔してようやく仲良く修復作業に入ります。

「しずしずしずりーん♪お家よ元通りになーれ☆」
「みのりみのればみのりんりん♪周囲の自然さん!!元の美しい姿に戻ってね☆」

二人が約三頭身の姿で赤い振りフリの魔法少女的な服を着た身体で舞いながら唱えると
あら不思議、家や家の中の物に周りの景色まで全て元通りになってしまいました。

「あー、夜中だからもっとクソさみい、とっとと部屋に帰って寝るべ。じゃな。みのりこ。」
「そうねー。今日も疲れちゃったわ・・・ふぁ~あ。おやすみお姉ちゃん。」

二人は頭だけの姿に戻りリビングで別れると、それぞれの部屋に帰っていき暖かな布団で静かに眠りにつきました。
こんな毎日を繰り広げるそれはそれは中睦まじい、秋姉妹のある冬の日の光景でしたとさ。




おわり




















あとがき

秋姉妹は勝手に動いてくれるので楽ですw
何と無く少年漫画なノリで書いてみたんですがいかがだったでしょうか。
読み辛く解りにくかったとは思いますが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。

                                         即興の人

  • 秋姉妹のお茶目なところや、れみりゃの郵便屋さんのところなどのゆっくりの可愛さと
    カオスでハイテンションなネタの数々でとても楽しませていただきました。
    「ハッハー!!!姉に勝る妹など存在しねえ!!!」
    で腹筋崩壊しましたw
    以前から思ってましたが、このssを見ていると即興の人は起承転結つけて
    物語をまとめあげる事が本当に上手いと改めて思いました。 -- 名無しさん (2009-02-21 23:27:23)
  • なんていうか、濃いwすごく濃いw
    タイマン勝負のこってりさがたまらない。
    後味さっぱりなのもいい感じ。 -- 名無しさん (2009-02-22 09:50:03)
  • ワロタwww
    秋姉妹高性能過ぎだろwww
    良かったな、こんな大作に出してもらえて -- 名無しさん (2009-02-22 12:03:58)
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最終更新:2009年02月22日 12:03