きずな⑨~冒険~中編

 3匹は地面に降り立ち、周囲を見渡す。
 空からでは植物が生い茂っているせいで細部まで見えなかった。かと言って、地上に降り立っても視界がマシになるという訳でもなかった。
 やや短絡的だったかも知れない。
「うー…誰もいない…」
「どなたかー、いませんかー?」
「JAOOOO!?」
 これだけ立派な花園だ。ゆうかがいても良さそうなものだが。

 3匹が奥へ進もうとすると、正面にゆうかの集団が現れた。
「あ、ゆうかですわ!!」
「うー♪うー♪み~つけた!」
 探しゆっくりにとうとう出会え顔が綻ぶ3匹だったが、それとは対照的に、ゆうかたちの表情は恐ろしく険しい。明らかな警戒心を読み取れる。
 不穏な空気を察したのか、さくやが「ゆっくりしていってくださいですわ!!」と言い、敵意がないことを示そうとしたが。それよりも大きな号令に阻まれてしまった。

「だいいちぶたい、かまえー!…はっしゃ!!」

 その号令と共に、3匹に向かって石が投げられた。
「JAO!?」
「ゆ!!?」
 避ける暇もなく、めーりんとさくやは反射的に目を瞑る。 

 …しかし、石はおろか、米粒すら飛んで来ない。
 恐る恐る目を開けると…ふらんが正面に仁王立ちしていた。
「JAOOOO!!」
「い、いい、いもうとさまああ!!」
 ふらんは…自ら全弾受けることを引き換えに、咄嗟に2匹を庇ったのだ。
「…うー…ふらんがまもるから…じっとしてて…」
 痛みに耐えながらも力なき笑みを返す。

 だが、ゆうかたちは容赦なかった。数で圧倒出来ると踏んだのだろう。第2撃、第3撃と攻撃は続く。
 その度にふらんは石を全て受け止めた。2匹が傷つかぬよう。
「JAO!!JAOOO!!」
「もうやめてください!!いもうとさまがしんでしまいますわ!!」
 ふらん以上に、2匹は悲痛な面持ちだった。ふらんに止めてくれと、ゆうかたちに止めてくれと懇願する。


 そんな様子を指示を出していた一回り大きいゆうかがまじまじと見る。
「…ぜんぶたい、ほうげきやめ!!」
 倒したと判断したのか…はたまた、2匹の願いが通じたのか。ともかく、石弾の嵐は止んだ。

「…うー…めーりん、さくや…ぶじで…よかっ…た…」
 そう言い残し、ふらんは膝を突いた。
「ごめんなさい!!…さくやのせいで…いもうとさまが…」
「JAOOOOO…」
 慌てて駆け寄った。2匹は悔しそうに唇を噛み、涙を溜めている。
 一方のふらんは、傷だらけになりながらも無事に安堵の笑みを投げかけた。
「…とも…だち、まもる…の、あたり…ま…え…」
 倒れそうになったふらんを支えるめーりんとさくやにリーダーらしきゆうかがゆっくりと近づいて来る。
 めーりんはふらんに寄り添いながら怯えていた。生まれてから、すぐ家族を失い…他の種から虐めを受け、先日には人間の子供にも暴力を受けた。
 …分かっている。立ち向かわなくていけないのは痛いほど分かっている。
 それでも…竦んだ。怖かった。この圧倒的な数を見ると。

 その横でさくやは憤慨していた。何故、こんな目に遭わないといけないのか。
 しかしながら、ここで思い出す。野生の頃の本能を。あの頃は生きるのに必死だった。油断すれば天候にやられ、他の動物に食われる。強き者が正義、弱き者が悪の厳しい世界。
 このゆうかたちがここまで警戒することは仕方が無いことだ。
 …ならば、ここで反撃をするのも…仕方が無いこと。

 さくやの目が赤く染まる。…それは、鮮血の色だった。
「…わたくしたちにたたかういしはなかったのに…それをあなたたちは、むしし、こうげきをしかけた…かくごはできて…?」
 臨戦態勢だ。場に緊張が走る。
 ジリ…ジリと間合いを取った。

 めーりんは戸惑った。普段のさくやからは想像出来ないその殺気に。…だが、その殺気を以ってしてもここを制圧するのは至難の業に違いない。
 このままでは…ふらんだけでない…自分の苦しみを理解してくれた、一緒に泣いてくれた、暖かく抱きしめてくれた、さくやまでもがやられてしまう。
 めーりんは考えた。みんなが無事に済む方法を。誰も傷つかない方法を。

「…いきますわよ…いもうとさまのいたみ、おもいしりなさい!!!」
 いざ、飛び掛ろうとするさくやの前に間一髪で表れ、体当たりを喰らいながらも、なんとか阻止した。

 跳ね返ったさくやは一瞬、驚きを隠せないでいたが、すぐに先程の鋭い瞳に戻った。
「…そこをどいてください…めーりん。」
 静かに言い放つ。威圧を感じながらもめーりんは一歩も譲らなかった。
「JAO、JAOOO!」
 攻撃は止めるよう懇願した。

「…どうしてですか!?いもうとさまを、あんなにいいようにぼこぼこにされて…ゆびをくわえてだまってるなんて、おくびょうのすることですわ!わたしは、ゆうかたちをゆるせません!!」

 さくやの言い分、怒りは当然だ。めーりんにも痛切に伝わる。…両親と離れ離れになった時、何もしなかった。泣いてるだけだった。…さくやの言う臆病者とは、当に、自分のことなのだから。

「JAOOO、JAOO、JAO!JAOO、JAOOOOOO!!」

 それでも泣きながらに訴えた。
 ここで怒りに任せても、ふらんは傷ついたままであることを。さくやまでもが傷ついてしまうのは見たくないことを。話し合い分かってもらうのが先決だということを。
 さくやの怒りは話を聞いているうちに、静まっていた。元の穏やかな表情、優しい目に戻る。…どうやら、めーりんの毅い思いが伝わったようだ。

「…めーりんのおっしゃるとおりですわ。わたし、まちがっていたのかもしれません…」
 目を一度閉じ、開き、傷ついたふらんを見つめる。
 めーりんとさくやは、お互いに頷き、リーダーゆうかの方へ向かう。

「わたしたちには、てきいはありませんわ!あるはなをさがしていただけです!」
「JAO!JAOOOO!」

 周りのゆうかたちがざわめき始めた。
「…たいせつなゆうじんの、いもうとさまがきずついてしまいました…おねがいします…いもうとさまをたすけてください…!!」
「JAOOOOOO!!」
 顔を下げ、地面に付けた。心からの願いだった。

「ゆ!だまされちゃだめだよ!きっと、はなをうばいにきたんだよ!」
 どこからともなく、声があがる。
「そうだよ!このさくやは、さっきはんげきしようとしたよ!ゆっくりできないよ!」
 第一声に続いた。
「ゆっくりできないさくやはゆっくりしね!」
 そして、ゆっくりしね!のコールが巻き起こった。
 2匹は黙っているしかなかった…このリーダーゆうかに、自分たちの思いが伝わるのを祈って。

「ゆゆっ!みんな、ゆっくりだまってね!」
 リーダーゆうかの一言で、場が静まり返る。

「…さくや、めーりん…かおをゆっくりあげてね。」

 一体どうなってしまうのか…2匹は全身を震えながら顔をあげた。

「…いきなり、こうげきしてごめんね…ゆうかは、ふたりのことばをしんじるよ。」

 …願いは、届いた。しかし、他のゆうかたちは納得いかないのか、文句を垂れる。
「ゆ!どうして!?」
「その3びきはてきだよ!」
「はいじょしなきゃ、ゆっくりできない!!」

「みんな…ゆっくりきいてね!このふらんは、さくやとめーりんをまもるために、からだをはってきずついた!」
 再度、黙り込む。
「さくやは…たしかに、こうげきしようとしたけど…それも、ふらんのかたきをとるためにしたんだよ!みんなも、なかまをきずつけられたらだまっていないでしょ!?」
 ゆうかたちはゆうも出ないようだ。
「そして、なによりめーりんは…ふらんをたすけるため、さくやをきずつけないために、はなしあうことをていあんした。…ね?みんなも、しんじてあげてね!おねがいだよ!」
 すると、なんとリーダーゆうかまでもが頭を下げる。その様子を見て、ゆうかたちは困り果てた。
 自分たちのリーダー自らの頼みだ。無下にするわけにもいかない。
 途端に集まり、緊急会議が始まった。

「ゆううううぅぅぅぅ…みんな、どうする?」
「どうって…リーダーがああいってるし…」
「でも、でも…やっぱりこわいよ…」
「ゆゆ!ゆうかもさくやたちは、いいゆっくりだとおもうよ!」
「そうだね!すごくなかまおもいで、ゆっくりしてるよ!」
「はなしくらいは、きいてあげようよ!」
「「「「「「さんせい!」」」」」」

 意見が固まったようだ。一斉に散らばる。
「ゆ!ゆうかたちはさくやたちのはな―――「うー!うー!ふらんをいじめるなぁ~だどぉ~!!」
 ゆうかたちの結論を遮る大声がこだました。

「…ゆ!?このこえはいったい…だれ?」
「JAOOO?」
 ゆうかたち、めーりんが周囲をキョロキョロと窺う…が、何も見つからない。
「こ、こここ、ここ、このこえは!!!!まさか!!!11!1!」
 さくやは何やら興奮している。

「うー♪そこじゃないどぉ~♪」
 皆、上空を見上げる。そこには、ふっくらとした頬、ちょっぴりババ臭い桃色の帽子、さわやかな空色の髪、こうもりのような漆黒の翼、そして、ふらんと同じような肢体―――ゆっくりれみりゃが羽ばたいていた。
 しかし、ほっぺを赤く膨らませ今にも泣きそうな顔をしている。
「ふらんをいじめるゆうかたちはゆるせないんどぉ!!ぷんぷんだどぉー!!」
 …どうやら、傷ついたふらんを見て怒っているようだ。

「きゃーーーーーーーー、お、おお、おおおおぜうさまあああああーーーーー!!!」
 良く分からないがさくやが歓喜の悲鳴を上げながら鼻血を噴出す。
「れ、れれれ、れみりゃだあああああああああ!!!」
 ゆうかたちはふらんが来たという報告を受けたように慌てふためいた。
「JA、JAO!、JAOO!」
 めーりんは、今にもどこかの世界に飛び立ってしまいそうなさくやと、怯えるゆうかたちを見比べ、オロオロとしている。
「うー!まっててね、ふらん☆いま、たすけるどぉー!!」
 意気揚々と急降下し、倒れているふらんの前に立った。
「うー!さぁ、どこからでもくるがいいどぉー!!れみりゃがぜんりょくでまもるどぉー!!」
 明らかにワンテンポ遅い。空気が一瞬固まった。どうしたもんかと。
 と、状態が回復したのか、ふらんが頭を起こして口を開いた。
「…おねぇさま…たすけにくるの、おそいよ…」
「…うー?」
 ふらんの一言で、れみりゃを除くその場にいたもの全てが笑い出す。
「ゆっゆっゆっ!!」
「JAOOOOOOO!!」
「さすがはおぜうさま、じつにかりすま☆なぼけですわ!!」

「うー?れみりゃはかりしゅま☆なのらー♪」
 何故皆が笑っているのかが良く理解出来ず、戸惑いと疎外を何となく感じていたが、かりすま☆という言葉に気を良くし、一緒に笑う。
 さっきまでの警戒心が、いがみ合いが、まるでどうでもいいように笑いと共に吹っ飛ぶ。
 笑う門には福来るとはよく言ったものだ。 確かに、笑いとは温く、幸せな気持ちにしてくれる。

 突然、思い出したようにれみりゃが後ろを向いた。
「はっ!ふ、ふらん、だいじょうぶぅ!?」
「う~…おねぇさま…ふらんはだいじょうぶだよ。」
 傷はまだ残っているが、ふらんは屈託のない笑みで大事に至らないことを伝える。れみりゃ…いや、めーりんとさくや、ゆうか達全員が胸を撫で下ろした。

「ゆ!さくや、ゆうかたちにゆっくりじじょうをはなしてね!みんな、さくやたちをしんじることにしたよ!」
「そうだよ!さっきはいしなげてごめんねええ!!」
「みんな、むかしほかのゆっくりに、おはなさんをめちゃくちゃにされたことがあるの…」
「それでいまも、まもろうとしてこうげきしたの。ほんとうにごめんなさい。」

 口々に謝罪の意を述べるゆうかたち。
「わかってもらえればうれしいですわ!これでなかなおりです。」
 リーダーゆうかとさくやがその証に頬をすりよせた。いわゆるすりすりだ。この行為は親愛、信頼等を表すと言われている。

 すると、誰からともなく拍手が鳴った。
 始めは迷いが含まれるかすかな音だったが、同調するように、支えるように1人、2人と強くなってゆく。
 そして、この場全員の意志を表す盛大なものへとなった。
 温かい風が優しく包み込む。

 渦中、リーダーゆうかが誰にも聞こえない声で呟いた。
「…ゆっくりも、まだまだすてたもんじゃない…かな?」
 めーりん、さくや、ふらん、れみりゃを見つめながら。



 拍手が鳴り止み、あるゆうかがふとさくやたちに向けた。
「ゆ!そういえば、さくやたちはなにかさがしてる…っていってたね!」
「ゆゆっ!ゆうかたちにできることがあったらなんでもいってね!」
 先程の敵意が嘘のようだ。

「ゆ!そうですわ!実は…」

 さくやはこれまでの経緯を話した。
 めーりんが、友人のプレゼントとして花を贈ろうと決め3匹で“極・六王栄華”をの手掛かりを探し求めていたこと。
 そして、花が大好きで育てる習性があるゆうかに会えば何か知ってるのではないかということ。

「…と、いうしだいでございます。」
 話終えると、ゆうかたちは困った表情を浮かべていた。
「JAOOO?」
 雲行きが怪しくなり、めーりんが不安げにどうしたのかと尋ねる。

 リーダーゆうかが重々しく口を開いた。
「…あなたたちがさがしているはな…たしかにじつざいするわ…でも…」
「でも…?」
 一瞬返答に詰まったが、続けた。 
「…ごく・ろくおうえいがをつむためには、しれんをのりこえなくてはならないの。」
「しれん…ですか…いったいどんな?」

 すると首を横に振った。
「…ごめんね。くわしくはわからないよ…でも、うわさだと2どとゆっくりできないめにあうとか…」
 2度とゆっくりできない。どういう意味かは計りかねるが、ともかくゆっくりにとっては大変なことなのだろう。
 れみりゃががくがくと怯え始めた。

「めーりん…どうします?」
「JAO!?」
 話を振られてめーりんは困り果てた。
 確かに大好きな進のために伝説の花を持ち帰りたい。…しかし、試練が待っているという。これ以上大切な仲間を傷つける訳にはいかない。
「…めーりん、さくやならだいじょうぶですわ。」
「…ふらんも…ついていくよ…3にんで、ちからあわせようね…」
 ふらんがふらつきながらも立とうとする。が、れみりゃがそれを止めた。

「…おねえたま?…」
「うー!だめだどぉ~!ふらんはけがしてるどぉ!」
 れみりゃが心配してくれるのは分かる…それでも、、
「で、でも…さくやとめーりんだけじゃ…」
 すると、れみりゃが自らの胸を叩いた。
「うー♪あんしんするのら!こわいけど…れみりゃがふらんのかわりについていくどぉ~♪」

 なんとこのれみりゃ、ただの通りすがりなのにも関わらずふらんの代わりを申し出た。…なんとまぁ、良くできたゆっくりか。…いや、単なるお人好しなのか…

「ゆうかもついていくわ。なにかのやくにたつとおもうの…れみりゃ、3にんのれる?」

 リーダーゆうかもついて行くことを表明した。

「れみりゃにまっかせるどぉ~♪おおぶねにのったつもりでゆっくりしててねぇ♪」
「うー…ふらんも、けがをなおしてもらってからごうりゅうする!」

「JAOOO…!?」

 めーりんはこのやりとりに驚いた。…かつては誰一人として頼れるものがなかったのに…
「…めーりん、あなたにはこんなにもなかまがいますわ。めーりんはとてもやさしいゆっくりです。…でも、めいわくをかけたくないとおもわないでくださいまし。わたしたちは、なかまのためにぜんりょくをつくしたいだけですわ!」
 その言葉に勇気付けられた。めーりんは思わず感涙を流しそうになる。そうだ、もう一人じゃないんだ。



「ゆうか、どこにとべばいいんだどぉ~?」
「えっとね…ちょうど、たいようのほうがくにあるもりよ。まずはそこにむかって。」

 目的地はまた変わるものの、心強い友が加わった。
 天候は快晴。風向きは追い風。どんな試練が待っていようと固い絆があればきっと…


                                          ~続く~



以上ひもなしでした。以下駄文。
れみりゃ口調は良く分からなかったので、ティガれみりゃの人のものを拝借しました。
ちなみにれみりゃはただの通りすがりのゆっくりです。
ちょっと長くなりそうなので今回は3分割とします。ってしまったお…中半なんて言葉あんのか…?orz
あ、後“ひもなし”という私の名前の由来が気になった人がいたみたいなので。
えっと…その…ひもなしパンツのひもなしです…
ひもなしバンジーの人、惜しかった。実に。

…え?手がないのにどうやって拍手をしたか?…いや…く、口…そう、口でパチパチって言ったんじゃないっすか?

  • 続き読みたい・・・。
    めっちゃ楽しみにしてますんで・・・。 -- 名無しさん (2009-04-16 09:19:18)
  • 続きゆっくり待ってます。どんぱっちゅ再登場希望w -- 名無しさん (2009-09-01 20:18:46)
  • おお、まちわびまちわび -- きめぇ丸 (2013-03-10 01:02:36)
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最終更新:2013年03月10日 01:02