れいむ侍は今日も往く

「…好奇心、それはイカス。この世の理は論を持たず」

「忠義、果たして何ぞや。大儀であろうと、そこに忠誠はあるのか」

二本脇差腰におび 軽い調子で歩を進める
やれ後ろには離れた人里 もう戻れはしない、かつての忠義

「…忠義とは、何ぞや。れいむは、れいむに忠義を打ち立てみせよう!」

一人野を跳ね進むれいむ その足取りは、どこやらへ…



れいむ侍は今日も往く




きっかけはたわいない物であった

「そち。妾は腹が減った。そこのこんびにで雪見大福を買って来ておくれ。あ、あとじゃんぷもお願い。顔のメイクも落としたいなあ、追加でソフティモ買ってきて~」

「…了知つかまつりました」

嫌気がさしたのさ

いつまでも変わらぬ常日常、姫の世話 戦が無いため鍛練も意味がなく、一定の給料では日に日に生活に苦しむばかりでねぇ
ただでさえ嫌気が差しているのに、肝心の殿は女遊びに励むのみ
忠誠もへったくれもあったものかね!

「れいむ、ふと考える! 果たして忠義は永遠なるものか?
忠義、その時は打ち立てても、いずれは変わるものではないか?
…そこに、忠誠は無い!」

見付かってしまえば御用改めになる考えを持つれいむ 次第に仲間内からも嫌われて一歩疎遠になったのさ
それに伴い、現状を疑問にすら持たない他の武士に飽きれるれいむ
ついにれいむは藩から脱け出した!

「何故誰も疑問に思わん! 忠烈申し上げ? そんなもの撤回だ!」

しかし、れいむは根っからの武士であるため、いやいやこれが誠に武士でね
砕けて言やぁ戦の時代の武士さね おつむに知恵が回らない
土地も失い、早速無一文で野に転がり野宿するれいむ
一人の饅頭が現れたのさ

「れいむったら、本当にうつけ者なんだから! なんで思い付きで、先を考えず行動するのかしら。せめて貯金してから謀反なりなんなり起こしなさいよ」

現れたのは姫であった

「いい? 言っておくけど、れいむの生活費が足りなくなるのは決して一定の給料だからではなく無駄遣いするからよ?」

「かたじけない…」

姫に言い寄られ、言葉を失うれいむ侍 おやおや立場が低いねぇ
ふと、脳裏に疑問がよぎる
何故姫はれいむの所へ? 果たして姫は脱け出したのか?
おつむの弱いれいむでも、その疑問には気付いたみたいさね

「いやー、外の空気は良いわねっ! たまにしか外に出られないものだから新鮮でさ。
…うかうかしてると追手が来るわね。れいむ! 先を急ぎましょう!」

姫は何も言わずれいむを引っ張って進んで行くさね
面喰らったれいむはそらあもう堪ったもんじゃ無い、同時になんだか安心したような顔付きも見せて姫に問掛けたのさ
全く、素直じゃないんだから

「…姫!? 一体、何事を申され」

「そんな堅苦しい言葉を使わなくていいわよっ、私も使って無いし! ほら、のろま! 今は夜で国境の砦の警備も厳しいだろうし、砦を通らないで行くわよ!」

「行くとは、何処へ」

れいむの言葉にずるりと力が抜ける姫 怒りつつもれいむに説明する
膨らませてる頬が可愛いねえ

「んもうっ! れいむは今の武士の現状に嫌気が差しているのでしょう? なら、談判を起こせばいいじゃないっ!」

「だん…、ぱん…?」

「そうよ、直談判! 幕府に一言申すのよ、現状の武士はおかしいって!」

「しかし、」

「もうっ! あなたの武士に対する思いはそんなものなの!? 私はね、『急がば回れ』って言葉より『善は急げ』って言葉の方が好きなの! さあっ、行きましょうれいむ! さっさと国境を越えるよっ!」

意外に知識を持った姫に感心しつつ、勢いに圧されるがままついていくれいむ侍 まるで尻に敷かれる夫の様で、みっともないったらありゃしない

「そんな、横暴な」

「妾はそちが好きじゃ! 幼き頃から側に居てくれて、そちが居ない生活なんて想像に出来ん!」

「!」

「…この、喋り方の方がいいんでしょ?」

「…この旅は、れいむの一人旅でございます! 勝手についてくるのは自由ですが、忠誠を誓ったりなぞは致しません!」

「ええ、だから私がれいむに忠義を誓うの。忠烈申し上げるわ、れいむ」

「…、勝手に。れいむはただ己を行くのみです」

おお、粋だねえ 青春だねえ
いくら鈍感なれいむでもおなご一人の仁情には気遣う れいむの頬は夕焼けの様に
よよいと二人 夜を駆けていくってね

「しかし、砦を越えるとはどうやって? 陸路だと全てに砦がありますが…」

「ふふん。リサーチ済みの私に隙は無いわ。ずばり、船に乗り込むの!」

「船?」

「ええ。私達の藩は江戸より南、幸い海に面する所にあるからね。近くの港から船を出して、私達の藩の国境を抜けさえすればあとはこっちのものよ」

「…姫。姫は外出が禁じられているのに、何故その様な知識を?」

「学んだのよ、地図で。全く、れいむ以外の授業は面白くもなんともないんだから!」

「申し訳無い、地図とは…?」

「…れいむは良く武士に成れたわね、いや。れいむの家系は根っからの武士だったわね、失礼」

駆け跳ねつつそっぽを向き笑いを堪える素振りを見せる姫
これにはむっときたかれいむ 胸の内を素直に明かす
いやいやしかし、馬鹿だねえ…

「姫。なんで笑うんですか?」

「いや、だって。あなた、家の人も、親族も皆武士でしょ? なら、武士の世界観しか無いはずじゃない! なのに、れいむはその世界観に疑問を持っている」

「…?」

「うつけね。一つの視界からしか見えないはずなのに、れいむは複数の視界が見えてるってこと。まあ、あまりいいことでは無いけどね」

「…お誉めに預かり、光栄でつかいまつる」

「あら。私の口ぶりから、なんで誉め言葉だと思ったの?」

「お誉め頂けるものと、確信しております故」

「…調子いいこと言っちゃって。れいむがずっと武士で落ちこぼれずに済んだ理由は、その直感にあるのかもね。
まあ、今のは理由の1割。9割はほんっと、エスカレーター式に上がって来たわよね、れいむ! 武士なのにそんなうつけだなんて、学勉教えて貰わなかったの?」

「…」

やはりむっと来たれいむは姫に言葉も返さずただ黙々と跳ねて行く
嫉妬とはみっともないさね もっと強く生きなれいむ!
その様子もおかしいのかケラケラ笑いながられいむの後を追い掛ける姫
やがて二人は港についた 夜の海のせせらぎが二人を包む
薄暗い海のみが二人の世界さね

「…潮臭いわね、ムードもへちまもありゃしないわ。さっ、早いところ出発しましょうれいむ!」

「は、はあ。しかし、姫の知人というか、用意した船とやらは何処に」

おやおや、二人にはお気に召さなかったようでして
まあ、あっしもこの臭さには堪りかねますさね
…ほう、もう終盤か
ぼちぼちあっしも真面目に仕事しますかね

「んー? …はっはーん。さては、勘違いしているわねれいむ。用意なんかしてないわよ」

「…と、申されますと?」

「分かってる癖にぃ♪ 盗むのよっ!」

少し歩いた先にはぷらぷらと停留所の紐に結われている船が
乗り出す姫 しぶしぶながらにれいむも乗る
乗った事を確認し、満足に頬を綻ばせる姫
れいむは脇差を器用に口に加え とめるための紐を断ち切り船は静かに沖に動き始める

「さあっ、出港よ! かいを持って、れいむ! 遠慮しないで船を漕いでいいのよ?」

「…姫。ご自分で漕がれる気、ありませんね」

「もちろん!」

「…はあ。忠義に異議を企てるれいむに、その様なものを期待したのが間違いでした。そんな美味しい話は無いですもんね、お供しますよっ」

かいを口に加え、ぎーこぎーこと少しずつ前に進んで行く小さな船
船の行く当ても分からぬまま ただ二人は波に揺られてどこまでも…

今日も今日とてれいむ侍 風に吹かれて何処に行く、…ってね

「…そういえば、何故幕府に申すのか、いまいちピンと来ないのですが」

「単純よ。今の忠誠忠義が、幕府によって決められた偽りのものだからよ。謀反を起こさせないための政策なんでしょう、だからこそ談判を起こすのよ」

「…知らな、かった」

「…まあ、下町では有名だけど、武士だからこそ届かない情報だもん。…そうだ。れいむ、最近よく無駄遣い、買っている浮世絵あるじゃない?」

「はっ。まっこと庶民の心に触れているというか、独特のわびさびしさ、何よりも世界で一枚しか無いという一期一会の趣きがなんとも…。
…決して無駄遣いではありませぬ! 今ここで買わないとその作品に二度と会えぬが故仕方なく…!」

「あれ、印刷って技術で何枚でも複製出来るの。ありふれてるわ」

「…へっへっへ。…え?」

「どこの悪人よ、何も始まらないわ。いつしか、一気に10枚くらい買ってきた事があったよね。嬉々に私に告げるれいむに、言おうと思ったんだけど。…気の毒でね。
今は、持って来て無いんだろう? だからね」

「…いや、それはいただけません! 今時流行りのえいぷりるふーるという奴でしょう、騙されませんぞ! 撤回を要求します!
店主が、世界で一枚だけだと…!」

「じゃあ、店主に嘘を付かれたのでしょう。れいむの真っ直ぐな性格を見抜いてね」

「…知らな、かった」

「…」

さっぱり行動力だけのれいむと、世界情景に詳しい姫
姫がぐいぐい引っ張りゃあ悩みも無いってもんなんだが 生憎一枚目はれいむでねえ
大丈夫かねえ、不安だねぇ…






北へ北へと てくてく、てくてく れいむ侍とお姫様

疲れの色は見えて来たけれど 二人一緒なら苦では無い

十里の道もなんのその 諸行無常の旅は続く

「れいむ、もう足が棒でござる…」

「もうっ、れいむにそもそも足だなんて高尚なもの付いて無いじゃない! 峠まで登れば間食屋があるだろうし、そこまで歩く歩く! …ほら、見えた!」

『都、江戸よっ!』

…二人は都にまで辿り着いたみたいですぜ



れいむ侍は今日も往く


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最終更新:2009年05月08日 23:01