4月兎はウサと鳴かない

いちお、作者当て

その日、迷いの竹林を抜けだしたゆっくりが、幻想郷から異界を目指していた。

神社は通過点にすぎない。異変により陥没した穴、その向こうが目的地だ。
白い耳、黒い縮れ毛。狙うは一攫千金!




     ●◇∮▲ 4月兎はウサと鳴かない ○♪■▽




ゆっくりとは、正直な生物である。




嘘をつくことはあるのだ。
しかし、開始3秒でバレてしまう。
"う、うそなんかついてないんだぜ! ほんとうだぜ!"
嘘と分かる嘘は嘘ではない。
いや、嘘と分からなければ、それは嘘ではない、か?
いずれにしても根が牧歌的なゆっくりは、嘘によって何かを隠蔽することが非常に下手なのである。
嘘の上手いゆっくりは、それだけで特殊な技能の持ち主といっても良いだろう。

ひとりのゆっくりが、自らの城を眺望している。
――今まで幾人もの嘘つきが、彼女に相対してきた。
そして悉くがその嘘の裏を掻かれ、みな彼女の前にひれふした。
それは特殊な技能であるがゆえに、そこを突き崩されると脆いのだ。
いったんペースを乱してしまえば、手綱を握るのは簡単だ。
そうして全てを術中にはめていく――。
彼女の前にとって、嘘は好機でしかなかった。


  ◇  ★  ◇  ▲  ◇


魑魅魍魎沸きかえり、悪鬼霊童おわします地洞の底。
ゆっくりカジノのあるという。
ゆっくりは暢気なわりにのぼせ型で、ギャンブルに結構のめりこみやすい。
スロット。ルーレット。BJ。群がるゆっくり達。
かくして地底の賭博場は、それなりに繁盛していた。

その一角――
緑色の卓上で、ゆっくりぱるすぃはほくそえんだ。
「おお、ねたましい、ねたましい……」
ぱるすぃは手札から相手へと視線を送る。
ポーカー卓の向かいでは白耳のゆっくりが、やはり自分の手札を眺めている。
“今度は”自信がある――そういった顔をしていた。
大方スリーカード、それもQやKといった所だろうか。
今までのゲームでワンペアやツーペアでも振り込んでいたのだ。
結果、小さな負けが嵩み、大枚の勝負に出てきたのである。
だが。
(自分の強運が妬ましい……!)
受けて立つぱるすぃは、自分の手札に目を戻す。
クラブ一色――フラッシュである。
相手に哀れみすら覚えた。
「ゆっくりしょーぶするウサ!」
ああ、なんて、けなげ。
ベットは上限一杯。
掛け声に逸り、ぱるすぃは勢いよくカードをオープンした。
「このぱるすぃにしょうぶする、そのこんじょうがあさましく、そして、ねたましい……!」
フラッシュを相手の面前に叩きつける。どうだ!
竹林の古兎の名を呼ばれたゆっくりは、悲しそうな顔をしてカードをオープンする。

クラブの3。

ハートの3。

スペードの3。

ハートの7。

ダイヤの7。

――フルハウス。


「ね、ねたましいわ、ゆっくりてゐ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!」


  ◇  ■  ◇  ●  ◇



「ほう……」
カジノのオーナーは、その卓に視線をとめた。
今やそいつ――ゆっくりてゐと言ったか――の卓は、チップもギャラリーも山のようになっている。
きすめ。やまめ。ぱるすぃ。おりん。名うてのゆっくりディーラー達が手も足も出なかった。
今はゆうぎが相手してるが――
「ゆふふ、さすがはゆっくりてゐだね、いざじんじょうにしょうぶしたけっかがかんぱいだよ!」
「ゆふぅ、ゆっくりゆうぎ……なかなかのきょうてきだったウサ!」
酒をこぼさずに戦うというよくわからない制限はあったものの、こうも退けてしまうとは。
その勝負を見届けると、オーナーは身を翻した。
ここまで額が大きくなると、もはや誰も手足が出せまい。

「そろそろ、わたしのでばんのようですね……!」


  ◇  ▼  ◇  ◆  ◇


ポーカーは弱いカードでも勝負をすることの出来るゲームである。

10回中1回しか強札が回らずとも、9回強札が巡る相手に勝つことだって出来る。

勝負所を見失わなければよい。

9回は勝負への道筋を作るための布石、お膳立てなのである。

状況を見極める洞察力。仕掛けるための技術。それを是とするための勘。

賭け事に強いというのは、とどのつまりはそういうことなのだ。

勝っている様に嘘をつく。

負けているように嘘をつく。


それは“不完全情報”のゲームであるがゆえの特性である。






――だがカジノのオーナーであるゆっくりさとりにとってポーカーは完全情報のゲームなのであった。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


いすに踏ん反り返って、金を勘定するしぐさを見せる。
「もうかったウサ、もうかったウサ。もっとつよいやつはいないウサ~?」
ここまで目立つと、始めのようなカモへの擬態は使えないので、挑発体勢に変わっている。
そして――ゆうぎを倒してから暫くしたとき。
人ごみが割れた。
ギャラリーがざわめきはじめる。

「……オーナーだ……」
「……オーナーがきたよ……」         ざわ・・
「……すうじゅうねんぶりじゃないか……」
「……あいつがでてくるってことは……」           ざわ・・
「……てゐをほんきでつぶすきだ……」

それらが現れた紫髪の可憐なゆっくりに対してのものだと、すぐに分かった。
さとりは席の前にくると、対面に座る、今や富豪となったゆっくりに対して話し掛ける。
その顔は無表情で、いまいち何を考えているのか分からなかった。
いわゆるポーカーフェイスである。
「……ここ、いいかしら?」
「どうぞウサ。ゆっくりしょーぶするウサ!」
妖しく微笑んだ。


  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


カードが配られる。
初手はスリーカードだったが、交換するとフルハウスになった。
手札を見ながら、さとりは能力を使う。
――すなわち、“ゆっくりの心を読む程度の能力”!
これを駆使し、並み居る強者を打ち負かしてきた。
基本的に反則な能力である。
要は、それ程相手も強敵ということなのだ。


――心は、聞こえなかった。


「なん……だと……?」
さとりは驚いて相手を見る。
2枚交換したところらしく、なにやら暢気そうな顔をしているが――
こちらの能力が知られている――?
ありえないことではない。オリジナル妖怪を辿れば想像は付く。
だが心を読む事が分かったといって、心を無にすることは並大抵のことではない。
むしろ虚無に腐心するあまり、余計なことを考えてしまうもので、
とくにゆっくりなら思考の9割が「ゆっくりしていってね」で埋まっているはずなのだ。
その「ゆっくりしていってね」すら聞き取れぬということは――
自分の思考に、嘘をつくことが出来るのか!
地上の竹林に住む因幡てゐは、嘘の固まりのような存在だと聞く。
それを模したゆっくりてゐの能力ならば、或いは――

だがまぁ、手札は良いのだ。
このまま勝負をしかけてもよいだろう。
そうしてさとりは内心の動揺を隠すように、相手のベットに付き合ってやった。




――そしてそれこそが相手の狙いだということに気づく頃には時遅く――




さとりのフルハウスの手札を公開する。
対して、相手の手札は――



ジョーカー。



ハートの7。



ハートのQ。



スペードのQ。



ダイヤのQ。



――フォー・オブ・ア・カインド。それは“妹の技”。



「そうか、これは、わたしをおびきよせるためのわな……!」



さとりはそのポーカーフェイスを崩す。



全てを“さとった”。



そうして、ペースを、握られた――。



  ¥  ●  △  ◆  $


数日後。

                            、、、
カジノ『地霊殿』のオーナーになったゆっくりこいしが、

髪を染め直すついでに永遠亭へ、うどんげに耳を返しにいったとかいかなかったとか。


 --fin.

==
暴露します。
地霊殿で地下賭博っていうネタがやりたかっただけなんです。

※作者は
むの人
でした。

  • なるほどなー、一杯食わされました
    嘘をつけないゆっくりてば可愛いよね -- 名無しさん (2009-04-02 19:51:21)
  • なるほど、確かにウサとは鳴きませんね
    乙でした -- 名無しさん (2009-04-03 07:48:05)
  • タイトルが伏線だったのか。気付かんかった。 -- 名無しさん (2009-04-03 23:27:20)
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最終更新:2009年04月03日 23:27