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温泉界へご招待 ~武士の一分~

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mintsuku

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温泉界へご招待 ~武士の一分~


忍者軍団の巨大なアジトを上空から見下ろし、それを時計に見立てて3時方向、つまり東側中心部の、おそらくは厨房の勝手口であろう。
その木製の扉を開いてアジト内部に侵入したのは、アリーヤ・シュトラッサーであった。彼女の愛剣、鬼焔は鞘こそ抜かれてはいないものの
いつ敵に遭遇してもいいようにその左手にしっかりと握られていた。厨房の中は鍋や釜、包丁などといった料理道具が所狭しと並んでいて、
尋常ではないその量、さらに厨房の広さはというとアリーヤの見立てでは50畳はあろうかという巨大なものだった。
だが、不思議なことにこれほど広い空間にアリーヤを除いて人影が一人も見当たらないのである。傍らの調理台に目を向ければ
まな板の上には今まさにさばかれようとしている魚が包丁とともに横たわっていた。そのほかにも火にかけられたまま沸騰した鍋。
今まさに炊こうとされていた米など、ほんの数分前までここで大勢の料理人が忍者たちの食事を作るために勤しんでいたことを匂わせるものばかりであった。
しかし、誰の姿も見当たらない。アリーヤは精神を集中させ周囲の気配を探った。が、やはり人の気配はしない。
何か釈然としないものを感じながらも厨房になど用はない彼女はアジトの奥へと続く扉を探し始めた。3分ほど探し回っただろうか。
入ってきた扉とは違う鉄製の扉を発見する。今頃他の7人はどうしているだろうか。そんなことをふと考えつつアリーヤはそのドアの取っ手に手をかけて
扉を開き、次の部屋へと足を踏み入れたその刹那だった。突然、黒装束の忍者10人に切りかかられるのであった。
咄嗟に反応し、前転でそれを回避し起き上がりざまに鬼焔を抜いた。なぜだ、自分たちは奇襲を仕掛けたはずだ。先ほど正面玄関の前を通り過ぎた時も
警備の忍者たちはクラウスに完全に気を取られていて私たちに気付いている様子はまるでなかった。それなのになぜ逆に私が奇襲を受けているのだ?
もちろんその自問自答の答えはある。実はアリーヤよりも一足早く潜入したアスナが敵を取り逃がすというミスを犯し、その逃がした忍者がアジト中に
非常事態を知らせたのだ。その結果、あらゆる潜入経路の初期段階にこのように厚い警備を配置するに至ったのである。
厨房の料理人を全て撤退させたのもこの厨房から人を完全に取り除くことでこの扉から出てくる人間が敵であることを確定させるためだったのだ。
そして、出てきたところに奇襲を仕掛けて一気に仕留めてしまおうという算段であった。しかしアリーヤに回避され、さらに武器を構えられたとあっては
その目論見は失敗に終わったと言わざるを得ない。だが、忍者たちはそれも想定していた。万が一奇襲が失敗に終わった時は、大人数を持って制圧する
作戦に移すことを決めていたのだ。その瞬間、厨房へと続く扉を背にして正面、右手、左手のふすまが開きさらに15人の忍者が現れた。
これで合計25人。圧倒的な人数差である。25人もの忍者に囲まれ、彼女にはもう勝ち目はないかと思われた。しかし、アリーヤの瞳は決して怯えてなどおらず
むしろ闘志をギラギラと滾らせた戦士の瞳であった。そして極めて冷徹な表情と声を持って忍者たちに言い放つのであった。

「…愚かな。数をもってすればどうとでもなるというその甘い考え、今すぐ私が完膚無きまでに打ち砕いてやろう!」

忍者に宣告を終えると同時に彼女は忍者25人へと切りかかってゆく。忍者たちもすかさずその大人数を持って応戦にあたるが
個人の実力が違いすぎた。忍者たちがどう彼女に切りかかってもアリーヤは鬼焔でそれを受け止め、そして鍔迫り合いにもちこむ間も与えずに切り捨てる。
たが、15人を切り捨てた時、ついに忍者の一太刀を右の二の腕に浴びてしまう。その痛みに一瞬だけ顔を歪めるがすぐに気を持ち直し、
忍者たちと剣を交えてゆく。忍者が上段から剣を振りおろせばアリーヤは横薙ぎにその身体を一閃して一撃のもとに切り捨てる。
正眼、下段、八相から横薙ぎ、あるいは突きを繰り出してくる忍者に対しては鬼焔でそれを弾き、すぐさま切り捨てる。
アリーヤはとにもかくにも忍者たちに時間を与えぬように戦うことを心がけていた。時間を与えればその隙に複数で切りかかられてしまう。
そうなれば対応できずに傷を負ってしまう。これから長い戦いが待ち受けているというのにこんなところでダメージを受けるわけにはいかなかった。
すでにアリーヤの顔は忍者たちの返り血によって真っ赤になっていて、視界も悪くなっているはずだった。
しかし、彼女の動きは少しも鈍ることはなかった。というのも、このような事態を想定してケビンはアリーヤの顔に泥水を塗って剣の修業を行わせたのだ。
その修業の甲斐あり、悪い視界でも忍者たちと戦うことができるのだ。そして、この修羅場が始まってからおよそ5分。
ついに忍者25人は彼女の剣の前にくず折れた。これが他の7人から「現代に蘇ったサムライ」と例えられたアリーヤの実力であった。
そして、彼女は血塗られた鬼焔を懐から取り出した紙でふき取り、鞘に納めようとした。
しかし、どうしたというのだろうか。身体がうまく動かない。震える腕でようやく鬼焔を鞘へとしまうと、忍者たちの血で埋め尽くされた床にしゃがみこんでしまう。

「く…一体どうしたというのだ…体が思うように動かない…」
「うフフフフフ…痺れ薬が効いてきたみたいね…」

と、不愉快な笑いとともに現れたのは青い忍装束に身を纏った少女だった。気味の悪い笑みを浮かべ、その両手には2寸ほど(およそ60cm)の
小太刀が握られていた。アリーヤの前に立つと気味の悪い笑みを浮かべたまま彼女を見降ろした。アリーヤは不自由な体でその少女を見上げて言った。

「痺れ薬だと…卑怯な真似を…貴様、何者だ…」
「うフフフフフフ、もうすぐ死んじゃうあなたには関係のないことだけど冥土のお土産に教えてあげる。私は桜。忍十六人衆のうちの一人」

桜と名乗ったくノ一が語る忍十六人衆とは、忍者の中でも特に優れた力量を持つ16人を長老が見極めたものであり、その証として青い忍装束を身に纏っている。
ただしその選考の基準は完全に実力のみであり、性格などは一切考慮されていない。故に今アリーヤの眼前に立つ桜のように卑怯な手を使う者も
存在するという訳である。彼女は先ほどの忍者25人の刀全てに強力な痺れ薬を塗っていたのだ。忍者がアリーヤを倒せばそれでよし。
倒せずとも一太刀でも浴びせられれば痺れ薬が効いてきたときに自分が直接手を下せばいいだけ、という算段であった。

「うん。じゃあ今からあなたを殺すけど、ただ殺すんじゃつまらないからじっくりと痛めつけてから殺してあげるわ。うフフフフフフフフフ」

そして桜はアリーヤの顔面に思いっきり回し蹴りを叩き込む。アリーヤはしゃがんでしまっているので最も当てやすく遠心力も得やすいミドルキックが
彼女の左の頬に直撃し、その衝撃で大きく右に弾かれてしまう。不自由な体をなんとか動かそうとするアリーヤを嘲笑するかのごとく、
桜はアリーヤの胸を踏みつける。そして、ギリギリと動かして彼女の胸を蹂躙する。

「あらぁ…胸がないのねあなた。これは貧乳なんてもんじゃないわ。ペッタンコ。知ってる?女にとって一番のコンプレックスは胸がないことだって」
「それがどうした…それは世間の認識だろう。私は自分の身体が女性として貧弱だとしてもそれに対して劣等感を抱いてなどいない」
「ふーん…気丈なのねあなた。でもね、私はそういう人をいたぶって命乞いさせるのがだーい好きなの」

桜はそう言い放つと横たわるアリーヤの腹部を何度も蹴りつけた。蹴られるたびに彼女は苦痛にうめいたが、決して命乞いなどすることはなかった。
それに業を煮やした桜は腰に装着した鞘から2対の小太刀を引き抜き、それを左手で握りながらアリーヤの髪を掴んで頭を起こし、
もう片方の小太刀を彼女の首筋に押しあてて、言った。

「なんで命乞いしないのよ!でもこれならそうするしかないでしょ?これを私が勢いよく引けばあなたの頸動脈が切断されて大出血だもの。
 誰だって死ぬのは怖いものね。さあ、それが嫌なら命乞いなさいよ。そうすれば助けてあげることを考えてあげなくもないわよ」
「…断る。私が命乞いしたところで貴様は嘲笑して私の命を奪うだろう。ならば私は最期まで誇りを捨てずに散るまでだ。
いかなる敵にもいかなる脅威にも決して私は屈しない!それが私の武士の一分だ!」

アリーヤの言うとおり、桜は彼女が命乞いしたところで笑い飛ばしてそのまま殺すつもりだった。だがアリーヤはそれを完璧に見抜き、
この期に及んでも自らの誇りを捨てることはなかった。今まで出会うことのなかった人種に桜は動揺するが、それを落ち着かせて彼女に言った。

「ふん…ならいいわ。つまらないわね、あなた。じゃあこれで殺すけど、最期の言葉を聞きましょうか」
「ああ…貴様の負けだ!」

と言い放ち、アリーヤは鞘に納められたままの鬼焔で桜のみぞおちを思いきり突く。実は今回用いられた痺れ薬は
桜がじめじめした倉庫に蓋を開けたまま放置するという劣悪な環境で保管していたために本来の効力を失い、通常なら解毒剤を必要とされるはずが10分ほどで効力が切れるまでに劣化してしまっていたのだ。
そんなこととはつゆ知らず、桜はその劣化した痺れ薬を25人の忍者の刀に塗ったのである。
そしてその10分は桜がアリーヤを痛めつけている時に、とうに過ぎてしまっていた。桜がアリーヤの腹部を何度も蹴っているうちにもう痺れ薬の効果は切れていた。
しかし彼女は桜を欺くためにあえて動けないふりをし、反撃のチャンスを窺っていたのだ。そして桜の両手が塞がり、
無防備になったところを最大の好機と見たアリーヤは鬼焔を抜くことなく鞘に納めたまま反撃に転じたのである。
鞘を抜かなかったのは、抜けば動けるのを見透かされてそのまま頸を切られてしまうからである。だからこそアリーヤは桜が彼女の命を奪うことに
集中しているこの隙を見計らい、桜のみぞおちめがけて攻撃を仕掛けたのだ。鞘に納められた刀に殺傷能力はもちろんないが、
このように鈍器として使うことは十分に可能であり、それを失念しアリーヤの手から鬼焔を引き離さなかった桜の油断であった。
しかし、桜もその装束の下に防具を身につけているのだろう。みぞおちを直撃されたはずなのにわずかに苦しげな表情を浮かべて後ろへ飛び退くのだった。
そして、2対の小太刀を両手とも小指側から刃の部分が出るように握り、両腕を交差させるように構える。

「なんで動けるのよ。あの痺れ薬は解毒剤が必要なはずなのに…」
「さあ?大方貴様が劣悪な環境にでも置いていたせいで劣化していたのだろうな。さて、今まで痛めつけてくれた礼は存分にしてやらねばな」
「ふん、私も十六人衆よ。手負いのあなたに負けるほどやわじゃないわ」
「さて、それはどうかな」

アリーヤがいい終えると同時に鬼焔を鞘から引き抜き、桜に切りかかる。桜もすかさず2対の小太刀で応戦するが、やはり実力には歴然とした差があった。
それに加えてアリーヤから発せられるものすごい殺気に桜は委縮し、防戦一方となっていた。キン、キンと刀と刀がぶつかり合う音が絶えず鳴り響いていた。
アリーヤが上から切りかかれば桜は2対の小太刀を平行に構えてそれを受け止め、横薙ぎの一閃には片方の手の握りを変えて縦に平行に
構えて防ぎ、下から薙ぎ払う一撃には体の前で横に平行に構えることで防ぐのであった。
しかし、このままこの状況が続けば不利なのはアリーヤのほうであった。先ほどの桜からの攻撃はアリーヤの体力を確実に奪っていたからだ。
このまま切り合いが続き、なおも体力が消耗されるとなればいずれ隙が生まれその隙を突かれてしまうだろう。
ならば、とアリーヤは一度桜と間合いを取り、鬼焔を鞘に納めた。桜に取ってそれはまたとない好機だったはずだが、罠かもしれないと警戒し、
アリーヤに切りかかろうとはしなかった。そして、それが命取りとなった。アリーヤは一度鬼焔が納められた鞘を腰の左側あたりに装着された金具に取り付けた。
そして、両手を鞘に納められた鬼焔の柄にかぶせる。それを見て桜が首をかしげる。それもそのはず、通常抜刀というのは片手で、この場合鬼焔は
左の腰に納められているので右手で行うものだが、今のアリーヤは左手を下から、右手を上から被せるように柄にかけている。

「ねえ、それで本当に私を斬るつもりなの?」
「ああ、だが安心するがいい。苦痛も与えずに貴様を昇天させてやろう」
「やれるものならやってみなさいよ!」

と咆哮し、桜はアリーヤに切りかかった。その刹那、アリーヤの両手も動いた。キャン!と三味線の弦を思い切り弾いたような音が一瞬鳴り響き
次の瞬間、桜は絶命していた。しかもその身体からは一滴も血が流れておらず、また彼女の命を奪ったはずの鬼焔も青く光るだけで一滴の血も付着してはいなかった。
―無間(むげん)流。アリーヤがケビンの修業の果てに21歳、つまり4年前に身に付けた、否、身につけてしまった大昔に伝わっていた古流剣術である。
その抜刀は目にもとまらぬどころではなく、さながら光の速さのようだと伝えられている。ただ、無間流は誰にも身につけられるものではなく
生まれ持った特別な才能が必要で、時代の流れとともに消えていったのだが、アリーヤが身につけたことにより再び歴史に顕現することとなった。
無間流の抜刀は神の速さ。そのあまりの速さゆえ、斬られた対象はそれに気づかない。斬っても斬らずとも結果が変わらない。故に
「抜かずの無間流」とも呼ばれるが、ほんの少し遅くするだけでその刃はたちどころに相手の命を奪う。
そのあまりに危険な剣技ゆえ、アリーヤはここぞというところでしか無間流を使わない。そして、見開かれたままの桜の瞼を優しく閉じてやる。
しかし、これまでの戦闘の疲労がここにきて一気に襲いかかってきた。強烈な倦怠感に苛まれながらアリーヤは壁際に移動し、それに寄りかかるようにして
座り込んでしまう。さらに、先ほど斬られた二の腕も痛みが増し、苦痛に顔を歪めながら傷口を左手で押さえる。
だが、アリーヤにまだ休息は許されなかった。このタイミングを見計らっていたかの如く、5人の忍者がアリーヤの眼前に現れた。
彼らは果たして彼女にとっても見知った顔であった。一番最初に襲撃してきたあの忍者たちであった。そのリーダーはあの赤装束。そう、暁である。

「ふふふふふ、随分お疲れのようだな。さて、あの時の借りをじっくりと返させてもらおうか」

下卑た笑いと下卑た声で暁はアリーヤを見下すように言い、部下の黒い忍装束を纏う忍者に何やら指示を出している。
そして、その指示を受けた黒装束の忍者も暁同様下卑た笑いを浮かべるのだった。ここで再び暁が口を開く。

「貴様の首を長老に持って帰れば大手柄だ。疲れ果てた貴様を打ち取ることなど造作もないことだしな。だがその前に、その身体を味あわせてもらおうか…」
「くっ…下衆が…!」

暁たちはアリーヤを殺す前に彼女を強姦しようというのだ。しかも、疲労困憊の状態であるアリーヤには抵抗するすべはないに等しかった。
そして、ついに暁らが彼女を犯そうと襲いかかろうとしたその時だった。シャーシャーと、蛇の鳴き声のような音が彼女の耳へと入ってきた。
その刹那、暁たち5人は力が抜けたようにその場にかがみこんでしまう。屈みこんだ忍者の背後から現れた人物は…そう、シュヴァルツ・ゾンダークその人だった。

「全く、動けない女性を襲うなどとあなたがたはつくづく卑劣な方々ですね…あなたたちは私を怒らせてしまいました。非常に遺憾ですが
 あなたたちをこの世界から消去させていただきます。悪く思わないでください」

と言ってシュヴァルツは両手の人差し指で両方の耳の穴を軽くほじる。それと同時にアリーヤは耳を塞いだ。そして、シュヴァルツは歌い出す。

ムエレート ヤ ムエレート ヤ マルディセート ウノポール ウノアラムエルテ
セアイサ エル クエルポパラドーラ デル エクストレーモ ヤ デーペデジャーデ レスピラル
ミェンタラス レトルシェンドス エンアゴーニア セアイサエルクエルポ ヤ エスタルクエミャード
アヴージョ エルエルマ エンテラポルラララマ テル インフィエルノ タンヴィエン デモスラ エクスティンシオン
トーダラムエルテ エントードス デンベスエストラムシェンテ エン ディスペラシオン
テポーネス ネロヴィオッソ ヤパーラエスペラル ポーロアン パッソデ エスカロネス オルフィン
オーケー トゥ ヴィーダエス ア エスト ムエルテ ミェンタラス スフィルエンド オルスーモ アディオス 

それは酷く物哀しげな、そうたとえるならばベートーヴェンのピアノソナタ「月光」のような悲哀を秘めた曲だった。
さて、なぜシュヴァルツはこの局面で歌など歌ったのだろうか。その答えは、今のアリーヤとシュヴァルツの眼前に広がる光景が物語っていた。
暁たち5人の忍者は…息絶えていた。その死に顔は耐えがたい苦痛に歪んでいた。アリーヤもシュヴァルツも彼らに一切手を出してはいない。
ではなぜ彼らは死んでいるのか。そう、先ほどシュヴァルツが歌った曲は、呪われていてその曲を聴くだけで耐えがたい苦痛に襲われ、
最後まで聞いてしまうと…死ぬのである。先ほどの歌詞を訳すと、このようになる。

死ね、死ね、一人ずつ呪い殺してやる、耐え難い苦痛にもがき苦しみ、地に這いつくばりながら死んでいけ。
地獄の炎にその身を焼かれ、永遠の苦痛の中をさまようがいい。
終焉への階段を一段ずつ登り、その頂に待ち受ける絶望に打ちひしがれるがいい。
さあ、お前たちの命はこれまでだ。せいぜい苦しみながら死んでゆけ。さようなら。

「…助かったがあまり気持ちのいいものではないな…だが礼を言わせてくれ」
「いえいえ、礼には及びません。むしろアリーヤさんは私のことが嫌いだとばかり思っていたものですから、お礼を言われたことについては正直驚いています」
「別に嫌ってなどいない。むしろ私は仲間として貴様たち7人を強く信頼しているし、人間として好意も抱いている」
「そう言っていただけると助かります」

そして笑い合うアリーヤとシュヴァルツ。しかし、アリーヤには一つ解せないことがあった。あの曲を最後まで聴いたものは死ぬ、
さらに聴くだけでも想像もつかない苦痛に襲われる。ならばなぜシュヴァルツは平気なのだろうか。自分で歌っているのなら当然自分の耳にも入るだろうに…
そんな彼女の疑問に答えるかのごとくシュヴァルツは首を右と左に傾けて耳を軽くたたいて取りだしたものを掌に乗せてアリーヤに見せる。
シュヴァルツが取りだしたもの…それは、大きさおよそ5mmほどの超小型スピーカーだった。これとワイヤレス接続が可能な携帯音楽プレーヤー
をシュヴァルツは常に持っているのだ。
先ほど彼が耳を軽くほじったのはアリーヤにこれから「滅びの歌」を歌うという合図であり
自分自身がこの歌の呪いによって死なないために超小型スピーカーを装着するというふたつの目的があったのである。
そして、シュヴァルツは忍者たち31人分の亡骸が横たわるこの部屋を一望し、ふぅ、と鼻でため息をついてアリーヤに言った。

「よく頑張りましたね。あなたの寝ずの番は私が努めますから安心して休んでください」
「ああ…その言葉に甘えさせてもらおうか」

そしてアリーヤはしばしの眠りに就くのであった。これからも待ち受けているであろう強敵との死闘を演じる覚悟を胸に秘めて。


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