「というわけで、場所をつくってみましたが、まあ、第一シーズンがずっと続いてしまうのもあれなので、軽くまとめと展望などと、無謀なことをしてみるというのでどうでしょうか。第一印象として強いのは、言語に対する考え方の違いよりは、”美”に対する違いだったという意外な結果になったなあ、と。アプローチの方向は全く違えど、とりあえず、全貌とかいうものの前に立ち尽くすのではなく、小さく当ててコツコツ稼ぐみたいな心性は意外と似ていた」

「そうですね。僕も当初はもうちょっと『架空vs普遍!』みたいなことになるかと予想してたんですが。ただ、おっしゃるとおり、同じ山を登るのでもルートが全く違うというか正反対ぽい印象はあります。”美”の問題は非常に大きなヤマに今後なっていきそうで楽しみです。
ちなみに直前のメール文体での円城さんの返信(を今読み込んでる最中なのですが)、これを見ると、もうひとつ新城×円城の大きなポイントというのは『物語(もの騙り)か、それとも記述か』なのかも、と想像したり。実際、おそらくは意図してのことかと思うんですが、〈記述〉というタームが繰り返されてますよね。まるでフーガみたいに。はたして円城さんにとって〈記述〉とは!? 焦点は美の記述なのか、はたまた記述の美なのか? ちょっと直前の返信と内容カブるかもしれないですけど、このへんどうなんでしょ」

「美に駆動される複数のものを、調停しながら拡張していこうとする新城さんの立場と、ひきこもりつつ整合性なり安定性なりを保とうとし、美はまあわからん、とするわたしの立場と、ベクトルはまあ逆なわけです。自身の感じる美から何かを生み出そうとするか、美というものがどこかにあり、そこに接続できるかどうかを試す立場というか性質の違いと言っても良いかも知れません。
 で、わたしの方からは、その美って架空なので自分にはアクセスできない、ということはできて、新城さんの側からだと、その美って普遍なのかも知れないけど誰もアクセスできないよね、ということが多分できる。
 物騙る、ということについてですが、わたし自身は、割と目の前にあるほんとのことしか書いていないという実感がありまして、ここは笑われるところなんですが、ほんの微妙なところで、何故笑われるかわからないところがある。だから実は、創作しているという意識は大変低いわけです。写実派と呼んで欲しい(笑)。ほんとのことを記述しているだけ、と。ですので、〈記述〉と繰り返すというよりは、その単語しか出てこないというのが正直なところです。小説の中でなるべく使わないようにしている単語がありまして〈メタ〉、〈世界〉、〈物語〉なのですが、単純にそんなものは、ない、んじゃないかと思っていたりします。
 だから何でしょうね、新城さんには、物騙られているものって何か、と伺ってみたいところです。架空って何だったっけ、というところまで戻ってしまいますが。わたしの場合、架空というと、普遍の一面、と見えてしまうところがある」

「(手元のプリントアウトをしまいながら)や、すみません、すっかり時間が経ってしまいまして。こないだ円城さんと長尾館長が対談してらしたのをツイッター&ブログ経由で先ほど読み終えまして。えーと……あそうそう、物語/記述の話。あるいは架空⊂普遍の話。

メタが、使われすぎて摩耗しとるなぁという意味では、新城もあまり使わぬよう心がけてる単語ですが、厳密さを必要としない日常会話では、まま使いますが、まあそれはそれとして。
〈世界〉と〈物語〉は、仕事柄使用せざるをえないので^^;そのへんの視点から今の話を受けるとすると……以前にお会いした時や過日の往復書簡フェーズでも印象深く感じたのは、円城さんは存在というか実在(先ほどの表現では「目の前にあるほんとのこと」)が前提になって思考しているのかな、と。
相当な精密さで万人が理解できるもの、いつ/どこ/どのような条件下でもわりかし不変なもの、あるいはマクタガート的(なのかな?それともヘーゲリアン全般にまで拡張できるのかな:すいません不勉強で……)に「矛盾してないもの」と定義しちゃってもいいんですが。そういう視点から、これは「存在」している、あれは「存在」していない、「存在」してるものは記述できるので扱えるが、そうでないものはわからんのでパス(例えば先ほどの"美"とか)みたいな。
というのは……新城は、〈物語〉にせよ〈世界〉にせよ「存在」しないけど/からこそ面白い、多かれ少なかれ誤解や損耗があるにせよ、ある程度以上の精度でもって「流通」可能なものならば「存在」しようがしまいがかまわない、という感覚でストーリー組み立てたりキャラ立てたりしてるからでして。
卑近な言い方をすれば、架空のキャラを文章で描いて出版して、読者の八割がこちらの意図を読みそこねたり勘違いしたり全然別の見方をして楽しんでくれたとしても「まぁいいや、面白いと思ってくれりゃ」みたいな。

目の前にあるほんとのこと、を描写したり物語りたいなあと感じたことは、これまで実はほとんどなくって、どっちかっていうと「目の前にあるこれ=現実」をなんとかして再解釈したり裏を想像したり有り得ないような真相を妄想したり……「ここ以外のどこか/これ以外のなにか」を無理矢理発見しようとしてる感じですね、新城は。
そしてそれが(多少の情報損失は覚悟の上で)「流通」しさえすればいい、と。

その意味では「創作してるつもりはない」という結論(というか前提)だけは円城さんと一致してます。新城が〈世界〉を〈物語〉る時には、「だってこっちのほうが現実よりも面白いじゃん」「ていうか現実のほうが間違ってて、こっちの架空のほうが正しいかもよ」ぐらいに信じ込んで書いたり語ったりしてます。世間的な(ゼロから1を生み出すとかいう、ありえないような)創作ではなく、発見に近い感覚。半村良先生の伝奇に近い感じかも。
ぶっちゃけ、新城が脳内で夢見てる〈世界〉を、読者の皆さんにまったく伝わってなくても/かなり歪んだ形で伝わっていても、問題ないわけです。そういう意味では、実は円城さんよりも遥かに強烈に「読者おいてけぼり作家」なのかもしれませんが(というか、円城さんの小説は、実に判りやすいというか素直というか「をを、構造やら数学的概念やらが、むき出しのまま文章化されとる!なんと親切な!」みたいな印象が新城にはあるんですが……こういう読み方って少数派なんでしょうか^^;)。

うーむ長くなってしまった。強引にまとめると……物語られるもの/架空とは何か?に対する答は「誤解上等、矛盾オッケー」な情報の塊、ということなのかも。それは存在しないし、下手をするとどのような可能世界のどこででも有り得ないし、つっこみどころ満載の矛盾塊かもしれない。でも面白いから許す!と。
新城の側から見れば、架空は確かに普遍に片足つっこんでるかもしれないけど、もういっぽうの足が普遍に内包されてるかどうかは実は未確認のまま、なのかもしれません。うーん、答えになってるでしょうか」

「いやまあ、僕は不親切ですが(笑)。というのは、もう細々としたネタは参照のとっかかりさえ置いておけばもういいやという無精なところが。アウトソーシングできるものはしてしまって良いのでは、というような感じです。それは現状のネットが崩壊すればとたんに意味のわからないものになるわけですが、まあそれはそれでかつてはそういうことがあったらしいもの、に分類されてしまって良いなあと。正直、いつまでもシュレディンガーの猫の説明とか書きたくないわけです。高校の教科書に載ってることとか、ニュートンとかに書いてあることは別に良いだろう、と。別に調べなくてもなんか変なものあるのね、というくらいで全然構わないわけですが。
 というのを長々と書いたのは、そこが僕が架空へ行ききれないところで、架空はアウトソーシングできない(笑)。と思っていたわけですが、新城さんの架空言語のところにあった、架空を二重化してそこから拡大していけば良いのでは、というので、なんとなくとっかかりを得られた感じはしています。
 流通が可能であれば良い、その中身に関しては関知するべきことでもできることでもない、というのは完全に同意です。そこで同意すると話終わるだろ、という話なのですが、多分、流通における堅固さを感じている部分が異なるのです。新城さんの「物語工学論」を読んでいて面白かったのは、キャラクターとその行動が堅固なものとして登場するというというところです。穴あきチャートにしてもそういう図となっている。僕はそこのところが、何本か走る線の交点がキャラクターのようなものだと考えていて、キャラクターを基点に考えることができないわけです。まあ南方曼荼羅みたいな話で、その網目の上に、何とも交わらない”大日如来の大不思議”とかが走っているヤバいものだったりするわけですが(笑)
 で、僕は「物語工学論」を大変意地の悪いものだなあと読んでいて、書き方指南書を偽装したものに見えるわけです。確かに、書かれているものをそう分類することは可能ではある。しかしリバースエンジニアリングが可能なようには分解されていない、という気がするわけです。そこのところ、新城さんが完全に本気で書き方として薦めていれば、これはマズい。ええと、お互いに話の通じていない可能性としてかなりマズい(笑)。と思っているわけです。

 ですから、そうですね。京都SFフェスティバルも迫って来ましたし、実はあちらで話す内容を決めなければならないという事情もあります。10/07の時点でまだ決めていないのか、という突っ込みは無視することにして、互いの創作態度がほぼ正反対から向き合っていると言って良いことだけが如実に浮かび上がって来ましたので、その相違点あたりから、言語観から創作観、について話題を展開するというので如何でしょう。ええと、態度相反表とかは、作ります。あと二日で」





MENU: Dialogue1









最終更新:2009年10月07日 02:22