僕はこの世界に必要なんだろうか?





速水厚志は空を見上ながらそう思った。

空は速水の心とは対照的に透き通っている。

「・・・・・」

速水はしばらく空を見上げていたが、やがてどこか急ぐような足取りで歩き出した。

一匹のポケモンを連れて・・・・




「ここがカントー地方、マサラタウン・・・」

速水は辺りを見回した。

どこか、田舎を思わせる町であった。

速水は近くの人に声をかけようとしたが、やめた。

なんだか、いたたまれない気持ちになったからだ。

「とりあえず、トキワシティのポケモンセンターに行くか・・・」

速水はボロボロのタウンマップを見ながら呟いた。

「今の所持金は・・・300円か。これじゃ何も買えないな・・・・早くポケモンセンターに行かないと・・・もう少しだからねミニリュウ」

そうモンスターボールに呟くと、早足でトキワシティに向かう速水であった。

「う〜ん、ここをいけば左に行けば着くはずなんだけど・・・・・」

速水は歩きながら困った表情でボロボロのタウンマップを見ていた。

「おかしいなぁ・・・やっぱりこの、タウンマップじゃ古すぎるのかなぁ・・・」

その時、速水が前を向いた瞬間、ゴーグルを付けた少年と目が合った。

速水はすぐにタウンマップに目を戻したが、ゴーグル少年はにっと笑って近づいてきた。

速水が気づいたときには、もう目の前だった。

「よ! 俺は滝川陽平! 見たところ初心者トレーナーだな! この滝川様と勝負だ!」

鼻にばんそうこう、頭にゴーグルを付けた少年は速水の目の前に立つといきなり勝負を申し込んできた。

「え、え〜と・・・」

速水は何を言っていいか分からず、しどろもどろに口をもごもご動かしていた。

すると、滝川と名乗った少年は頭に ? マークを浮かべながら、速水に再度話しかけた。

「な〜に、口をもごもごさせてるんだよ。勝負だよ!しょ・う・ぶ!」

「しょ・勝負って?」

速水がやっとの思いで、言葉を絞り出すと、滝川は ? マークを今度は2つ浮かべながら

「なぁ、お前、一体何地方の人? 目が合ったポケモントレーナー同士は勝負をする決まりなんだぜ?」

「そ、そうだったね」

これ以上、自分の無知さを、滝川という少年に披露すれば不審に思われる、そう判断した速水は、とりあえず少年の話に合わせた。

「じゃ! 決まりな! 俺の相棒、キモリ! いけ!」

「いけ! ミニリュウ!」

「へっへっへっへ。俺様に勝てると思うなよ!
 神速の滝川ってのは、俺様の二つ名だからな!」

滝川はニッと笑うと、楽しそうに喋りだした。

「し・神速ね・・・すごいね・・・」

速水は戸惑いながらも、とりあえず滝川を褒めておいた。

「そうだろ〜、今からその実力を見せてやる!
 キモリ! でんこうせっか!」

そう滝川は、キモリに命令すると、キモリは見ごとな速さでミニリュウに迫った。

「ミニリュウ! 耐えてひのこ!」

速水はでんこうせっかは威力が低いのを知っているため冷静にミニリュウへ命令した。

速水がミニリュウへ命令すると瞬時に守りの姿勢に入った。

そして、すぐさま、キモリのでんこうせっかが直撃。

しかし、威力が低いからかミニリュウはすぐさま反撃に移った。

「キ・キモー!!」

キモリは反撃されると思っていなかったため、守りに入るには遅すぎた。

そのためひのこの直撃を喰らい、倒れた。



「くっそー! 負けたぁ〜!」

滝川はかなり悔しい表情で、キモリをモンスターボールに戻しながら叫び声を上げていた。

速水にはなぜ、滝川が悔しそうな表情をしているのか分からなかった。

まぁ、自分の過去を考えれば納得はした。

「とりあえず賞金な。 ほら450円!」

なにやら、ポケモントレーナーは勝負に負けたら勝った相手にお金を渡すらしい。

ここは怪しまれるのまずいので、素直に受け取った。

「うん、ありがとう」

「お前強いなぁ〜、どこから来たんだ?」

滝川は人の良さそうな、顔をしながら速水に尋ねた。

「う〜んと・・・西の方から・・・かな?」

速水は怪しまれないように、満面な笑顔を張り付かせながら、答えた。

「西の方から・・・かな? って、子供かよ」

「滝川君・・・だっけ? トキワシティまで案内してくれないかな?」

速水は話題を変えると、満面の笑顔を張り付かせながら滝川に尋ねた。

「おかしな奴だな〜、ヘラヘラ笑ってるなよ。
 トキワシティまでの道のりだろ。
 俺様が案内してやるよ。
 あと、俺のことは滝川でいいぜ?」

おかしな奴・・・の一言が気になったが、ここは滝川に道案内をしてもらうことにした速水であった。

「じゃあ、よろしくね 滝川!」

「へ〜、じゃあ滝川は旅に出てるんだ〜」

「すげーだろ! 目指すはポケモンマスターってな! でさ・・・」

なんだか滝川という少年はすぐに人と仲良くなれる人種なんだなぁ、と速水は思った。

そして、何か自分にはないものを持っているような気がする。

何か遠い昔に置いてきたものが・・・・・

「お〜い、速水聞いてるか〜?」

「え、あ、ごめん。ちょっと考え事してたから・・・何の話だっけ?」

「おいおい・・・まぁ、いっか。この俺様のゴーグルのことだよ。何で付けてるか分かるか?」

滝川は子犬のような目で速水を見ながら、ゴーグルについて聞いた。

「う〜ん、かっこいいから・・・かな?」

速水は苦笑しながら、滝川の問いに答えた。

「ノンノン、これはさぁ俺が見てるアニメ『ガンパレード・マーチ』の士魂号軽装甲に乗ってるパイロットが付けてるゴーグルなんだぜ!」

滝川の子供っぽい口調に思わず心からの笑いをしてしまった速水だったが、すぐに満面な笑顔に顔を戻した。

「でさ、この『ガンパレード・マーチ』ってのがさメカあり、ギャグあり、シリアスな展開あり、そしてラブコメありと、三拍子も四拍子もそろってるアニメなんだぜ〜! ・・・・おっそろそろトキワシティだな!」

100mぐらい先に建物が見えた。

多分あれがトキワシティだろう。

「あっ! そうだね。 ここまでありがとう。滝川」

速水はそれに気づくと、満面の笑顔で滝川にお礼を言った。

「へへっ、いいてことよ。 なんたって『友達』だからな! じゃあトキワシティまで競争な! よ〜いドン!」

そういうと滝川は全速力でトキワシティまで走っていった。

「友達・・・・・か」

速水はそんな感情を持っていなかった。

持っていなかったというよりも、忘れていたのほうが正しい。

遠くで滝川の声が聞こえる。

速水はトキワシティに向かって走り出した・・・

「ミニリュウ! 耐えてひのこ!」

「キ・キモー」

(あの男・・・なかなかやるな)

芝村舞は、50mほど先で繰り広げられているバトルを見ながら思った。

普通、素早い攻撃をされれば、たとえ威力が弱くても並みのトレーナーなら慌てるだろう。

しかし、あの男は慌てもせず冷静な判断をポケモンに下した。

エリートか? と、一瞬思った舞だったが、すぐにその答えを打ち消した。

どう見てもその男はエリートに見えなかった。

服はところどころに泥などの汚れが見えたからである。

普通、エリートは服装までキチンと手入れされているものだからだ。

それと舞にはもう1つ気になることがあった。

バトルが終わってからの男の顔である。

舞にしてみれば、どこからどう見ても作り笑いにしか見えなかった。

ふっと、舞は口元を緩めた。

なぜ、この私が名も知らぬ男のことを考えているんだろうか?

そう思うと、自然に口から笑いがこぼれた。

(それにしても・・・・・ミニリュウはかわいかったな)

思わずミニリュウのことを思い出しニヤけてしまった舞だったが、すぐさま不機嫌そうな顔に戻し、
速水達の後を追うようにトキワシティに向かう舞であった・・・・・

「それでは、ポケモンをお預かりしますね。
 30分ほどかかりますので、しばらくお待ちください」

「じゃ! お願いします〜!」

よく通るきれいな声で話す、ジョーイさんと能天気な滝川の声がトキワシティポケモンセンター内に響く。

速水は辺りを見回していた。

ポケモンセンターという建物は、ただポケモンを無料で回復してくれるだけの場所だと思っていたが、違った。

中は広く、2階や地下もあるらしい。

そして何よりも、トレーナーたちの憩いの場となっていることだった。

自分の想像とはかけ離れていたため、驚きも大きかった。

「お〜い? 速水〜?」

「ごめん、また考え事してたから・・・」

「考え事が好きなやつだなぁ〜、ところでさ! 速水ってこれからどうするつもり?」

自分も今、そのことを考えていた。

とりあえずポケモンセンターに着いたことでミニリュウを休ませることが出来たが、これからのことは何も考えていなかった。

「なぁ、もしかして速水・・・これからどこへ行くか決まってない?」

滝川は、ニッと笑うとこれから出る答えに期待の目を輝かせながら、速水に尋ねた。

「まぁ・・・そうだけど」

本当は適当な事情を言おうとしたが、思いつかなかったので自分の本心を口に出した。

すると、滝川はポンッと速水の肩に手を置き、言った。

「じゃあさ! 俺と一緒にニビシティにいこうぜ!」

ニビシティ? そういえばタウンマップに書いてあったな・・・

滝川と一緒に歩いていれば、普通のポケモントレーナーに見える・・・

そうなれば追っ手も分からないだろう・・・

そう考えた速水は満面の笑顔で答えた。

「うん。いいよ。僕で良かったら」

「マジで! ありがとな! 速水! 実はさぁ〜俺一人で不安だったんだよ」

滝川はへへっと笑うと、自分の気持ちを素直に白状した。

「でさ、いきなりで悪いんだけど、30分ぐらい待ててくんない? 昔の友達を見かけたからさ」

「え、別にいいよ。僕もこの辺を見て歩きたいからさ。それに・・・」

追っ手の確認もしなきゃいけないし・・・と口を滑らすところだった。

心の動揺を悟られないように、満面の笑顔を滝川に向けながら速水は言った。

「それに・・・ほら一人でちょっと考えたいことがあるからさ」

「そっか〜、やっぱ速水って考え事が好きなんだな〜」

なにやら滝川の頭は速水の好きなことは考え事とインプットされたようだ。

「ははは・・・別に好きなわけじゃないよ。それより・・・いいの? 昔の友達は?」

速水は滝川の単純な考えに、苦笑しながら答えた。

「お! そうだった! あいつにまた嫌味言われるな〜、じゃ! 30分後な!」

そういうと滝川は、お子ちゃま半ズボンを履いている、金髪の少年のところへ走っていった・・・・・

「怪しい人は・・・・・とりあえずいないな・・・」

速水はポケモンセンターの外に出て木の幹に隠れながら辺りを見回していた。

「さすがにここまでは来ないのかな・・・?」

一息ついて、木の幹に座り込んだところで上からいきなり声が降ってきた。



「そこで何をしている?」




速水は心の中でパニックに陥っていた。

背中にいやな汗が流れる。

速水は覚悟を決めて、ロボットのように、ゆっくりと上を見上げると、そこにはポニーテールの髪形をしている、自分と同じぐらいの年齢の少女の顔が見えた。

少女といっても口許を引き結んでにこりともしないので、よく見ないと男の子にも見える。

そして、何よりその少女のまっすぐな瞳だった。

速水はその瞳に引き寄せられるように、先ほどの動揺も忘れて少女の顔を見ていた。



「・・・・・」


「・・・・・私の顔に何かついているのか?」

その言葉で速水は我に返った。

「え・・・いや、その・・・何の用?」

あわてて目をそらし、速水は言葉を絞り出した。

「まずは私の質問に答えよ。何をしていたのか? 
 そして、私の顔に何かついているのか? 
 この2つをまず答えよ」

少女は有無を言わさぬ口調で速水に尋ねた。

「え・・・と、1つ目は、この辺りはあまり来た事がないんで見てただけです・・・2つ目は・・・・・別に何もついてません・・・」

答えてしまってから、自分の口の悪さにを呪った速水だった。

どう聞いても怪しすぎる。

「ふむ、そうか。本来ならばもう少し質問をしたいのだが、やめておこう。名は?」

少女は先ほどと同じ、有無を言わさぬ口調で速水に
尋ねた。

「は・速水厚志です・・・・・君は・・・?」

「私か? 私は芝村舞だ。『芝村』をやっている」



それが速水厚志と芝村舞の初めての出会いだった・・・



芝村をやっている?

速水は舞という少女が言っている意味が分からず、言葉に詰まった。

その様子を見て、舞は口許を緩めた。

「そなたは面白い男だな」

「そうかな? 僕はそう思わないけど・・・」

おもしろいと言えば、君の言っている言葉の方が面白いよと、言おうとしたが・・・やめた。

「いや、おもしろい。先ほどのバトルから見ていたが、そなたの顔はメタモンのように変わるのだな」

「メタモン・・・・・って」

これは相当な変人だぞ、と速水は思った。

なにせ初対面で、人のことをメタモン呼ばわりするなんて。

待てよ・・・先ほどのバトル・・・あれから僕のことをつけてきたのか?

一瞬、舞を疑った速水だったがすぐに打ち消した。

追っ手ならこんな無駄話をせず、すぐに僕を捕まえるだろうと考えたからだ。

「それにしても先ほどのバトルの時の判断は良かった。どこかでバトルのことを習っていたのか?」

舞は元の不機嫌そうな表情に戻し、速水に尋ねた。

「え・・・・・別に・・・誰にも習ってないよ」

速水は脳裏に浮かぶ光景とは正反対の言葉を口にした。

「・・・・・嘘だな」

舞はひとしきり目を細めて速水を見た後、断定的な口調で言った。

「えっ・・・・・」

舞の言ったことに速水はまた言葉に詰まった。

まさか、見透かされてる? やっぱり追っ手なのか?

すると舞は速水の疑いを見透かしたようにふっと息を吐き、速水を安心させるように言った。

「まぁ、別にそなたが誰に習ってようが、習ってなかろうが、私には関係がないがな・・・・・速水といったか、そなた・・・服が汚れているぞ?」

舞は腕を組み、目で速水の副を示しながら言った。

「あ・・・確かに・・・でも僕、お金はあまり持ってないんだ・・・」

舞に言われて速水は自分の服が汚れていることに初めて気づいた。

多分、追っ手から逃げる際に付いたものだろう。

と、言うことは滝川も気づいたはず・・・もしかして気を使ってくれたのか?

速水が滝川のことを考えていた時、舞は何かを思いついたようにうむ、と頷くと速水に言った。

「速水よ。私について来い」

それだけ言うと、舞はポケモンセンターへ歩いていった。

「ついて来い・・・って・・・まぁ、悪い人じゃないみたいだし・・・ついて行くか」

そう、呟くと速水はポケモンセンターへゆっくりと向かった。







「うむ。これでよい。なかなか似合っているぞ。速水よ」

「・・・・・・」

ポケモンセンターに入ったところで、いきなり芝村さんに「これを着てみろ」と服を渡された。

着てみた速水だったが、自分の軽率さを後悔していた。


「どうした? 速水よ? 何か都合が悪いのか?」

舞はなぜ、速水が固まっているのか分からず尋ねた。

「いや・・・僕は別にいいんだけど・・・君は恥ずかしくないの?」

舞はまるで分からない様子で、速水に再度尋ねた。

「恥ずかしいだと・・・? どういうことだ? それは?」

「だからさ・・・・・なんで君と僕は『おそろい』の服を着ているの?」

速水は、ため息をつきながら言った。

今までこんな世間知らずの人と出会ったことが無かった。

「おそろいだと? この服はそんなものではない。我ら芝村一族と、一族に認めれた者しか着ることが出来ない名誉なものだ」

舞は胸を張り、自分の一族を誇るような口調で言った。

「・・・・・ってことは、僕は君に認められたってこと!?」

速水の素っ頓狂な声がポケモンセンター内に響く。

「・・・・・もう1つ条件があった。『これから』成長するものであろう者にも渡せる。ちなみにこのカントー地方ではお前のような者が30人ぐらいはいる」

舞は速水の問いにしぶしぶ答えた。

「成長する・・・・・」

僕は成長するのだろうか?

一生追っ手にビクビクしながら逃げる運命だと思う。

けど、なにか芝村舞には僕にないものがあたくさんあるような気がする。

「そういうことだ。私は従兄弟殿に用事があるのでこれで失礼する」

そういうと、舞はさっさと通信室へ向かっていった。

「芝村・・・舞・・・・・か」


通信室へ向かう舞を見ながらそう、呟く速水だった・・・・・

「芝村・・・・・舞・・・か」




舞が速水から離れ、通信室へと消えたとたん、ドタドタの滝川が慌てて走ってきた。

「どうしたの? 滝川? そんなに慌てて?」

速水は、なぜ滝川がそんなに慌てているのか分からず、滝川に尋ねた。

すると、滝川は目を丸くさせ、喋りだした。

「なぁ、速水って、どこの山奥から来たの? 芝村っていえば悪の固まりみたいなものじゃねえか」

「悪の・・・・・固まり?」

「しょーがねえなー、俺様が芝村一族について説明してやるよ。芝村一族は、反対すものを力で排除して、拡大していったんだよ。逆らったものは人知れず姿を消すって噂もあるんだぜ・・・・・」

そう、いうと滝川はブルッと身震いをしてさらに話を続けた。

「それでさ、もう1つ噂があるんだ・・・・・芝村一族は最強のポケモンを作りだそうとして失敗して、そのポケモンは逃げてどこかの洞窟に住んでるらしいぜ。だからあんまり芝村に関わるなって」

滝川は話し終わると、ふぅと息を吐いた。

速水には芝村舞がそんな一族の人間には思えなかった。

それに芝村とは、あまり関わってない。

まぁ、服はもらったけど。

「関わるなって言っても、もう関わってるよな〜、その服を見れば」

滝川は少しうらやましそうな口調で速水に話しかけた。

「え? これ? 服が汚れてたからもらったけど・・・・・もしかして滝川・・・この服着たいの?」

「・・・・・実はすっごく着たい! なにせあのアニメ! ガンパレード・マーチで5121小隊が着てる制服だからだ!」

子供っぽさ全快の滝川に、ははは・・・と苦笑しながらいたずらっぽく速水は言った。

「あれ? 滝川は芝村に関わりたくないんじゃなかったっけ?」

「う! 痛いところを突くな・・・実はガンパレード・マーチは芝村の提供で放送されてるんだぜ。芝村には関わりたくないけど、服は着たいんだよ〜!」

「なんか話が矛盾してるよ? じゃあ、芝村に認めてもらえば?」

速水はまた苦笑しながら滝川に提案した。

「そんなこといってもなぁ〜俺の実力じゃ・・・ま! そんなことよりニビシティに早く行こうぜ! 途中でトキワの森を抜けるから色々準備することがあるんだ! 俺について来い!」

そう言うと、滝川はポケモンセンターの旅用具専門コーナーへ走っていった。

「ちょっと滝川・・・・・って、もう行っちゃったよ」

今日2回目の置いてきぼりだ。

何回目かのため息をついて、速水は思った。

でも・・・僕はこの地方に来て変わってきたような気がする。

まだ、何かは分からないけど、何かが・・・・・

「お〜い、速水ぃ〜早くしろよ〜」

滝川が呼んでいる・・・・・速水は滝川に向かって歩き出した・・・・・

一方そのころ、芝村舞は通信室にいた。

「芝村舞だ。準竜師を頼む」

芝村舞の声が誰もいない通信室に響く。

誰も居なかった訳ではなく、舞が芝村の権限を使って、通信室にいた人たちを追い出したからである。

「俺だ」

今まで真っ黒だった画面に突如、顔&体&態度もでかそうな男が現れた。

芝村一族には挨拶の習慣がない。

そのため、すぐさま本題に入るのである。

「私だ。先ほどトキワシティを覗いてみたが、やはり鍵がかかったままだった」

舞は淡々とした口調で準竜師の呼ばれた芝村に報告した。

「そうか・・・・・・そなたは、新しいジムリーダーを立てるべきだと思うか?」

準竜師は興味深そうな顔で舞にたずねた。

「・・・・・・私は、かまわんと思う。新しく立てるとなると、それなりの実力を持っているものでないと務まらんと思うが」

舞は平然と準竜師の視線をかわし、冷静な口調で言った。

「だろうな。それにしてもサカキというたわけはどこに消えたのだ? ・・・・・・・そなたがなるという手もあるぞ。芝村一族初のジムリーダーだ。どうだ? なってみる気はないか?」

準竜師は真顔になって舞に尋ねた。

舞は目を細めたあとに、はっきりとした口調で言った。

「断る。第一私にそんな実力は無い。どうせそなたのつまらん冗談だろう。違うか?」

舞の言葉を聞いた瞬間、準竜師は高笑いを響かせた。

「やはり、芝村は冗談が下手だな。・・・・・・では引き続きロケット団の情報を集めろ」

「了解した・・・・・・何だ? その目は?」

舞には準竜師の目が笑っているように見えた。

「いや・・・何かあったのかと思ってな。話したくないのなら話さなくてもかまわん」

やはりカントーで最も位が高い芝村だな、と舞は思った。

人の心をよくそう簡単に読めるものだ。

「・・・・・・おもしろい男に会った。顔がメタモンなような男だ・・・何がおかしい?」

舞が話している途中で、また準竜師は高笑いを上げていた。

「いや、失礼。そなたのたとえがあまりにも面白くてな・・・それで続きは?」

舞はしばらく黙っていたが、やがて話しだした。

「・・・・・・それで、あの服をくれてやった。・・・・・・だから私の何がそんなにおかしい!?」

準竜師が本日3度目の高笑いを響かせたため、とうとう舞はキレて準竜師に食って掛かった。

「はははは。そう怒るな。なにせ知り合って間もないメタモン男にあの服をくれてやったんだろう? 今時、どこの芝村でもそんな短時間で渡さんぞ?」

準竜師はまだ高笑いの余韻を残しながら、舞に尋ねた。

「分かっている! ・・・あの男は必ず伸びる! 私の目に狂いは無い!」

舞はちょっと暴走気味に、準竜師の問いに答えた。

「そうか・・・ならばよい・・・ところでその男のことだが・・・・・・」

準竜師はそこで言葉を切り、ちらりと舞の目を見た。

「なんだ? 手持ちポケモンか? 確かミ・・・」

舞はやっと落ち着きを取り戻し、速水のことを話しだした。

「いや・・・そういうことではない、その男は・・・・・」




準竜師はニヤリと笑うと、こう言った。








「その男はお前好みの男なのか?」





「・・・・・・・・・・・・・・・・」



その後、ポケモンセンターとその周りには、ものすごい怒声が響いたのは言うまでもない・・・・・
最終更新:2007年01月18日 17:34