132 :名無しさん:2013/11/22(金) 02:51:59
シリーズに出てくる従者の視点。

134 :名無しさん:2013/11/22(金) 03:02:46


馬鹿男爵の支援SS




滞在先のホテルに入った一本の電話。フロントまで呼び出された彼は電話の相手と話している内に血の気が引いていくのがわかった。

「ヴェルガモン伯爵家の影響下にある諸侯から圧力を掛けられる事になるやもしれぬ」

電話の相手は彼が仕えている去る家の執事。数少ない使用人を束ねている、彼からして直接の上司に当たる人間だ。

「つい先ほどもヴェルガモン家が主筋になる子爵家から問い合わせがあったばかりだ。当家の次期主君となられるリーライナ様への侮辱、断じて許すことは出来ぬと」

伝えられる状況は刻一刻と悪化していく。

「そんな・・・」

「いま、旦那様が事態打開に向けて動いておられるが正直なところ状況は厳しい」

軽く考えすぎていた。心の何処かではあのくらいの事で大事に至ることはと楽観視していた。
許されざる事であるというのは間違いなかったが、あの場で無礼討ちにされなかったからお許し下さったのだと勝手に思い込んでいた。

「昨日、漸くヴェルガモン伯爵様へのお目通りが適い、一先ずのところ問題にしないとの御言葉を旦那様が頂いてこられたが、もうそれで収まる話ではなくなっているのだ。旦那様からの御一報では、卿御自身よりのお許しは頂けたがヴェルガモン家に仕えている諸卿より厳しい御言葉を浴びせられたと・・・ お前は・・・お前はいったい何をしていたのだッ! 旦那様がお前をお目付とされたのは、お前を信用されての事なのだぞッ!そのお前が付いていながらリーライナ様やモニカ様への侮辱発言を許してしまうとはッ」

「も、申し開きようも御座いませんッ、」

「申し開く必要は無いッ 今お前がしなければならないのは今すぐバカを連れてブリタニアへ帰国することだッ!よいかッ 首に縄を掛けて引き摺ってでも旦那様の前に連れてこいッ!」




執事の怒声と共に切れた電話の受話器を呆然と握り締めながら震えていた。
怒られた事への怒りではない。自らの認識の甘さを許せないというのでもない。
恐怖。純粋な恐怖から震えているのだ。
ヴェルガモン家傘下の貴族が独自制裁に動いている。
小さな田舎の男爵家など鼻で吹き飛ばせるような名家ヴェルガモン伯爵家傘下の貴族が。

135 :名無しさん:2013/11/22(金) 03:03:20



その後のシナリオなど頭を悩ませて考えるまでもなく答えが出てしまう。

ヴェルガモン家の姫を侮辱し、配下の諸卿から圧力が掛けられている。

それだけで当家と関係のあった家の全てから縁を切られる事は間違いない。
何しろ相手が悪すぎる。今の状況は自分は強いと勘違いした蟻が、相手が恐竜だとは知らずに喧嘩を吹っかけてしまったような物なのだから。
今更言い訳にしかならないが自分は相手を恐竜だと認識していた。知らなかったのはあの馬鹿一人だ。それに巻き込まれてしまった。
こんな状況なのだから怖くて当然だ。これを情けないという奴がいたとしたら、そいつには一度同じ立場を味わわせてやりたいと思う。
怖いのが好きだというのならば今すぐにでも代わって欲しい。喜んで立場を譲ってやる。


だが。最悪な事に、これで話が終わりではないところが更なる恐怖を誘う。
アレは・・・アレはリーライナ様だけではなく、もうお一方にも同じ様なことをしている。それも此方はもっとやばい相手だ。
あの時、場をやり過ごしただけで楽観視していた自分は頭がどうかしていたとしか思えない。

アレが無礼を働いたもう一人は、皇帝陛下の信任厚きラウンズ十二の席を頂くモニカ・クルシェフスキー卿。

西海岸の盟主クルシェフスキー侯爵家の姫――。

侯爵様が旦那様の謝罪をお聞き入れになりお許し下さったとしても、クルシェフスキー家の臣下がヴェルガモン伯爵家の臣下と同じ様に独自制裁という形を取った場合。
侯爵様を除く西海岸諸侯がすべて・・・

両家の傘下にある貴族の家名を調べて一つだけわかった。

「お・・・終わりだ」

このままでは御家断絶という絶望的な結末が待っていると。




「なにかッ!なにか打つ手はッ!すべき事はッ!」

彼は自分に出来る事を模索する。アレを本国に送り返す前にやっておくべき事は無いかと考えた。
そして思い出す。ここは両家の姫が滞在している日本であるということを。

「アレを引き摺っていく先は、まずモニカ様とリーライナ様の前だッ――!」

彼は血走る目を爛々と輝かせながら、もはや主でも何でもない馬鹿が暢気に寝ている部屋へと足を向けた。

136 :名無しさん:2013/11/22(金) 03:04:41
終。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年11月23日 12:09